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37.アンチ・マジック解除作戦

 「……なんだか分からないが、要するに、さっさとここを突破して、あのブラックボックスの中身をぶっ壊せば良いってことだな」

 スネイルはそう言うと、サンド・サンドに目をやった。

 「おい、そこのフクロ。このフロアの中のアンチ・マジックを解くにはどうすれば良い? さっき、分析はすぐ終わるとか言っていたよな?」

 それまでサンド・サンドは覗き込むようにフロアの中を見ていたが、それを聞くと、少しの間の後でにっかりと笑うように袋を歪ませてこう返した。

 「安心しろ、今終わったところだ」

 そして、どこに持っていたのか、紙と鉛筆を取り出すと、簡単な絵を描いた。どうも、研究室の見取り図のようだ。

 それから彼はその見取り図に丸を描き始めた。奥の壁に二つ、側面に二つ、手前に二つ。

 「取り敢えず、アンチ・マジックの効き具合からいって、このフロアの中には、この辺りに結界を施してあるな」

 そしてそう説明する。スネイルは「よし」とそれに返した。が、サンド・サンドはこう続ける。

 「ただ、問題はこれをどうやって破壊するかだ……」

 がしかし、彼がそう言い終える前に既にスネイルは動いていた。懐からボールのようなものを取り出すと、それをフロア内のブラックボックスの上の方に向って投げる。

 「あの辺りはアンチ・マジックが効いてないんだよな?」

 そう確認したが、投げてから確認しても遅い気がする。

 それから手で印を結ぶと、「散!」と呪文を唱えた。その瞬間、ボールは破裂し、中から金属片が飛び散った。フロアの中の警備兵達はそれにビクリと反応したが、その金属片は彼らには向かわず、サンド・サンドが示した壁の辺りに向って飛び散った。

 破壊音が響く。

 「おお、凄い! 手前の壁の以外は全て破壊してあるぞ。後一つだけ残っている」

 そうサンド・サンドは称賛したが、本人は満足していないらしく、不機嫌そうに「チッ! 手前は見え難いからな」と吐き捨てるように言った。それから今度は「魔眼」と言って、目を剥く。

 距離が離れると、自分達に張ってあるアンチ・マジックの効果で魔法の効果は薄れてしまう。だから壁際まで寄る必要があったようだが、魔眼でそこをしばらく凝視すると、彼はこう呟いた。

 「よし、アンチ・マジックが効いていない廊下側からなら魔眼で感知できる」

 そして、そう言うなり懐から太い銃身の銃を取り出し、それを壁に向って放った。轟音が響いて壁が崩れる。

 「うっせぇよ! ちゃんと言ってから撃て、そういうのは!」

 そうクロナツが文句を言ったが、スネイルは無視した。

 「破壊したぞ」

 と、サンド・サンドに向けて言った。

 それにサンド・サンドが何か返す前に、ティナは軽くステップを踏んでいた。

 「オッケェ! つまり、これでこの部屋の中にもう乗り込めるってことね!」

 それに、「いや、待て……」と、サンド・サンドは言いかけたが、それを聞き終える前に彼女は「スピードアップ! そして、幻影魔法!」とそう叫びながら、フロアの中に飛び込んでいってしまった。

 が、先程と同じ様に、途中で固まっている。

 フロアの中に入った途端、彼女が自身にかけたスピードアップと幻影の魔法が消えてしまったからだ。

 警備兵達が銃口を彼女に向けている。

 「なー!!!」

 と、そう悲鳴を上げながら、彼女は銃弾の雨の中を引き返してきた。何故か、今回も銃弾は一発も命中していない。やっぱり、驚異的な運動神経の為せる技なのかもしれない。

 「なんでよ、アンチ・マジックは消えたのじゃなかったのー?」

 ぜー、ぜーと息を吐きながら、彼女はそう文句を言う。それにはキャサリンが応えた。

 「何言ってるのよ? 普通、何重にも張って保険をかけておくもんでしょうよ。

 あんた、もしかしたら、戦場でもいっつもそんなノリで生き残って来たのじゃないでしょーね」

 続けてサンド・サンドが言う。

 「その通り。このフロアの外から、中に向ってアンチ・マジックを張ってあるな。三階からこのフロアに向けて二つと、隣の部屋から一つといったところか……」

 それから大声で、彼は「どうだ? ランポッド! 正解だろう? お前の設置の仕方は合理的だから読み易いのだ!」とそう言った。すると、数秒後に、

 「一度くらい読み切れたからって、調子に乗らないでください! あなたが来ると分かっていたら、ちゃんとそれも考慮していましたから!」

 などと女性の声が返って来た。年齢の割にはちょっと幼く感じる。

 それを聞いてグッドナイトは「そんな事言ったら、バレるだーが」と、頭を抱えた。案の定、それから「確認もできたぞ。どうやらさっきので正解だな」などと、サンド・サンドは言う。

 間髪入れず、スネイルが言った。

 「よし。三階にはオレとゴウの二人で行こう。アンチ・マジックを解いて来る。

 ゴウ、行くぞ」

 パワーファイターのゴウは、それに「おう」静かに重く答えた。

 それから、スネイルは通路にできた穴を超えた向こう側にいるクロナツ達に向けて「お前らは、そっちをよろしく頼む」とそう言った。

 それを聞いてクロナツはにやりと笑った。

 「よおぉぉっし! ようやく出番が回って来たか」

 嬉しそうに、ボキボキと拳を鳴らしている。その後でシロアキに向って、「行くぞ、シロアキ」とそう言った。

 「ちょっと待て! どうしてボクが?」

 と、それにシロアキは抗議をしたが、クロナツは知るかといった感じでこう返す。

 「交渉役が、交渉に失敗したんだから、もうここではやる事はねーだろうが! それに、お前、どうせ銃を持って来たんだろう? 幻影魔法だって使えるじゃねーか」

 そう言われても、シロアキは抵抗しようとしていたが、クロナツは有無を言わさず強引に彼の手を引いて向かい始めた。

 それから「ワガハイも行こう。お前らでは、アンチ・マジックを見ぬけんかもしれんし」と言って、サンド・サンドもその後を追った。

 彼らがアンチ・マジックの解除にそれぞれ向うと、キャサリンが呟くように言う。

 「アンチ・マジックが解けたら、その瞬間に魔法をぶっ放して、あのブラックボックスの中身を壊すわよ」

 「分かっているわよ」と、それにティナは返す。

 そんな彼らを見ながら、ゼン・グッドナイトは不敵に笑った。

 「果たして間に合うかねー」

 などと、のんびりとした口調で言う。

 彼は魔法疑似生命体の製造装置が稼働し始めの頃にその様子を確認していたのだが、実はその段階で既に充分に兵器として機能できるものに仕上がっていたのだ。

 つまり、今はもう魔法疑似生命体を何処まで強力なものに進化させられるかといった段階に入っているのだ。

 彼の余裕の態度はその表れだった。

 ――ただし、彼はブラックボックスの中で作業をしているゴース・ガイダイが、青い顔で冷や汗を流しているのを、この時はまだ知らなかったのだが。

 

 三階に辿り着いたスネイルは、アンチ・マジックがそこに張られていない事にまずは安堵した。もっとも、仮にアンチ・マジックが効いていても平気なように、パワー自慢のゴウと銃器の類を扱える彼がここにやって来たのだが。

 しかし、それから二階のフロアに向けてアンチ・マジックを張っている結界があるだろう部屋に入ると「チッ!」と舌打ちをして、苛立ちを露わにした。

 三階にはまったくアンチ・マジックが張られていない理由が、そこに“存在”していたからだ。

 それは真っ黒で、大きな顎を持っていた。ほぼ顔だけに思えるような異様な姿をしている。例えるのなら、巨大なワニの口といったところだろうか。

 ――魔法疑似生命体である。

 アンチ・マジックの結界を守る為に、軍事用の魔法疑似生命体がその部屋には設置されてあったのだ。

 もし、この部屋にアンチ・マジックを効かせてしまったら、これが機能しなくなってしまう。だから、自由に魔法が使える状態だったのだろう。

 「おいおい……。軍事用の魔法疑似生命体は、国際協定で禁止されているだろうが」

 そうスネイルは呟く。

 その黒い顎は、部屋に足を踏み入れたスネイル達に反応すると、豪速で突進して来た。スネイルは躱したが、ゴウその顎を正面から受け止めた。ただし、その勢いは殺し切れない。壁に激突する。

 「ぐふぅっ!」と、苦悶の表情をゴウは浮かべる。ゴウがパワーで負けることは滅多にない。軍事産業で飼っている魔法疑似生命体だけあって、かなり強力なようだ。

 部屋の中は殺風景で、何の障害物もない。地の利を活かせそうにもなかった。

 “こりゃ、さっさとアンチ・マジックの結界を壊して逃げた方が良さそうだ……”

 そうスネイルは判断する。

 普段はパーティ全員で魔法疑似生命体を狩っている。二人だけでは分が悪い。

 「ゴウ、すまないが、そいつをしばらく押さえておいてくれ!」

 そう叫ぶと、彼は魔眼でアンチ・マジックの結界を探した。一つを見つけると、そこに向って銃を構える。

 ところが、その瞬間、自分を押さえているゴウを無視して、黒い顎はスネイルに反応したのだった。結界を守るようにプログラミングされているからかもしれない。顎をスネイルに向ける。ゴウは押さえようとしていたが、ほとんど動きを封じられていない。

 『アッ!』

 と、それから黒い顎はひび割れたような音を発した。それは超音波だったのか、スネイルは脳が揺さぶられたかのような衝撃を受けた。

 揺れるような視界の中で、それでも何とか銃を放つ。

 それはギリギリ結界に命中し、なんとか破壊できたようだった。

 “後一つだ!”

 そうスネイルは心の中で叫んだが、その瞬間、

 「ゴオォォォォ!」

 という風の通る音のようにも、獣の声にも聞こえるような音を黒い顎は響かせた。何か“見えない”塊が迫って来る。

 “やばい!”

 そう判断したスネイルは咄嗟に身をかわしたが、掠ってしまった。身体が錐もみ状にぶっ飛んでいく。

 ただし、ダメージは受けたが飛ばされた場所は運が良かった。彼の目の前には、もう一つのアンチ・マジックの結界があったのだ。それを壊そうと彼は銃口を向けた。

 ところがそこで、

 「おい! スネイル! 危ない! 逃げろ!」

 そうゴウが彼に警告したのだった。料理の話題以外で彼がこれだけ喋るのは珍しい。

 目をやると、スネイルの目の前には、黒い顎が迫っていた。口を開け、牙を彼に向けている。ゴウはなんとか黒い顎を止めようとしていたが止まらない。

 が、そこで、

 「全力、全開ぃぃ!」

 そうゴウが気合いの入った声を出した。

 身体強化魔法を使ったようだ。黒い顎の突進が辛うじて止まる。ただし、長時間は保てそうになかった。

 「さっさと、やらんか!」

 そうゴウは言った。もちろん、アンチ・マジックの結界を壊せという意味だ。が、スネイルは少し考える。仮にこれでアンチ・マジックを破壊できたとしても、このままでは二人ともこの黒い顎にやられるだろう……

 そこでアンチ・マジックの結界が彼の視界に入った。これは、あの広いフロアに強いアンチ・マジックを効かせられるほどの強力な結界であるはずだ。

 “そうか! これを使えば良いんだ!”

 彼はそれから懐からナイフを取り出す。

 「超高圧風ナイフ!」

 そして、そう呪文を唱えると、風の魔法によって驚異的な切断力をナイフに付与し、それで壁ごと結界を切り取った。

 「ゴウ! これを放り込む! もっとそいつの顎を広げろ!」

 そして、そう叫ぶ。

 それに応えたのか、気合いを入れたのかは分からないが、ゴウは「おお!」と声を発すると、力を振り絞って顎を広げ始めた。震えながら、徐々に顎が開いていく。

 「つむじ風」

 それと同時にスネイルは風の魔法で、切り取った結界を浮かせた。そして、「チェストー!」と叫んで、それを黒い顎の真っ黒な口の中に放り込む。

 すると、まるで全てが幻であったかのように、一瞬で、黒い顎は“ヒュン!”という高い音を発して消えてしまった。

 「なんとか、しのいだなー」

 それを見て、スネイルはその場にへたり込む。「ああ」と、珍しくゴウも一緒にその場に腰を下ろした。

 二人とも、かなりのダメージを受けてしまったようだった。

 

 「やはりいたか、イザベラ!」

 

 シロアキ達が研究室の隣の部屋に足を踏み入れると、サンド・サンドがそう言った。

 「イザベラだぁ?」

 そうクロナツが疑問符の伴った声を上げる。

 「グッドナイト財団の工作員だ。ワガハイは、こいつに殺されかけた。絶対に復讐してやる!」

 それを聞くと、イザベラは楽しそうな声を上げた。

 「あーら、お久しぶりねぇ、サンド・サンド。やっぱり生きていたのねぇ。何か変だとは思っていたのよ」

 以外にも、彼女は部下を二人しか従えていなかった。

 「なんだか知らないが、余裕だな。たったこれだけか?」

 シロアキがそう尋ねると、彼女はやっぱり楽しそうにこう返した。

 「だって、ここにたくさん人を入れちゃったら、目立つじゃない。重要なものがあるって教えているようなもんよ。

 ……それに、私ってば闇の森の魔女を殺しかけているのよね。もし、見つかったら、復讐されちゃうじゃない」

 「ほー、そうか、そうか」

 そう言いながら、シロアキは部屋の様子を観察する。倉庫代わりなのか、役に立つのか立たないのかよく分からない荷物が積まれてある。ただし、動くのに邪魔になるほどではない。鍵はかかっているようだが、隣の研究室のフロアへと移動できる扉がある。恐らく、ピンチになったなら、イザベラとかいう女はそこから逃げるつもりなのだろう。

 “詐欺師だな、この女”

 そして、そう彼は判断した。

 彼好みの相手だ。

 「それに、ま、あんた達程度なら、私らだけで充分じゃない?」

 そう言って、彼女とその部下はシロアキ達に向って銃口を向けた。

 「ふん」とシロアキは笑うと、パンッと手を叩いた。すると、突然にシロアキとクロナツの姿がブレ始めた。

 「あら? 幻影魔法? しかも、けっこうハイレベルみたい」

 そうイザベラは言う。

 それでも彼女らは銃を数発放ったが、シロアキにもクロナツにも当たらなかった。

 「おい。何故、ワガハイには幻影魔法をかけない?」

 と、そこで抗議するようにサンド・サンドが言った。

 「お前は撃たれても平気だろうが、このフクロ」

 そうシロアキは返す。

 「穴だらけになるではないか!」

 と、なおもサンド・サンドは抗議したが、それを無視してシロアキは懐から銃を取り出すと、イザベラ達に向って放った。部下達はそれに当たってその場に倒れたが、イザベラには当たらなかった。

 「幻影魔法か?」と、シロアキ。

 「私も得意なのよねぇ。まったく分からなかったでしょう?」と、それにイザベラは返す。

 “部下には幻影魔法をかけてやってないのが、この女の性格を表しているな。バレる可能性を少しでも下げたかったのか? にしても、少し変だな……”

 それを聞いてシロアキはそう分析する。

 「銃が駄目なら、魔法があるわ」

 それからイザベラはそう言うと、両の掌の上に炎を生じさせた。

 「広範囲…… ファイヤー!」

 と、それから楽しそうにそれを放つ。

 しかし、その炎は彼らに届くまでに消えてしまった。

 「あら? 消えちゃった?」

 そう驚いている彼女に向けて、サンド・サンドが笑いながら言う。

 「カカカ! どうだ? ワガハイの超繊細で高度なアンチ・マジックは?! 近距離じゃないと魔法は機能せんぞ!」

 その言葉にイザベラは顔を引きつらせる。

 「あ~ そういや、忘れていたわ。あんた、そーいうの得意だったわねー」

 イザベラは近距離戦はそれほど得意ではない。逃げ足は速く躱すのも上手いが、恐らくは接近戦ではクロナツには勝てないだろう。

 「そろそろ、ネタ切れかぁ?」

 その後でクロナツが楽しそうにそう言う。彼は自分が得意な接近戦になりそうな展開に歓喜しているらしかった。ただし、彼は同時に怒ってもいるようだ。

 「おい、クソ女! 覚悟しろ! ぶっ殺してやるからよ! このオレを舐めやがった事、絶対に後悔させてやる!」

 それから瞬きの間の後で、クロナツはイザベラに向って突進をした。それと同時に、サンド・サンドがアンチ・マジックの波を放って、イザベラの幻影魔法を掻き消す。

 「こりゃ、ピンチだわぁ!」

 そう彼女は叫んだ。が、何故か余裕の笑みを崩さない。クロナツは直ぐ傍にまで迫っている。

 「なーんてね」

 と、それから彼女はそう言った。

 床に手を付ける。すると、魔法陣がそこに浮かび上がった。クロナツは既にその魔方陣の中に足を踏み入れてしまっていた。

 「症状促進の魔法! 悪菌大増殖ぅ!」

 イザベラは大声でそう言う。

 そして、その次の瞬間起こった事に、クロナツは愕然となったのだった。彼の両腕と両足が巨大なムカデのような姿に変わってしまったからだ。

 そのクロナツの表情を見て、イザベラは楽しそうに言った。

 「アハハハは! 引っ掛かった! 引っ掛かった!

 実はこの部屋には病原菌をばら撒いてあったのよね! だから、あまり人は入れられなかったの! この菌に抗体を持っているのって今はそんなに連れて来てないからねぇ! この魔法陣の魔法は近距離だから、ちゃんと効果あるわよぉぉ」

 それを聞いて、シロアキは思う。

 “やっぱり、この女は詐欺師だったか。部下に幻影魔法をかけていなかったのは、こっちを油断させて近くにおびき寄せる為だ”

 イザベラがまた言った。

 「その魔法にかかると、身体が暴走して言う事をきかなくなるわよ! つまり、あんたはもうほとんど戦力外ってワケ!

 大間抜けね! バーカ! バーカ!」

 そこでシロアキは何故かにやりと笑った。

 クロナツは馬鹿にされて怒っている。もちろん、イザベラはわざとそうしているのだ。クロナツが感染している菌は、怒りで魔力を食い、身体を変じさせる。

 が、それがいけなかった。

 「うるせぇ! このクソ女ぁぁぁ!」

 そう叫ぶと、ムカデの手足を振りかざしてクロナツはイザベラに襲いかかった。

 イザベラは「アハハハ!」と笑う。暴走した状態の、単純で直線的な攻撃なんて躱すのは簡単だとそう思っている。

 ……がしかし、躱したと思ったその瞬間、彼女の手足はクロナツの手足が変じたムカデに捕らえられていたのだった。

 「な? どうして? そんなに自由に動けるはずが……」

 彼女はそう狼狽する。

 恐怖と驚愕の表情を浮かべながら、彼女はクロナツのムカデに絡みつかれ、その動きを封じられていた。

 「ちょっ 放しなさい!」

 しかも、クロナツのムカデは熱を帯びていた。怒りで発生させた熱を。

 「ハッ!」

 その様を見て、シロアキは笑った。

 「おい、女。お前、確か“暴走”と言ったよな?」

 悲鳴に近い声でイザベラは返す。

 「言ったわよ! それがどうしっての?!」

 いかにも馬鹿にした口調でシロアキはこう説明する。

 「策ってのは、相手の情報を集めてから練り上げるもんだぜ。お前の術との相性が悪かったんだよ。そのクロナツって男はな、“暴走している状態で正常”なんだ。だから、暴走させたって意味がない」

 「な?!」と、イザベラは叫ぶ。

 「そんな人間がいるはずが……」

 そう言いかけている最中で、彼女の声は悲鳴に変わった。

 「ギャー!」

 彼女に絡みついていたクロナツのムカデの発する熱が堪え難いほどの高熱に変わっていたからだ。

 その悲鳴を聞いて、サンド・サンドは「いい気味だ」と楽しそうに笑った。

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