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30.オリバー・セルフリッジの研究と、グッドナイト財団の不可解な動き

 国知らずの森。

 鮮やかな緑が繁茂している。

 青空が綺麗で、太陽が煌々と輝き、広がる豊かな森を照らしている。森の木々は適度に密集している為、陽の光がきちんと地面にまで届き、森の中を歩いているにもかかわらず薄暗くはない。

 ほぼ、魔法植物だけで構成されている、珍しく奇妙な森。

 魔法植物は、普通の木々と似たような外見をしているものもあったが、中には何に使うのか分からないような未知の器官を発達させているものもある。

 その他にも葉っぱがハート型だったり、どういう意味があるのか分からないほど曲がりくねって幹が伸びていたり、葉肉が不自然に膨らんでいたり、果実が異様なほどに巨大だったりと、見ていて飽きない。魔力を利用して生きるという特性が、特別な進化をそれら樹木の類にもたらしているようだ。

 「なるほどね」と、その森をしばらく歩き続けていたオリバー・セルフリッジは言った。

 「よく管理されています」

 その“管理”という言葉が気にかかったらしく、勇者キークの冒険者パーティの一人、ティナが言った。

 「管理って何? ここは自然の森でしょう?」

 それにセルフリッジは、にっこりと笑ってまるで謎々の答えを子供にでも教えるような口調でこう言った。

 「ところが、誰も管理していない自然の森ではこうはならないのですよ。陽の光を求めて密集した木々が空高くへと競うように伸び、森の下には光があまり届かなくなってしまう為、陰樹の森となるのが普通だからです。

 要するに、光がよく届いているこの森は、誰かの手によって管理されているという事ですよ。

 ま、もちろん、その誰かとはこの国知らずの森に住む、ピクシーやニンフやエルフ達なのでしょうが。今はそこにあなた達も入っていると表現してしまって良いでしょうね」

 ケーブタウンに辿り着いたオリバー・セルフリッジは、しばらくは街を観察していたのだが、そのうちに「地上部の“国知らずの森”が見てみたい」と言い出し、こうしてキーク達冒険者パーティに案内を頼んで、森を散策していたのだった。

 キーク達はどうやら暇だったらしく、全員が彼を案内していた。或いは、アカハルに誘われてケーブタウンにやって来たという、この客人に興味を抱いているのかもしれない。

 もっとも、主に彼と話していたのは、コミュニケーション能力がパーティの中で恐らくは一番高いだろうティナがほとんどだったのだが。

 闇の森の魔女、アンナ・アンリは楽しそうに森を観察して歩くセルフリッジの少し後を歩いていた。

 やや、つまらなそうにしている。

 もっとも、それは国知らずの森を歩くのがつまらないという訳ではなさそうだった。

 「ケーブタウンで魔石発掘の現場を見せてもらいました。すると、不思議な事が分かったのです。

 魔石と一口に言っても様々な種類がありますが、ケーブタウンの魔石は、通常よりもかなり浅い部分から大量に発掘されているようなのですね。ほとんど地面スレスレと言ってしまっても良いような場所からですら、魔石が採れるようです」

 目を輝かせながら、セルフリッジはそう語る。興味深そうにティナは返す。

 「わたし、魔石にはあまり詳しくないけど、そうなんだ」

 「はい。そうです。

 それで気が付いたのですよ。もしかしたら、ケーブタウンの魔石は、国知らずの森の魔法植物達が生成しているのではないか?と」

 それに疑問の声を上げたのは、魔法使いのキャサリンだった。

 「魔石が? 魔石って鉱石でしょう? しかも、エネルギー源になる。生物が生成するとは思えないのだけど」

 少しも慌てる事なく、それに彼はこう返す。

 「そうですか? でも、生物でも貝の仲間は普通に貝殻を生成しますよ。

 それに、植物は蜜や果実やイモなどを生成しますが、それらはかなりの高エネルギーです。エネルギー源という意味では、焚き木だってそうでしょう?

 いえ、ちょっと下品な話題になってしまいすが、大便や小便だってエネルギーになるので、動物だってエネルギーになる物質を生成しています」

 それを聞いて、賢者のスネイルが口を開いた。

 「確かに魔法植物の類が、魔石を生成するって話なら聞いた事がある。発掘される魔石は、魔法植物が何年にも渡って生成した魔石が蓄積されて、地下深くに埋もれたものなのじゃないか?ってな。

 ただ、魔法植物が、この森で採れるほど大量に魔石を生成するなんて話は聞いた事がないんだが」

 そのスネイルの説明に、セルフリッジは大きく頷いた。

 「その通りです。普通は、植物達が自らのエネルギー源として魔石を生成して蓄えている程度ですから、ケーブタウンやこの森のように大量には発掘できません」

 あっさりとスネイルの主張を彼が認めてしまったことを、スネイル達は多少、驚いているようだった。

 続けて彼はこのような事を言う。

 「ところで皆さん。“アリ植物”という植物をご存知でしょうか?」

 キークがこう返す。

 「アリ植物? アリと植物が合体した生き物とか?」

 軽く笑いながら「惜しい」と言うと、セルフリッジは応えた。

 「アリ植物とは、アリと共生関係にある植物のことで、その体をアリの棲家として提供し、場合によっては蜜などでアリを誘引するようなこともあります」

 それにティナが「へー 面白い」と応えてから「……けど、キークの答えって惜しかった?」と続ける。

 セルフリッジはまだ説明を続けた。

 「アリ植物が、アリの為に自らの体を進化させたのか、或いは、アリが植物をそのように進化させたのかは分かりません。いえ、或いはその両方が起きたと考えるのが正しいのかもしれませんが。

 先程も述べた通り、アリ植物とアリは共生関係にあります。アリ植物はアリに棲家と食料を提供する代わりに、自らの身を守ってもらっているのですね。つまり、どちらにとってもメリットがある。

 そして、よく考えるとですね、この国知らずの森の魔法植物達も同じ事をしているように思えるのですよ」

 「ちょっと待って」と、そこでキャサリンが言った。

 「それって、つまりは、ワタシ達冒険者がアリ植物におけるアリのポジションだって言っているの?」

 そう。

 彼ら冒険者は、魔法植物達の害虫などを退治する事で、代わりに蜜や果実や魔石などを得ている。直接彼らにそれを支払っているのは、ピクシーやニンフやエルフ達だが、大元を辿るのなら、当然ながら、魔法植物達がそれらを生成しているのだ。

 「アリって聞くと、ちょっとどうかな?って気分になるわね」

 と、ティナが続ける。

 ところが、それを聞くと、セルフリッジはこう言うのだった。

 「そうですか?

 でもそれって、普通の農家がしている事と同じではありませんか?

 農家は穀物や野菜や果実などを育てていますが、代わりにそういった植物の生存を保障しています。

 人間は或いは、これを一方的に人間が植物を利用していると考えているかもしれませんが、客観的に判断するのなら、互いにメリットがある訳で、つまりは共生関係にあると見做す事ができるように思えます。

 皆さんもこれと同じですよ。魔法植物達を守る事によって、対価を得ている。つまり、共生関係にあるのです。何ら恥じ入る事はありません」

 「ふむ」とそれにパワーファイターのゴウが言う。

 「この森の魔法植物達の蜜は魔力も含まれていて、非常に質が高い。高級食材だぞ。俺は非常に気に入っている」

 彼は料理が好きだったりするのだ。

 軽く頷くと、その後でセルフリッジは言った。

 「アリ植物は、アリと共生関係になるのに都合が良いように、その体を進化させた訳ですが、人間の農家が育てている植物でも同じ事が言えます。穀物も野菜も果実も、人間が望む形に進化した訳ですからね。

 さて、ならば、この森の魔法植物達も実は同じであるかもしれないとは思いませんか?」

 そこまでを聞くと「なるほどな、あんたの言いたい事が分かったよ」と、スネイルが言った。

 「つまり、普通の魔法植物はそこまで大量に魔石を生成しないが、恐らくはピクシーやニンフやエルフ達によって品種改良されているだろう、この国知らずの森の魔法植物達は、魔石を大量に生成するように進化している可能性が高いって事か」

 それにセルフリッジは大きく頷く。

 「その通りです」

 にっこりと笑って、更に説明を追加した。

 「人間が育てているリンゴやトウモロコシなどは、原種を遡るのなら、今のように甘くもなければ果肉が多くもありませんでした。人間がそのように改良する事で、今のような形に進化した。

 この森の魔法植物達も同じです。大量に魔石を生成するように進化したのです」

 その説明にスネイルは「説明がもって回り過ぎだよ」と文句を言った。そして、その後で、

 「しかし、そう考えると不思議だな。この森は大きな農園みたいなもんだって事になっちまう」

 と続けた。

 「農園って感じはしないけどねー」

 などと、それを聞いてティナ。

 「実際、農園とはちょっと違うでしょ」と言ったのはキャサリンだった。

 

 ……その間、一緒に歩いていたアンナ・アンリはちょっとばかり不機嫌だった。

 “何よ、女の人達と話せるからって楽しそうにしちゃってさ”

 心の中でそうセルフリッジに文句を言う。

 実際は、彼は女性とばかり話している訳でもないし、単に自分の興味のある事を話せているから楽しそうにしているだけなのだけど。

 ところが、ちょうどそんな時だった。

 突然、大きな“ブーン”という翅の音が聞こえたのだ。そして、大きな木の陰から、巨大なハチが数匹現れる。

 セルフリッジは青い顔になった。

 が、冒険者パーティの面々は少しも動じない。

 「あっと、油断してたわー」

 などと言って、ティナは軽快に構えを取った。

 「火の拳……」

 そして、そう言いながら炎系の呪術を拳に纏おうとする。ところが、それを放とうとした瞬間だった。

 コツン…… と、アンナが持っていた杖で地面を叩く。すると、闇の輪っかのようなものが波紋のように空間に広がり、その巨大なハチ達の姿は消えてしまった。

 その後で彼女は言う。

 「ちょっと、別の空間にハチを飛ばしました。しばらくしたら戻ってきますから、その前に移動しましょう。

 ハチは益虫でしょう? 魔法植物達の受粉を手伝ってくれる上に、ハチミツを作ってくれます。殺すのは惜しいです」

 それに勇者キークの冒険者パーティの面々は驚いた顔を見せる。ティナが疑問を口にした。

 「今のなに? あんな魔法、見た事ないんだけど?」

 そこでセルフリッジが「ありがとうございます。アンナさん」とお礼を言った。

 その“アンナ”という名に、キャサリンが反応する。

 「アンナ? それにその黒い衣服。多分、魔法使いなんだろうなとは思っていたけど、あんた、まさか、独自の魔法技術を発達させていることで有名な、あの“闇の森の魔女”なの?」

 それにアンナは何も返さなかった。が、その無言は充分に答えになっていた。キャサリンはまだ続ける。

 「“闇の森の魔女”って言ったら、人間嫌いで有名よね? それが、あんた、こんな所で何をやっているの?」

 「別に……、」とそう言ってからアンナは、薄目でセルフリッジを見ると続ける。

 「少しばかり、この方と利害の一致があったので協力し合っているだけです」

 そう言ってから、彼女はセルフリッジが自分をじっと見ている事に気が付いた。特に悪い事を言っている訳ではないのだが、なんとなく罪悪感のようなものを覚えた彼女は、その後でこう続けた。

 「それに、この方……、セルフリッジさんには、病気を治してもらったという恩もありますし」

 それを聞くと、セルフリッジは言った。

 「その事なら、気にしなくても良いのですよ、アンナさん」

 それに彼女は「そうですかっ」と、ちょっとだけすねた感じ。

 彼にはその理由が分からない。「何か、怒っていますか?」と問いかける。それに「怒っていません」と彼女。やっぱり、ちょっとだけ、すねた感じ。

 その二人のやり取りで、二人の関係をなんとなく察したキャサリンは心の中でこう思う。

 “なるほど。闇の森の魔女の弱点を見つけちゃった。この男に惚れてるか。何かに利用できるかも”

 が、そう思った途端、キークが彼女に「キャサリン」と話しかけたのだった。珍しく真顔だ。

 「止めておいた方がいい」

 と、そして一言。

 「何の話よ?」とキャサリンは誤魔化そうとしたが、その後でスネイルも忠告した。

 「キャシー。多分、本気で止めておいた方がいいぞ? キークのマジ顔なんてかなり珍しい」

 それにキャサリンは、「分かっているわよ!」と返す。そのやり取りの意味が分からず、セルフリッジ達は不思議そうな顔をしていた。

 

 ――クルンの街。

 その一角にあるシロアキのアジトの一つで、彼は首を傾げていた。アカハルから、不可解な報告を受けたからだ。

 「ゼン・グッドナイトが、ケーブタウンを攻めるように、直接ヘゲナ国に促し始めた、だぁ?」

 彼にとってそれは信じられない話だった。

 何故なら、それはグッドナイト財団がヘゲナ国を特別扱いし、軍事供与する事を意味していたからだ。

 グッドナイト財団が国際的な影響力を持てている秘密の一つは、その平等性にある。何処か一国に加担しないという暗黙の了解があるからこそ、各国はグッドナイト財団を敵視せず、協力していこうとしているのである。

 もし、ヘゲナ国ばかり贔屓して軍事協力すれば、その均衡は破れ、国際的な影響力を失ってしまう。

 恐らく、各国は協調して、グッドナイト財団に圧力をかけて来るだろう。

 「ゼン・グッドナイトの狙いは分からないが、ま、こっちはこっちで行動するだけだな」

 そう独り言を言うと、シロアキは手紙を書き始めた。

 アカハルの特殊能力で手に入れたこの情報を、まだ他の国は知らないはずだ。報せてやれば、直ぐにでも動くはず。

 それで、“グッドナイト財団の、ケーブタウンを攻める動き”は封じる事ができるだろう。恐れる必要はない。

 ただ、それでもシロアキは何か引っかかっていた。仄かな漠然とした不安が消えない。一体、グッドナイト財団の狙いは何なのだろう?

 彼にはそれが全く見えていなかった。

 

 「お客さん達、二人ですか?

 生憎、今、二人部屋は満室でして、一人部屋なら余っているので、二部屋借りるというのはどうでしょう?」

 

 ケーブタウンの宿屋で、アンナ・アンリは宿屋の主人のオウドという男からそのように勧められていた。

 「いえ、お金にそれほど余裕がある訳ではないので、一人部屋一つで充分です」

 と、彼女は返す。

 オウドはそれを聞いて、ちょっと困ったような表情を浮かべた。

 彼はノームで、地下の建築技術に優れている。だから、ケーブタウンの観光地化に伴い、地下の洞窟をくり抜くような方法で宿屋を造ったのだが、その際に客達の需要をあまり考えずに……、と言うか、自分が造りたいものをただ造っただけだったので、かなり偏った宿屋になってしまったのだ。

 具体的には、観光客向けの宿屋なのに、何故か一人部屋が多かったのだ。

 だから、空き室がありまくりなのだけど、それではもったいないし、それに折角自信作ができたのに、誰にも見てもらえない。

 それで彼は、アンナ達がやって来ると、一人部屋をそれぞれが借りる事を勧めていたりしたのだった。

 その時セルフリッジは、この街に住むハダカデバネズミに興味を惹かれたらしく、ちょっと離れた場所で、その一匹と熱心に何やら話していたので、その“お勧め”を聞いてはいなかったのだが。

 「お金は一人分で良いですから。どうでしょう? 一人部屋をそれぞれで借りると言うのは?」

 部屋を使ってもらいたいオウドは、そう提案する。が、それでも彼女は少しもなびかない。

 「くどいです。一人部屋一つで平気です」

 「でも、当たり前ですけど、一人部屋にはベッド一台しかありませんよ?」

 それを聞いてアンナは、思わず大きな声で言った。

 「どうせ、ベッドは一台しか使わないので問題ないんです!」

 言った後で、彼女は恥ずかしいことを大声で言ってしまったことに気が付いた。

 「どうかしたのですか?」

 その声に驚いて、セルフリッジがやって来る。

 「何でもありません」と、そう返した彼女の顔はけっこー赤くなっていた。

 

 その晩。

 大型の種族用の大きなベッドで寝転がりながら、セルフリッジとアンナは、グッドナイト財団が発行している最新軍事装備のパンフレットを読んでいた。シロアキに頼んで取り寄せてもらった物だ。

 「“共学習能力”

 さっき、この街のハダカデバネズミと話しをしていたのですが、彼らにもこの能力がどうやらあるようなんですよ」

 そうセルフリッジが説明すると、「へー」とアンナは言い、

 「とすると、この最新軍事装備の元ネタは、ハダカデバネズミ達のような野生動物の能力なのでしょうか?」

 と、続けた。

 「或いは、そうかもしれません」

 パンフレットに記載されている最新軍事装備の中には、ネットワークで繋がった兵士同士が、同じ情報を共有できるようになるばかりか、ある程度の能力の共学習も可能になるという、恐るべき『ネットワーク・軍事オペレーションシステム』なるものの説明がされてあったのだ。

 「あっ 見てください、セルフリッジさん。森でクロナツさん達を助けた時に、グッドナイト財団が利用していた、あの変な飛行する魔法疑似生命体も載ってますよ」

 「本当ですね」と、それを聞いて彼は言う。

 それはどうやら、スカイ・ナビゲーターという名称であるらしかった。もっとも、それには軍事以外の用途でも使える旨が書かれてあり、必ずしも軍事用という訳ではないと強調されてあった。

 これは国際協定で軍事用の魔法疑似生命体の活用が禁止されている点を配慮したものだろう。

 「クロナツさん達の仲間に、ノーエンさんという人がいたでしょう?」

 そのスカイ・ナビゲーターから、クロナツ達を思い出したのか、セルフリッジは不意にそう言った。

 「はい」と、それにアンナ。

 「あの人は技術者で、グッドナイト財団に技術を奪われたくなくて逃げていたのだそうですが、その技術がどんなものなのか教えてもらえました。

 その技術は、簡単に言うのなら、数多にある情報の中から有用なものだけをピックアップして取り込む技術であるらしいです。それによって、例えばたくさんの情報を与えさえすれば、自動的に魔法疑似生命体に優秀な能力を学習させる事ができるのだとか。

 ノーエンさんは、なんとか技術を守り抜いた訳ですが、他の会社などの研究機関が同様の技術を開発していないはずがありません。グッドナイト財団はその技術を手に入れられていると考えた方が良いでしょう」

 その彼の説明に、彼女は何かを察したらしく、「グッドナイト財団が、何をしようとしているのか分かったのですか? それに、何か先手を打つ手段を思い付いたとか」と尋ねた。

 彼は「はい」とにっこり笑ってそれに返すと言う。

 「それで、実はアンナさんにもどうか協力して欲しいのです。引き受けてくれますかね?」

 それに彼女は軽く笑って応える。

 「今更ですよ、セルフリッジさん。わたしが協力しないはずがないじゃありませんか」

 彼女はとても嬉しそうだった。

 

 ……クルンの街の喫茶店。

 そこでアカハルは、カロリーの高そうな高級なスイーツを食べていた。

 ここ最近、ケーブタウン絡みの仕事の成功のお陰で彼は羽振りが良かったのだ。そのカロリーの高そうな食事は、そんな自分への御褒美でもあった。

 彼の異能は、エネルギーを多く使うし。

 シロアキが手紙を出して、グッドナイト財団がヘゲナ国に軍事供与してまでケーブタウンを攻め落とそうとしているという話を各国に伝えると、それが功を奏したのか、グッドナイト財団はあっという間にその件から手を引いた。

 グッドナイト財団の狙いが何であったのかは未だに分からないが、取り敢えずは、危機は回避できたようだった。

 アカハルは、甘い生クリームの乗ったフルーツを、大きく口を開けてパクリと食べる。甘さが脳に染み渡る。

 “ああ、生きていて良かった!”

 そんな事を彼が思ったその刹那、目の前の空いている席に誰かが腰を下ろした。

 

 ――ん?

 

 相席とは聞いていない。

 アカハルはその何者かに、文句を言おうとしてその顔を見る。が、その瞬間に固まってしまった。青い顔になる。スイーツの幸福な甘さを一瞬にして忘れた。

 

 「やぁ、君がアカハル君だね。お会いできて大変に光栄だよ」

 

 そして、その何者かは、そう言ってにこやかに笑ったのだった。

 アカハルはその何者かの顔に見覚えがあった。いや、正確に言うと、一度も見た事はないのだが、何度も何度も感じ取ってはいた。何故なら、その男はグッドナイト財団を実質的に支配している立場にあるからだ。

 そう。

 その何者かは、ゼン・グッドナイト本人だったのだ。


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