第3話 冒険者ギルド
果物屋のおっさんに言われた通りに歩いて行くと、あっという間に冒険者ギルドの建物に辿り着いた。
俺は早速中へと足を踏み入れる。
中に入ると、辺りには冒険者と思われる人たちがたくさんいた。基本はみんなパーティーを組んでいるのか3、4人の集団でまとまっているようだった。だが、中には1人でいる冒険者もチラホラいた。ソロプレイヤーってやつかな。
俺もあんまり集団行動とか得意じゃないし、ひとまずソロでいく方がいいかなー。まあ成り行きに任せるか。
さあ、とっとと冒険者登録をしてしまおう。俺は受付に向かう。
受付には若い女性が立っていた。結構可愛い。
「すみません。冒険者登録したいんだけど……」
「はい、冒険者登録ですね。そうしますとこちらの用紙に名前や年齢等をご記入下さい」
「はーい」
俺は差し出された用紙を受け取ると、記載事項を記入し受付嬢に渡した。
「ユウト・アキヅキさん。変わったお名前ですね。遠くの国の方ですか?」
「え? あ、ああ。まあそんなとこかな」
「私はこのギルドで受付をしているエマと申します。これからよろしくお願いしますね。ユウトさん」
「ああ、よろしく」
「では、これから冒険者カードを作らせていただきますね。5分ほどかかりますので、その間に冒険者について説明させていただきます」
おお、丁度冒険者についていろいろ聞きたかったんだよ。これは助かる。
「まず、冒険者とは主にクエストをこなして生計を立てている者たちのことを言います。そして、冒険者にはランクがあり、1番下がE級、1番上がS級となっています。ユウトさんはまずE級冒険者からスタートとなります」
「へー、ランクとかあるのか。ランクってのはどうやったら上がるんだ?」
「冒険者のランクは基本的にクエストをこなした数に応じて上がります。クエストには推奨ランクというものがあって、ランクが高いクエストをクリアしていけば、少ない数で上のランクになることができます。ただ、やはり自分のランクに応じたクエストを受けるのが無難かと思います。ランクの高いクエストはそれだけ危険ですから」
なるほどねえ。となるとE級冒険者の俺はE級、もしくはD級クエストくらいを受けるのが無難ってことなのかな。でもなー。クエストのレベルとか全然分からんけど、チートを持ってるんだからもっと上のランクを受けてもいいような気もするなぁ。
「あと、定期的に開催されている昇級クエストというものもありまして、昇級クエストをクリアするとその級に即ランクアップできます。例えばユウトさんがD級昇級クエストをクリアすれば、それまでにクリアしたクエストの数にかかわらずD級冒険者になる事が出来ます」
「おお、それは手っ取り早くていいな。じゃあ、S級昇級クエストをもしクリアできたら、俺はE級からS級に一気になれるって事か?」
「あ、すみません。それは出来ないんです。B級昇級クエストまでならどのランクの冒険者でも挑戦できるんですが、A級昇級クエストはB級冒険者でかつB級クエストを3つ以上クリアした方。そして、S級昇級クエストはA級冒険者でかつA級クエストを5つ以上クリアした方でないと挑戦できないんです」
「そ、そうなのか。そりゃ残念」
結構きちんと決められてるんだな。まあいい加減よりは全然いいけど。
「あ、どうやらカードができたようです。どうぞ」
「お、ありがとう」
俺は差し出されたガードを受け取った。
「ちなみに冒険者カードは初回の発行は無料ですが、再発行の際はお金がかかりますのでなくさないように気を付けてくださいね」
「そ、そうなのか。気を付けるよ」
あぶねー。
よく考えたら俺、この世界のお金なんか持ってなかったんだった。初回無料で助かったぜ。
俺はカードを大事にポケットにしまった。
「さて、と。冒険者登録が済んだってことで早速クエストに挑戦してみたいんだけど、どうすればいいんだ? クエストボードとかがあるのか?」
「ええ、おっしゃる通りです。クエストは向こうにあるクエストボードに貼ってあるクエストの中から選んでいただいて、それを受付で申請していただくと受けることができます」
「なるほどね」
テンプレ通りで安心するなあ。
よし、じゃあ見に行ってみるか。
俺がクエストボードへ向かおうとしたその時だった。
「ちょっと離してよ!!」
女の子の大声がギルド内に響き渡った。
何事かと声のした方を向くと、女の子の冒険者がゴツイ男の冒険者に腕をつかまれているのが見えた。
「へへへ、いいじゃねえか。頼むよ。俺とパーティー組んでくれよ姉ちゃん。俺って結構強いから役に立つと思うぜえ」
「だから嫌だって言ってるでしょ!! 私はあんたみたいな筋肉だるまとは組みたくないの!!」
ははーん。なんとなく状況はつかめたぞ。
あのゴツイ男が女の子にパーティーを組んでもらおうと無理やり迫ってるけど、拒否されてるって感じか。とっとと大人しく引き下がればいいものを。てか、女の子の腕なんか不用意につかんだらセクハラになるぞ。まあこの世界にそんな言葉があるのか知らんけど。
「いいから来い!!」
「きゃあっ!!」
男が女の子の腕を無理やり引っ張った。
これは黙って見てる訳にはいかなそうだ。
俺は女の子を助けるべくそちらに歩を進める。
「ちょっと待ちな、兄ちゃん」
横から呼び止められたので俺は足を止め、声のした方へ顔を向ける。
そこには茶髪の短髪の冒険者らしきおっさんがいた。
「お前さん、あそこに助けに入ろうってんだろう? だったら悪いことは言わねえ、やめとけ」
何言ってんだよ。女の子がピンチなんだぞ。助けてやるのが男じゃないか。
俺はおっさんを無視して再び歩き出そうとする。
「まあ待てって。俺の名はバッツ。冒険者歴21年で現在C級のしがない冒険者だ。だが、21年もやってるだけあって結構な情報通でよ、冒険者にはかなり詳しいんだ」
おっさんはさらに続ける。
「あの女の子にちょっかい出してる冒険者はガイって言ってな、ランクはB級のなかなかの実力者なんだ。しかも最近はさらに腕を上げて、もうすぐA級になるんじゃないかと言われてるB級の中でも上位のランクにいる冒険者だ。今この場にいる冒険者の中では間違いなく1番強い」
へー、そんなに強いのかあいつ。まあ確かに体もでかいし筋肉もかなりあるっぽいしな。
「今兄ちゃんが関わろうとしてる男はそういうやつなんだ。悪いが兄ちゃん、さっき冒険者になったばっかの新米なんだろう? もしあそこに入ったってコテンパンにされるのがオチだ。あの女の子は可哀そうだが、ここは見て見ぬふりをするっきゃねえ」
見て見ぬふりねえ。まあ強いやつ相手にそういう考えになるのは仕方ないだろう。転移前の俺だってそうしていたと思う。
だが、今の俺は違う。女神からチートを与えられて強くなったんだ。まだチートがどの程度のものかは分らんが、きっと善戦できるはずだ。
「バッツって言ったっけ? 忠告ありがとよ。でも、やっぱ助けに行くよ」
「お、おい!!」
必死に呼び止めるバッツだったが、俺の足はもう止まらない。
さあ、初戦闘といってみよう。