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異世界チートはお手の物  作者: スライド
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第29話 後悔と閃き

 俺たちは電光石火で声のした方へ飛んでいった。

 そして、騒いでいる男に声をかける。


「おい! ベイルが襲われたってのは本当か!?」


「あ、ああ! 本当だ!! 南の門のところで倒れてる!! 今、高位の治癒魔法が使える人をみんなで探してる!!」


 男の焦りようからも事態が事実であり深刻である事が伺える。

 とりあえず重傷ってことは生きてはいるってことだよな。

 だけど、ベイルまでやられるなんてS級狩りは何者なんだ一体。


 ええい、くそっ!! 今はそんなことよりベイルのとこに行かないと!


「南門へ急ぐぞ! 2人とも!!」


「ええ!!」


「はい!!」


 俺たちは南門へとダッシュで向かった。





 南門へ着くとものすごい人だかりができており、その中心にベイルはいた。

 ベイルは仰向けに寝ており、頭やら腹やらいろいろな部分から出血をしているようだった。そして、一番見てショックだったのは、右腕がなくなっていることだった。

 重傷とは聞いてたけど、これは……酷すぎる。


「ベイル!!」


 俺がベイルに声をかけると、ベイルが反応する。


「う、うう……、ユウ……ト……か。……へっ、無様な姿を……見られちまったな……」


 いつもの元気さなど微塵もないその弱々しい声に、俺は思わず泣きそうになる。


「無様なもんか!! 変なこと気にすんな!! 大丈夫だ。今高位の治癒魔法使いたちを集めて全力で治療にあたるらしい。きっと助かる!」


「ユウト……。S級狩りは……化け物だ。俺ごときじゃ……まったく歯が立たなかった……。なんとか上手く逃げ切れたが……もう少しで俺は確実に殺されてた……。あいつとは……ハァ……戦っちゃならねえ。あんなの勝てるわけがねえ……!!」


 ベイルはS級狩りと戦ってその恐ろしさを肌で感じたのだろう。心が折られているようだった。


「お前と……決着つけたかったが……、この体じゃあもう無理そうだな……。すまねえユウト……!!」


 ベイルは悔しさと怒りで涙を流した。俺にはその気持ちが痛いほど伝わってきた。


「いいよそんなことは! とりあえずもうしゃべるな!!」


 決着なんてどうでもいい。今はベイルが死んでしまうのが一番怖い。少しでも安静にしててくれ。

 一命をとりとめたところでおそらくもうベイルは冒険者として以前のようにはやっていけないだろう。それはきっとベイルにとっては死ぬほどつらいことだ。

 でも、死んでしまうのだけは駄目だ。とにかく生きててほしい。


 そうこう考えてるうちに治癒魔法使いたちが集まったのか、ベイルは治癒を受けるために運ばれていった。


「くそっ!!」


 俺は地面を思い切り殴った。

 ベイルならなんだかんだで大丈夫だろうと高をくくっていた。大都市にきて浮かれてる場合じゃなかった。宝くじなんかにはしゃいでる場合なんかじゃなかった。もっと必死になってベイルを探すべきだったんだ。


 そうしたらすぐにベイルを見つけられて、S級狩りと遭遇しようが俺とベイルのタッグで倒せたかもしれないのに。ベイルがあんな目に合わなくて済んだかもしれないのに。

 俺は味わったことのない後悔の念に襲われた。


「くそっ! くそっ!! くそおおおお!!!」


「落ち着きなさいよユウト!! 気持ちは分かるけど、こういう時こそ落ち着かなきゃ!!」


「そ、そうですよユウトさん。エミリアさんの言う通りです。冷静になりましょう」


 エミリアとミーシャが狼狽える俺を心配そうに見てそう言ってきた。

 くそ、何やってんだ俺は。仲間に心配かけてる場合じゃねえ。


「わ、悪い。取り乱しちまった。も、もう大丈夫だ」


 俺は数回深呼吸して落ち着きを取り戻した。

 しかし、これからどうする。ベイルの運ばれたとこにいって何か手伝うか?

 いや、きっとかえって邪魔になるだけだ。それはやめた方がいいだろう。

 じゃあ何をする? ちっ、何をじゃねえだろ秋月悠斗。やることは1つじゃねえか。


「よし、俺は決めたぞ。S級狩りを探し出して絶対に倒す。ベイルや他のS級達の仇を討ってやる」


「なっ!? ちょっとユウト! あんたベイルさんの話聞いてなかったの!? S級狩りとは戦うなって言われたじゃない!! 確かにあんたは強いけど、ベイルさんがあんなにされたのよ。あんただってどうなるか……!!」


「そうですよユウトさん!! 無茶はやめた方がいいです!!」


 エミリアが心配してくれているのが伝わってくる。横にいるミーシャも同様のようだ。

 確かにS級狩りはS級冒険者を次々に打ち倒してる正真正銘の化け物だ。俺に勝てる保証は全くない。あっけなく殺されるかもしれないだろう。関わらないのが1番得策であるのは間違いない。

 でも、なんなんだこの感じは。S級狩りを倒すのは自分しかいないということが直感で分かってしまう。どうしてそう思うのかは全く分からない。だけど、全身の細胞がS級狩りを倒せと言っているような、S級狩りを求めているかのような不思議な感覚が確かにあるのだ。


俺はエミリアとミーシャを真っすぐに見つめて真剣な表情で自分の気持ちを告げる。


「心配してくれてありがとう2人とも。だけど俺、やっぱS級狩りと戦うよ。どうしてもS級狩りを放っておくっていう選択が今の俺にはできないんだ。これ以上犠牲者を出さないためにも、この事件だけは俺が終わらせてやる。大丈夫だって、俺は絶対負けねえからよ。だから頼む」


 俺がそう言い終えると、10秒程の沈黙が流れ、エミリアが観念したように口を開いた。


「ああっもうっ!! 分かったわよ!! あんたの本気は伝わったわ。あたしたちも協力する。S級狩りを倒しましょう。なんかユウトならやってくれそうな気がするしね」


「そうですね。私もユウトさんの強さにかけてみます。絶対倒してくださいね」


「おう、まかせとけ」


 2人とも納得してくれたようだ。よかったー。


「さて、そうなるとS級狩りを探さないといけないわけだけど、どうやって探したものかしら。普通に探したところで見つかりっこないわよ?」


 エミリアの意見はもっともだ。広い世界のどこにいるかも分からないS級狩りをただ闇雲に探すのは不可能だ。何かうまい方法はないものか……。


「そうだ! 生き残っているS級のところに行けばS級狩りの方からやってくるんじゃないか? ……あ、でも残りのS級たちの居場所が分からないんじゃ意味ないか。ウーム……」


 俺とエミリアが悩んでいたところ、ミーシャが突然こんなことを言った。


「ユウトさんがS級になれたりしたら、S級狩りの方から狙ってきてくれそうですけどね。ハハハ……なーんて」


「それだミーシャ!!」


「それよミーシャ!!」


 俺とエミリアが同時に反応した。


 そうだよ。なにも俺たちが動いて探すことにこだわらなくてよかったんだ。俺が囮になってS級狩りをおびき出せばいいんだ。うおお、ミーシャありがとう。


「でも待って。名案だけど、S級になるにしてもたくさんクエストをこなさないとだし、いくらユウトでも1ヶ月は時間がいるはずよ。この時間は痛いわ」


 そう、S級にはすぐにはなれない。そこがネックすぎる。その間に間違いなく新たな犠牲者が出る。それは避けなければ。


「ギルドに掛け合って俺をS級になったって事にしてくれないかな?」


「うーん。ユウトは実力的にはS級を名乗ってもいいとは思うけど、さすがに嘘は駄目だと思うわね。然るべき手順は踏まないと、ギルドは許してくれないわきっと」


 だよなあ。嘘はいかんよなやっぱ。…………ん? 嘘だって……? そ、そうか!!


「そうだよ!! 嘘を流せばいいんだ!!」


「な、何よいきなり……」


「ギルドなんかに掛け合う必要はねえ! 俺がS級冒険者になったってデマの記事を書いてもらうんだよ!! ガルロ新聞に!!」


「なんですって!? た、確かにガルロ新聞に載れば世界中にすぐ情報は拡散されるでしょうから、S級狩りの目にもつくでしょうけど……。でも、ガルロ新聞社がデマの記事を書いてくれるとは思えないわ」


 エミリアの言うことは正論だった。新聞は正しい情報を伝える必要がある。嘘の情報を載せてしまっては信用が一気に落ちるだろうし、誰かの迷惑になるかもしれない。まずデマは書いてくれないだろう。


 だが、俺には勝算があった。


「だからこれを使う」


 俺はニヤリと笑うと、バッグから宝くじを取り出した。


「あ、あんたまさか!!」


「ふっふっふ、大人の取引ってやつだ。前にベイルが言ってただろ? ガルロ新聞社の編集長はお金が大好きで、賄賂を受け取って嘘の記事を書くこともあるらしいって。だからこの金を使って交渉する。大丈夫。間違いなく上手くいく」


 筋書きは決まった。俺の取り分2000万レードで、絶対口説き落としてやる。

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