第22話 特効薬
「ハア……ハア……。なんとか逃げ切れたか」
全力疾走で麓まで戻って来た俺達3人は、地面に座り込んでしまっていた。流石に走り疲れたからな。
「ああ、そのようだな。それにしてもミーシャ、あの大岩攻撃は見事だったぜ。あれで隙が付けたからな。ホント助かったぜ」
「そ、そんな、アレはたまたまです。大岩に潰されそうになって咄嗟に転移魔法使ったら偶然ドラゴンの頭上に転移してただけで、まったく狙ってないですし……」
「狙ってなくてもあの大岩を転移させただけでも凄い事なんだぜ。ミーシャはもっと自分に自信を持っていいぞ」
「そ、そうですかね……。えへへ、ありがとうございます」
少し顔を赤らめ、恥ずかしそうにお礼を言うミーシャ。褒められてかなり嬉しそうだ。
「あとはユウト、お前の魔法攻撃の威力すげえな。まさかクルーエルドラゴンの翼を吹き飛ばすとは思わなかったぜ。下手したらリオンの並みの魔力の持ち主かもな。」
「リ、リオン?」
「ん? ああ、S級冒険者の1人さ。それもS級ダントツ1位の実力者、つまりは世界最強の冒険者さ。肉弾戦ならともかく、魔法ありならあいつにだけは勝てる気がしねえ」
「え、ベイルでもそんなに差があるのか?」
「ああ。あいつの強さはマジで桁違いだ。本当に人間なのかと疑ったことも何度かある。
まあいつかは越えて見せるがな」
S級1位のリオンか……。ベイル程の奴でも勝てる気がしないやばい奴。いつか会って戦ってみたいものだ。
「よし、じゃあ早いとこ王都に戻ろう。1秒でも早くエミリアを楽にしてあげたいし」
「そうだな。うし、じゃあ行くか」
俺達は再び飛竜に乗り、王都を目指して飛び立った。
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また半日ほどかけて王都へと戻った俺とミーシャは、すぐさま救護室にいるエミリアの元へ向かい、特効薬を調合するために一度家に戻ったベイルを今か今かと待っている。
しかし、ベイルは昔作った事あるから30分もあれば調合できると言っていたのだが、もう1時間近く経つもののまだやって来ない。何かあったのだろうかと一抹の不安がよぎる。
その時バタン!と勢いよく救護室の扉が開いた。そこには薬を手にしたベイルが立っていた。どうやら薬が完成したようだ。
「悪い悪い。久しぶりに作ったもんで時間かかっちまった」
「うまく作れなかったのかと心配したぜベイル」
「ほんとすまん。だが、これを水に溶かして飲めばすぐに効くぜ。発汗と熱はものの数分でかなり治まる。まあその後1週間は大事をとって安静にしてる必要はあるがな。じゃあエマ、飲ませてやってくれ」
「はい! 分かりました」
エマはベイルから特効薬(どうやら粉薬みたい)を受け取ると、すぐに水をとって来て薬を水に溶かしエミリアに飲ませた。その手際の良さに俺は心底感心した。
ゆっくりと時間をかけて薬を飲み干したエミリアは、俺達の方に目を向け、
「ふう……、まだ熱はあるみたいだけど、だいぶ楽になったわ。ユウト、ミーシャ、それにベイルさん。なんだかだいぶ遠出して薬の材料をとって来てくれたそうね。エマから聞いたわ。本当に本当にありがとう」
まだだいぶ辛そうだが、作れる限りの最大限の笑顔でエミリアはそうお礼を言ってくれた。これで助かったんだな。本当に良かった……。俺は胸を撫で下ろした。
「エミリアさん……。間に合って本当に良かったです……」
ミーシャが嬉し涙を浮かべながらそう言った。
エマもベイルも安堵の表情を浮かべている。
「あ、あれ……?」
俺は軽くふらついて地面に尻もちをついてしまった。な、何だ?
「ユ、ユウトさん? 大丈夫ですか?」
ミーシャが心配して声をかけてくる。
「わ、分からん。なんか急に体の力が抜けて……」
「こいつはあれだな。エミリアが助かったことでホッとして気が緩んだんだろう。それに加えてここ数日の疲れも一気に出たってとこかな」
俺の様子を見たベイルがそう言ってくれた。
なるほど。確かにここ数日はかなり気を張っていたし、山登りやらクルーエルドラゴンとの戦闘とかもあったし、疲労が溜まっていたんだろうな。
「ユウト、もう夜だし今日のところはお前も休んどけ。休むのも大事だぞ」
「そ、そうだな。今日はもう宿で休むことにするわ。あ、そうだ。ベイルっていつまで王都にいるんだ?」
「そうだな。1週間後には行く予定のダンジョンがあるからそれまではいるかな。どうしてだ?」
「いや、この前の勝負が中途半端に終わってたから、その続きがしたいと思ってさ。もちろんベイルが良ければだけど……」
「ああー! あれか。もちろんいいぜ。実は俺ももう一回お前とやりたいと思ってたんだわ。じゃあエミリアのことが一段落する1週間後に再戦といこうや」
「よっしゃー、決まりだな。じゃ、俺は宿に戻るわ。ミーシャ、エマ、ベイル、いろいろとありがとう。じゃ、また明日な」
今日しっかり休んだら、明日からはベイルに勝つために修業しなくちゃなとか考えつつ、俺は宿へと向かうのだった。