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異世界チートはお手の物  作者: スライド
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第19話 死に至る病

 俺はすぐさまエミリアの元へと駆け寄った。そして、ミーシャに状況を確認した。


「何が起きたんだミーシャ!」


「わ、分かりません! ユウトさん達の戦いに2人して魅入っていたら、急にエミリアさんが倒れたんです!」


 目に涙を浮かべながらそう叫ぶミーシャ。軽くパニックになっているようだ。正直俺もパニック寸前だ。

 しかし、こういう時こそ落ち着かねば、とりあえずエミリアの状態を確認しないと。

 俺はしっかりと様子を確認しようと、倒れていたエミリアをそっと抱き起こした。するとすぐにエミリアの体がかなり発熱していることが分かった。顔も紅潮しており、全身汗でびっしょりだった。


「う……、うう……。ユウ……ト……」


 かろうじて意識はあるようで、エミリアは呻きつつも俺の名前を呼んでくる。


「エミリア! しっかりしろ! どうしたんだ! どこか痛むのか!?」


「み……、右……腕……」


「右腕? 右腕がどうしたって言うん……!!!」


 エミリアの右腕に視線を移した俺は驚愕した。エミリアの右腕全体が赤黒く変色して腫れあがっていたからだ。何だこれは。医学には全く詳しくないが、そんな俺でもこれはヤバいと分かる。一体どうすりゃいいんだ。

 俺がうろたえていると、後ろからベイルが声をかけてきた。


「ユウト、ちょっと俺にも見せてくれ」


 俺は言われた通りベイルにエミリアの様子を見せる。そうだ。長年冒険者をやっているベイルなら何か分かるかもしれない。そんな期待を俺は胸に抱いていると、エミリアを見たベイルの目が大きく開いた。


「こ、こいつはまさか……! いや、でもそんなはずは……」


「な、何か知ってるのかベイル!?」


 ベイルの反応に思わず叫ぶ俺。


「あ、ああ。1つ心当たりがある。だが、説明は後だ。ひとまずギルドの救護室に運ぼう。ユウト、ミーシャ、手を貸してくれ」


「ああ、分かった」


「はっ、はいっ!」


 俺達は辺りの人々が心配そうに見つめる中、エミリアを慎重に救護室へと運んだ。






 俺達はギルドに戻り、受付のエマに事情を話して今は救護室にいる。

 エミリアをベッドで横にならせ、その周りに俺、ミーシャ、ベイル、エマが立っている。

 ちなみに徐々に冷静さを取り戻した俺が、医者を呼んだ方がいいんじゃないかと提案したのだが、  この世界は医学というものがあまり進歩していないらしく、イシャって何だ?と全員に聞き返される始末であった。なので、今は少しは医学をかじっているらしいエマがエミリアを看病している。

 さて、そろそろ本題に入るとするか。


「ベイル、さっきの話の続き何だが……、エミリアの症状に心当たりがあるんだよな?」


「ああ。こいつは間違いなく『ブラマド病』だ」


 初めて聞く病名に俺は首を傾げる。ミーシャもエマも俺と同じで聞いた事ないといった様子だった。


「まあ、お前ら若い奴らが知らないのも無理はねえ。この病気は今から30年前に流行った病で今じゃかかる奴はいないからな」


「30年前……。そりゃかなり昔だな。つーか今はかかる奴はいないってのはどういうことだ? 現にエミリアはその病気にかかってるわけだろ?」


「ああ、問題はそこだ。ユウト、最近……というかおそらく昨日か。お前たちは黒いマンドラゴラと遭遇して、エミリアはそいつの体液を浴びたりしたんじゃないか? おそらく右腕に」


「黒いマンドラゴラ……!! そ、そうだ! 確かにエミリアは右腕に体液を浴びてたぞ、それもベイルの言うとおり昨日にだ」


「やっぱりか……。なんてこった」


 そう言ってベイルは肩を落とした。そして今まで以上に真剣な顔つきになった。


「お、おいベイル。つまりはその体液が原因でエミリアがこうなったって事なのか?」


「ああ、そうだ。そいつの体液を浴びるとブラマド病に感染する」


「で、でも昨日腕にかかった時には何ともなかったぞ」


「そう。すぐには発症しないのがこの病気の厄介なとこなんだ。なんでも体液を浴びてから半日くらい潜伏期間ってのがあるらしく、その後で発症するらしい。えーとだな。この際だ。少し長くなるが、詳しく説明していくぞ」


 一呼吸置いてベイルが説明を開始する。


「まずお前らの遭遇した黒いマンドラゴラだが、ブラックマンドラゴラというそのまんまの名前のモンスターだ。30年前の話になるが、こいつが世界各地に大量発生して、エミリアのように体液を浴びた人たちがみんなブラマド病にかかった。その事態を重く見た世界の国々は各地の冒険者たちにブラックマンドラゴラの討伐を依頼したんだ。そして大規模な討伐隊が編成され、半年がかりで世界中のブラックマンドラゴラを全滅させた。だから現在ではこの病気にかかることはあり得なくなった」


 なるほど。今じゃかかる奴はいないってのはそういうことだったのか。


「……ん? 待ってくれ。全滅させたって言ったけど、俺達は昨日ブラックマンドラゴラに遭遇したんだぞ。これはどういう事なんだ?」


「問題はそれだ。ブラックマンドラゴラは30年前に確実に全滅した。ここ30年目撃情報もないしな。だが、お前らは出会ったと言う。これはあり得ないことだ。ユウト、いったいどこで出会ったんだ?」


「そ、それは……だな」


 俺はエマの方をちらりと見る。エマは相当なショックを受けた顔をしていた。そりゃそうだろうな。だって遭遇した場所は……。


「ギルドのクエストダンジョンです」


 俺が答える前にエマがそう答えた。


「ギルドのダンジョン……だと?」


「はい。昨日開催したB級昇級クエストに使用してたダンジョンの1つに出現したようです。そのダンジョンにユウトさん達が挑んでいて、その最中にエミリアさんが被害にあったようです……。本当に申し訳ありません!! 私の管理が甘かったばっかりに……」


 昨日に増して酷く落ち込むエマ。目には涙も浮かんでいる。今回の件は完全に自分の責任だと思っているようだ。その様子を見てか、ベイルが声をかける。


「エマ、お前が気に病む必要はないぜ。ブラックマンドラゴラが突然出現するなんてイレギュラー中のイレギュラーだ。管理のしようがないさ。それにな、知り合いの冒険者たちに聞いた情報なんだが、1ヶ月くらい前から世界中のモンスターの動向がおかしいようなんだ。おそらく今回のもその関係だろう」


 世界中でそんな事が起こってるのか。知らなかった。じゃあ、昇級クエストのゴーレムの合体だったり、初クエストの時のヴェノムオークの出現もそれに関係あるって事だろうか。

 しかし、1ヶ月かくらい前か。それって俺がこの世界に来た時期くらいじゃないか。なんだか嫌な時期に来てしまったな。


「なあ、ベイル。この病気についてなんだが、エミリアはこのままだとどうなるんだ? このまま安静にしてれば治るのか?」


 俺の質問に「うーん」と唸ってからベイルは話し出した。


「この病気は潜伏期間が終わって発症すると、体液を浴びた部分が炎症を引き起こし、40℃近い高熱が出るんだ」


 ふむ。今のエミリアの症状そのものだな。


「そんでその高熱に3日間苦しむことになり、そして……」


「そして?」


「死ぬ」


 その発言に思わず血の気が引いた。ミーシャもエマも表情が凍りつく。

 死ぬ……だと。は、はは……、冗談じゃないぞ。そんなことがあってたまるか。出会ってそんなに長くはないが、エミリアは俺の大切な仲間だぞ。絶対に死なせるもんか。


「し、死ぬって……。べ、ベイル……、何か助ける方法はないのか?」


 俺は恐る恐る尋ねる。


「安心しろ。ブラマド病には特効薬がある。30年前に病気が流行したときに冒険者たちで協力して開発したんだ。それを使えばエミリアは助けられる」


 それを聞いて俺もミーシャ達も胸をなでおろした。


「よ、よかった……。じゃあさっそく薬を買いに行こう。王都のどっかに売ってるのか?」


「いや、王都では売ってない。というか今現在ではその薬はどこにも売ってないだろう。さっきも言ったようにブラマド病は30年前の病気だから、今じゃ薬なんて必要ないから市販されてないんだ」


「そ、そんな……」


「だが、大丈夫だ。俺が作り方を知ってる。必要な材料もこの王都の店をまわればほぼ手に入る」


「ほぼ?」


「ああ、ほぼだ。残念ながら1つだけここじゃ手に入らないもんがある。ロフィラって言う花の成分が必要なんだが、この花はアグニ山脈の頂上付近にしか咲かない珍しい花でな。それはまず市場には流通していない。だからそれを取りに行かないといけない」


「じゃあすぐ取りに行こう! アグニ山脈ってのはここからどのくらいかかるんだ?」


「普通なら数週間はかかるが、そこは俺に任せろ。王都にいる知り合いが飛竜を飼っててな。そいつに乗せてもらえば半日とかからず着ける」


 それは朗報だ。それなら3日以内にエミリアを助けられるだろう。


「うし、じゃあユウトは俺と一緒に来てくれ。アグニ山脈は危険なモンスターが多くて厄介だからな。お前の力を借りたい」


「ああ、まかせてくれ」


「エマはここに残ってエミリアの看病を頼む」


「はい! 誠心誠意看病します。ベイルさん達が戻るまで、絶対にエミリアさんは死なせません!」


「言い返事だ。あとはミーシャ、お前もここに残ってエマの手伝いをしててくれ」


 そうベイルが言うと、それまで一言も発さず黙っていたミーシャが口を開いた。


「あの、私も一緒に連れていって下さい」


「お、おいおい。待てミーシャ、今行ったようにアグニ山脈は危険なんだ。冒険者になりたてのお前には荷が重すぎる。今回はここで待っててくれ」


 ベイルがそう諭すが、ミーシャは首を横に振った。


「い、嫌です。待っているなんてできません。エミリアさんがこうなったのは私のせいなんです。ブラックマンドラゴラに不用意に近づいて襲われそうになった私を、エミリアさんが庇って体液をくらってしまったんです。だから、私はエミリアさんを絶対に助けなくちゃいけないんです。だから、だから……、一緒に行かせて下さい! お願いします!!」


 そう言って深々と頭を下げるミーシャ。その真摯な姿を見たベイルは観念したようで。


「ああ分かった。俺の負けだ。ミーシャも一緒に行くぞ。そのかわり山脈では前衛には絶対に出るなよ。約束だ」


「は、はい! ありがとうごさいます!!」


「うっし、じゃあすぐに出発するぞ、2人とも」


「おう!」


「はい!」


 俺達はアグニ山脈へ向かうべくギルドを後にする。



 エミリア……。辛いだろうけど待っててくれ。必ず助けてやるからな。

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