第14話 逆転の一手
完全に攻撃の手段を失った俺とエミリアは、とにかくゴーレムの攻撃を避けるのに尽力していた。
ゴーレムの攻撃はそこまで速くないので避ける分には特に問題ないが、ダメージを与える手段がないためこのままでは埒が明かない。
「くそっ! どうすりゃいいんだ!」
「物理も魔法も防ぐシールドがあるんじゃどうしようもないわよ!」
だよなあ。こんなの無理ゲーすぎる。
こいつ本当にB級昇級クエストのボスなのか? 明らかにそれ以上の強さがあるだろ。
正直俺とエミリアはすでに実力的にはB級以上はあると思う。その俺たちがなす術無しってのは絶対おかしいだろ。
でも、ここで諦めるのは男がすたる気がする。よーし、こうなったら。
「エミリア。ちょっと離れてろ。こうなりゃシールドを突き破るくらいの威力の魔法をぶち込むしかねえ」
エミリアが頷き、遠くへ離れたところで俺は魔法を唱える。頼む! 効いてくれ!!
「ブラストヴァルカン!!!」
音速に近い速度で超高威力の炎がゴーレムに直撃し、辺りに激しい閃光と爆音が響く。
どうだ? やったか!?
しかし、フラグを立ててしまったからなのかは分からないが、ゴーレムは無傷だった。
「くそっ!!」
もう駄目だ。渾身の魔法でもあのシールドを破れないんじゃもう詰みだ。エミリアの剣も効かないし、ミーシャの転移魔法だって攻撃には使えんし……。
……待てよ? 転移魔法か……。そ、そうだ!!
「ミーシャ! いい事を思いついた!! ちょっとこっちに来て力を貸してくれ!!」
「へっ!? わ、私ですか!?」
「そうだ頼む来てくれ!」
「は、はいい!」
ミーシャは恐る恐る俺のとこまで歩いてくる。
「ち、力を貸すって私はどうすればいいんでしょう?」
「よくぞ聞いてくれた。いいか? あのゴーレムは体の表面のシールドで物理攻撃も魔法攻撃も全て防いでしまう。だがそれはあくまでも外側からの攻撃の話だ。内側からの攻撃はおそらくシールドでは防げない」
「う、内側ですか?」
ミーシャが首をかしげる。まだピンと来てないらしい。
「そうだ。いいか、作戦はこうだ。俺がファイアバーストの魔法を唱えて炎を出すから、それをミーシャが転移魔法であいつの体内に移動するんだ。そして移動した瞬間にそれを俺が体内で爆発させる。これであいつは木端微塵だ、OK?」
「な、なるほど! そういうことですか」
「ユウト! それはナイスアイディアだわ! あんた結構頭いいわね」
「いやあ、それほどでも」
確かに我ながらいい作戦を思いついたものだと思う。
しかしながら、この作戦には1つだけ問題がある。そして、その問題に本人も気付いているのか俺にこう言ってくる。
「あの、ユウトさん。凄くいい作戦だとは思うのですが、ご存じの通り私の転移魔法はあんまり精度がよろしくないんです……。きっと失敗して迷惑かけることになると思います」
そう。問題とはミーシャの転移魔法が成功するとは限らないということだ。
何かの間違いで俺やエミリアの体内に魔法を転移させようものなら、スプラッタ映画も真っ青の衝撃映像となってしまう。
だがもう成功を信じてやってもらうしかない。それ以外にもう勝ち筋はないのだから。
「ミーシャ。不安な気持ちは分かるが、俺たちはもうお前の転移魔法に頼るしかないんだ。失敗しようが俺もエミリアもミーシャを恨んだりは絶対しない。どうか頼む!」
「で、でも……、3回に1回とかしか成功しないんですよ? そんなのに頼っても……」
むむ、なかなか折れないな。仕方ない。こうなりゃ強引に説得するしかねえ。
「ミーシャ、お前は今すごくいい事を言ったぞ」
「い、いい事ですか?」
「ああそうだ。今ミーシャは3回に1回しか成功しないと言ったな。思い出してみてくれ。ミーシャは転移魔法の練習に失敗してこのダンジョンに来た。そして、さっき俺に転移魔法を使って失敗した。つまり今日既に2回失敗しているわけだ。と言うことは次の本日3回目となる転移魔法は必ず成功するということなんだ!!」
我ながら無理矢理すぎる理論である。こんなのよっぽどのバカじゃないと説得されないだろう。
「そ、そっか! そうですよね! 確かにそれなら次は絶対に成功ですね! ユウトさん、私やります!!」
ワーオ。ミーシャさんよっぽどのバカだったー。
だがこれで作戦を実行に移せるぞ。ゴーレムめ、目に物見せてやる。
「よし、じゃあ早速いくぞミーシャ!」
「は、はい!!」
「ファイアバースト!!」
俺が魔法を唱え、炎が空中に出現する。
「いきます! えいっ!!」
ミーシャがそれをゴーレムの体内へと転移させるべく魔法を発動する。頼む! 上手くいってくれ!!
俺の祈りが通じたのか、見事に炎はゴーレムの体内に移動した。
「よっしゃあ! 爆ぜろゴーレム!!」
俺はそう叫び、体内のファイアバーストの炎を爆破した。
俺の目論み通りゴーレムは木端微塵となった。
「た、倒した……?」
エミリアがポツリと漏らす。
「成功……したんですね」
ミーシャも同じくポツリと漏らす。
「ああ……、どうやらそうみたいだ」
「…………」
「…………」
「…………」
無言の時間が数秒続く。そして――――。
「「「や……やったああああ!!!」」」
俺たち3人は歓喜の叫び声を上げるのだった。