第10話 B級昇級クエスト
B級昇級クエスト当日になり、俺とエミリアは現在クエストの受付のためにエマのところに来ている。
「いよいよですね。ユウトさん、エミリアさん」
「ああ。なんか普通のクエストの時と違ってちょっと緊張するな」
「そりゃそうよ。あたしが初めて昇級クエスト受けた時なんか、ちょっとどころじゃなくてそりゃあもうド緊張だったわよ」
「エミリアさん、緊張し過ぎて間違えて寝巻きで受付来てましたもんね」
「ちょっ! 何言ってんのよ!! それはもうなかったことにしてたのに!!」
恥ずかしさで顔を真っ赤にして叫ぶエミリア。
寝巻きで来たってなんじゃそりゃ。緊張ってレベルじゃないぞそれ。
「す、すみません! つい思い出してしまって」
「もうっ、いい加減忘れてると思ってたのに。ユウト、今聞いたことは速やかに忘れなさい。いいわね」
「お、おう。分かったよ」
ま、嘘だけどな。そんな面白い話死んでも忘れんわ。
「コホン。では気を取り直して昇級クエストの受付と説明です。まず初めにこのくじを引いてください」
「くじ?」
なんのくじだろうか。 今日の運勢でも占うのか?
「このくじは今日のクエストで挑むダンジョンを決めるものです。今回のB級昇級クエストは、8組のパーティーと2人のソロプレイヤーが参加なので、ダンジョンが10個用意されています。冒険者たち1組につき1つのダンジョンに挑んでもらうので、それをくじで決めるんです」
なるほど。みんな挑むダンジョンは別なのね。
俺はくじを引いてそれをエマに見せる。
「えーっと、ダンジョンはBの8ですね」
「Bの8ねえ。Bの8ダンジョンは難易度としてはどうなのかしら?」
エミリアが即座に質問する。難易度か。確かに気になるところだ。
「難易度ですか。まあ今回用意された中では中の上ってとこですね」
「中の上。悪くないわね」
俺もエミリアと同意見だ。難しくもなく簡単でもないちょうどいい感じってことだな。まあ上の上ってのもどんなもんなのか気にはなるが、今回はこれでいいだろう。
「そうですね。いいのを引いたと思いますよ。では次にダンジョンの説明をします。このダンジョンはフロアが5階ある迷宮ダンジョンです。1階からスタートして5階にいるボスモンスターを倒せばクエストクリアとなります」
「5階か。なんか割とすぐクリアできそうだな」
正直もっと何十階もあるんじゃないかと思ったからちょっと拍子抜けかも。
だが、俺の言葉にエマが反論する。
「ユウトさん、油断は禁物ですよ。このダンジョンは迷宮ですから1つのフロアがかなり広いので、かなりの距離を歩かないといけません。それにフロアごとになんらかのモンスターが30体ずついてそれを全部倒さないと上のフロアへは行けません」
「へー。ちなみにそのモンスター30体ってのは、フロアごとにいろんな種類のがいるのか?」
「いえ1つのフロアに同じモンスターが30体という意味です。一例として挙げれば、1階がスライム30体で2階がゴブリン30体のような感じです」
「なるほど」
「さて、説明はこれで大方終わりです。間もなくクエスト開始なので、おふたりは奥の部屋へ行ってください。そこに青い魔法陣があるので、それに乗ればダンジョンへ転移できます」
「分かったぜ」
「分かったわ」
「ご健闘をお祈りしています」
俺とエミリアはすぐにエマに言われた通り奥の部屋へ入った。
そこには巨大な青い魔法陣が描かれていた。
「準備はいい? ユウト」
「もちろん。絶対クリアしようぜ」
「ええ。それじゃあ行くわよ」
「おう」
俺とエミリアは魔法陣の上に乗り、ダンジョンへと転移した。
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「くらえ! ライトニング!!」
「グギャアアア!」
俺の放った雷系魔法のライトニングがリザードマンに直撃し、リザードマンは息絶えた。
「よっしゃ。エミリア、これで何体目だ?」
「確か27体目よ」
「あと3体か。もう少しだな」
俺たちは今、第1フロアのモンスターであるリザードマンの殲滅にかかっている。
エミリアが言うには、第1フロアのモンスターにしてはリザードマンはそれなりに強いレベルのモンスターだそうだが、それでも俺たちの敵じゃなさそうだ。
むしろ厄介なのはダンジョンの広さだ。
広すぎてモンスターを探すのにもの凄く時間がかかるし、とにかく迷う。
そのおかげで27体倒すのに1時間近くかかっている。これはクリアには夜までかかるかもな。
「あっ、2体発見!」
「何っ!!」
見るとリザードマンが2体こっちに向かって来ていた。
「ここはあたしにまかせて!」
そう言ってエミリアは剣を抜き、リザードマンを迎え撃つ。
今日のエミリアは剣メインで行くようだ。ちなみに俺はせっかく覚えたので魔法メインで行くつもりだ。
「ギャオオオ!」
片方のリザードマンがエミリアに剣で斬りかかる。
しかし、エミリアにそんな単純な攻撃が効く訳がない。その剣撃をエミリアは軽く剣ではじき、隙が出来たところを一閃。なんなく1体目を倒す。
そして、そのまま地面を強く蹴り2体目のリザードマンの方へ飛び、一突きにした。お見事です。
「これで残りあと1体ね」
「ああ。しかしだいぶ歩き回ったぞ。あと1体はどこにいるんだ?」
「さあ。とにかく手当たり次第に探しまわるしかないわね」
「まあそれしかないか。――んっ!? 今あそこで何か動かなかったか!?」
「えっ!?」
物陰で何かが動いたのを俺は確かに見た。
「最後の1体かもしれん! ああっ!!」
俺の声に反応したのか、その何者かは急に逃げ出した。
「ま、待て!!」
俺はすぐにあとを追いかける。逃がしてたまるか。
「あっ、待ちなさいよっ!」
俺に遅れてエミリアもあとを追いかける。
右、左、右とそいつはとにかく必死で俺たちから逃げる。
そしてまた角を右へと曲がる。
お、やったぞ。このルートは確かこの先行き止まりだ。万事休すだな、リザードマンよ。
俺も右へと曲がり、声を上げる。
「さあ! 覚悟しろリザードマン!!」
「うわあああ! ごめんなさいごめんなさい! 決して怪しいものじゃないんです! 見逃してください~!!」
「……へ?」
そこにいたのはリザードマンではなく、女の子だった。