第96話 トカゲの水竜を討伐します
大人への道を確実に登って行くゴロタ。仲間が増えます。
(11月4日です。)
ガーラント市には、冒険者ギルドがあった。僕達は、そこに立ち寄ってみた。この前、オークションに出したワイバーンとリッチの魔石がどうなったか確認するためだ。
「いらっしゃいませ。帝立ガーラント市冒険者ギルドへ、ようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか。」
僕達は、オークションの結果を聞いたら、ワイバーンは大金貨16枚、リッチの魔石は大金貨3枚で落札されたそうだ。受領しようとしたら、現在、これだけの大金貨が準備できないので、分割にしてもらえないかと言ってきた。
特に、困ってなかったので、ずっと預かって貰えないかと言ったら、ギルドに口座を設けると、預かってくれるし、ほんの少しだが、利息もつくという事だったので、早速作って貰った。当然、シェルさんの口座だ。僕の口座では、下ろす時の苦労が、目に見えているからだ。
シェルさんの口座に、オークションの売掛金で大金貨19枚、それに不要の大金貨11枚をイフちゃんから出して預けたので、大金貨30枚の口座となった。
皆も口座を作ることにした。口座作成手数料は、銀貨1枚だったが、それ以上の価値がありそうだ。重い金貨、銀貨を持ち歩かなくて済むからだ。ノエルは、まだ冒険者ではないので、口座を作れない。仕方がないので、ビラと一緒の口座に入金することにした。
皆、手持ちの小銭以外は、バッグの奥にしまっていたみたいだが、全部回収し、一人大金貨1枚分を入金した。ノエルの口座には大金貨2枚分になっている。
これで、当面の生活費が大金貨1枚と金貨7枚になってしまった。ここでも、ワイバーン1匹をオークションに掛けることにした。最低落札価格は、大金貨8枚にした。10枚にしなかった理由は、足の指が1本欠けていたためだ。
依頼ボードを見ていたら、薬草の採取があった。報酬は、大銅貨8枚だったが、久しぶりだから、受けて見ることにした。シェルさん達は、買い物に行くから、一緒には行かないと言った。ビラがコマちゃんの散歩がてら付いて来ることになった。
街の郊外は、草原と岩場の混在しているエリアだった。薬草も種類があって、ポーションの原材料になる回復草や毒消し草、消毒草に解熱草、整腸草に下剤草と色々だ。僕は、薬草の匂いを頼りに大体のあたりを付けて、後は目で確認して採取している。
一つ採取すると、コマちゃんに匂いを嗅がせて、探させる。驚いたことに僕よりも効率が良い。コマちゃんと追い掛けっこをしながら採取していく。コマちゃんを取られたビラは、暇になったので、空を見上げると、1羽の白頭鷲が空を飛んでいる。ずっと見ていたら、声を掛けたくなった。
「ピー、ピーヒョロヒョロ、ピー、ピー」
なんとなくだが、こんな声だろうと思って、手を口にくわえて口笛を吹いてみる。
白頭鷲が降りてきて、ビラの目の前に着地し、ビラをジッと見ている。ビラが、こっちに来てと言って、手を差し出すと、腕に飛び乗ってきた。大きさがかなりあるため、ビラは支えきれなかった。すぐ、白頭鷲は羽ばたいて、地面に降りた。この子の名前が、頭に浮かんだ。
「あなたの名前は、バルドよ。」
白頭鷲が、淡く光った。嬉しそうに笑ったように見えた。光はすぐ消えた。
「薬草を探して、持って来て。」
バルドは、バサバサと飛び立ち、周辺を回ってから、急降下を始めた。驚いたことに、バルドの見ている光景が、ビラの頭の中に見えるのだ。
あ、薬草を見つけた。脚でつかんで、そのまま飛び立つ。立っているビラを確認して、その前に飛び降りる。ある一定の距離に近づくと、映像は消えるが、ビラまで空を飛んでいる気分になってしまった。
バルドは、脚に掴んでいた薬草を、降りる前に、離していたが、大量だった。
「ありがとう、もういいわ、好きなところへ行って。」
バルドは、大きく羽ばたいて、はるか上空へ飛び立っていった。帰って来たコマちゃんは、すぐ、何があったか理解した。ビラの周りには、大きな鷲の羽が沢山落ちていたからだ。
コマちゃんの主人は、僕である。それは、あの学園での隷従の儀式でも明らかである。だが、ビラに対する感情は、隷従とは違うものだった。傍にいたい。撫でて貰いたい。守ってあげたい。契約とか関係なく、心からそう思ってしまうのだ。コマちゃんは、自分が腑抜けになったなと思う今日この頃であった。およその動物は、ビラの言うことを聞きたがる。隷従とは違う。好きになって仕舞うのだ。それが、ビラのスキルだった。
その日の午後、ビラは一人で買い物に行った。どこかの高校の『せーらー服』上下2着を買った。色は、定番の紺色である。裾を20センチ上げて貰った。それに合わせて、冬用のハーフコートを1着買った。ボタンが木の棒と紐でできている物だ。色は、ベージュ色を選んだ。胸にどこかの高校の大きな紋章が張り付けられている。ビラは、JK路線で攻める戦略だった。誰を攻めるのかは、まだ、分かっていなかったのだが。
それから、肉屋さんでニワトリの丸ごとを3羽分買った。後で、イフちゃんに仕舞って貰おう。ホテルに戻って、イフちゃんにお願いしたら、すでに100羽分位仕舞っているそうだ。『欲しかったら、いつでも言うように。」と言われた。
翌朝、ゴロタの朝の稽古に付き合って、少し離れた広場に行った。そこで、ビラは口笛を吹いて、バルドを呼んだ。口笛は一度だけ長く吹くだけで良かった。最初は、小さな点だったが、物凄い速度で近づき、ビラの目の前に降りて来た。ビラは、持ってきたニワトリを上げたら、喜んで、その場で食べ始めた。
しかし、余り食べるのは上手では無かったので、ビラがお肉を切り分けてあげたら、とても喜んでくれた。これからは、切り身にしてあげようと思ったビラだった。
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(11月12日です。)
今日の夕方、イーデル東部郡郡都のサニー・イースト市に到着した。この町は、漁業の街だった。北に大きな湖ノースレークがあり、そこでとれる魚やエビ、カニが街の大きな収入だった。また、そこで働く気の荒い漁師を相手に商売をする、女性達も大勢いて、街は活気に満ちていた。僕達は、郡長官が予約してくれたホテルに行って、スイート2室をダブル1、ツイン2に変更してから、近くのカニ料理店に行った。バケツに沢山の茹でたカニの足を入れて、ひたすら貪り食うという形式の店である。カニの脚に飽きたら、こんがり焼いたパンにカニの味噌をたっぶり付けて食べるのだ。バターとのコラボが絶品だった。この店は、バケツのカニは食べ放題で、最初に大銅貨2枚を支払うという方式だった。
生きたエビもあり、ピョンピョン跳ねるエビを生きたまま皮をむいて、たれに付けて食べると、エビの甘さが口の中に広がり、これも絶品であった。それも食べ放題だったが、別料金で大銅貨1枚半だった。
カニ、カニ、カニ、エビ、カニ、カニ、カニと食べ続けていると、皆、無口になってしまって、2時間ひたすら食べ続けであった。コマちゃんは、あまり好きでなかったみたいで、イフちゃんから出して貰った、生の牛肉を貰って喜んで食べていた。満足して、ホテルの部屋に戻ってから、風呂に入っても、カニの匂いが取れないような気がした。今日の相手はノエルだったが、ノエルからもカニの匂いがした。
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(11月13日です。)
翌日、冒険者ギルドに行って、ワイバーンの落札状況を確認したところ、大金貨10枚半で落札したらしい。大金貨10枚は、口座に入れて、金貨5枚は、現金で貰った。口座の中が、大金貨40枚になった。すぐに、次のワイバーンを、オークションに掛けることにする。
依頼ボードを見たら、超高額依頼があった。何と、大金貨2枚である。依頼主は、この街の漁業組合だった。依頼内容は、水竜の討伐であった。え、水竜なら楽勝じゃんと思って、シェルさんが、すぐその依頼書をはがして、受付に行った。依頼は、単純だった。水竜を討伐又は撃退すれば良かった。ただし、水竜は、あの鮫では無かった。本当に水の中に住む竜だった。レーク・ドラゴン。首が長く、手足はヒレのようになっている。口から、物凄い勢いで水を吐き、船などは、木端微塵にされてしまう。これは、結構、面倒くさいかも知れない。
僕達は、まず、漁業組合長さんのところへ行ってみることにした。漁業組合は、ノースレークに面した漁港の傍にあり、3階建ての建物だった。3階は、見晴台になっており、観光客が登ったりして遊んでいた。僕達は、組合長のラムズさんに話を聞いたら、今年の春から、大きな海竜が住み着き始めた。きっと、海から川をさかのぼってきたと思う。ちなみに海竜はシー・ドラゴンといい、これが湖に住み着くとレーク・ドラゴンというらしい。この竜は、ワイちゃんみたいな本当の竜ではなく、とかげの仲間が魔物化したものらしい。僕達には、その違いが良く分からなかった。どう見ても、ワイちゃんだってワイバーンだって羽根の生えたトカゲなんですけど。
このドラゴン、首が異常に長く、体長の半分以上が首だ。背中には、非常に硬い甲羅があり、素材としても良い値段がするらしい。しかし、問題は、戦場が水中と言うことらしい。今年の春から、エビ、カニ漁が不作で、今、市内で食べて貰っているのは、すべて養殖ものらしい。値段の高い天然のものが無くなる前に、レーク・ドラゴンをやっつけてほしいとの事であった。僕達は、組合の3階へ上がってみた。はるか水平線まで見通すことが出来るが、水竜がどこにいるのか分からない。そこで、ビラがバルドを呼ぶ。僕は、今朝見たので知っていたが、シェルさん達は初めて見て吃驚していた。
「お願い、バルド。水竜を探してきて。」
ビラが頼むと、直ぐに羽ばたきを始めて、空へ飛び立った。暫くすると、ある1点を中心に円を描いている。
「あそこよ。」
見ていると、水面から、尖った口が突き出し、白い糸のような水を、バルドに向かって打ち出した。バルドは、ヒラリとかわして、高度を取った。作戦を練った。水面に首が出てくれば、何とかなるような気がする。ただ、首を出させる、その方法が分からない。かなり、警戒心が強いようだ。
よし、囮作戦だ。
ビラの能力、恐るべし。色々、使えそうです。




