第93話 死の村 ナレッジ
ビラサンカさんも絶世の美少女って出来すぎです。嫌な予感がします。
(10月15日です。)
ナレッジ村は、死の村だった。村に近づいただけで、強い死臭がした。大きなコンドルが至るところを飛んでいた。
村の中は、凄惨だった。腐乱した死体が、道端に転がり、家屋の中には、一家揃って死んでおり、鼠か何かに齧られていて、原形をとどめないまま、ウジ虫が湧いていた。
何が、どうしたのか分からないが、村全体が滅亡してしまったようだ。ゴロタとシェルさんは、シールドで自分達を覆いながら、村の調査に当たった。ビラサンカさんの実家が何処か分からないが、この様子では、きっと駄目だろうと思う。
しかし、調査に来た冒険者達はどうしたのだろうか。そう思った矢先、二人は闇の光に包まれた。アッと思ったが、匂いを防ぐためのシールドがあったため、死を免れた。
闇の光の発射された方を見ると、汚い襤褸を纏い、長い杖を持った者がいた。身長は、ゴロタよりも小さく、ノエルと同じ位かも知れない。
フード付きのマントを着ていたが、その顔は、見る者を戦慄させた。目が無いのだ。大きな穴が開いているだけで、生を感じられない。
「リッチよ。」
シェルさんが、教えてくれた。存在そのものが、死であって、生から決別した存在。それがリッチであった。アンデッドの中では最上位に位置する者、その魔法は、常に最上位魔法レベルであると言われている。
杖の頭が光る。闇を纏って膨らみ、次の瞬間、すさまじい死の匂いをばら撒きながら、ゴロタを襲う。ゴロタは、つい左手で防いでしまった。左手が黒く変色した。
杖の頭が光る。炎を纏って膨らみ、一直線にゴロタ達を襲う。これは、シールドで完璧に防ぐことができた。
シェルさんが、弓に矢をつがえて、真っ赤に光っている。
バスン!
リッチの空洞の目を射抜く。しかし、矢は、頭を射抜いて、向こう側まで飛んで行ったが、リッチは何事も無かったようにニヤニヤしている。
杖の頭が光る。風を纏って膨らみ、渦となって一直線にゴロタ達を襲う。シールドが切り裂かれた。渦は、その段階で消えてしまったので、ゴロタ達に被害はない。
ゴロタは、『瞬動』を使って、リッチに近づくと同時に、リッチの首を撥ねようとした。しかし、瞬間に張られたシールドに弾かれた。
危険を感じたゴロタが、飛び下がると、そこに雷撃が落ちた。
シェルさんが、リッチの心臓を狙って弓矢を撃ったが、頭と同じで、貫通してしまう。
リッチは、また、いやらしく笑っていた。ダメだ。効かない。リッチは、雷撃を地に這わせた。瞬間、ゴロタは、シェルさんを抱えて飛び上がり、感電を避けた。
ゴロタは、ベルの剣に気を込めた。剣が、白く輝く。そのまま、リッチに向けて突きを放つ。白い閃光が、リッチを襲う。リッチは、シールドを3枚張って、何とか凌いでいる。
ゴロタは、瞬間、リッチの側に飛び、首を撥ねた。地面に首が転がった。それを、一瞬見てしまったゴロタに雷撃が落ちた。
ゴロタは、『斬撃』とシールドを同時に発動していたので、雷撃は無効化出来た。訓練の賜物だ。落とされた、首がケタケタ笑っていた。本当にキモい奴だ。
その時、シェルさんの悲鳴が聞こえた。見ると、シェルさんがゾンビに囲まれている。
「イフちゃん。頼みます。」
炎に包まれたイフリートが、現れた。ゾンビを一体一体焼いて炭にして行く。本来なら、地獄の業火で殲滅出来るが、シェルさんがいるので、時間は掛かるがしょうがない。シェルさんは、涙目になりながら、ゾンビの魔石を拾っている。どんな時でも、魔石回収はあきらめない。
ゴロタは、間合いを取って、ベルの剣を納める。左手を前に出し、あの力の剣を出現させる。胸が熱い。胸の熱さが、剣に込められる。剣は、大剣になった。
ゴロタは、大剣を、左後ろに下げ、脇構えの型になって、1足1刀の間合いに入る。その刹那、明鏡止水流大剣三の型で、リッチの胴体をシールドごと切り下げる。リッチは、黒い煤の様になって消えた。残された頭は、もう笑っていなかった。
ゴロタは、剣を消したが、まだ胸が熱い。頭の中で、ゼフィルス像に刻まれていた言葉が流れていく。疲れた。何かが失われた気がする。
ゴロタは、左手を見た。まだ黒い部分が、残っているが、少しずつ小さくなっている。聖なる魔力を流した。左手が、白く輝き、穢れは消滅した。
暫くして、村を探索した。村に生存者はいなかった。イフちゃんは、匂いがひどいからと言って戻ってしまった。基本、食事の時だけイフちゃんになっている。意地汚いのだ。
ゴロタ達は、リッチ討伐の証である魔石を拾って、街に戻った。
ギルドに行って、村の状況を伝えたら、直ぐに衛士隊が村に向かってくれた。
魔石は、オークションに掛ける事になってしまった。
魔法学院に戻って、ビラサンカさんに会った。ナレッジ村の状況を話したら、予想はしていたのだろうが、長い睫毛と黒い瞳が清楚な感じの大きな目から大粒の涙を流しながら、シェルさんの話を聞いていた。
ビラサンカさんは、魔法学院をやめるそうだ。自分の失敗で、大勢の人に怪我をさせてしまった。それに、両親が死んで、自分の力で生きて行かなければならない。
ビラサンカさんは、冒険者になりたいと言った。シェルさんが、物凄く嫌そうな顔をした。『どうして、この子にはいつもこんな美少女ばかりが集まるのかしら。』と、思っているシェルさんの気持ちには、全く気付かず、明日、一緒に冒険者ギルドに行く事にした。
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(10月16日です。)
朝、ビラサンカさんと冒険者ギルドに行った。冒険者登録をしたが、能力測定で、魔力が異様に高く、また魔法適性も『聖』魔法と、『雷』魔法の二つに適性があった。
しかし、経験が無いため、冒険者ランクは最低の『F』ランクだった。このランクでは、採集と清掃位しか依頼が無い。
最低でも『E』ランクに上げるため、『D』ランク依頼を受注した。オークの討伐である。パーティーに参加しても、2ランク上までしか参加できないので、『D』ランクを受注したのだ。
それから、武器屋に行って初心者用の防具と短剣を買った。革の鎧セットだ。短剣は、鋼鉄製にした。ビラサンカさんは、魔法学院の制服、紺色の『せーらー服』だったが、その上から、防具を装備したので、変な恰好だった。ゴロタのブレザーだって似たようなものだったので気にしない。
早速、依頼のあった森まで行ってみる。いた。酷い匂いのオークだ。腐肉を食っていたみたいだ。その腐肉の元を見て、ビラサンカさんはお腹の中が空っぽになってしまった。その元女性の体の片足とお腹が無かった。
ゴロタは、『威嚇』を掛けて、オークの動きを止めた。そこへ、ビラサンカさんの攻撃魔法が無詠唱で炸裂した。
「サンダー・ボルト」
バリバリバリ!!
オークが、こんがり茶色になったが、まだ生きている。
シェルさんが、心臓を射抜いて、トドメを刺した。
ビラサンカさんに、オークの魔石を取らせたが、なかなか、うまく行かない。でも、ゴロタ達は手伝ってやらなかった。
ビラサンカさんは、涙を浮かべながら、短剣を心臓付近に突き刺し、こじって魔石を探し続けた。
最後は、オークの切り開いた傷口に手を突っ込み、血まみれになりながら魔石を素手で取り出し、ようやく、笑みを浮かべた。
シェルさんが、洗濯石で手を綺麗にしてあげたが、その間中、手が震え続けていた。
ゴロタは、次の魔物を『探知』した。
近い。
駆け足で、森の奥へ入ると、ゴブリンの群れがいた。ゴロタは、全員を『威嚇』で動けなくし、ビラサンカさんが、無詠唱サンダー・ボルトの連発で殲滅した。
この日、ゴロタ達が討伐した魔物は、トロール2匹、オーガ5匹、オーク12匹、ゴブリン34匹だった。
ビラサンカさんは、『E』ランクに上がった。
ギルドから、ホテルに戻ると、ビラサンカさんも付いてきた。聞くと、学校の寮は既に退寮したので、今日、泊まるところがないそうだ。仕方がないので、シングル1つを追加した。
シェルさんは、非常に気が重かった。このパターンは、何度も経験してきたパターンだ。それは、エーデル姫やノエル達も同感だったらしい。
レストランでの夕食の後、ビラサンカさんに、今後のことについて聞いた。ビラサンカさんは、
村に帰っても、両親はいないし、兄弟もいないので、この街で冒険者としてやって行きたい。
今日、ゴロタ達と一緒に魔物を狩ったが、余りにもレベル差があり過ぎて自分が邪魔な事がよく分かった。
明日、自分に合ったパーティーを探してみたい。
とのことだった。
クレスタさんは、悲観的だった。自分の経験から言うと、男の冒険者は、必ず、肉体的な関係を求めて来る。ゴロタ君みたいな子は、珍しいと言える。まあ、明日になれば、分かるけど。
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翌日の朝、ゴロタ達は、ギルドに併設されたレストランで、お茶を飲んでいる。
ビラサンカさんは、ギルドでパーティーメンバーを探している。希望は、同じ位の年で、女性が混じっているパーティーだった。
しかし、居ない。さっきから声を掛けてくるパーティーは、男性ばかりだし、見るからに股間を膨らませているような奴らばかりだ。
若い女性の冒険者がいるパーティーは、大体、リーダーの女となっている例が多い。でも、それなら、まだ、ましな方だ。チーム全員の公衆便所になっている例だって、よくあることだ。
真剣に冒険に取り組んでいるパーティーは、ビラサンカさんのように、経験の無い低レベルの冒険者は、どんなに可愛くても、絶対に組まない。それは、自分達が生き抜くためだからだ。
4時間以上、探し続けたが、まったく徒労に終わっている。見ていた、シェルさんが、ビラサンカさんを呼んだ。少し涙目になっているビラサンカさんが、ゴロタ達の席に来て座った。
シェルさんが、幾つか約束してくれれば、パーティに入れても良いと言った。
ビラサンカさんが、パーティーに入った。
クレスタさんは、ちゃんと分かっていたようです。シェルさん、地雷踏んでません?




