第91話 これって、絶対にパクリです。
遂に帝都を出発です。いやあ、思いの外、長かった。これからは、サクサク東進出来る筈ですが?
(10月1日です。)
帝都セント・ヘンデル市を出発するのが、10月3日に決まった。
これから、エルフ公国領の国境までは、1か月以上掛かる予定だ。
駅馬車は、基本的に1日に6時間位しか走らない。後は、馬を休ませている。馬に身体強化を掛ければ、もっと走れるのだろうが、馬が早く消耗してしまうので、よほどのことがなければやらない。
駅馬車は、最高速度20キロ、平均15キロ位で走るので、1日、約100キロを走っていることになる。数日に1回は、休日を与えているので、公国との国境までの2000キロを踏破するのは、かなりしんどい旅になる。
公国領の手前の森は、駅馬車が通っていないので、徒歩になる。森を歩いて通り抜けるのに、約1か月掛かるそうだ。年内に、森を抜けられるかどうかだ。
エルフ公国と言っても、シェルさんの出身の大公国までは、3つの公国領を通過しなければならないそうだ。
これでは、絶対に無理だ。来年、1月中に着けば、早い方だと僕は思ったが、シェルさんは、全く気にしていなかった。
今日は、エーデル姫の防具が出来上がる日だ。ついでに、僕のも。武器屋で、エーデル姫が試着してみた。あまり、喜んでいない。少し、涙目になっている。僕には、何が気に食わないのか分からない。
エーデル姫は、以前のに比べたら、水竜の皮は黒っぽいし、艶がないし、地味すぎると言うのだ。
僕は、『我慢しろ。』と思ったが、黙っていると、可哀想に思った武器屋の主人が、今日、1日、預からせてくれと言ってきた。金細工で装飾すると言うのだ。金細工は、柔らかいので、直ぐ加工できるそうだ。エーデル姫の涙は、直ぐ止まった。きっと、嘘泣きだ。あざとい。
宮城に行って、皇帝陛下にお別れの挨拶をした。僕に、何かの紙を寄越した。見ると、『特別上級1等認証官』の認定証だった。皇帝陛下以外では最高位の認定だ。これを持ってれば、どの郡もフリーパスだそうだ。
その日の昼食は、皇帝陛下の私的な午餐会となった。また、ジョセフィーネ姫が隣に座った。物凄いミニスカートだ。ジョセフィーネ姫がテーブルの下でちょっかいを出してくる。僕の手を、ジョセフィーネ姫の股の間に引っ張るのだ。何も履いていなかった。皇帝陛下と奥様は、ニコニコしながら二人を見ていた。目が笑ってない。これは、カクシンハンです。
僕は、中座して、手を洗いに行った。
夕方、また武器屋に行った。エーデル姫の防具は、フラットブラックの地色にゴールドの唐草模様で縁取られ、左胸に、グレーテル王国の紋章が張られていた。金は、柔らかいので、既存の唐草模様テープを防具に合わせてカットして、膠で張っただけだそうだ。
王国の紋章は、既製品であるそうだ。通常は、フェイクゴールドを使うが、今回は22金を使ったそうだ。
手間賃サービスで金貨2枚だった。ご主人、商売上手ですね。エーデル姫は、目をキラキラさせて笑っていた。朝の泣きベソは何だったんですか?
夕食は、焼肉レストランで特別コースを頼んだ。飲み放題、食べ放題で、一人大銅貨6枚だった。ゲール総督とイレーヌさんを招待しておいた。イレーヌさんは、普通のロングワンピースを着ていた。もうミニスカは必要ないので、他の人に上げたそうだ。何の必要だったのですかね?
イレーヌさんは、良く食べた。食べ放題だから、良いんだけど、お肉だけで無く、炭水化物系もバクバク食べていた。太り過ぎに注意しましょう。
二人は、今、帝国軍用の家族寮に入っているそうだ。将来的には、帝都内で家を買いたいが、大金貨6枚以上するので、出産したら、また働くそうだ。まあ、ゲール総督が、将官になったら、専用の豪華官舎に住まなければならないそうなので、それまでの住まいだそうだ。
幸せそうな二人を見ていて、僕は、『自分も、ああなれるのかなあ。』と思ってしまう。自分には、無理な気がする。理由は分からない。これから、きっと、酷い運命が待っている気がする。
その時、シェルさんは付いて来てくれるだろうか?いや、絶対に付いて来るだろうと思う。でも、自信が無かった。シェルさんを守り通す事が出来るかどうか。
もし、シェルさんに何かあったら、二度と会えなくなったら、僕は、相手もろともこの世界を消し去ってしまうのではないかと思う。そんな気がする。気がつかない内に、大粒の涙が止まらなかった。
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(10月2日です。)
旅の準備をしている。大量のパンを買っておいた。一つのお店の在庫では、足りないので、もう1軒のパン屋さんでも買った。お肉に野菜、乳製品に調味料。とても旅に出る雰囲気では無く、パーティーの準備と言う感じだった。
あと大量のお菓子とワイン。最近、帝都で流行っている、ジャガイモを薄くスライスして、油で揚げたものだ。塩と香辛料だけの味だが、食べ始めると止まらない。ワインは、シェルさんとクレスタさんが毎晩1本は飲むので、2ダースほど買っておく。
馬車の中は暇なので、いろいろなゲームも買っておいた。基本、馬車は揺れるので、駒を使ったゲームは駄目な様で、色々なカードゲームがあるが、最近は、魔物を戦わせるゲームが流行っているそうだ。
攻撃力や防御力、魔法の威力と魔法適性でお互いのカードの点数を計算するらしい。このゲームで一番強いのは、ノエルらしい。複雑な計算もあっという間にしてしまうのだ。シェルさんなんか、勝ったと思ってニタニタしていると、ノエルに説明されて、カードを巻き上げられている。本当に、容赦がない。
最後に、道具屋さんに行って、二人用のテントを買った。普通は、男性用と女性用ですよね。あの、ゲール総督とイレーヌさんの様になる訳無いんですけど。
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(10月3日です。)
駅馬車が出発した。今回の駅馬車は、僕達専用の準チャーター便だ。他の駅馬車と警護の帝国軍で編成するキャラバンと一緒に移動するが、車内は貸切になっている。p
旅の最初は、東にあるコンラッド川を渡る。コンラッド川までは、結構、人家が建っていて、帝都の郊外と言う感じだった。昼過ぎに、コンラッド川の西岸に着いた。昼食後に、コンラッド川を渡河する。大きな筏で、馬車と馬が一緒に乗っても大丈夫なそうだ。
コンラッド川を渡ってから、街道の風景がガラリと変わった。当然、人家は無い。護衛の帝国軍の人達も、警戒を強めた様だ。ここは、大型トカゲの生息地だそうだ。
突然、駅馬車が止まった。小型の(と言っても1m位あるが)トカゲが、群れで駅馬車の前を横切っているのだ。
それを、5m位のトカゲ2頭が追いかけている。駅馬車には気が付かない様だ。あの小さな目では、前しか見えないだろう。
トカゲ達が通り過ぎたので、また、進み始める。この辺には、魔物が余りいないそうだ。だから、トカゲ達も無事なのだろう。あの、大きなトカゲでさえ、レッサー・ウルフ等魔物の群れに襲われたら、一たまりも無いだろうと思う。
かなり離れたところに大型トカゲがいた。でかい。首と尻尾が極端に長いのだ。あのトカゲは、草食で高い木の葉を食べるので首が長くなったそうだ。
いかめしい鎧に包まれたトカゲもいた。頭の角が3本、いかにも攻撃的だが、このトカゲも草食で大人しいそうだ。『トリケラトップス』という種類のトカゲだそうだ。
トカゲと思っていたら、羽毛の生えているトカゲもいた。どうやらトカゲではなく鳥に近い種かも知れない。
時々、2足歩行の大型トカゲが襲って来たが、帝国軍の魔法攻撃で、大火傷をして逃げて行った。空には、三角形の翼のトカゲが飛んでいたが、あいつらは死肉を食らうので、生きている間は、襲って来ることはないと言う。
最初の村に着いた。特に、他の村と変わった点はない。あの大トカゲ達は、人間を襲って来ないそうだ。この世界では、魔法や魔物に対して無力な一般の動物は、ヒエラルキーの最下層に甘んじなければならないと。
あのゴブリンでさえ、群れになると、虎さえ倒すそうだ。そのゴブリンを瞬殺する冒険者達が、いかに人外な存在か分かると言うものである。
村は、エスト央東郡ハデナ村と言って、主な産業は観光だ。何とかパークと言って、トカゲを見て回るのだ。案内人も付いて1人大銀貨1枚は高いと思うが、小さなトカゲの剥製がお土産として貰えるらしい。
ノエルが、ペットショップで小さなトカゲの雛を欲しがったが、生き物を飼うのはNGなので、諦めさせた。クレスタさんが、トカゲの皮のハンドバックを買ったら、全員が買ってしまった。1個大銀貨3枚以上したが、誰も遠慮などしない。まだ換金こそしていないが、ワイバーン素材が、売るほどあるのだ。まあ、売っているけど。
村の食事は、簡素だったが美味かった。特に、水辺に住むトカゲのステーキは絶品だった。アリゲーターとアーガイルの2種類だったが、アリゲーターの方が脂が乗って旨かった。
旅館は、木造2階建てだった。最近は、ダブルの部屋を2つ取り、1つに簡易ベッドを追加している。
僕の部屋には、当番になっている女性一人だけが寝る様になった。もう、やる事も決まってきたので、その方が良いらしい。何が良いのか、僕には分からなかった。
夜、寝ていると、ズズーン、ズズーンと、大きな音と揺れで起きてしまった。珍しく、大型2足歩行のトカゲが村を襲って来たのだ。帝国軍の見張り3人が既に犠牲になっている。
僕と一緒に寝ていたエーデル姫が、パンツを履いて、ガウン1枚を羽織って出て行った。右手には、抜き身のレイピアを持ってだ。僕は、眠かったので、イフちゃんに警護をお願いして、また寝ることにた。
エーデル姫は、少し後悔をしていた。ガウンの下は、パンツ1枚だ。余り、激しい動きをすると、胸がポロンと出てしまう。帝国軍のひとたちは、パンツ1丁で、剣や弓を持って出て来ている。このままでは、兵士達の前をモッコリさせかねない。
相手は、大きなトカゲ1匹だ。瞬殺できると思うが、どう肌を隠しながら動くかが問題だ。
エーデル姫は、左手で、ガウンの前が開かない様にしっかり抑え、レイピアをトカゲに向けた。『熱刺し』の気を込める。レイピアが、赤く熱せられる。
その場で、3回、トカゲに向かってレイピアを突き出す。レイピアから、赤く細い光が伸び、トカゲの頭と胸とお腹を突き刺した。トカゲは、その場で動かなくなった。うん、ガウンはキチンと肌を隠してくれた。兵士達の期待は、裏切られたようだ。
エーデル姫は、直ぐに旅館に戻って、僕のベッドに戻った。勿論、ガウンと下着を脱いでにからである。身体が、冷え切っていた。僕は、エーデル姫の脚を挟んで温めてあげた。エーデル姫は、翌朝、丹念にシャワーを浴びていた。
最初のエスタ郡都イースト・セント市には、それから9日後に着いた。
いやあ、エーデル姫は色っぽい。何故、ガウン1枚で、戦闘に出なければならないのか。作者の好みです。