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第89話 滅びの言葉

孤児院に縁があります。いつだって、犠牲になるのは、小さな子供達です。

(9月20日です。)

  今日、僕は一人で街に出た。いつもだったらシェルさんに付いてきて貰いたかったが、今日の用事には、付いてきて欲しく無かった。


  イフちゃんが同行者だ。街で、一番大きな宝石店に入った。ノエルの誕生日プレゼントを買うためだ。最初は、子供2人の冷やかしだと思って、誰も相手にしてくれなかったが、高価な宝石ばかりを見ていて、買いそうな雰囲気だったので、思いっきりの営業スマイルで、


  「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」


  「うむ、彼女の誕生日プレゼントに、首輪でも買ってやることにしたのじゃ。」


  店の人に相談したら、サファイアが良いと言ってくれた。何でも、9月生まれの女の子は、それを喜ぶそうだ。僕は、その石がどんな石か知らなかったが、その石の付いたネックレスを買うことにした。大きなサファイアと、周りの小さなダイヤの飾りがしゃれているネックレスにした。値段は、金貨3枚半だった。


  次に、11月生まれのエーデル姫のためにトパーズのネックレスを買った。大きなトパーズの周りが、ダイヤで飾られているが、1個1個のダイヤもそれなりに大きく金貨3枚だった。


  最後に、クレスタさんのために、ダイヤの指輪を買った。指のサイズは、イフちゃんが知っていた。シェルさん達に買ってあげたものよりも一回り大きく、金貨4枚だった。全て、イフちゃんの異次元空間に仕舞って貰った。


  少し時間があったので、古びた武器屋も覗いてみた。そんなに興味をひくものは無いと思っていたら、アダマンタイトの軽鎧があった。渋い黒光りのするもので、男性用と女性用の2つが飾られていた。女性用のは、大金貨2枚半だった。近接戦をするエーデル姫に買おうかと思ったが、さすがに大金貨2枚半となると、考えてしまう。後で、シェルさんに相談してみることにした。


  もうすぐ、昼食の時間となるので、一旦ホテルに帰ることにした。途中、お菓子屋さんに寄って、誕生日祝い用の大きな円形のケーキを買った。またイフちゃんに仕舞って貰ったが、本当に便利だと思う。以前、大きなザックを背負っていたことが嘘のようだ。


  ホテルの近くに、大きな教会があった。精霊ゼフィルスを信奉する『光と闇教団』の総本山だ。ワートルダム大聖堂と言うらしい。昨日、フラッと立ち寄った教会も同じ宗派のはずだった。帝国は、ゼフィルス教を国教としており、その運営体である『光と闇教団』の最上位であるセイント・バームクーヘン教皇は、皇帝に次ぐ高い地位とされている。


  僕には、関係ない事だと思って、スルーしてホテルに行ったら、その教団の人が僕を迎えに来ていた。シェルさん達がレストランで対応してくれていたが、話がかみ合わないらしい。


  その人は、ダルクさんという金髪のシスターで、年齢は、クレスタさんと同じ位かなと思った。シェルさんが用件を聞いても、『神の御恵みの通りに。』としか言わないのだ。


  僕が帰って来たので、僕も一緒にテーブルに座って、もう一度用件を聞いたが、答えは同じだった。それよりも、お腹がすいてきたので、お昼を食べることにした。


  僕達はお好みのパスタとスープ、サラダのセットを頼んだ。申し訳ないので、ダルクさんにも、何か食べますかと聞いたら、この時だけは、『アラビアーナを。神の御恵みの通りに。』と言ったので、アラビアーナセットをお願いした。


  食事の仕方も、変わっていた。パスタを口に入れる前に、神に祈りを捧げるのだ。


  普通は、食事前に一度感謝の言葉を述べるだけだが、彼女の場合は、口に入れる直前、


    『神の恵みに感謝の祈りを捧げます。』


  といってから、別に何も捧げないで食べるのである。傍で見ているとイライラする。『早く食べろ。

』と言いたくなってしまう。


  食事後、余りにもウザいので、皆で教団に行くことにした。さっき、通り過ぎた大聖堂だ。


  ダルクさんを先頭に、大聖堂に入ると、そこは、あきれるほど広大で荘厳な空間だった。正面には、昨日と同じようにゼフィルスの像が飾られているが、その像の巨大さに皆で呆れてしまった。屋内なのに、高さ30m以上あるのだ。左右の壁の窓には、ゼフィルスの使徒とされる半獣半人の像が窓枠に飾られているが。全部で12体あった。有名な12使徒だ。獣人とも魔物とも違う姿の像が12体も並ぶと、はっきり言ってキモイ。


  奥の祭壇の脇に、バウムクーヘン教皇様はいた。こちらを見ていた。ジッと見ていた。僕だけを見ていた。


  教皇様は、人間としては信じられない位高齢だ。現在、165歳だそうだ。顔を見ると、そうかなと頷けるが、人間がそんなに生きていける訳がない。きっと、人間以外の血が入っているに違いない。でも、それは今回、あまり関係ない。


  「ゴロタ殿か? ゴロタ殿だけ、こちらに。」


  そう言って、祭壇の前に設置されている教壇を指した。僕は、言われるがままに、教壇に近づいた。


  教壇は、50センチ位の高さになっており、平素は、この前に机が置かれているのだろうが、今は取り外されている。


  僕は、教壇の上に立って、ボンヤリとゼフィルス像を見ていた。


  教皇様が、不思議な言葉を喋り始めた。言葉と言うよりも呪文の羅列だ。意味は、全く分からない。


  僕の目の前に、昨日見た絵文字が並び始めた。何も無い空間に突然、浮かび上がったのだ。


  僕の頭の中に声が聞こえ始めた。


    始めに光が生まれた。

    光が生まれる前は、混沌の闇だった。た。

    物であろうとする物も。

    それを打ち消す物も。

    陰と陽、消滅の時を迎えた。

    殆どの物は、本当の無になった。

    僅かばかりの陽が残った。

    陽は陽を呼ぶ。

    大きな力と小さな力。

    引き合う力と反発する力。

    陽は集まった。

    全ての陽が集まった。

    始めに光が生まれた。


  僕は、気を失って、その場に倒れた。着ている服越しに、胸が輝いていたそうだ。


  僕が気が付いたのは、病室のような所だった。シスターが、何か、薬草のようなものを焚いていた。良い匂いがした。また、シェルさんが泣いている。誰が、シェルさんを泣かしたんだろう。そいつは、絶対に許さない。許してやるもんか。


  シェルさんの顔を見ていたら、怒りは消えた。相変わらず綺麗な髪だ。緑と紫の二色だ。


  あれ、こんなにズッとシェルさんの顔を見ているのは、いつ以来だったかな?


  「シェルさんだけでは無いですの、私達も、心配したですの。」


  見ると、エーデル姫達も泣いていた。みんなも泣いていた。


  「僕、もう、大丈夫だよ。」


  上半身だけ起き上がって胸を見る。何も、なっていない。イフちゃんが、つまらなさそうに念話で言った。


  『あの、クソ坊主。つまんない事しやがって。ゴロタ、あの言葉は、忘れるんじゃ。あれは、滅びの呪じゃ。』


  『え? イフちゃんは、あれが何か知っているの?』


  『ああ、世界の根源の言葉じゃ。言葉は力を持つ。しかし、あの言葉の力は、世界を滅ぼす。』


  僕は、怖かった。世界が滅ぶのも怖いが、皆が居なくなるのが怖かった。ずっと1人で暮して来て、やっと出来た仲間達。もう元には戻りたく無い。シェルさんの居ない世界には戻りたく無い。


  あれ? どうしてシェルさんだけ?


  その時、教皇様が部屋に入って来た。僕は、ベッドから出ようとしたが、そのままでいるようにと合図された。


  教皇様は、シスターに僕の様子を聞いてから、


  「ゴロタ君、本当に済まなかった。今は、ゆっくり休んで、今晩、食事会で説明させてくれんか。勿論、皆様もご一緒じゃ。」


  僕達は、教会で食事をする事になった。


  夕方、ホテルに戻って着替えた僕達は、大聖堂に向かった。その途中、買おうかどうか迷っている鎧の話をした。


  シェルさんは、直ぐ買おうと言ってくれた。お金は、ワイバーンを売ればどうにでもなる。近接戦をする者にとって、防具の良し悪しは、死活問題である。絶対に買うべきだと言った。


  エーデル姫は、可愛くなければ、要らないと言った。『お前は、どこまで天然なんじゃ。』と突っ込みたい僕だった。


  今日は、もう遅いので明日、見に行く事にして、取り敢えず大聖堂に向かった。

  

  シェルさんは、ご招待が続いて、夕食代が浮いたので、ご機嫌である。妙にしみったれのシェルさんだった。


  大聖堂に着くと、教皇事務室に案内された。皆で、ソファに座ったが、いつものように上等のソファだったために、お尻が沈み込み、ミニスカートの間から、パンツが見えてしまう。いや、クレスタさん、今日も刺激的ですね。


  シェルさん達が、スカートの裾を引っ張っていると、教皇様が、スカートの中が見えない位置に座ってくれた。


  お茶を飲みながら、教皇様が、話を始めた。


  今日、僕に見せたのは、ゼフィルス教の経典とされているものだ。あれを出現できるのは、教皇の秘術だけとされている。


  あれで、全文ではない。全8ページの一部だ。要約版は、石板に残されており、昨日の教会で見たのは、その要約版らしい。


  話は、まだ続いた。


  この世界は、4大精霊が作られたとされる。では、その4大精霊は、何処からいらしたのか、

永遠の謎らしい。しかし、一つだけ分かっている事がある。この世界の根源を作られたのは、光と闇を司るゼフィルス様であったという事である。


  あの教本は、まだ、読み解かれていない。要約版でさえ、解読されておらず、口伝が伝承されているに過ぎない。


  今日、初めて僕が言葉にしてくれた。そばにいたシスターに速記させたので、1ページ目は、ほぼ、完璧に解読できたと思う。


  イフちゃんが、口を挟んだ。


  「教皇、これ以上ゴロタに解読させるな。この世が、滅ぶぞ。」


  皆が、石のように固まった。


  僕は、出された茶菓子のバウム・クウヘンを、モグモグ食べていた。


怖いですね。呪いの言葉です。制御できない力は暴走します。暴走すると、世界が消滅します。

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