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第88話 ゼフィルス教孤児院

いよいよ、通算90話目に突入しました。テル君は助かりましたが、何かが変わろうとしています。

(ダンジョンから戻ります。)

  テル君を連れて、ダンジョンを出た。テル君を繭から出した時、蘇生したら意外としっかりしていた。


  サンド・ウオームは、長い間、何も食べずに砂の中にいるので、取り敢えず餌を繭で包んで、じっくりと溶かして行くそうだった。最後に捕食されたのがテル君だったのが、幸いしたようだ。


  ギルドに戻ると、マリちゃんが待っていた。兄妹の涙の再開だ。僕達は、受付に行って、完了報告と、繭の中から取り出した他の冒険者の遺品を納品する。


  マリちゃん達を孤児院まで送って行く。孤児院は、教会に併設されており、木造2階建の建物だった。多くの都市では、教会は4つあり、それぞれの守護精霊を信奉している。この教会は、光と闇の精霊ゼフィルスを信奉しているようだ。


  僕は、精霊ゼフィルスの教会は、初めてだった。何も考えずに、教会の中に入り、講堂の祭壇の近くの椅子に座ってみた。


  祭壇には、ゼフィルスの姿を模した彫像が飾っていた。羊の角が生えている犬の顔をした男性像だ。


  じっと見ていると、何処からか声が聞こえてきた。


    はじめに、光が生まれた。


    光は、無から生まれた。


    光は、まだ力を持たなかった。


    光は、無限の彼方から時を得た。


    光は、輝きと力を得た。


    輝きは、時と共に広がった。


    力は、力であり続けた。


    己の存在を脅かすもの。


    全てを、無に帰す力。


    力は、姿を変えた。


    万物は、力を得たことにより、存在を得た。


    光と時と力の存在によりこの世界が生まれた。


  僕は、無意識のうちに、詠唱していた。誰かが、声を掛けてきた。


  ハッと気がついて、声の主を見たら、神父さんが立っていた。


  「お嬢さん、この文字が読めるのかな?」


  見ると、神像の台座に見たこともない文字というか、絵のような物が並んで彫られていた。勿論、僕に読める訳がない。


  僕は、何かいけないことをしたのかと思い、少し怖かったが、思いっきり首を左右に降った。


  「今の言葉、誰に教わったのじゃ。誰にも教えてはならない教義として、口伝されているものなのじゃが。」


  僕は、やってはいけないことをしてしまったと思い、謝ろうとしたが、言葉が出て来なかった。出て来たのは、大粒の涙だった。許して貰いたかった。今すぐ、教会を出ていきたかった。


  何故、こんな所に入って来てしまったのだろう。何かするつもりなどなかった。ただ、なんとなくで入ってみただけだった。


  そこに、シェルさんが入って来た。僕と神父さんを見て、現在の状況が分かったらしい。


  「ゴロタ君?」


  声を掛けて来たので、僕は、すぐにシェルさんの陰に隠れてしまった。


  「すみません、神父さん。うちの子が、何か、いけないことをしましたか?」


  「いや、驚かせてすまん。決して驚かせるつもりは無かったのじゃ。」


  いや、驚いていません。怖がっているだけです。


  「そのお嬢さんが、門外不出の口伝を詠唱されたので、どなたに習ったのか、お聞きしたかっただけなのじゃ。」


  シェルさんは、ジト目で僕を見ながら、『お前は、また、やらかしただろ。』と思ったようだが、精一杯の営業スマイルで、


  「申し訳ありません。この子は、知らないおじさんを前にすると、怖がって固まってしまうものですから。もし、何か御不審の点が有りましたら、プーチキン宰相にご相談ください。」


  神父様は、宰相の名を聞いて、この子達が、今、話題の子達だったのかと気が付いた。


  この、変わった格好の子達の事は、帝国の大司教様からお達しが来ていて、絶対に怒らせるなと言う、変な通達だったので、覚えている。


  「い、いや。こちらこそ、驚かせてすまなかった。どうぞ、お帰りください。」


  シェルさんは、『へ?』と言う顔をして、すぐに微笑みながら、僕の腕を掴んで出て行った。


  「ゴロタ君、一体何をしたの。」


  「分からない。言葉が頭の中に浮かんだんだ。それで、声に出していたら、あの神父さんに怒られた。」


  最近のゴロタ君は、ちょっとおかしいと思う。よく夢を見るし。どうしたんだろう。以前からおかしいシェルさんが、最近のゴロタを心配するのであった。


  孤児院には、30人位の孤児や、親から見捨てられた子供達がいた。


  子供達にとって、テル君は憧れの的だった。孤児院で成人することは難しい。特に、男の子は弱い。毎年、流行病で大勢、死んでいった。ハシカやオタフク風邪でも死んでいく。テル君は、孤児院で最年長の子だ。同じ年の子達は、皆、死んでいった。


  3歳くらいまでは、里親に引き取られる事も有るが、4歳を過ぎると、誰も貰ってくれなくなる。


  命の値段が安いこの世界だ。3歳まで生き延びれれば、何とかなると思われていた。病気、怪我、魔物。生き延びるのは大変だ。


  孤児院の子供達は、皆、痩せていた。背も小さいようだ。


  5歳位までの子が10人位いる。後は、成長に従って、少なくなっている。10歳以上の子は、テル君とマリちゃんだけだそうだ。


  これから、遅い昼食を準備する。イフちゃんに食材を出してもらって、バーベQを作る。


  作るのは、クレスタさんとノエルだ。


  僕は、テル君に『黒剣』を持たせて、簡単な『形』を教える。


  30分位で、上段の構えの3つの『形』を教えることが出来た。剣を通じてなら、自分の思った事が伝えられる。テル君には、特別の才能は感じられない。生き延びる秘訣を教えた。自分より強い相手とは戦わない。何が強くて、何が弱いか、常に考えて行動すれば、死の危険はずっと少なくなる。


  テル君は、一生懸命、聞いていた。エーデル姫はメモを取っていた。


  バーベQは、子供達に好評だった。あと、太いソーセージに棒を刺し、甘い衣で包んで油で揚げるだけの物にも群がった。食材は、幾らでもあった。


  シェルさんが、院長に、何かの足しにと金貨5枚を渡していた。院長や他のシスターが泣いて喜んでいた。


  僕は、テル君に『黒剣』をあげることにした。最近は、イフちゃんの『異次元空間』に置きっぱなしだから、その方が剣も喜ぶだろうと思う。


  テル君は、非常に喜んで、明日、冒険者ギルドに行って仮登録するんだと嬉しそうに言っている。


  シェルさんに、『絶対ダメだ』と言ってくれるように頼んだ。


  冒険者で、一番死ぬのは、仮登録者と『F』ランクの若い子だ。無理をして、上位のパーティに入れて貰って、囮や生贄になって死ぬ。テル君に、そうなって貰いたく無かった。


  食事が終わってから、『明鏡止水流の』帝国総本部に行った。


  僕は、この前のワイバーン掃討の功績が認められ、錬士七段を貰っている。


  各道場には、高段者名簿が備え付けられており、僕の名前は、新人高段者として最初のページに似顔絵付きで紹介されていた。似顔絵を見ると、シェルさんソックリだった。


  道場の師範代にテルちゃんの事を頼み、1年間の月謝代として、銀貨5枚を渡した。本当は、月に大銅貨3枚なのだが、少し多めに渡した。冒険に出るレベルまでの、特別指導料も込みだ。


  帰ろうとすると、道場の若い人達に稽古をつけてくれと頼まれた。何時ものパターンなので、快く引き受けた。


  僕の持つ木刀は、竹刀をバラした竹の1本を、30センチ位に切ったものにした。武器とは言えない、単なる竹の切れ端だ。


  相手は、1.2m位の木刀で、フルコンタクト用の防具を着けている。


  稽古が始まった。テル君も、板の間に正座をして見ている。


  僕が、竹の棒を左手で持つと、手からは、僅か20センチ位しか出ていない。それを、左正眼に構え、剣の気配以外を消す。相手は、面食らった。ちょっとしか出ていない竹の棒の陰に僕が隠れてしまい、僕を見る事が出来ない。


  僕は、前足を大きく踏み出して、竹の棒を、相手の右手親指に当てる。ただ、当てるだけだが、もう、相手は腕を振り上げる事ができない。


  約30人に稽古をつけ終わってから、イフちゃんに出して貰った大木剣で、7つの『形』を披露した。


  風を切って光の軌跡を放つ大木剣に、道場の門下生の囁き声が聞こえる。


    「あれが、聖剣ワイバーン殺し。」


    「あの剣は、エルフの森の大樹から作られた。」


    「呪われた、殲滅の死神。」


  いや、違うから。どこの剣道具屋でも売ってるし、最後は、剣とは関係ないし、それになんか長くなってるし。


  テル君には、何がなんだか分からなかったが、凄いという事だけは分かったらしい。テル君が、後であの大木剣を持たして貰ったが、全く振る事が出来なかった。


  夜、僕達は亜人協会に行った。亜人協会は、街の中心部から少し離れた所にあった。中に入って驚いた。トラオさんがいたのだ。何でも、皇帝陛下から、行政官代行の認証を頂く為に上京してきたらしい。


  代行とは言え、亜人初の行政官だ。そう言えば、着ている服も、市長さんが着ているような服だった。


  亜人協会の会長は、虎人だった。ダブリナ市での僕の活躍は、既に伝説となっており、近く亜人劇場で伝承劇を公開するそうだ。会長は、僕を『名誉亜人』と認定したいので、許可を頂きたいと言うので、特に反対する理由もないので、許可をする事にした。


  会食は、楽しかった。トラオさんが、次は、風俗街で働く亜人奴隷を解放すると言っていたが、あの裏通りで働く人達の、明るい笑顔を思い出し、『頑張ってね。』と人ごとのように思う僕だった。


  会が終わって、トラオさんから、『先程の風俗嬢を解放する話を真剣に考えてくれ。』と言ってきた。


  これから東に向かわなければならないし、それに、彼女達を解放して、何をさせるつもりなんだろう。考え方に無理があるように思うが、黙っていた。


  シェルさんが、僕の言いたい事をハッキリ言ってくれた。


  「それは、政治のお話ですね。ゴロタ君は、政治には興味がありません。それに、彼女達が、本当に今の仕事を辞めたがっているのか、本人に聞いてみて下さい。それで、考えが変わらなかったら、ご自分の力で何とかするべきです。」


  王国にも、娼婦はいるし、風俗の店も多い。しかし、事情は知らないが、お金のために自分の体を売るのは、それほど悪いこととは思わない。需要と供給。売りたい人と買いたい人。暴力によって搾取されない限り、男と女の自由契約に過ぎない。


  命の値段が、こんなに安いこの世界で、女の貞操が、それほど高価とは思えない。


  自分の財産を自由に処分する権利を奪ってまで、風俗嬢を解放しようとするトラオさんの考えが短絡的過ぎて、笑ってしまうシェルさんだった


今回、余り進展はありませんでした。しかし、『聖剣ワイバーン殺し』。ネーミングセンス最低ですみません。

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