第85話 帝都に着きました。
帝国の旅もほぼ半分は終わりました。
(9月13日です)
リン村には、もう1泊する事になった。警護の部隊は、今日の夕方、到着する予定だ。
何も無い村だったので、昼間、皆で、近くの丘までハイキングに行く事にした。村から離れた場所で剣の稽古がしたかったためだ。
最初、1人で行くと言ったのだが、シェルさん達が、絶対に一緒に行くと言って聞かないので、一緒に行く事になった。
サリーは、昨日の事があったので、耳をピンと立てて緊張している。
シェルさんが、足が痛いだの、喉が乾いただの我が儘を言っていたが、シェルさんだけ甘やかすわけにはいかない。皆、ゴロタがシェルさんにした事を、同じようにして貰うつもりなのだ。
ワイワイガヤガヤ、漸く丘の上に着いた。
ゴロタは、最初、ベルの剣で20の型を稽古した。
剣を納めても、胸の熱い力を感じている。胸が熱い。力が渦巻いて来る。
その力を、左手の先に集めて剣のイメージにする。
出す。消す。出す。消す。
何回も、繰り返す。実体化が遅れても、構わずに続ける。何回も続けていた。シェルさんが、叫んだ。
「ゴロタ君。もう、やめて。」
ゴロタは、胸の熱い熱を消した。
シェルさんを見た。泣いている。皆を見た。青い顔で震えている。サリーは、気を失って、ノエルに抱きかかえられている。
何が起こったのか、シェルさんが教えてくれた。
最初は、紅い剣が現れたり消えたりするだけだった。しかし、繰り返しているうちに不思議な事が起こったのだ。有るはずの剣が無かったり、無いはずの剣があったりする。
見るたびに、有ったり無かったりするのだ。そのうち、剣があるだろう場所を見ていられなくなった。そこだけ、見ても見えない何かがあるようになったのだ。
これは、ずっと後になって、1匹の猫が命を賭して法則を発見したらしい。
これは、私たちが見てはいけないもの。存在そのものが、知る事が出来ないもののように思え、このままでは、ゴロタ君が消えてしまう。そう思って叫んでしまったのだ。
稽古は終わった。今日の朝は軽めだったので、お昼はバーベキューにした。
サリーのためにトウモロコシやカボチャなども準備した。もちろん新鮮な人参もだ。皆でワイワイしながら食べたが、とても美味しかった。
村に帰ってから、シェルさんは、サリーのために大量のパンツを買ったらしい。
夕方、警護の兵士さん達と共にエンドール司令官も来た。昨日のお礼に来たのだ。
相談があった。昨日のワイバーンを売った収益金の一部を、ダブリナ市で死んだ3000名のために使ってもいいかと言う相談だ。
勿論、異論はない。あの衛士さん達は、街の嫌われ者だったらしいが、兵士さん達の殆どは命令に従っただけの筈だ。ゴロタには恨みなど微塵も無い。
後20匹位あげてもいい位だが、他の将兵が死んだ時の処遇と余りに差があっても、きっと不味いと思い黙っていた。
今、帝国軍では、弔慰金を募金で集めているそうだ。今回のワイバーンの死骸は、兵士達に突かれて傷だらけだったため、素材としての価値しか無いが、それでも大金貨10枚にはなる。これを全額、募金に回したいそうだ。
ゴロタは、エンドール司令官の手を握って、感謝した。本当に、ありがたかった。
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9月16日の夕方、ゴロタ達は、帝都グレート・セントラル市にようやく着いた。
帝都の手前、5キロ位から、街道沿いに民家や、商店が並んでいたので、城門まで来ても、帝都に着いたと言う感慨は無い。
馬車2台が通れる大きな城門と、左右の馬車1台分の平民用の通用門を見ると、帝都についたという実感が湧いてくる。
城門前の広場には、立派な8頭立ての馬車が4台、止まっており、プーチキン宰相ばしゃのmdrが立って出迎えてくれた。
正面の大門が開け放たれた。ゴロタ達の乗った馬車は、そのまま市内に入っていって、皇帝陛下の居城に向かった。馬車列の前後には、200騎の帝国軍騎馬隊が護衛に付いていた。
皇帝陛下の居城は、巨大な要塞という感じだった。虚飾を廃し防衛能力のみを追求した構造だった。拾い掘割に、高い城壁、馬車1台がやっと通れる城門、城門を入っても、四方を高い壁に囲まれた広場など、敵が襲ってきても上から殲滅できるように工夫されている箇所が無数にあった。その奥に、皇帝陛下の執務する御所と居住する奥の院があった。
ゴロタ達は御所の謁見の間に入っていった。イフちゃんとサリーは、別室で待機している。
高さ20m位の天井と、そこまで届きそうな細長い窓に囲まれて、非常に明るい大部屋だった。皇帝陛下は、玉座に座っている。
受閲者が立つ場所と玉座の間には、深い穴が開いていて容易に玉座には近づけないようにしている。
ゴロタは、所定の位置で、臣下の礼を取って、膝間付いた。
直答を許されたので、ゴロタは、決まり文句の挨拶を述べ、最敬礼をした。シェルさん達もカーテシによる最敬礼をした。
皇帝陛下が、下知された。
「ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン子爵、また子爵と行動をともにする戦士たちよ、この度のワイバーン討伐、見事。褒美を取らせる。」
プーチキン宰相が褒賞を読み上げる。
「四大精霊栄誉帝国極光白綬褒章を授与される者。」
「ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン子爵殿。」
「エーデルワイス・フォンドボー・グレーテル グレーテル王国王女殿下殿」
「シェルナブール・アスコット エルフ大公国王女様」
「クレスタ・ガーリック殿」
「ノエル殿」
玉座の前の大穴に渡り廊下がかけられ、皇帝陛下がゴロタ達の前に来た。一人ずつ、皇帝陛下自ら褒賞を首から掛けて行く。
全員の首に褒賞を掛け終わってから、元の玉座に戻った。
「皇帝陛下よりお言葉があります。」
「ゴロタよ。また、皆の者。大儀。」
これで、謁見及び褒賞授与が終了した。これから、奥の院でお茶会である。イフちゃんとサリーも一緒になる。
毎回のセレモニーにうんざり来るが、今日は、パレード及び宮廷晩餐会はない。皇帝陛下の私的な夕食会に招待されているだけだ。
お茶会は、和やかに進んだ。サリーちゃんが耳の内側を真っ赤にして、緊張しているのが諸分かりなのが面白い。以前、ゴロタもそうだったような気がする。
それより、女王陛下の隣に座っている厚化粧の女性が気になる。金色の髪を高く結い上げ、キラキラのシルクのドレスを着ている。化粧のせいか、非常に美しい女性だが、チラチラとゴロタを見ている視線と、極端に開いている胸元が気になる。この女性は、きっと皇帝陛下の身内の方だろうが、あまりお近づきになりたくないとゴロタは思ってしまった。
シェルさんも、その女性の視線が気になったようで、ジト目でゴロタを見ていた。ゴロタは、僕は関係ないのにと、少し涙目になってしまった。
その女性は、予想通り、皇帝陛下の娘さんで、ジョセフィーネと言う名前だそうだ。まだ、結婚しておらず、皇帝陛下が、冗談ぽく『嫁に貰ってくれないか?』と言っていたが、目が笑っていなかった。
夕食会では、ゴロタの隣にジョセフィーネ姫が座り、色々と話しかけて来るが、その際に、ゴロタの膝の上に手をおいて話すので、つい緊張してしまう。あの、ジョセフィーネ姫、その手を上の方に撫で上げるのやめてもらいませんか?
その日の夜は、宮城とは別の迎賓館に泊まった。客室は、とても広く、全員が一度に眠れるほどの広さだったが、2人で一部屋を割り振られた。ゴロタは、一人部屋という事だったので、女性陣は大不満だったが、皇帝陛下の指定だという事で、仕方がなく従うことにした。
深夜、ほぼ裸のジェセフィーネ姫がゴロタのベッドに入り込み、色々と仕掛けてきたが、絶対不能者のゴロタに何かできる訳もなく、明け方、諦めて部屋から出て行った。同時にお付きの女官、数名も一緒に出て行った。あの、あなた達は、ゴロタに何をしようとしたのですか?
このまま、迎賓館にいては危険なので、皇帝陛下のお許しを得て、市内のホテルに移らせてもらうことにした。
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(9月17日です。)
市内のホテルを予約したゴロタ達は、冒険者ギルドに向かった。セント市でオークションに掛けたワイバーンがどうなったか知りたかったのである。
冒険者ギルドは、盛況だった。入口付近のポーターも多かったし、中も冒険者で一杯だった。買取カウンターの前には、人がいなかったので、直ぐに係の女性と話すことが出来た。
聞くと、ワイバーンは、競り落とされたそうで、大金貨7枚になったそうだ。ゴロタは、6枚を帝国軍弔慰募金に回してくれるように頼んで、残りの大金貨1枚を受け取ることにした。さすがに、帝都のギルドだけあって、即金で支払ってくれた。大金貨では、使いにくいので、金貨10枚にして貰った。
次に、依頼ボードの方に向かった。しかし、余りの人の多さで、近づくこともできない。
諦めて、能力測定器でそれぞれの能力を測定した。
最初は、クレスタさんからだった。
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【ユニーク情報】
名前:クレスタ・ガーリック
種族:人間
生年月日:王国歴1998年11月3日生(22歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:貴族、冒険者:ランクB
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【能力】
レベル 42( 7UP)
体力 280(50UP)
魔力 460(80UP)
スキル 300(40UP)
攻撃力 140(20UP)
防御力 97(22UP)
俊敏性 390(30UP)
魔法適性 風 水 土
固有スキル
【防御】【探知】【料理】
習得魔術 ウインド・カッター
アイス・ランス
アース・ガード
習得武技 なし
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さすが、クレスタさん、魔力の上がり方が半端なかった。この調子なら、『A』ランク昇格も見えて来る。
皇帝も、ホッとしたでしょう。暫く、帝都に居ます。




