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第80話 殲滅の都市 その2

まだまだ、ゴロタのチートは続きます。

(まだ9月3日です。)

  東門の前には、衛士200名とゴロツキ100名がいた。これで、帝国軍以外のダンカンの頼みの奴らは最後だろう。僕は、初めてファイア・ボールを放った。今まで、使わなかったのは、特に意味がないが、自分の中に燃え続けている何かを使うとまずい気がして、ファイア・ボールを使うのをためらっていたのだ。


  空中に浮かんだファイア・ボールは、真っすぐに東門の方に向かっていき、大きく光った。通常のファイア・ボールの明るさではない。目に焼き付くような白い光だ。衛士達は、爆風を受ける前に熱線で炭になり、影だけが残った。門は、存在を失っていた。その後、真っ黒い煙が、上空に上がっていき、上昇気流を巻き込んで白い雲となって丸くなっていった。まるでキノコのような煙だ。門だった所の外に出てみた。大きな工場が沢山あった。中で、奴隷達が働いており、看守が鞭を振っているのだろう。中の事は、トラオさんとシェルさんにお願いして、北に向かうことにした。帝国軍を迎え撃つのだ。


  5キロくらい先の北から、騎馬隊と徒歩部隊が進軍してきた。凡そ3000名だ。中央部方面軍は、公称4000名だが、補給や事務要員が1000名ほど必要なので、実際の戦闘員は、3000名程なのだろう。双方の距離が50m位になった時、部隊の後方からファイア・ボールと弓矢が飛んできた。しかし僕には、全く被害がない。ファイア・ボールは僕を火だるまにするが、それだけだった。弓矢は、カンカン跳ね返されて終わってしまう。僕が、淡く光っているので、シールドが掛かっているのだろう。僕は、念話で呼びかけた。


  『バイオレットさん、ドラゴンの姿で来てもらえますか?』


  『あら、ゴロタさん、呼んでくれるなんて嬉しいわ。』


  バイオレットさんが来る前に、騎馬隊200騎が、僕に肉薄してきた。僕の後方に行かせる訳には行かない。


  左右の地面に雷撃を這わせる。僕の側面を通過した馬は、悲鳴を上げて倒れ、二度と立てない。一緒に倒れた騎馬兵は、金属製の甲冑に電撃が流れ、中の人間は生きながらローストされてしまった。黒い煙が、鎧の中からプスプスと上がっている。騎馬隊が全滅したのを見て、徒歩部隊はジリジリと後退を始めた。


  そこへ、突然、バイオレットさんが、全長100mの黒龍の姿で、上空100mの空中に現れた。部隊は、驚愕の余り烏合の集と化した。バラバラと北を目指して逃走を図ろうとしているのだ。バイオレットさんは、北側に回り込んで、逃げ道を塞ぎ、炎のブレスを吹いて敵兵を薙ぎ払う。部隊は、一瞬で全滅した。肉体も鎧も剣も全て炭になってしまった。


  戦いは、終わった。3000名の将兵は、現在、存在していない。炭も風に飛ばされて残っていない。奴隷部落に戻ると、子供達が大勢いた。女性も沢山いた。男は、皆、痩せて餓鬼の様だったが、女性と子供達は健康そうだった。


  トラオさんが、興奮した様子で近づいて来た。これから、ダンカンの所へ行くので、一緒に行ってくれと言ったが、僕は首を横に振った。僕達のやる事は、終わったのだ。今日、死んだ衛士や兵士の事を考えると心が重かった。


  シェルさんが、トラオさんに対し、ダンカンのところへ行くのは、明日の午後にしてくれと言った。あ、そういえばダンカンから成功報酬を貰わないといけないことを思い出した。


  僕は、また場外に行き、少しだけ焼け残っ馬を食べているバイオレットさんに、一緒に、ワイバーンを討伐した場所に移動してくれる様に頼んだ。僕は、バイオレットさんの足の先に触れた。周囲の景色が揺れて、あの場所に移動した。


  ワイバーンの死骸は、魔導師達により冷やされ続けていた。魔導師達は、炎天下の中、昼夜を問わず魔法をかけ続けていたせいでフラフラだった。そこに、急に黒龍が現れたのだ。死ぬ気で逃げた。兎に角、振り返らずに逃げて行った。誰もいない。ワイバーンの死骸と、僕だけだった。


  あ、バイオレットさんがいる。そう思った瞬間だった。バイオレットさんが人間の姿になった。いつもの何も着ていない姿の人間に。バイオレットさん、ここで何をする気ですか?シェルさんが知ったら本気で怒りますよ。僕は、見なかった事にして、イフちゃんにワイバーンの回収を頼んだ。20分位で、全てのワイバーンを回収した。


  これから、少しずつ、オークションに掛けて行こう。


  バイオレットさんのドレスを出してあげる。この前、大量に買っておいた内の1着だ。勿論、買ったのはシェルさんだ。パジャマや部屋着も買ってあるそうだ。あと、おばさんパンツも。バイオレットさんは僕の方を向いて着替えている。僕が、後ろの方を向くと、直ぐ移動して来る。バイオレットさん、何を見せたいのですか?


  ヴァイオレットさん、直ぐ、念話で答えて来た。


  『ふふ、●●●。』


  僕は、ギュッと目を瞑った。暫くして、バイオレットさんの着替えは終わった。おばさんパンツは、遠くへ捨てられていた。バイオレットさん、ノーパンですか?ダブリナ市に戻り、バイオレットさんとイフちゃんの3人が『希望亭』に帰ると、シェルさん達も戻っていた。


  今日は、モツ煮は食べたくないので、町の中心のレストランに行く事にした。入店を断ったら、殲滅すれば良いのだ。その内、食べさせてくれる所が有るだろう。そう言ったら、皆、着替えてから行きたいと言った。戦闘で埃まみれだし、あ、戦闘したのは僕だけだった。それで、一旦、部屋に戻って、シャワーを浴びてから出かける事になった。


  僕は、小さな声でシェルさんに伝えた。バイオレットさんが、「ノーパン」だという事を。その後の事は、シャワーを浴びていたので分からない。


  最初に断られたレストランに行ってみた。


  『シャトー・ド・ボー・サンク』と言うレストランだ。


  入ってみると、客は一人もいなかった。フロア・マネージャーの男が僕達を見て、小さく悲鳴を上げた。


  「い、い、いらっしゃいませ。な、な、何名様でしょうか。」


  7名と言おうとしたら、バイオレットさんが、


  「9名よ。」


  と言った。ブラックさんとワイちゃんが来るそうだ。シェルさんと一緒に化粧室に行き、ワイちゃん達を呼んだ。ブラックさんも、来たことがない場所は、移動の精度が悪いのだ。僕は、化粧室の中にワイちゃんを召喚した。9人では、全員が座れないので、奥の貴賓室に案内された。ディナーコースを頼み、発泡酒で、乾杯をした。今日、多くの人が死んだが、もっと多くの人達を救ったのだ。


  権力の座にある者は、絶対にその権力を手放さない。どんなに不幸な人がいても、自分が不幸で無ければ良い。ハルちゃんは、そんな考えの犠牲になったのだ。ダンカンは、全てを失った。これからどうなるだろう。トラオさん達が、許してくれないかも知れない。


  あ、明日、ダンカンから成功報酬の大金貨1枚を貰わないと行けない。今日の食事代だって、1人銀貨2枚半だった。食事が終わると、ワイちゃん達は帰って行った。


  近くのホテルに泊まっても良かったが、やはり『希望亭』に帰る事にした。帰る途中、一人の若いエルフの女性が声を掛けて来た。僕達を探していたそうだ。ハルちゃんのお母さんだった。エルフは、なかなか歳を取らないので、少女のようだった。僕の手を取り、ありがとう、ありがとうと言いながら泣いていた。息子は死んだ。自分を探しに来て殺された。しかし、今の自分には仇を討つ手立てが無い。その感謝だった。もう帰ってこない息子を偲んでの涙だった。


  最後に、お母さんはハグをして来た。豊満な胸が潰れる様なハグだった。シェルさんが、ジト目になっていた。『希望亭』に帰って、眠ろうとしたら、シェルさんが、僕に壁を向いてて欲しいと言った。


  言う通りにしたら、もう、振り向いて良いという。振り向いたら、素っ裸のシェルさん達がいた。首に色とりどりのリボンを巻いている。


  「「「「お誕生日おめでとう。ゴロタ君|(殿)」」」」


  9月3日、僕の16歳の誕生日だった。







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(9月4日です。)

  次の日の朝、ダンカンの会社に行く。受付の子は、何も言わずに、震えながら上を指差す。社長室には、ダンカンがいた。顔が青ざめているが、虚勢を張っている。


  「お前ら、何をしたのか、分かってるのか。帝国全土を敵に回したんだぞ。もう、皇帝陛下は許してくれない。クイール市みたいには行かないぞ。」


  「あのさあ、そんな事どうでも良いから、依頼の完了報酬くれない。大金貨1枚。」


  「ふん、そんなはした金、くれてやる。早く出て行け。」


  大金貨1枚を受け取って、僕達は出て行った。この日、ダンカンはトラオさん達に捕らえられ、即日裁判で死刑が執行されたようだ。


  今日、帝都に向かう馬車はないので、希望亭にもう1泊した。





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  9月5日の朝、6時に北門の近くの停車場に行く。トラオさんが見送りに来ていた。ハルちゃんのお母さんも来ていた。シェルさんが、間に入って、ハルちゃんのお母さんを阻止していた。残念そうな、アーモンド型の目が忘れられない。


  帝都へは、東側の川に沿って北上していく。これから8日間の旅だ。馬車は、8頭立の馬車が4台だ。ダブリナ市を逃れて、帝都へ向かう富裕層の人達だ。ダブリナ市は、奴隷解放戦線の支配下にある。市長は健在だが、衛士と帝国軍がいないのでは、治安の悪化は避けられない。また、帝都から帝国軍の本体が攻めて来るかもしれない。


  そんなダブリナ市に長居は無用と、高い馬車賃を払ってでも逃げ出す人達であった。通常、駅馬車には衛士か帝国軍又は冒険者の警護が付く。しかし、今回は警護はいない。衛士隊も帝国軍も壊滅したし、ダブリナ市には、冒険者ギルドが無かった。ダンカンが、冒険者に狙われるのを恐れて、作らせなかったのだ。従って、一番若い僕が警護要員として銀貨3枚を各馬車から得ている。勿論、交渉をしたのはシェルさんだった。


  僕は、政治には興味ないし、奴隷制度に、特に思い入れがある訳でもない。しかし、ハルちゃんのようなケースは絶対、許せない。この世界は、命の値段が極めて安い。村で農作業をしていても、魔物に襲われ死んでしまうこともある。戦争は、人海戦術で、より多く敵を殺した方が勝ちだ。


  誰も、死を身近に感じていながら、死の事を忘れている。忘れていないと生きていけないからだ。


  

ダンカンは、予想通りの結末でした。ダブリナ市の今後の運営については、本筋ではないし、面白くないので省略しました。

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