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第79話 殲滅の都市 その1

ハルちゃんが、死んじゃった。ゴロタは、まず、冷静に対処しようとします。

(9月2日の夜です。)

  ハルちゃんが死んだ。


  僕は、遠くで自分を呼ぶ声を聞いた。誰だろう。シルかな?また、僕を助けてくれるのかな。


  目の前に、光があった。優しい、光だ。懐かしい気がした。シルの声がした。


  『ゴロタ、未だここに来てはダメよ。まだ、力を知らない。本当の力を知ってから、来なさい。』


  遠くで呼ぶ声が近づいて来た。


  「ゴロタ君。ゴロタ君。」


  僕は、目が覚めた。シェルさんの泣き顔が目の前にあった。あれ、シェルさん、ここはどこ?何故泣いてるの?


  シェルさんが、キスをして来た。甘いキス。そのうち、舌を入れて来たので、エーデルさん達に引き剥がされていた。


  僕は、皆に『ハルちゃん』が死んだ事を伝えた。


  シェルさんが、立ち上がって、外に行こうとして、クレスタさんに止められていた。皆で、話し合った。どうしようかと。ハルちゃんは、もう生き返らない。だが、鞭を打ってた男は絶対に許さない。ハルちゃんを騙して連れて行った奴らも絶対、許さない。クイール市の時は、怒りに任せて大勢の人達を殺してしまったが、今回は違う。僕は、初めて人を殺しても良いと思った。


  今後の方針が決まった。明日、必ずダンカンさんに会う。ハルちゃんを、あんな目に合わせた奴らを、法に従って処罰してもらう。


  奴隷達を、解放して貰って労働者として雇って貰う。そのために、必要なら、ワイバーンを売ったお金を当ててもいい。その夜、シェルさんは泣きながら寝た。他のみんなの啜り泣く声も聞こえて来た。





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(9月3日です。)

  次の日の朝、宿屋で遅い朝食をとってから、女将のジャンルさんに事情を話したところ、『ちょっと待って頂戴。』と言って、何処かに行ってしまった。暫くすると、一人の猫人の男の人を連れてきた。男の人は、名前を『トラオ』さんと言った。虎ではなく、トラ猫タイプの猫人だった。耳がピコピコ可愛い。


  トラオさんは『亜人奴隷解放戦線ダベリナ支部』の支部長だった。


  トラオさんに、ハルちゃんの事や、これからの事を言ったら、色々教えてくれた。この街は、ダンカンさん、いやダンカンの町だそうだ。衛士2000人、帝国軍4000人の他に、町のゴロツキ1000人が、ダンカンの言いなりだ。確認はしていないが、中西部方面帝国軍3万人も、ダンカンの言いなりだそうだ。


  市長のゲル初級1等認証官は、ダンカンの傀儡となっており、非道な事も見て見ぬフリしている。奴隷は、2万人以上いるが、殆んどが工場で働かされている。女奴隷は、力が弱いので、子供を産むのが仕事みたいなものだ。そのために、嫌がる女には、妊娠しやすいように、媚薬を飲まされているそうだ。


  子供を産むと、3年間は重労働に付かなくてもいいので、3年目に近い女達は、工場から帰ってきた男奴隷を襲って、無理やり関係を持とうとするらしい。男達も、早く女達を楽にさせたくて、求めに応じるそうだ。そんな体力は、殆ど残っていないのに。


  生まれた子供達は、栄養のある食事を与えられ、健康に育てられる。将来の貴重な労働力だ。3歳になると、簡単な仕事をさせられ、5歳になると下働きをさせられる。10歳から男の子は工場で働かされる。女の子は、初潮が始まると、媚薬を飲まされて、奴隷小屋に放り込まれる。その前に、監視員達に味見をされてからだが。


  奴隷部落には、墓地は無い。死体が発生しないからだ。処理は、同じ奴隷だが、リザードマンがしている。たまに、自殺するリザードマンがいるそうだ。奴隷達は、スープに入っている肉が何かを知っているが、黙って食べている。生きるためだ。こんなところで、死んでたまるかと我慢している。


  話を聞いて、僕は吐き気がした。ノエルは、トイレに走って行った。


  トラオさんが、もし、何かやる時には力になると言ってくれた。仲間が、200人はいると自慢していた。


  敵は、7000人、郡都から応援の帝都軍3万人を入れると、37000人、200人では、蟷螂の斧にもならない。しかし、これからの事を考えると有り難い。解放された奴隷達のリーダーが必要だからだ。トラオさんは、どこかに帰って行った。ジャンルさんは、ニコニコ笑っている。


  僕達は、ダンカンに会いに出発した。ダンカン商会に行くと、昨日の受付の女の人がいた。僕達を見て、一瞬ウンザリした顔をしたが、直ぐに、営業スマイルになって、


  「ゴロタ様、申し訳ありません。ダンカンは、今日も外出しています。用件は申し伝えますので、お許し下さい。」


  僕は、イフちゃんに聞いた。


  『ダンカンは、5階の社長室におるぞ。』


  僕達は、構わず5階に上がる箱に向った。箱の操作は、以前見たので知っている。


  「お待ちください。誰か、あの子達を止めて。」


  守衛さん達が、数人、走ってきた。僕が、僅かな『気』を込めた。守衛さん達は、その場から、動けなかった。


  ダンカンは、僕達の本当の力を知らなかった。僕達にワイバーン討伐を依頼した後、先にダブリナ市に帰っていたのだ。皇帝陛下が行幸された事も、厳しい箝口令で知らされていなかった。知っているのは、全てが無事終わり、ワイバーン30匹が無傷で手に入ったと言う事だけであった。


  5階に上がったら、廊下の方が騒がしい。と思ったら、静かになった。社長室のドアを、ノックもしないで開けた。中には、ダンカンと何人かの男達がいた。ダンカンは、吃驚していたが、冷静を装い、僕らに声を掛けてきた。


  「これは、これはゴロタ殿とお連れの皆様。お久しぶりです。この度は、大活躍だったそうで。」


  居留守を使った事など、全く無かったような厚かましさだ。


  「お約束の報酬ですが、暫くお待ち頂けますか。大金貨1枚ともなると、中々大変でして。いや、必ず払いますので。」


  皆は、白けた顔をしてしまった。


  「ダンカンさん、何か勘違いしていませんか。その他に、ワイバーン1匹に付き大金貨2枚の素材報酬で、大金貨60枚、それに殆どが無傷だったので、競りに掛けての儲けの折半もあるでしょう?」


  「いや、素材については、まだ処理が終わっておりませんので、はい。それに、解体費用や運送費が思いの外かかってしまって、利益が出ないかも知れないのです。」


  「それなら、私達で全て処理いたしますわ。そのかわり、分け前はなしという事で。」


  「へ? 全部処理を? 我々でさえ、まだ何も出来ていないのに!」


  「まだ、未処理ですのね。では、これから現場に戻って処理してきます。あ、『氷魔法』位は使っているのでしょうね。夏場は傷みやすいですから。」


  その通りだった。ワイバーン本体が、余りにも重たいので、解体職人を呼んで、現場で処理する事になっており、今は『氷魔法』で冷やしているだけだった。ダンカンは、急に慌てだして言った。


  「いや、大丈夫ですから。取り敢えず、お約束の大金貨60枚は、必ず払いますので。」


  僕達は、本題に入ったら。ハルのこと。奴隷解放のこと。ダンカンは、急に冷ややかな目になって、反論した。


  「ハルという子のことは、聞いてませんが、どんな理由だったとしても、奴隷の懲戒権は当方に有ります。例え、それで死んでしまっても、我が帝国の法律では、何ら罪に問われることはありません。」


  「それに、奴隷の解放?馬鹿も休み休みにして下さい。あの奴隷達に、一体、いくら掛かっていると思っているんです。そんな事、する訳ないでしょう。」


  「それでは、奴隷を殺したという犯人は、ゴロタ君と私達で探します。奴隷の解放も、私達で行いますので、悪しからず。」


  「な、何を言っているんだ、あなた達は。そんな事、法と正義が許すはず無いじゃないか。」


  「法と正義。ふざけた事を言っているんじゃ無いわよ。帝国憲法第11条を読んだの?」


  帝国憲法第11条には、


  『帝国民は、すべての基本的人権の享有(きょうゆう)を妨げられない。この憲法が帝国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の帝国民に与へられる。この権利は、帝国民以外の亜人、奴隷及び外国人に対しても法と正義に基づき最低限保障される。』


  と書いてある。シェルさん、何時、勉強したのですか?


  「そんな事をしてみろ。帝国中を敵に回すぞ。」


  ダンカンは、知らなかった。帝国中が、逃げ回っている事を。


  「あ、そうですか。構いませんことよ。オホホホホ。」


  シェルさん、誰の真似ですか!僕達がダンカン商会の外に出て、10mも歩かない内に、20名位のゴロツキ共に囲まれた。相手は、女子供と聞いて、暇なのも付いて来たみたいだ。


  ゴロツキどもが、『大人しく、町から出れば何もしない。』と言ったので、何かしてもらう事にする。僕は、何も喋らずにアッカンベーをした。


  「てめえ、ふざけるな!」


  怒声を上げながら、僕に殴り掛かった男が、クルリと回った僕に10m以上投げ飛ばされ、地面に叩きつけられて、首が変な方向に曲がって絶命してしまった。このとき、僕は、『威嚇』を使って、戦闘能力を奪う事などは考えていなかった。後悔していたのだ。ハルちゃんの時、しっかりと対応していれば、あんな事には、ならなかったのに。


  僕の殲滅が、始まった。ゴロツキが、剣を抜いて斬りかかる。右腕で防いで、パキンと剣を折り、胸を拳で打って心臓を破裂させる。脇を通り過ぎて、左わき腹のレバーを破裂させる。通り過ぎて、首を折る。


  殆どの者は、僕が何をしているのか、気づく前に絶命していた。前方から、衛士の人達が走って来た。既に剣を抜いている。僕は、左手を握り、相手に向かって突きを打った。


      『ハッ!』


  『斬撃』の青い光が左こぶしから走り、後には胴体がグチャグチャに切り離されている衛士が5人位転がっていた。


  僕は、その場で回し蹴りをした。当然、空を切ったが、『斬撃』が円状に広がり、前列の8人程が、同様に死んだ。


  「この、バケモノめ。」


  衛士達が一斉に掛かろうとした。僕は、初めて魔法を使った。衛士達のはるか上空から、無数の石が落ちて来た。落下の摩擦熱で真っ赤に燃えている。


     ドゴーーーン!!!!


  隕石の襲来は終わった。立っているどころか形を留めている衛士は、一人もいなかった。地面には、大きな穴が無数に開いており、グツグツと煮えたぎっていた。クレスタさんが、取り敢えず土魔法で塞いでいた。水をかけると、きっと街がなくなってしまう。


  僕達は、ドンドン進んだ。シェルさん達は、血溜まりや肉片を踏まないように注意して歩いた。暫く行くと、前方にゴロツキが500人位いた。親分らしい男の隣に、あの鞭を振っていた男がいた。僕は、その男を睨んだ。男の頭が破裂した。


  血と脳漿を浴びた親分は、股間を濡らしながら、逃げようとした。地面に大穴が開いて、全員が深さ50mの奈落に落ちた。直ぐに地面は埋め戻された。落ちた奴らを出すことなど当然にしない。


  親分が逃げようとした先には、組事務所があった。僕が左手を振り下ろすと、何も無いのに、グシャッと潰れた。重力魔法だ。中に人が居たようだが、構わなかった。


  衛士隊本部の前に、完全装備の衛士隊1600名が居た。皆、抜剣している。僕は左手を上に上げた。初めて、短い詠唱をした。黒雲の中から雷撃が襲った。地面がマグマとなり、衛士隊は全滅した。僕は、衛士隊本部を組事務所と同じように潰した。文字通り、潰した。


  奴隷部落の前に若干の衛士とゴロツキが、閉められた木の柵の向こう側にいた。木の柵ごと、『突風』で吹き飛ばした。木の柵と人間は、100m位上空でバラバラになった。そして残骸となってに落ちて来た。奴隷小屋から数人の奴隷が出てきた。怪我や病気の人達だ。シェルさん達に、『治癒』を頼んだ。


  街の東側にある東門に到着した。後ろから、聞いたことのある声を掛けられた。トラオさんと仲間達だった。


  「ゴロタ殿、ここは任せてくれ。東門の外、北側から帝国軍4000名が攻めてきている。


  ああ、まだ死にたい物がいるようだ。


市内の支配力は殲滅されました。ゴロタは、、まだ怒ってます。

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