表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/753

第78話 暗黒都市 ダブリナ市

ダブリナ市に到着です。でも、今までの都市とは大分様子が違うようです。

(9月1日です。)

  キャラバン隊がダブリナ市に到着した。僕達も一緒だ。キャラバン隊とは、城門前で別れた。ダンカンさんの精錬工場は、ダブリナ市の東側、ダブリナ川の側にあるそうだ。


  ダブリナ市は、大きな街だ。建物も、近代的な石造りやレンガ作りが多く、殆どが3階建て以上だった。しかし建物は立派なのだが、煉瓦の壁は黒くくすんでおり、どうも雰囲気が暗い。クレスタさんが、石炭を燃やした煤煙が原因だと言っていた。


  道も幅が広く、メインストリートは、敷石舗装がされていた。


  人々の移動手段は、徒歩か小型馬車のようだが、中には、人が引っ張る、大きな車輪の付いた乗り物があった。車輪には、硬い魔物の皮が巻かれていて、余り音がしてしていなかった。


  その車を引いているのは、全て亜人で、力の強い牛人か馬人だったが、首に太い首輪が巻かれている。奴隷だ。首輪には、左右にロープが繋がれており、乗車している者が馬の手綱のように引いて、方向を決めているようだ。時々、鞭を当てているが、周囲の人は、知らんぷりだ。


  ダンカンさんは、あの後、先に帰っていた。ダブリナ市に来たら、会社の方へ来てくれと言っていたっけ。ゲール総督は、この街が嫌いらしく、イレーヌさんとともに、ダブリナ市の北にある帝国軍南部方面軍司令所に行き、その後、帝都に行くと言っていた。この街の手前でお別れだ。帝都に行ったら、帝国軍本部に来てくれと言われた。


  僕達は、市庁舎の近くにある、1番、高級そうなホテルに入って行った。この街にも、ミニスカートブームが来ているらしく、シェルさん達の格好を見ても、以前のような視線はない。だが、僕達を見る視線に違和感を覚えた。ホテルのフロントに行って、部屋を申し込もうとしたら、愛想の良さそうな受付の男が、対応してくれた。


  「いらっしゃいませ。ヒルタン・ホテルへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか。」


  僕達は、いつもの様に部屋を取ろうとしたが、全員が泊まろうとしている事に気付いたのか、その男の人はシェルさんの方を見て、


  「申し訳ありません。そちらのご婦人は、当ホテルへお泊めする訳には行かないのですが。」


  シェルさんが、文句を言おうとしたが、クレスタさんが、制止して質問してくれた。


  「それは、彼女がエルフ族だからですか?」


  「はい、当ホテルは、格式が高く高貴な方もお泊りになる事もあるので、亜人の方のご宿泊は、お断りさせて頂いております。」


  「彼女は、王国の男爵、つまり貴族なのですが、それでも駄目なのですか?」


  男は、ちょっと吃驚した顔をしたが、直ぐに元の作り笑顔になって、


  「はい、申し訳ありません。御身分は関係ございませんので。」


  丁寧なお辞儀をして断っている。もう、これ以上話してもラチが明かないので、そのホテルに泊まるのは諦めた。次のホテルに行っても、対応は同じだった。結局、郡庁舎周辺の高級ホテルへは、どこにも泊まることができなかった。


  最後に断られたホテルのフロントの女性が、もし泊まるなら、東の方の精錬工場の方なら、泊まれるホテルがあるかも知れない。ただ、精錬工場で働く亜人達が多く、治安が余り良くないかも知れないと小さな声で教えてくれた。


  仕方がないので、教えてくれた通りにしてみる。東の方に行くと、道も舗装しておらず、建物も木造が多くなってきた。それに、薄く煙りが漂っており、酸の様な匂いがして来た。


  結局、僕達が泊まったのは『希望亭』という木造2階建の古い旅館で、しかも、ツイン1室しか空いてないとの事だった。マットと毛布をいくつか借りて、床にも寝ることで何とかすることにした。


  夕食は、近くの食堂で、スタミナ粥と言う訳の分からない物を食べた。何かのモツやレバーとニンニクで煮込んだ物が、パン粥にかけられている物だが、意外に美味しかった。飲み物も、何かのジュースに酒精を入れて飲むのだが、酸味と炭酸のコラボがマッチしており、癖になる味だった。飲み物の名前は、レモンハイ何とかと言っていた。


  満腹になって旅館に戻ったら、旅館の前で、何かトラブっているようだ。見ると、エルフ族の男の子が、ゴロツキのような人間の男達3人に引っ張られ、どこかへ連れて行かれようとしていた。シェルさんが、前に出ようとしたのをクレスタさんが止めて、男達に何事かと聞いたら、エルフ族の奴隷を工場まで、連れ戻すのだという。その子は、どう見ても12〜3歳の少年で、奴隷にしては幼すぎる。その子にも聞いてみると、


  「僕、奴隷じゃ無いよ。工場でいなくなったお母さんを探しに来たんだ。」


  と、涙を流しながら答えた。


  「ふざけた事を言ってんじゃあねえ。こっちには、郡長官の奴隷拘引状と、奴隷取引許可証があるんだ。文句があるなら、お上に言え。」


  男が持っている書類を見ると、正規の書類のようだ。シェルさんは、唇をグッと噛み締めている。僕達は、諦めて男の子が連れて行かれるのを、見ているしか出来なかった。僕は、こっそりとイフちゃんにお願いして、あの男達を監視させた。


  旅館に入ると、女将の『ジャンル』さんが説明してくれた。


  あの子は、『ハル』と言い、エルフ公国から、こちらの工場で働いていると言うお母さんを探しに来たらしい。それで工場の門番に聞いたら、探してあげるから、『身分証明書を預からせてくれ。』と言われて預けてしまったのだ。その後、工場の若い者が、出てきて、今日は、会えないから、泊るところを教えてあげると言って、ハルと一緒にこの旅館に来たそうだ。男は、『この子を明日まで泊まらせてくれ。明日、迎えに来るから。』と言って来たので、なぜか嫌だったけど、宿泊代も前金だったし、断り切れずに泊めたらしいのだ。


  その後、彼等が来て『エルフはどこだ。早く出せ。』と大騒ぎをして、あの騒ぎになったとのことだった。ということは、偽の拘引状だったのかと思ったが、署名と落款は本物のようだった。


  イフちゃんから、念話が飛んで来た。どうやら、ジャンルさんの言ってた事は本当らしい。今夜は、どうしようもないので、明日、ダンカンさんに相談してみる事になった。


  皆で、雑魚寝の様に寝た。僕は、シェルさんと一緒に寝た。マットレスには、涙の跡が染み付いていた。


(9月2日です。)

  翌朝、ダンカン商会に行って、ダンカンさんに面会を申し込んだら、受付の女性に『留守だ。』と言われた。昨日の奴隷の件があったので、待つと言ったのだが、『今日は出社して来ないので、明日にしてくれ。』と言われた。仕方がないので、一旦、戻る事にした。


  ダンカン商会は、街の中心部にあったので、近くのレストランで、昼食を食べようとしても、『亜人お断り』の店ばかりで、結局、昨日の店に行って昼食を食べることにした。


  昼食後、街の様子を見ようと言うシェルさん達と一緒に、東の城門近くまで行って見た。途中、木の柵が、街の西と東を隔てるように立っていて、木戸の出入り口があった。


  衛士が、10人ほど見張りをしていたが、何を見張っているのだろう。暫く歩くと、大きな木造の建物が沢山並んでいた。


  殆ど人が居なかったので、通りがかりの人に、この家は何ですかと聞いたら『奴隷小屋』だそうだ。皆、東側の城壁外にある工場で働き、夜、この小屋に帰ってくるのだそうだ。


  一体、何人の奴隷が住んでいるのか聞いたところ、1つの小屋で、1000人は暮らしているそうだ。


  これには、皆、吃驚した。確かに小屋は大きかったが、とても1000人が暮らせる様な大きさでは無い。そんな小屋が、20以上あるらしい。すべての小屋には、昨日『希望亭』に来たようなゴロツキが2~3人、入口に座っていて、ニヤニヤと下卑た笑いをしながら、シェルさん達を見ていた。彼らが、何を考えているのか一目瞭然だ。


  小屋の向こうで煙が上がっていたので、覗いてみたら、大きな鍋で何かを煮ていた。作業をしているのは、鼠人の女性4人だった。皆、首輪をしていた。シェルが話しかける。


  「こんにちは、何をしているんですか。」


  「あ、お貴族様、お許し下さい。」


  4人とも土下座をして震え始めた。


  「いえ、私達は貴族では有りませんから。旅行中の冒険者です。」


  4人は、顔を見合わせ、頭を上げて僕達を見た。安心したのか、漸く普通に話し始めたが、膝は折ったままだ。立つ様にお願いすると、人間の前で話すときは、膝を折るか、土下座で話さなければいけないそうだ。


  立って話すと、後で鞭打ちをされてしまうそうだ。


  鼠人達は、変わった服を着ていた。麻袋に首と両手の穴を開けただけの物を被って、腰を紐で結んでいるだけのようだった。


  実際、その通りで、下着は履いていない。これは、どこでも、男女の営みが出来るようにするためだった。この集落では、子供を作るのを奨励されており、女は求められたら拒否してはならないとされている。


  実際は、拒否する女性はいない。妊娠すると、重労働から解放され、子供が3歳になるまでは育児に専念出来るように短時間勤務となるからだ。だから、妊娠できる可能性がある間は、男を求め続ける。現に、この鼠人達は、妊娠4か月から6か月らしい。


  彼女達は、この大きな鍋で、この小屋の中の住人達の夕食を作っているのだ。食事は、1日2回、夕食は、スープと黒パン。朝食は、残りのスープを薄めたのと黒パンだそうだ。スープの具材は、ごろつき共が持ってくるので、素材が何かは知らないそうだ。






------------------------------------------------------------------

  その日の夜、イフちゃんが、念話で伝えてきた。


  『あのハルが危ないぞ。鞭で打たれているが、命が消えようとしておるぞ。駄目だ。内臓が裂けている。これでは、助からない。』


  イフちゃんの思念を通じて、視界を共有する。大勢の奴隷達の前で、鞭打ち台に括り付けられたハルの背中に、太い鞭が打たれている。打たれる度に、小さな身体がのけぞるが、その内、反応しなくなった。


  「ちっ! 死んだか。おい、片付けろ。」


  ハルが鞭で打たれた理由は、脱走しようとした事らしい。見せしめでハルは殺されたのだ。母親を探しに来て殺された。何も、悪い事をしていないのに、殺された。何故、殺されなくてはならないのか、わからないままに殺された。これが、あいつらのやる事だ。許さない。許さない。


  胸が熱い。何かが燃えている。駄目だ。今、ここで燃やしたら絶対、駄目だ。胸の中で力が収縮していく。どんどん収縮していく。熱い。熱い。何かが生まれる。


    「ゴロタ君、ゴロタ君。一体どうしたの?」


  僕は、気を失った。

女性の奴隷って、可愛そうですね。実際、奴隷制度があった国では、奴隷の子は、自分の農園で余剰となったら売り飛ばしていたみたいです。このダブリナ市では、強制的に子供を産ませていたみたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ