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第76話 明鏡止水流 大剣の形

ワイバーンの討伐を引き受けたゴロタ達。でも、ダンカンさん、少し、狡いようです。

  以前、僕は2匹のワイバーンを討伐しようとして、死にかけた事がある。いや、あの時は確実に死んだ。


  しかし、油断さえしなければ、殲滅出来る筈だ。


  クレスタさんが、ジッと唇を噛んでいる。あの時のことを思い出しているのだろう。でも、余計な口出しはしない。決めるのは、僕だという態度だ。


  ワイバーン、1匹の単体だったら、長距離火力を持っている『B』ランクパーティーでも、なんとかなるだろう。しかし、2匹以上の同時討伐となると、『A』ランクパーティーが2パーティー以上揃って居ないと、全滅の恐れがある。


  今回は、過去、聞いたこともない30匹以上、それ以上の情報がないので、わからないが、特殊個体もいるかも知れない。クレスタさんは、恨みを晴らすために受けたいだろう。僕も、受けてみたい気がする。しかし、皆を、危険にさらす訳には行かない。シェルが、質問した。


  「報酬は、いかがなっておりますか?」


  「はい、大金貨1枚をお支払いします。ただし、素材は、当方で回収させてください。」


  「綺麗な死骸でしたら、大金貨10枚でも支払うという方もいらっしゃるそうです。私達も、ワイバーンの素材は欲しいので、その条件では飲めませんわ。」


  「分かりました。それでは、ワイバーン1匹分に付き、大金貨2枚を出します。綺麗な死骸なら、『競り』にかけて折半としませんか。」


  この人、なかなか狡猾のようだが、荒野のど真ん中で、ワイバーンを解体する自信がなければ、現場で棄てる事になる。


  「分かりました。明日、10時にギルドで会いましょう。」





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  翌日、午前10時、僕達は冒険者ギルドに向かった。ギルドは、2階建てだったが、かなり大きな建物だ。


  ダンカンさんは、既に来ていた。昨日の女性は連れていなかった。僕達は、ダンカンさんと一緒に受付に向かった。


  「いらっしゃいませ。帝立冒険者ギルド、ゲート支部へようこそ。本日は、・・・。あらダンカンさん。何回、来られても同じですよ。ダンカンさんの依頼を受ける冒険者は、当ギルドにはおりません。」


  「いやいや、今日は、その、依頼を受けてくれる冒険者を連れて来たんだ。」


  ダンカンさんは、僕達を前に押し出した。受付の女性は、僕達に向かって、


  「あなた達は、このダンカンさんが、ワイバーン30匹以上の討伐なんて、非常識な依頼を出している事を知っていますか?」


  僕達は、冒険者証を提示した。


  冒険者証を確認した受付の女性は、目を点にして、


    「殲滅の死神!」


  酷い二つ名を口にした。この二つ名は、クイール市を出る時から何度か耳にした。その度に、亡くなった兵士さん達の事が思い出されて、下を向いてしまう。周りの冒険者達が、注目している。ヒソヒソ何かを話しているが、僕には、ハッキリと聞こえる。


  「クイール市は、無くなったらしいぞ。」


  「ダンジョンを吹き飛ばしたらしいぞ。」


  「あの女の子、全部頂いたらしいぞ。」


  「後家殺し」「鬼畜」「ロリコン」


  もういいです。噂です。誰も、本当の事、知りません。


  僕達は、ギルド立会の上、依頼受託書を作成した。ギルドに受託手数料を払ってから、ダンカンさんと別れた。ダンカンさんは、先に出発して、ダブリナ市へ向かうらしい。シェルさん達は、洋服を見たいと言って別れてしまい、僕は、近くにある明鏡止水流の道場に行ってみることにした。


  この街の道場は、かなり大きく門人も大勢いて、活気に満ちていた。


  入り口で、用件を伝えると、師範代が出て来て案内をしてくれた。王都の総本部で初段を取ったと言ったので、対応が違ったかも知れない。不思議な事に、王都でもそうだったが、道場では、『コミュ障』の症状はない。ただ、剣の話をし、剣の話を聞く。剣に生き、剣に死する者に、言葉は、最低限で良いのだ。(何となくカッコいい)


  僕は、師範代に、『大剣の形』を教えて頂きたいと言った。


  師範代は、その前に、実力が知りたいので、『長剣の形』を見せて貰いたいと言ったので、皆の前で披露することになった。


  それまで、稽古していた門人達が、一旦稽古を辞め、道場の壁際に整列して座った。僕は、刀架台から、通常の長さの木刀を取り、『ベルの剣』をそこに架けておいた。


  道場の中央まで、提げ刀で進み、帯刀の形にしてから、一礼した。


  僕は、左利きだったので右手に持った木刀を左手で持って、諸手正眼に構えた。


  攻めの形12と受けの形8の20の型をしたが、途中から、木刀が青く光り出した。道場の師範までビックリしていたが、僕は無我の境地であったので、動ぜずに最後までやり切った。


  木刀を納刀し、6歩下がって提げ刀になって、師範に一礼をした。道場内から、大きな拍手が沸き起こった。僕は、吃驚して、顔が真っ赤になった。


  「見事じゃった。長年、明鏡止水流を指導して来たが、これ程の技を見たのは初めてじゃ。」


  と、師範が褒めてくれた。師範が、僕には、何も教えることは無いと言ったが、是非、『大剣の形』をと懇願したら、奥の倉庫から、物凄く大きい木刀を持ってきた。


  長さ180センチ、凌ぎの幅18センチの木刀で、重さは6キロ以上はありそうだ。僕の身長より、30センチ以上長い。


  師範も完全には使えないが、剣の道筋を見極めれば、自ずと剣がその道を辿り、意識せずとも敵を切る。切ろうと思わず、剣に道を聞く。これが、大剣の極意だと教えてくれた。


 それから、7つの形を教えてくれた。


  一の型 背面から抜刀しての諸手面打ち


  二の型 面打ちからの胴抜き


  三の型 脇構えからの切上げ斜め面打ち


  四の型 諸手正眼からの胴抜き


  五の型 面を防いでの切り替え胴


  六の型 右胴を防いでの切り払い胴


  七の型 背面からの片手斜め面


  本当にゆっくりの『形』だったが、最後の片手面は、師範でも木刀を支え切れずに床まで木刀が走ってしまった。すべての『形』に言えるのが、絶対に地面に当てずに、剣の流れで剣先を止める事だそうだ


  僕の番だ。『形』に難しい所はない。


  剣を正眼に構える。微動だにしない。左片手で背面に抱える。抜刀と共に上段で諸手に構え、降り下ろして面打ち。


  大剣が面の位置でピタリと止まり青い光が走った。七の型では、唸りを上げた剣が、僕の右足の踏み込みと同時にピタリと止まり、青い斬撃が向こう正面の壁に当たって消えた。


  皆。シーンとしていた。師範まで吃驚していた。


  一礼して、元の位置に戻ると、皆が飛んで来て、稽古を付けてくれと言う。僕は、竹刀立ての箱の中で、分解されてバラバラになっている竹の棒を1本だけを持った。通常は、この切れ端4本で1本の竹の刀になるのだ。


  そんな細い竹の切れ端で、木刀を持った門人と稽古をした。僕が片手正眼からの右親指打ちに、誰も反応できない。好きに打たせて、体を捌いての親指打ちも、誰も防げない。次々と、門人たちの親指を打ち据えていく。稽古終了後、師範が先程の大剣の木刀を僕に進呈してくれた。この木刀が、暫くして伝説を作るなど、この時の僕は知らなかった。







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  8月19日、ゲート市を出発した。


  キャラバンは、1列で隊列を作っている。鉱石を積んだ6頭立の馬車30台が並んでいるのは壮観だ。その後ろに130頭の裸馬を引いている。この先で放置されている鉱石馬車を回収するためだ。


  その後ろに、8頭立ての豪華な馬車が9台付いてくる。勿論、僕達が乗っている。ダンカンさんは、別便で、先に出発していた。しかし、馬車に乗っているのは、僕達だけではなかった。僕の知らない所で、ワイバーン討伐の話は、帝国中に知れ渡り、見物しようと、皆、ゲート市に集まって来ていたのである。しかし、国家秘密事項と言うことで、一般庶民は排除された。結局、見学するのは


    皇帝陛下とご家族。


    帝国魔導師長と上級魔導士一行。


    魔法研究所長と教授一行。


    帝国軍将軍以上。


    上級1等認証官多数。


  総勢50名程だ。後、僕の要望で


    バイオレットさんとワイちゃん


    明鏡止水流ゲート市道場の師範と師範代


  が加わっている。行程に野営は無い。これだけのキャラバンが野営しようとすると、とんでもなく広い土地が必要となる。だから、この国では、キャラバンが1日で進める距離の所に、必ず宿場があるのだ。しかし、キャラバン隊の荒くれが泊まるレベルの宿だ。皇帝陛下が泊まれるような部屋は用意出来ない。


  このため、皇帝陛下には、随行車が付いてくる。寝台車だ。今回は、家族や閣僚もいるので、寝台車が15台である。


  また、料理も、毎日が宮廷料理だ。このため、厨房車が2台、食材搬送車が2台、料理人用馬車が3台、メイド車3台、執事車2台、ソムリエ車1台と、馬鹿らしくなるほどの行列だ。その他に、護衛の帝国軍500人が、北側1キロ位の所を並走している。


  最初の宿場は、「ダンカン13」と言うそうだ。目的地までキャラバン隊が泊まる宿場は、全て、ダンカンさんが作ったので、名前を冠しているそうだ。ダンカンさん、何気に大金持ちのようだ。


  昔からある町や村には、キャラバン隊は泊まらない。それだけの大規模な旅館やホテルも無いし、宿泊経費が、ダンカンさんの所へ入らないからだ。大金持ちの癖に妙に渋い。


  宿屋は、8人部屋だった。ワイちゃん達が来たので、僕はワイちゃんと一緒のベッドだ。師範達は、隣の部屋だ。


  食事が終わって、部屋に戻り僕は考えていた。ワイバーンの攻撃は、毒と急降下である。急降下の時は毒は吐かない。上空をゆっくり飛翔している時と、地上に降りた時に吐いている。急降下攻撃は、小回りが利かないため、回避は容易だ。逆に急降下の次の行動に隙が出来る。その隙を狙いたい。でも、今回は大勢の観客がいる。何故か、余り手の内を見せたくない。


  『攻撃の基本方針』

  

    殲滅するための極大魔法は使わない。


    『ベルの剣』の斬撃は使わない。


    当然、謎の『紅い剣』は使わない。


    黒剣は、火力不足のため、貰った大剣の木刀を使う。


    イフちゃんは使わない。


  『攻略方法』


    シェルさんとクレスタさんで、地上に落とす。


    ノエルとエーデル姫で、口の中を焼く。


    僕が、大剣で殴り倒す。


  何か、間違っている気がするが、気にしない僕だった。






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(8月21日です。

  その日は、異様に暑かった。照りつける太陽を隠してくれる雲など、遥か彼方に逃げ去っていた。20台ほどの放置されている鉱石を積んだ馬車の上空と、その周りには、濃い緑色のワイバーンが群れている。もう肉の破片も残っていない馬の大腿骨を、3匹の若いワイバーンが取り合っていた。彼らは、餓えていた。大量の馬を捕らえたのは、大分、昔の様な気がする。あれから、馬車は来なくなったのだ。つまり、餌が来ないのだ。


  その時、遠くから馬車の音がしてきた。ワイバーン達は、首を伸ばし、音のする方を見た。土煙が見えてきた。馬車だ。餌だ。ワイバーン達は、喜び、わめき、我先へと得物へ向かっていった。


  僕達は、はるか手前から、ワイバーンの気配を感じていた。来た。皇帝陛下らの馬車は、後方、南側の小高い丘の上に避難して貰っている。戦場は、馬車の前方の開けている場所だ。南へ展開するのは避けたい。バイオレットさんが、『私に任せて。』と言った。これで、皇帝陛下達は安心だ。


  僕達は、馬車の先頭で、殺到してくるワイバーンを待ち受けた。


  そして、戦闘が始まった。


大剣って、その重さを利用しての武器で、切るよりも打撃を重要視するらしいです。

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