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第2部第300話 商業ギルドその8

(7月19日です。)

  ブレナガン伯爵邸での昼食会には、急遽バーカス君とボニカちゃんも参加することになって、結構賑やかな昼食会になったみたい。バーカス君、小学1年生位の大きさなんだけど、なんか無理して大人ぶっている。でも、私をチラチラ見て顔を赤くしているところが何となく可愛いわ。ソニーお嬢様は、領内の高校に進学進学する予定だけど、王都への留学も考えているみたい。でも、見た目8~9歳程度の女の子が留学なんてできるのかしら。


  皆さま、今、私がやっていることや人間界のことに非常に興味があるみたい。まあ、そのうち、人間界にご案内してあげようかしら。あ、伯爵様が、ここまでどうやって来たのか聞いてきた。そりゃそうよね。シェルブール市から、ここまで馬車を使ったって2カ月近くかかるはずなのに、シェルブール市で小学校に入学し、製薬工場や製糸工場を経営する傍ら、人間界で子爵に叙爵されるなんて絶対にありえない筈だし。それで、仕方がなく、『ゲート』を使えるようになったことを教えてあげたの。『空間転移』って、こちらでも超上位魔導士しか使えないみたいで、それも魔法陣と魔道具を使ってようやく転移できるみたいなの。勿論、ブレナガン領内には使える人はいないみたいで、伯爵も見たことはないそうなの。まあ、そんなに面倒でもないので、食後、シェルナブール市のお屋敷とつないであげて、皆さんを転移させてあげた。みんな初めての体験に吃驚していたけど、転移先が私のお屋敷の前だったので、見た目だけは立派なお屋敷が私の物だと知って、もっと吃驚していたみたい。


  それよりも、大広間に寝そべっているキラちゃんと、私に飛びついてきた銀ちゃんを見て、完全に固まっていたけど、事情を説明して安心して貰った。まあ、銀ちゃんは狼、キラちゃんはワイバーンの姿だから、確かに怖いかも知れないわね。


  あと、市内を案内したかったんだけど、今日の午後、糸問屋さんにお伺いしなければならないので、次の機会と言う事で、直ぐに元の伯爵邸に戻ることにした。伯爵邸に戻ったら、すでに糸問屋さんが来ていて応接間で待っていてくれた。昼食の時に、執事さんが呼んでいたようで、伯爵に呼ばれたので、暑い中、急いで来たのかしきりに汗を拭いていた。少しかわいそうに思えたので、応接室の温度を少しだけ冷やしておいてあげた。まあ、こんなの、メイド魔法でも何でもないんだけど、メイドならだれでもできる能力ね。


  糸問屋さんは、年配の小太りの男の人で、秘書みたいな女性と若い男性を連れていた。早速、名刺交換をしようとしたんだけど、糸問屋さん達は名刺を持っていなかったので、こちらから名刺を渡すだけだった。問屋のご主人は、モラルさんと言って、ブレナガン領内の糸取引だけでなく原料の取引も行っている方だった。こちらの要望は、定期的に蚕繭、綿花、羊毛、麻草を仕入れさせていただきたいと伝えたら、もともと生産量が多くて単価の安い産物を遠い場所まで輸送するのは、かなり割高になってしまうと言われた。まあ、そうだろうとは思う。繭蚕ならまだしも、どこでも生産できる綿花など馬車1杯分集めたって、金貨2枚分位にしかならないだろう。それをシェルナブール市まで運ぶのに金貨10枚も掛けたら、完全に赤字になってしまう。でも、その点は全く心配していない。定期的にゲートをブレナガン領とシェルブール市の製糸工場の倉庫前に繋いでおけば、輸送費はほぼゼロになるからだ。


  納入時期や、納入量及び納入価額などはブルニエさんとブランケットさんに任せることにして、当面は、綿花と蚕繭を必要量、即金で購入することにした。そのまま、ブレナガン邸を出てから、モラルさんが所有している倉庫まで行くことにした。倉庫は、ブレナガン市内の北地区にある倉庫街にあり、綿花と蚕繭を倉庫に一杯になるまで買い付けることにした。今日は土曜日で、妊婦さん達は少なかったが、倉庫の中に『ゲート』を作ったので、あっという間に倉庫一杯分荷物を搬出することが出来たみたい。代金は、ティタン大魔王国の金貨で支払ったけど、今後はゴロタ帝国の通貨で支払う事で了解してもらった。


  モラルさんに、今まで旧ボラード伯爵領内の生産農家から原料を仕入れたことがあるか確認したところ、輸送費の問題があるので、そんな遠方からの輸入など考えられないと言われた。やはり、今回の件は、商業ギルド長のファーガスの陰謀に違いない。あいつ、私に一体何の恨みがあるのだろうか。モラルさん、私の『ゲート』を見ていて、いろいろ聞いてきたが、この輸送方法は、国家間の輸出入に関することなので、今回の件が片付くまでの限定的な使用にしていると断りを入れておいた。あ、そう言えば取引に伴う関税はどうなっているのだろうか。輸出に関しては、自国の利益になることなので、原則、関税はないはずだが、輸入に関しては、自国生産者保護のため関税をかけることはよくあることだ。というか、人の出入りにも税金を掛けるのが普通のこの世界で、関税がないなどとは考えられない。あとでクラウディア様に聞いてみよう。


  さあ、それじゃあ帰ろうかなと思ったら、ソニーお嬢様が、今日から当分の間、シェルナブール市に遊びに行きたいとおっしゃって、その準備があるので、屋敷に戻ったのは夕方近くだった。バーカス君達も来たがっていたが、私の屋敷もそれほど広くなく使用人も少ないので、この次の機会にして貰った。ソニーお嬢様は、今、地元の中学校に通学されているんだけど、絶対に中学生には見えないわね。見た目は8歳から9歳程度なのに、胸が私よりも膨らんでいるのは絶対に納得できないわ。お屋敷に来て、一番最初にしたことは銀ちゃんのモフモフを撫でることね。銀ちゃん、かなり大きいのでソニーお嬢様が背中に乗っても平気みたい。大広間の中をクルクル歩き回ってあげていたけど、ソニーお嬢様、とっても喜んでいた。


  今日の夕食は、ソニーお嬢様が加わったんだけど、ドリアが伯爵令嬢とご一緒では恐れ多いと同席を辞退してしまったので、二人で食事をすることになった。あまり、変わった食材もないんだけど、お醤油を使ったソースで焼いたお魚料理が気に入ったみたい。お醤油は、まだブレナガン領内には流通していないようなので、帰るときに買って帰りたいって言っていた。楽しい食事が終わって、さあ、寝ましょうとなったんだけど、ソニーお嬢様が私と一緒に寝たいって言い始めて、私、基本的には大広間にマットを敷いてキラちゃんと銀ちゃんと一緒に寝るんだけど、ソニーお嬢様にそんな真似をさせる訳には行かないので、キラちゃんに我慢してもらうことにした。でも、キラちゃん、どうも我慢できないようで、例の女の子の姿になって私の部屋で寝るって言いだしたの。ソニーお嬢様、目が点になってしまったんだけど、まあ、そんなものだって理解してもらうしかないわね。


  これで、製糸工場と織物工場の問題は解決ね。でも、ファーガスは、あんなに大量に仕入れた綿花や蚕繭をどうやって処理するんだろう。他の工場だって、キチンと契約している農家さんがあるんだから、そんな割高な品をファーガスから買い入れる訳ないのに。





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  商業ギルドのギルド長室では、ファーガスが配下の番頭から恐ろしい報告を受けていた。マロニー商会では、他のルートで綿花と蚕繭の仕入れを始めたという報告だ。


  「おい、一体それはどういう事なんだ。」


  「はい、もともとあの工房は、市内でも最大手の工房だったので、契約農家もこの周辺の農家の3分の1を占めておりました。2割高で買い付けると言って、抑えたのですが、どうやらマロニー商会では謎の農家から大量に買い付けが出来たようで、既に工場は稼働を始めております。」


  「なんだ、その謎の農家とは。そんな在庫を抱えている農家など、この周辺にはないはずだろ。」


  「はい、エーデル市の商業ギルド支部にも確認したのですが、やはり該当する農家など無いようです。」


  「と、と言うことはどうなるのだ。我々が買い付けた綿花や蚕繭、どこか他の工房で引き取ってくれるのか?」


  「いえ、それは無理かと。あんなに大量の在庫を売ると言っても、他の工房の生産能力から言っても、絶対に買い取っては頂けないかと。」


  「お、おい。今、どれくらい在庫を抱えているんだ。」


  「はい、綿花480トン、蚕繭80トンとなっております。購入価額は綿花がトン当たり金貨3枚、蚕繭が大金貨6枚で仕入れましたので、今回の支出は、大金貨1920枚となっております。買い入れの手形決済が1週間後に迫っておりますが、いかがいたしましょうか。」


  「そんな大金、現金であるわけないだろう。買い付けを中止しろ。中止だ。中止。」


  「いえ、それは少々無理かと。今回の買い付けでは、今後3年間の買い付け契約を結んでおりますので。契約破棄となりますと違約金も含めて倍以上の支払いとなります。あと、買い付けた品物の保管のために倉庫料もかかりますが、これも馬鹿になりません。このまま、売れずに在庫となると、倉庫代だけでファーガス商会の年間利益が飛んでしまいますが。」


  「そんな・・・。じゃあ、どうすればよいと言うのじゃ。」


  「この際ですから、マロニー商会に掛け合って引き取って貰ったらいかがでしょうか。元々はマロニー商会が購入予定だった綿花や蚕繭だったのですから。」


  「いくらで売るんだ。」


  「それは、やはり相場以下でなければ売れないと思いますが。」


  「相場以下というと。」


  「最低でも2割引き位は提示しなければ。」


  「それでは、我が商会は大赤字ではないか。」


  「会長、この計画にはもともと無理があったのです。生産農家と工房との長年の契約関係を無視して無理無理に買い付けただけでも、商習慣に違背しているばかりか、それをより高値で売りつけるなど、普通の取引ではありえないでしょうから。」


  番頭の言うことはもっともだった。需要と供給のバランスがちょうどよくバランスしていたものを、供給だけを独占したところで、需要側が増えることもないので、値段を上げることに無理があったのだ。はっきり言って、ファーガスが買い占めた商品を買い取る能力があったのがマロニー商会だけなのに、自由に値上げなどできる訳なかったのだ。


  「ああ、もうファーガス商会は終わりだ。」


  この1週間後、ファーガス商会は第1回目の不渡りを出し、大量の在庫を債権者に差し押さえられてしまった。しかし、在庫の保管料が馬鹿にならないことから、相場の半値で売り出したところ、『空間収納』でいくらでも保管できるマロニーが全量を買い取ったのは、もう少し後の話である。勿論、ファーガス商会は倒産し、ファーガスは債務不履行と言う事で損害賠償請求されて支払えず奴隷落ちしてしまったのだ。

商業ギルド編は終わりです。次は、いよいよ戦闘編となります。

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