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第73話 ダンジョン発見

よく分からないけど、ゴブリン退治が始まります。

(7月21日です。)

  依頼場所までの移動時間がもったいないので、市外に出てから、イフちゃんを待たせて、1人で走った。


  30分位で、依頼場所である農場に着いた。すぐにイフちゃん達を呼び寄せる。農場の周囲を木の柵で囲い、土塁が要所要所に設けられているが、至る所が壊れている。中には、人の気配がない。ない。ん? いた。小さな気配が家の中からする。


  僕は、ソーッと家の中に入る。どうも、家の中の床下にいるみたいだ。床板で外れる個所を見つけ、ゆっくり外して見ると、子供が二人、床下から上を見上げていた。キラキラ光る瞳は、泣いていたのであろう。僕達を見ると、さらに声を上げて泣き始めた。シェルさんが、台所を探すと、ミルクがあった。匂いを嗅ぐと、腐臭がしている。諦めて、水をマグに注いで、飲ませてあげた。喉が渇いていたのか、ゴクゴクと飲み続けた。


  子供は、7歳の男の子と4歳の妹だった。事情を聞くと、2日前、外で農作業をしていた両親が、慌てて家の中に入って来て、裏口から男の子だけを逃がしてくれた。その時、大銅貨2枚を握らせ、『ギルドに行って、ゴブリン退治をお願いして来い。お父さんたちは、此処でゴブリンと戦っているから。』と言ったので、急いでギルドまで走って行ったそうだ。


  依頼を出すときは、受付のお姉さんが教えてくれたとおりにサインしたけど、後は全部書いてくれたそうだ。すぐに、冒険者が来てくれると思ったが、ギルドが閉まるまで、誰も来てくれなかった。夜、一人で農場まで帰ったら、真っ暗な中、両親はいなかったそうだ。床下に妹がいたので、一緒にその日は寝て、ゴブリンがいないときに、食事をしたり、用を足したりしていた。


  僕達は、イフちゃんに、レイピアと弓矢を出して貰った。二人に装備させる。エーデル姫には、この子達と留守番をお願いして、シェルさんと一緒にゴブリンを捜索することにした。


  農場の前には、争った足跡と乾いた血の跡、そして引きずっていった跡があった。ゴブリンの匂いはかなり強く、森の中へと続いていた。森の中を300mほど入ると、ゴブリンの巣があった。巣の前には、2匹のゴブリンが見張りをしており、巣の中からは、いつもの物凄い匂いがした。血と汗と精液の匂いだ。僕は、イフちゃんにお願いして中の様子を見て貰ったら、母親らしい女は未だ生きていると言ってきた。方針は、決まった。母親の救助だ。前みたいに自殺はさせない。子供達のためにも生きる力を与えるのだ。


  僕は、『威嚇』を2匹のゴブリンに放ち、気絶したゴブリンの身体の中から、小さなファイヤを放った。気を失ったままのゴブリンは、鼻と口から煙を出しながら絶命した。シェルさんが、あきれた顔で、


  「ほんと、チート。」


  と言った。匂いが凄いので、巣の中に入りたくなかったが、しょうがない。入っていったら、中は、比較的天井が高く、立ったままでも歩くことが出来た。僕達に引き寄せられるように次々と襲って来るゴブリンを殲滅していくと、奥に階段があった。


  「え、階段。」


  通常、ゴブリンの巣は、単なる洞窟や、大型獣が使用していた巣の再利用であり、階段があることは、あり得ない。僕は、暗視が効くから必要ないが、シェルさんのために、魔光石を出して、魔力を注いだ。階段を降りると、ゴブリンは更に増えたが、広範囲な『威嚇』でほとんどのゴブリンが気を失った。若干のゴブリンが意識を取り戻したが、シェルさんの5本の矢に射抜かれて絶命した。残ったゴブリン達には、僕の水魔法で、辺りにシャワーを降らせ、雷魔法で感電させて殲滅した。さらに先に行くと、また階段があった。僕とシェルさんは、顔を見合わせた。


  「ダンジョン!!」


  これは、未踏のダンジョンだ。ダンジョンが出現したのだ。もしかすると、貴重なドロップ品や隠し財宝があるかも知れないが、ゆっくり探索している暇はない。どんどん、階層を降りて行く。少年のお母さんは、5階層のボス部屋にいた。ボスは、ゴブリン・ロードだった。


  シェルさんは、お母さんを救助して、ゴブリン・ロードの手の届かないところまで避難した。


  『治癒』スキルで外部の傷を治し、下腹部に手を当てて、膣内の傷を治し、洗濯石で、膣内の精液を除去した。妊娠しているかどうか分からないが、今できることはすべてやった。洗濯石で、顔の周りや髪の毛の精液を除去し、服と肌の汚れを綺麗にしてあげた。


  シェルさんが、ふと僕の方をを見ると、丁度、ゴブリン・ロードを左右に切り裂いている最中だった。ただ、あの『ベルの剣』は使っておらず紅く光る大剣を使っている。


  『あんな剣、持ってたかしら?』


  すべて終わっていた。ゴブリン・ロードのドロップ品、黒鋼剣と魔石を回収し、僕がお母さんを抱えて地上部に戻った。そのまま、農場に戻ったら、子供達がエーデルとともに農場の庭にいた。留守の間、ゴブリンは襲ってこなかったようだ。


  僕は、農場の裏から、荷車を出してきて、必要最低限の着替え等を袋に詰めてから、母親と子供達、それにシェルさん達を乗せて市内に向かった。ゆっくり進んだが、それでも馬で引くよりは早かった。揺れるような場所は、荷車を浮かせて、振動が来ないようにして引いた。


  シェルさんが、母親に、父親は見つからなかったこと。妊娠しないように最善の措置を取ったこと。子供達のためにも、生きて行くことを諭していた。夕方3時位に、市内に入ることが出来た。そのまま、救護院に連れて行った。深く頭を下げる母親に金貨3枚を渡す。吃驚して、返そうとする母親の手を握りしめ、黙って首を振る僕だった。母親は、涙を浮かべながら、頭を下げ続けた。


  ギルドに戻って、完了報告をしてから、ダンジョンの出現について、情報提供をした。早速、ギルドマスターの部屋に案内されて、ダンジョンの位置及びモンスター情報などを質問された。僕達は、5階層までしか行っていなかったが、シェルさんが、記憶の中だが、詳細なマッピングをしていたため、ある程度復元できた。


  各階層のトラップとボスキャラまでメモして地図を書いたら、ギルマスに驚かれていた。明日の夕方、もう一度ギルドに来て貰いたい。それまでに、この地図を確認し、間違いなかったら相応の報酬を支払うとの事だった。僕達は、了解してギルドマスター室を後にした。


  黒鋼剣とゴブリン・ロードの魔石を納品したら金貨1枚半になった。


  僕達は、ホテルに戻ったが、夕食のとき、シェルさんから提案があった。今日の親子の話だ。あのダンジョンが正規にギルドで運用され始めたら、冒険者が殺到する。そうすると、魔法石や薬草、食事それに簡単な武器を売る場所や、簡易宿泊所が必要になる。


  それをあの親子に運営させたら、生活には困らないだろう。それに、冒険者がダンジョンをクリアしていくと、ゴブリンなどの魔物も、ダンジョンの外に出て来なくなるので、安心して生活ができる筈だ。生活が軌道に乗るまで、手伝ってあげたい。


  僕に異論は無かった。皆にも異論は無いようだ。よし、早速、明日から準備だ。ゲール総督は、呆れていた。この子たちには、損得という感覚はないらしい。ただ、人のために役に立ちたい。可哀そうな人達を助けてあげたいという純粋な気持ち。


  もう、ずっと昔に忘れてしまっていた気持ちだった。








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(7月22日です。)

  翌日、僕達は、救護院に行って、あの親子に会った。僕達の考えを提案したら、母親(名前はビビさんと言っていた)は、それまでの暗い顔から、少し頬が赤くなり、目に希望の光が兆してきた。


  さっそく、農場から持ってきた荷車に、資材を積み込み始めた。まず、商品を陳列する棚を買った。次に、魔法道具屋に行って、必要な魔法道具を買った。魔光石、洗濯石、魔火石などだ。大量に買ったので、2割安くしてくれた。それが、儲けになる。薬草も、消毒、毒消し、火傷用を買った。ポーションも買いたかったが、後の予算もあるので、余裕があれば買うことにした。


  大工さんのところへ行って、大きな竈門を作ってくれるように頼んだ。あと、干芋や干し肉などの携行食を大量に買った。パンの材料になる小麦粉やイースト菌、バターなども買った。


  僕達とビビさん達は、荷車を引きながら、農場に戻った。明るく笑うビビさんを見て、僕は、その顔をボーッと見ていた。いなくなったシルを思い出したのだ。ビビさんは、今、23歳だそうだ。シルがいなくなったのも23歳位の時だったと思う。そう考えていたら、シェルさんが、ジト目で僕を見ていた。ハッと気が付いた僕は、顔を赤くして、一生懸命、荷車を引いた。


  農場に着いた。商品棚を設置し、品物を並べる。木の柵や土塁で壊れているところを直しておく。クレスタさんとノエルが、商品棚に商品名と値段を書いていく。看板も近くの木を削って作った。みんなでやると、何か楽しい。ビビさんも良く笑っていた。


  今日は、この農場にキャンプで泊まることにした。昨日、ゴブリンを殲滅したので、当分、沸いてくることは無いと思うから、安心して泊まれるだろう。


  僕達は、夕方、ギルドに行かなければならないので、シェルさんと一緒にギルドに向かった。農場が見えなくなったら、急いでいたので、お姫様抱っこで市内にに向かった。走りながらシェルさんが度々キスをしてくるので、その度に舌を噛まないように歩かなければならず、市内まで1時間以上かかってしまった。それでも、シェルさんと歩くよりは、1時間以上早かった。


  ギルドに行ったら、ギルドマスター室に呼ばれ、ダンジョン情報は本当であったこと。あのダンジョンは、この支部で管理することになったこと。そして、シェルさんの書いたマッピング情報が、かなり精度が高く、あのままでも販売できるレベルであることを教えて貰った。


  そして、あのダンジョンの命名権があるので、好きな名前を付けるように言われた。二人は、少し考えてから、声を揃えて言った。


    「「ビビ!」」


 ダンジョン情報及びマッピング情報で、金貨4枚になった。思いがけない高額に二人は喜んだのだった。

ダンジョンを発見してしまいました。ビビさんは、笑ってますが、旦那さんを亡くし、ゴブリン達に玩具にされ、それでも生きて行く決心をしました。子供達のために。

ビビの店、上手く行くと良いですね。

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