第2部第298話 商業ギルドその6
4ヶ月以上間が空いてしまいました。申し訳ありません。不定期ですが、投稿します。
(7月13日です。)
今日は日曜日だが、クラウディア様から任された『ロブ織布工房』の従業員の個々面接の日だ。面接官は、私とクラウディア様、それにブルニエさんもいる。ブルニエさんが、今回の採用に関する応募から書類選考、そして一次選考の筆記試験までやってくれたそうだ。勿論、以前から働いていたジュリアナさん達にも手伝ってもらっていたんだけど。一番最初はジュリアナさん達への面接だったけど、今まで奴隷のような扱いを受けていた女の子達が引き続きここで働きたいかどうかの意思確認だ。
新しく就職を希望する子達に対する採用面接は、やはり本人の性格を知るのが一番の目的だ。この工房は、10人の女工さん達で操業していたが、普通に考えても1台の力織機には、2人が付きっきりでなければならない。縦糸と横糸の補充や組み替えなどやらなければならないことが多すぎるのだ。それに立ちっぱなしの作業だから定期的な休憩が必要だ。
力織機は5台あるので、最低でも15人、糸や布を運ぶ要員も必要なので、30人位は雇いたいのだ。それと製品を荷車に積み込んだり、機械のメンテナンスをする要員も必要なので50人以上を採用しなければならない。でも適性の無い子達を大勢雇う訳には行かないので、ちゃんと面接しなければならない。
『職布工場』の工員達の待遇だが、1日の就業時間は8時間、時給880ギルなので7040ギル/日になり、週5日稼働で月に約15万ギル程になる。そこから寮の寝具洗濯代や食事代、それにお風呂などの光熱費を引くと、月に手取りで8万円程になる。給料は、毎月25日に現金で支払うが、当面は銀貨で支払うつもりだ。勿論、残業手当は、時給の2割増だし、休日出勤も同様の手当を支払う。有給の休暇は年に20日間あり、未取得の場合には、やはり2割増で買い取ることにしている。ブルニエさんが、それでは利益が出ないのではないかと言うのだが、他の生地メーカーよりも高品質の物を生産すれば、それなりの価格で流通させることができ、十分に利益が出るものと思われる。とくに、この工房は利益を出すことが目的ではなく、帝国本土ではできない超高級毛織物を生産する予定だ。
本当は、経営管理できる高学歴の経験者を採用したいのだが、ティタン大魔王国の王都にある大学に進学できるものは、元レブナント族の上位貴族や大商人等の富裕層の子弟に限られているので、この街で採用できるのは、ほぼ無理な気がする。今回の募集は、人種、学歴にかかわらず12歳以上であれば応募できるのであるが、簡単な読み書きと計算ができること、それと未成年の場合は両親または保護者の同意があることが条件にしている。今回の募集は、新規に20名を予定していたが、新規応募者は100名を超えていたらしい。昨日のうちに、簡単な筆記試験をしておいて、50名に絞っていたらしいが、それでも、今までの従業員のほかに50名の面接なんて、絶対に今日中に終わるわけないじゃない。
継続採用の10人の子達は特に問題がなかった。この工房を接収してから作業は停止していたので、休養タップリ、皆血色がよかった。全員がこの工房で働くことを希望してくれたので、全員を昇格させて『主任』職に任ずるとともにこれから編成する作業班の班長をやって貰うことにした。問題は、新規採用の子達だ。さすがに20歳過ぎの男性はいなかったが、それでも15歳以下の男の子が20人位応募していた。中には、10歳の男の子もいたそうだが、その子は書類選考の段階で帰って貰ったそうだ。
新規応募者は、16~17人のグループに分けて行った。最初に、全員を集めて、私がこの工房の成功経営責任者つまりCEOであると伝えると、何人かの男性達が帰って行った。こんな小学校の遊びみたいなところで働けるかという気持ちらしい。それからいよいよ面接が始まった。私は、中央の面接席で、待っている。既に面接も終わっている女工さんの何人かが手伝ってくれている。私の最初の受験者は17歳の魔人族の女の子だった。緊張して私の前に立っている。椅子に座るようにすすめると、そのまま座ろうとしたが、椅子が少しずれていて転びそうになっていた。まあ、落ち着いてください。
「お名前と年齢をどうぞ。」
「は、はい、デリモシャス、17歳です。」
「この工房を希望した理由はなんですか。」
「は、はい。布を織るのが面白そうだったからです。」
「他には?」
「あ、若い社長さんの下で働いてみたかったからです。」
「他には?」
「えーと、両親に勧められまして。」
「他には?」
少し考え始めている。行っていいかどうか迷っているんだろう。
「ここの給料とか待遇はどうですか?」
「勿論、とても魅力的です。あ!」
お顔が真っ赤になっている。つい本音が出たみたい。でも、それでいいと思うの。魔人族の女の子で、こんなに給料をくれるところなんかないはずだから。続けて質問する。
「今まで、何をしていたの?」
「はい、最初は食器売りのお店の下働きをしていたんですが、食器を割ると、売値の分、お給料をひかれてしまって。でも、一生懸命頑張って働いていたんです。でも・・・。」
「でも、どうしたの。」
「はい、1年位経った時、卸店から仕入れた品物を運んでいたんです。それで、注意して運んだんですが、お店に付いたら、すべてのお皿や茶わんが割れてしまっていて。それで、翌月のお給料がゼロになってしまって。そんなことが何回か続いていたんで、おかしいなと思ったんです。それで、あるとき問屋さんから受け取った荷物をその場で封を開けて調べたんです。そうしたら、すべて割れている食器ばかりで。私、ご主人様に文句を言ったら、殴られて首になってしまったのです。それからは、日雇いの仕事と内職で家族を養ってきました。」
「ご家族は?」
「両親と、妹がいます。でも父は、工事現場で怪我をしてしまって。簡単な作業鹿できないし、母は、いま夜のお店で働いています。」
これで、面接は終わりだ。勿論、デリモシャスさんは評価『A』を付けてあげた。それから、面接は進んだんだけど、ゴブリン族の女の子なんか面接中、泣き出してしまって。もう、今までの職歴を聞かない方がいいみたい。皆辛い思いをしているし、家族を養うのが大変なの。結局、すべての面接が終わったのは、午後7時過ぎだったんだけど、簡単な夕食を皆に配っておいたので、みな結果発表を待っていた。受験者の事情を聞くと、不採用することが出来なくなって。ブルニエさんも、女の子と小さな男の子達にはみんな『A』を付けていたみたい。クラウディア様は、全体を5グループに分けて、最低ランクの『E』グループ3人は、その場で帰らせたみたい。それから、なんとか4人程を振るい落として、最終合格者40名を発表した。
不合格者には、本日の日当及び交通費として1万ギル入りの封筒を渡して帰って貰った。もう、遅いけど、明日10時に、この工房に来て貰うことにした。それでは解散と言ったんだけど、一人の女の子が手を挙げてきた。聞けば、近くの村の出身で、帰ることが出来ないそうだ。昨日はどうしたのか聞いたら、工房の軒先を借りて一晩過ごしたらしい。仕方がない。班長の中でも筆頭のベロニカさんに世話を頼んでおいた。女子寮もまだ完成していないので、雑魚寝に近い状態だけど、まだ余裕はあるみたい。そんなことを頼んでいたら、あと3人の女の子も手を挙げてきた。
「もう、今日、ここに泊まりたい人、手を挙げて。」
え、みんな?男の子まで手を挙げている。うーん、困った。今、班長さん達が寝ているのは、工場の2階のスペースだけど、さすがにそこには全員は寝れない。と言って、今、建設中の女子寮が完成するのは、今年の秋以降だし。しょうがない。今まで働いた班長さん達は、私のお屋敷に移って貰って、工場の2階スペースには男の子達に寝て貰うことにした。あと、新規に採用した女の子達は、1人4000ギルの宿泊費を支払って孤児院に収容してもらうことにした。
明日、バンブー建設さんに工期短縮をお願いしよう。あ、あと男子寮も作らなくっちゃ。それから、引っ越しや孤児院の手配などをしていたら、お屋敷に戻ったのは午後10時過ぎになってしまった。10人の班長さん達は、初めて私のお屋敷に来て、物珍しそうにしていたけど、キラちゃんと銀ちゃんを見て、固まっていたわ。でも、私が、平気で銀ちゃんにモフモフしていたら、何となくだけど、慣れたみたい。皆には、2階の2部屋に分散して寝て貰ったんだけど、ほぼ雑魚寝状態だった。でも、今までも雑魚寝だったから何とか大丈夫みたい。みんなは、その日の夜は、いつまでも寝ないで話し込んでいたみたいね。
次の日の放課後、ブルニエさんが引率してメイド服の採寸をしてきた。とりあえず夏用の半袖タイプにしたんだけど、みんな初めての採寸でキャピキャピしていたみたい。可哀そうなのは、10人の男の子達で、普通の洋服店ではなくて、作業服や安全靴それに作業手袋を専門に売っている『マンワーク』というお店で、水色の作業服上下を2着ずつ買ったみたい。それもサイズが、『S』から『LL』までの4サイズしかなくって、あとは身体を合わせるようにと言われていたみたい。靴だって、布製で甲の部分に鉄板の入った『安全靴』という種類の靴にしたみたい。あ、それから魔人街の外壁近くに大きな共同住宅が売り出されていたらしくて、男子寮用として即金で買ったみたいね。部屋が20もあって、200万ギルって一体どんな建物なんだろう。見に行くのが怖いわ。
今回、新規採用した子達のうち、親御さんと同居していて、直ぐに就職しなくても良い子は、来年4月から来てもらうことにしたんだけど、男子は7名、女子は16名が行ったん帰ることになったの。まあ、仕事は、製薬工場と製糸工場の手伝いがあるんだけど、織布工場だって、いつまでも休業しているわけには行かないから、機械の点検・整備が終わったら稼働してもらおうかしら。元々働いていた