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第2部第297話 商業ギルドその5

(7月10日です。)

  ベリアードは、転移先の部屋のドアを開けてみる。誰もいない。周囲は真っ暗だ。カビと腐臭が入り混じった匂いがする。


  「ライティング。」


  灯を点ける。ベリアードは、夜目が効くが、真っ暗ではさすがに何も見えない。わずかな光があれば、昼のように見ることが出来るのだが。ドアの外は、長い長い洞窟になっており、蝙蝠やネズミ、虫などの洞窟に通常生息している生き物さえ全くいないようだ。奥に向かっていくと、至る所に屍が散乱している。その様子から、戦闘があったようだが、すべては屍だけが知っているようだ。ベリアードは、歩いていて妙な感覚を覚えた。おかしい、この洞窟は魔化に通じているはずなのに、よどんだ空気が、そよとも動いていない。


  3時間位歩いただろうか。洞窟は行き止まりになっていた。というか落盤でもあったように塞がれているのだ。こんな話は聞いていない。洞窟からは、それほど苦労せずに出られるはずだったのに、これでは出られないではないか。それに落盤にしては、すこしおかしいのは洞窟の大きさが変わらずに大きな岩が幾つかで塞いでいるのだ。天井から落ちてきたのなら、天上の崩落の跡があるはずなのに、それが見当たらない。上部も隙間なくびっしりと埋められている。まるで、誰かにふさがれたような感じだ。


  ベリアードは、右手でメイスを取り出し、岩盤に向けてから、詠唱を始めた。


  「地のしもべたるノームよ。その力を我に貸し与えたまえ。地よ、その力を示し、粉々に砕けよ。アース・ブレーク」


  岩盤が粉々になった。しかし、すべての岩盤ではなく、1m位奥までの範囲に限定されている。ベリアードは、舌打ちをしてから、メイスを喋るの様に持ち変えて、細かく砕かれた岩石を後ろに投げ捨てて行った。








  この日、第7小学校では、1学期の学習理解度テストが行われていた。勿論、私だって受けるけど、小学校5年生レベルならテスト勉強をする必要がない。最近では、この国の地理も歴史も得意科目になっている。というか、この国の歴史って、結構単純。人間族と魔人族の争いがずっと続いている。侵略したりされたりで、結構な犠牲者が出ている。でも、そんな争いも300年前の人魔大戦で、レブナントやグールに変身した人間族が圧倒的勝利を収めて、少し前までの体制が300年も続いたのだ。目新しい文明の開化も無ければ、背政治制度をはじめ、すべての社会構造が停滞していたのだ。ようやく、去年あたりからこの国の版図が変わったのだ。全てはゴロタ帝国の侵攻が原因だが、それにより不幸になったものが極端に少ないと言うことが、今回の戦争の特異点だろう。社会の勉強は、過去のどうしようもない戦争をたどっていくことではなく、新しいゴロタ帝国の社会制度や国民の生活にスポットを当てての授業だ。私にとっても目新しいことばかりで、今では、社会が最も好きな教科だ。


  ネネさんは、中学受験に向けて猛勉強中だ。小学生用の魔法の教科書などここにはないので、クラウディア様から借りている初級魔法全書を丸暗記しているみたい。まあ、何でも暗記するところから始まるわよね。私は、しないけど。毎日の魔法鍛錬も怠りなくやっているみたい。最近では、8個の火球を自由自在に動かしているし、細かな細工の人形も作れるようになったみたい。魔力も十分増えているようなので、久しぶりに冒険者ギルドに行って、魔力の確認をしましょう。放課後、冒険者ギルドに行ってみる。レッド・リリイの皆さんは、どこか近場で薬草採集をしているみたい。最近は、ネネさんがいないと、遠出には行かないみたい。それって、絶対ポーターの扱いではないわよね。ネネさんのポーター認定証を機会にかざしてみる。ガラス製のディスプレイに能力値が表示される。


*************************************

【ユニーク情報】2032.07.10現在

名前:ネネジェリカ・フォルテ・ビカフォード

種族:魔人

生年月日:王国歴2020年4月18日(12歳)

性別:女

職業:小学6年生 ポーター

******************************************

【能力情報】

レベル     10(3UP)

体力      35(10UP)

魔力      80(26UP)

******************************************


  これって、機械が壊れているんじゃない。わずか2カ月でこれじゃあ、私が可哀そうすぎるでしょ。『魔力80』って、聞いたところによると王宮魔導士レベルじゃない。わずか12歳で、これってチート過ぎるわよね。


  そんな、こんなで憤慨していると、後ろから声を掛けられた。


  「あのう、少し宜しいでしょうか?」


  振り返ると、20代後半の魔人族の女性が立っていた。慎重はかなり高くて、170センチ位あるんじゃないかしら。着ている服も、それなりに小奇麗なので、ある程度ランクが高そうなんだけど、でも、冒険者って感じじゃないわね。


  「何でしょうか?」


  私が、ネネさんの前に立って、聞いてあげる。こういう時って、ネネさん、怖がって全然ダメなの。いつもの私に対する態度を思い出しなさい。


  「あのう、失礼とは思ったのですが、そちらのお嬢様の能力測定値を見させて貰ったのです。」


  うん、これって結構失礼よね。能力値って個人情報の最たるもんだし。


  「あなた様はどなた様ですの?」


  「これは、失礼をいたしました。私は、人間界にあるモンド王国で近衛騎士団の副団長をしているデルミーナと申します。この国には、ゴロタ皇帝陛下の統治の支援部隊として派遣されている者です。」


  いけない、騎士様だった。格好からだけじゃあ絶対分からないわよね。しかも魔人族の騎士様なんて、今まで見たことなかったし。でも、そんな偉い騎士様が何の用なのかしら。


  「えーと、そちらのお嬢様のお名前が、『ビカフォード』となっており、もしかしたらモンド王国の『ビカフォード侯爵』家のゆかりの方かと思い、声をおかけした次第です。」


  え、『ビカフォード家』って、何?だってネネさん、孤児だし、この国の生まれだし。あ、ネネさんの生まれって聞いていなかったわよね。確か遠い国っていっていたような気がするんだけど。でも、遠い国ってどこ?この魔界では、ティタン大魔王国以外の国なんて、北のゴブリン族やエルフ族の国位しかない筈なんだけど。


  「わ、私、生まれたところは良く知らないの。父は2歳の時に死んだし、ははも4歳の時に死んでしまって。覚えているのは、母が、『一緒に国に帰りましょうね。』って言っていたことだけ。あとは、何も分からないの。」


  うん、以前、そんなことを聞いていたけど、それってもしかして、あの『モンド王国』に帰ろうってことなのかな。私は冥界図書館の『世界の国々図鑑』で知っていたけど、ネネさんは、ノエル様に聞いただけの筈ね。確か人間界の南大陸の最南端に飛び出ているような大きな半島のくにだったわよね。あそこは魔人族だけが棲んでいて、人間族との交流はない筈だったのに、ゴロタ皇帝になってから交流が始まったようね。あ、ネネさん、それならモンド王国の宮廷魔導士になればいいんじゃないかな。まあ、そんなことはどうでもいいけど、このデルミーナさん、何の用なんだろう。


  「ご両親のお名前を教えていただけますか?」


  「えーと、母に聞いただけですが、父は『ブラン』って言っていました。母の名前は、『ローズ』、『ローズブロッサム』と言います。」


  デルミーナさん、両親の名前を聞いたとき、少し眉が動いたみたい。本当に少しだけだけど。


  「ああ、そうですか。ありがとうございます。もしかしてと思ったのですが、私の思い違いだったかも知れませんね。私は、国防軍駐屯地におりますので、今度遊びに来てくださいね。」


  「ありがとうございます。」


  テルミーナさん、従者と一緒にギルドを出ていかれたけど、本当に何だったんだろう。


  それから、ネネさんと演習場に行って、魔法の練習を始めた。まず、『ライティング』ね。この魔法は適正なんかいらない。魔力を光らせればいいんだから。でも、取り敢えず『ライティング』と言って、手をひねらせてみる。何故、手をひねるのか分からないけど、そうすると結構うまく出来るみたい。でも、ネネさん、全く光らない。ただ、魔力が垂れ流れているだけ。もっと固めなくっちゃ。私は、ネネさんの右肘を握って、流れを制御してあげる。さあ、やってみて。


  「ライティング」


  ほら、ともったじゃない。じゃあ、5個位点けてみて。


  「ライティング、ライティング、ライティング、ライティング。」


  うん、これで5個光っているわね。後は、光量調整よ。魔力を込めると明るく。抜き加減で暗くなるでしょ。そうそう。じゃあ、5個を別々に調節してみて。できれば、右から左に次々と明るくしていくの。どう、できる。あ、なんかフンワカで、メリハリがないのね。仕方がないわ。私がお手本を見せてあげるわ。私だったら、一気に10個ね。ほら、こうやって円陣にして、それから明るくなる順番をイメージして、右回りね。次は、一気にすべてを明るくしてから、今度は左回り。どう、綺麗でしょ。赤い光や青い光もできるのよ。これ、なんて行ったかしら。あ、『イルミネーション』だったかな。あれ、ギルドの窓からみんなが見ているんだけど、こんなショボい技、見る価値なんかないと思うんだけど。



  夕飯がおわってから、『マロニー商会織布工場』に行ってみる。特に用事があるわけではないが、みんな元気かなと思って。当分の食事に困らないようにジュリアナさんには、20万ギルを渡しているのでキチンと食事をしているはずだ。工場では、ちょうど食事の準備中だったみたい。皆で当番表を作り、交代交代で作っているみたい。あと、何か困ったことがないか聞いてみると、何故か言いずらそうにしている。何だろう。


  「あのう、実は。この中に何人か、田舎の実家に帰ってみたいと言う子がいまして。12歳になって、田舎から出てきてから、一度も帰っていない子ばかりで。実は、私もそうなんですが。わがままなのはわかっているんですが、一度、田舎にかえっても宜しいでしょうか。」


  勿論、反対などするわけがない。ジュリアナさんは、シェルブール市の北にある小さな村の出身で、馬車で1日位離れているとのことだった。12歳になってから、村長の紹介で、この工場に就職したのだが、その時の村長の話では、とても良い工場だとのことだった。でも、来てみると聞いた話とは大違い。ほぼ奴隷に近い労働条件で、実家に帰ることなど全く無理だったらしい。それに、実家に帰省するといっても、駅馬車で往復7~8万ギルはするので、貯金もできない状況では、絶対に無理な話だった。今回、経営者が変わったことから、恐る恐る打診してみることにしたらしいのだ。でも、私は心の広いメイドだから、一人30万ギルの臨時ボーナスを支払うことにした。ああ、これじゃあ、またダンジョンに潜らなくっちゃ。

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