表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
741/753

第2部第291話 薬師マロニーその12

(6月29日です。)

  私は、木の陰、下草の中と次々に矢を放っていったが、中にはタイミングよく躱す猫もいた。しかし、姿が見えると同時に、フェルマー王子が瞬間的に移動して、ファングタイガーの首を狙って切り掛かっていく。薄く切ってしまって致命傷を与えられなくても、私の無属性の矢が、眉間を射抜いてしまう。流石に頭蓋骨を砕かれ、脳が破砕されてしまえば、いかにタフなファングタイガーといえども即死してしまう。でも、あまり群れる事の無いファングタイガーやデビルパンサーが、なぜこれだけの集団でいるのか?また、森の入り口付近でこれだけいるのは、どう考えても不自然だ。


  結局、デビルパンサー7頭、ファングタイガー5頭を殲滅していた。ここで剥ぎ取りをしても良かったが、剥ぎ取り処理費も銀貨1枚程度なので、剥ぎ取りをせずにそのまま空間収納にに保管をしておく。


  森の奥からは、まだ先程の『瘴気』が漂ってくる。何だろう。もう少し奥に進んでみる事にした。ザコ魔物のツインヘッドアナコンダや、フォーファングボアもキチンと狩りながら、奥に進んでいく。ドミノ様も戦闘に参加したそうだったが、今日のロケーションがドミノ様の火魔法とは相性が悪すぎるので、我慢してもらう。


  暫く行くと、唐突に開けた場所に出た。いや、開けているんではなく、大型の何かで木々が根こそぎ倒されているのだ。そいつは北西から来て、ここいらで東に向かったようだ。木の倒れた方向で分かる。取り敢えず後を追跡してみる。先程のファングタイガー達は、この謎の魔物から逃れて来たのだろう。足跡から見るとかなり大型だ。左右の足跡の間の草に重量物で擦ったような痕跡もある。フェルマー王子にドミノ様と手をつないでもらう。そして、ドミノ様のもう片手を私が持って、メイド魔法『空間浮遊』で上昇してみる。100m位上昇してみて、東を見てみると、魔物の所在がすぐに分かった。森がなぎ倒されていく。ゆっくりと近づいてみて驚いた。亀だ。いや、ライオンだ。いや亀だ。身体は亀なのだが、頭がライオンのようだ。長い鬣に覆われた顔は、ライオンのようだが、皮膚は亀のように大きな鱗で覆われている。特筆すべきは、甲羅だ。黒光りしていて、まるで金属の様だ。私は、この魔物の名前を知っている。冥界図書館の魔物図鑑の『希少魔物』編に搭載されている『ライオンヘッド・アダマンタイト・タートル』だ。初めて見た時、ライオンなのか、亀なのかはっきりしろと大笑いした記憶があった。今、見てみると、やっぱり亀だ。だが大きさが5mはありそうだ。重さもそれなりに重いだろう。でも、素材としてはアダマンタイトは超レア素材の筈。通常は、ダンジョン等の深い底にあるミスリル銀鉱脈から、ほんの僅か精製されるらしいのだが、この魔物1匹で、そんな鉱山の何年分の算出量になるのだろうか。聞いた話だが、同じ重さの金の3倍以上の値段が付くらしい。これは、討伐しない訳には行かないだろう。それにこれ程大きい魔物が徘徊していたのでは、安心して茸や薬草の採集が出来ないだろう。


  亀の後方、200mの地点に降下する。とりあえず、後方から1本の矢を『火』属性で射ち込んでみる。大きな爆発音がしたが、それだけだった。甲羅には傷一つついていない。ウーン、どうしようか。きっと剣だって、同じ結果になるだろう。試しにフェルマー王子に『斬鉄剣・紅』で切り付けて貰う。


  カキーン!


  素晴らしい音がしたが、相手には全くダメージがなさそうだった。私も、『虹の魔弓』で、『風神の暴風』と呟いてから矢を放った。大きな大きなウインドカッターが矢の周りを回転して、太い大木やらを切り刻みながら亀の甲羅に向かっていくが、『バチン!』と言う音とともにウインドカッターは消滅してしまい、矢は、どこかに跳ね返って行ってしまった。物理攻撃は全く受け付けないようだ。私は、『コテツ』を抜き、亀の進行方向の先へ『空間転移』する。見える範囲の場合、いちいち『ゲート』を開かなくても、イメージだけで転移できるようになっていた。


  亀のライオン頭の鼻先を切り付ける。あ、効いた。鼻先をに一条の切れ目が入り、血が噴き出してくる。ライオン頭、あっという間に甲羅の中に引っ込んでしまい、お腹側の甲羅で蓋をしてしまった。手足も同様に引っ込んでしまった。私は、背中の甲羅の上に登り、背中とお腹の甲羅の間の隙間を探す。かなりぴったりとしているが、亀だって呼吸するはずだ。その空気の出し入れ用の隙間があるはずだ。あ、あった。お腹の甲羅と背中の甲羅の合わせ目の一番上に、10センチ位の長さの隙間があった。私は、『コテツ』に『火』の力を流し込む。いわゆる竈門の燃料に火を付ける程度の力しかないが、思いっきり流し込んでいく。コテツの刀身から、まばゆいばかりの炎が立ち上ってくる。そのまま、隙間に差し込んでいく。最初、何かの抵抗があったが、そのまま構わず力任せに差し込む。肉の焼ける匂いがする。亀が動いた。苦し紛れに、蓋を開けて、ライオン頭を伸ばしてくる。頭の根元、つまり首の上部から血が吹き出ている。あそこは、伸び縮みさせるための固い甲羅が貼られていないようだ。手足を伸ばして暴れようとしたので、そのまま、メイド魔法『空間浮遊』を発動する。こんなに大きな亀が持ち上がるかなと思ったけど、なんか余裕で浮かび上がった。もう、伸ばした手足をジタバタしても全く移動などできない。


  炎を消して、通常の『コテツ』に戻してから、首の根元、柔らかい所に『斬撃』を飛ばした。あ、首の反対側、つまり地面側から『斬撃』が抜けていった。これで、ライオン頭は力を失って、ビローンと伸びた形のまま下にぶら下がってしまった。これで『殲滅完了』ね。


  フェルマー王子とドミノ様がやって来た。


  「マロニーちゃん、本当にチートよね。一人で殲滅してしまったじゃない。」


  「いえ、フェルマー王子の最初の一撃が効果を上げたのです。」


  「冗談はよしてよ。僕、完全に自身無くしてしまったよ。」


  「何を仰るのです。今回の冒険、メインは冒険者であるフェルマー王子様達ですよ。私はメイドのポーターですから。」


  空間収納に亀をスッポリ格納しておく。5mの亀位楽勝よ。さあ、帰りましょうか。ドミノ様が、『私、要らなくね。』と言っていたが、そんな事はありません。キチンと役に立ってます。だって、ドミノ様がいないと、私とフェルマー王子の二人っきりになっちゃうじゃ無い。それって、絶対にまずいわよね。私みたいなうら若き乙女にとっては。


  冒険者ギルドまでは、取り敢えず私のお屋敷まで『空間転移』し、そこから冒険者ギルドまで3人で向かう。まだ、お昼前なので、冒険に行かずに併設のレストランで飲んでいる冒険者位しかいなかった。私が、依頼達成の受付に行く。勿論、フェルマー王子たちも一緒よ。でも、受付に話しかけるのは私なの。


  「あのう、依頼を達成したんですけど。」


  「あら、マロニーちゃん、久しぶり。こちらの方達は、どなた?」


  「あ、お二人はゴロタ帝国の冒険者さん達なの。」


  「え、ゴロタ帝国?」


  最近、受付の女性の方も随分親しくなったけど、さすがにゴロタ帝国からの冒険者には驚いていたみたい。あ、この女性、もとグール族の方で、名前はジョセフィさんと言うらしいの。


  「いらっしゃいませ。冒険者ギルド神聖ゴロタ帝国ティタン大魔王国統治領支部でございます。本日はどのようなご用件でしょうか。」


  あ、私とは大分態度が違うんですけど。フェルマー王子、目を白黒させている。


  「今日は、薬草採取の依頼達成と、後は、素材の買取をお願いしたいの。」


  「あ、あの氷漬けの依頼ですね。分かりました。どうぞ、達成のインシデント、つまり『癒し草』100本をお見せください。」


  カウンターの前に100本の『癒し草』が入った袋を置く。すぐに鑑定人が調べていたが、すべて上等の『癒し草』と判明したみたい。依頼達成の報奨金1万ギルを受領する。勿論、『癒し草』の買取はお断りする。だって、ギルドで利益を上乗せして『マロニー薬品』に売るんだもん。私が直接降ろした方が安いでしょう。


  「あと、魔物も引き取りをお願いしたいのですが。」


  ビルパンサー7頭、ファングタイガー5頭をカウンター前に積み上げた。うん、かなりの量かな。あ、いけない。傷口から血が滴っている。


  「あ、すいません。裏の処理場に運んでいただけますか。」


  そのまま、運んでも良かったけど、一旦、空間収納に格納してから、裏の解体処理場まで行って、再度、空間収納から取り出して並べた。皆、きれいな獲物だ。鑑定人が身体の損傷を調べている。ジョセフィさんが、


  「このまま、納品された場合、解体処理費が1体につき、銀貨1枚、いえ1万ギルかかりますがどうしますか。」


  と聞かれたので、お願いすることにした。ファングタイガーは、牙と毛皮と魔石で、1体につき250万ギル、デビルパンサーは1体につき200万ギルで引き取って貰えた。解体費が1万ギルなんて安いものだ。最後に、ライオンヘッドアダマンタイトタートルを取り出す。あ、ジョセフィさん、目が点になっていますよ。この亀、なかなかいない希少種らしい。何十年かに一度、死体で見つかることがあるらしいの。生体の場合、発見しても魔法攻撃も物理攻撃も効かないので、討伐されたことはないとのことだった。死体で見つかった時は、ほとんどが甲羅と骨格だけになっているので、このような完全体を見た人もほとんどいないそうだ。鑑定人が、サイズや傷口を調べている。処理は難しいので、処理費は高く付くが買取は可能だそうだ。


  一般的に大型の亀の場合、肉も超美味らしいので、丁寧に肉を甲羅から取り出すらしい。あと、甲羅の内側に付いているブヨブヨしている部位も人気がある。この亀もそうなのかは知らないが、総重量が3トン、そのうち、甲羅が2トンあるので、お肉だけでも1トン近くはあるだろう。お肉はキロ2000ギルで引き取るとのことだったので、それだけでも200万ギルになる。魔石は、150万ギルで引き取るそうだ。そして甲羅だ。甲羅は、少なく見積もっても2トンあるだろうから、金の3倍の価値、つまりグラム当たり27000ギルの200万倍、540億ギルになると言われた。えーと、大金貨5400枚かな。フェルマー王子とドミノ様、何故か震えていた。でも、処理費と販売手数料がかかるから、実際の引き取り価格は400億ギル位だと言われた。フェルマー王子とドミノ様、何故、震えているんですか?


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ