第72話 ああ 巨龍戦争
もう、訳が分かりません。
(7月8日です。)
僕達は、今、セント中西部郡の郡都セント市に向かっている。チャーターした駅馬車の旅だが、昼食と野営の朝・夕食は、クレスタさんとノエルさんが作ることになってしまった。僕は、食材及び燃料集めだ。当然シェルさん達は、枯れ枝を拾いに散歩に行く。
イレーヌさんは、ゲール総督に紅茶をいれたり、テントに寝袋を敷いたりと細々と世話をしている。見ていて痛々しい。あ、当然、寝袋は、自分の寝袋をゲール総督のテントの中に敷いているのだ。
僕は、毎朝、実体の無い剣の練習をしている。なかなか上手くできない。まず、実体化に要する時間だ。剣を抜くスピードより遅いのでは役に立たない。ところが、急いで実体化しようとすると、熱の暴走のようになってしまい、周囲に大きな被害が出てしまう。と言って、ゆっくりやっては間に合わない。
でも、時間は、有るんだ。じっくりやるつもりだ。
こうして、スカンダル市の東側、一番近い都市、セント市まで、4つの町村での宿泊と7回の野営をして、ようやく着いたのである。
------------------------------------------------------------------(7月20日です。)
この辺、一帯はセント中西部郡と呼ばれている。郡都はセント市。本当に相違も工夫もないネーミングだ。中西部郡長官は、ホイップ上級5等認証官、今年、採用になったばかりの新人らしい。人口は6万人、常駐帝国軍は6000人、周辺市町村は、3市5町9村である。
城壁は西側にのみあり、東と南北は自由に出入りできるが、それは市民の場合だ。奴隷と旅行者は、西側城門から入らねばならない。僕達は、城内に入ろうとする行列に並ぶ。ゲール総督とイレーヌさんも今は平服だから、普通に並んでいる。二人は、数日前から、平服に着替えているのだ。軍務庁からは、平服着用の許可は得ていたのだが、平服になる機会を失っていたので、軍服を着続けていたのである。しかし、旅行が長引くと、制服も傷んでくるので、漸く平服を着ることにしたそうだ。
イレーヌさんは、平服をあまり持っていないので、エーデル姫にミニスカを借りて着ている。胸がちょっと余っているようだが、年齢が違うから(1歳だけだ)仕方がない。イレーヌさんもきれいな脚をしている。
僕達は、30分位並んで、中に入ることが出来た。点検をしている帝国軍の兵士さんは冒険者証の中身をチラっと見て驚いていたが、特に何も言われなかった。それよりもゲール総督の方が問題だった。ゲール総督が、証明書を出す前に、兵士さんが直立不動の気を付けをしたのだ。帝国軍最年少大佐は、帝国内で知らない人がいないみたいだ。ただし、軍人限定だが。
大きい都市なので、ホテルも沢山あった。予算は潤沢だが、中の上位のホテルにした。女性陣の要望は、お風呂があること。大浴場があれば、なお最高との事だった。
総督達はツインを取った。僕達は、ダブル1個とツイン二つにした。最近は、僕と誰か1人が寝て、後は別室で寝るようにしている。一度に2人は、さすがに疲れてきた。今日は、ノエルと一緒に寝る番だ。部屋に入って、ノエルが皆と一緒に大浴場に行った。皆が帰るまで、ぼんやりしていると、バイオレットさんが急に現れた。当然、素っ裸だ。
『え、呼んでないんですけど。』
バイオレットさんは、ウフフと笑って近づいてきた。この前も思ったが、物凄い巨乳だった。それは、銀色の長い髪の毛で隠れているんですが、下の方までは隠しきれず。見えてます。見えてます。
僕は、イフちゃんを呼んだ。イフちゃんは皆と一緒に大浴場だったらしく、濡れたままの素っ裸で現れた。すぐに、事態を察したイフちゃんは、預かっていたミニスカと下着セットを出してくれた。その後、またお風呂に戻っていった。
ゆっくり、服を来たバイオレットさんは、僕の隣に座って、
「こんばんわ、ゴロタ君。」
僕のうなじに息を吹きかけた。
その時、部屋のドアがドンドン叩かれた。ドアを開けると、シェルさんが飛び込んできた。シェルさん、寝間着が乱れたままです。髪の毛から水が垂れています。シェルさんは、そんなことに構わず、バイオレットさんを睨みつけ
「あなた、何しに来たの。」
「ええ、おいしいものを食べに。」
「それじゃあ、何でゴロタ君のところへ来るのよ。」
「うふふ、ゴロタ君が好きだから。」
「年の事を考えなさいよ。あなた、一体今いくつなの?」
「え、18よ。」
「嘘、嘘つき、大人の黒龍は300歳以上だって婆やが言っていたわ。この大嘘つき。」
「ふふ、可愛いわね。」
そこに、エーデル姫、ノエル、クレスタさん、そして役に立たないイフちゃんが来た。それからの修羅場、もう僕は逃げ出したかった。エーデル姫とクレスタさんは、バイオレットさんの胸に負けていなかった。いや、クレスタさんの方が、ちょっと勝っているかもしれない。
これが、世に言う『巨龍(巨乳)戦争』だった。
------------------------------------------------------------------
龍種は、その存在そのものが魔法であり、精霊であることから、変身はできる、空間移動はできると、チートな存在で、ワイちゃんみたいに何もできない方が珍しいそうだ。でも、バイオレットさんにすれば、ワイちゃんは、やっとできた子供なので常に監視をしていたそうだ。そこで、この前、僕が召喚した時に、一緒に召喚され、僕にマーカーを付けたらしい。
あとは、いつでも好きな時に僕の傍に移動できる。その際、人間の姿にももとの黒龍の姿で自由自在だ。ただ、イフちゃんみたいな精神的存在ではないため、服を作ったりはできない。返信できるのは、生物限定、しかも人間のような高等なものでなければ、駄目だそうだ。犬とか猫と豚とか、なれないことは無いが、生理上無理だと言っていた。あと、黒い動く化石も無理。
で、今晩は、ホテルのグリルでディナーだ。このバイオレットさん、かなり大食いな方で、最初から、2人前を頼んでいる。結構、高級なグリルなので、値段が気になるが、バイオレットさんは金色のを1枚、持って来ていた。素っ裸のバイオレットさんが、金貨1枚だけを持っているのを想像したら笑える。そう考えていたら、バイオレットさんの顔が少し赤くなっていた。心を読まれているみたいだ。
『山の宝物庫』には、本当に山のように積まれているそうだ。でも、バイオレットさんが、濡れた瞳で僕を見て、
「欲しい?」
と聞いてきたとき、シェルさん達は目が三角に吊り上がった。ホテルのディナーは、美味しかった。
オードブルは、鹿肉の燻製とアンチョビのテリーヌ
サラダは、タラバガニの鋏とレタスの盛り合わせ
スープは、ほうれん草のクリームスープ
魚料理は、シマアジのバーナー焼き、ワサビを添えて
肉料理は、何の肉か分からないが、バターソテー
デザートは、ケーキのお好み食べ放題と紅茶かアイスティー
この街でも、かなり美味しいとの評判だったが評判通りだった。しかし、気になったのは、バイオレットさん、目立ちすぎ。はちきれんばかりの胸。ボタンとボタンの間がパッツン・パッツン。
ものすごく短いミニスカートから真っすぐ伸びてるスレンダーな脚。色っぽい仕草。完全に女の敵、男の夜の友。
というわけで、食後、帰って貰おうとしたのですが、明日、買い物をして帰るから付き合えと言ってきた。
夜、寝るときになって、僕と寝ると言ったが、それだけは許されなかった。仕方がないので、クレスタさんと寝ることになった。僕は、ノエルと寝ることにした。シールドを張って。
------------------------------------------------------------------
(7月21日です。)
翌日は、3組に分かれた。クレスタさんと、ノエルは、バイオレットさんと買い物だ。僕とシェルさんとエーデル姫は、冒険者ギルドへ。
ゲール大佐と、イレーヌさんは帝国軍セント駐屯地司令部へ。
僕は、シェルさんが右側、エーデル姫が左側の腕を取られながら、ぶらぶら市内をデートして歩いていた。変わった食べ物の屋台があったので、買ってみたら、カエルの卵という事で、直ぐに吐き出したり、防具やで、胸の突き出た鎧をシェルさんが試着して大笑いしたり、楽しい時間の後、冒険者ギルドに着いた。かなり大きなギルドで、この前のような事が無いよう、今日は、つば広帽子を深く被ってギルドに入っていった。
冒険者達に興味の目で見られながら、依頼ボードを見ていたら、ゴブリン退治があった。依頼者のサインがいかにも幼さそうだったことと、成功報酬が大銅貨2枚と、依頼の最低額だったことが気になり、ボードから取り外してカウンターに持って行った。
「いらっしゃいませ。帝立冒険者ギルド、セント市支部へようこそ。本日は、依頼の受注でしょうか?」
「この依頼。サインから見て、随分小さな子みたいだけど。」
「良くお気づきになられました。この依頼は7歳のお嬢ちゃんの依頼です。依頼内容は、ゴブリンの依頼ですが、最近、この周辺にはゴブリン・ロードが出没するので、大銅貨2枚では、受注する冒険者もいなくて。」
「僕達は、顔を見合わせた。」
「この依頼場所は、ここから遠いのですか。」
「いえ、歩いて2時間位ですわ。」
「受注します。」
僕の冒険者証をみて、受付の人は、目が大きく見開いた。そして、王国出身の『A』ランク冒険者でクイール市を壊滅させたものがいると。それは、信じられない位小さな美少年だったという情報を思い出した。
「りょ、了解しました。ちょっとお待ちください。」
受付の女の子は、裏の事務所に走っていった。また、このパターンか。この後、ギルマスが出て来て、応接室に案内されてのパターン。もう飽き飽き。
すぐ、受付の子は帰ってきた。特別のイベントはなかった。
「それでは、お願いします。受注料は減免されております。」
報酬金額が大銅貨4枚以下の場合は、受注料金は発生しないことになっている。
僕達は、市から南へ10キロ位の依頼場所に向かった。
巨龍戦争、いかがだったでしょうか?
この戦争に、シェルさんは参加していません。




