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第2部第289話 薬師マロニーその10

(6月25日です。)

  なんか、変なことになってしまった。あの製糸工房に向かうのは、クラウディア様と私以外には、警察官が40名、行政庁の職員が12名、それとアンドロイド兵が120名ですって。これって、絶対におかしいわよね。いえ、クラウディア様が行くのはいいのよ。でも、なんで私も先頭で歩いているのよ。それに、クラウディアさん、その服と装備それから武器は何処から出してきたんですか。孤児院の空き部屋に入ったと思ったら、出てきたときにはその格好ですもの。クラウディアさんも絶対、『空間収納』魔法を使えるわよね。


  製糸工房に行ったら、門が固く閉ざされていたの。でも、アンドロイド兵が何か細工をしていたかなと思ったら、鉄製の門がひん曲がってしまう位の爆発が起こったの。敷地の中に入っていったら、見るからにガラの悪そうな連中が16人位、工房の前に並んで跪いている。手を頭の後ろに回して、降参のポーズだ。


  警察官の一人が令状を読み上げてから、全員に手錠を掛けていた。あの手錠、鍵穴がない所を見ると魔道具ね。工房の入り口を開けたら、既に機械は止まっていて、中には女工さん達しかいなかった。クラウディア様が先頭で入って行って、とても大きな声で皆に呼び掛けている。


  「皆さん、ご安心下さい。私は、神聖ゴロタ帝国ティタン大魔王国統治領の総督をしております『クラウディア』と申します。ここは、違法労働及び青少年健全育成法、それと殺人罪、監禁罪、暴行傷害罪そのほかの罪で帝国が接収いたしました。皆さんは、もう自由です。これから、警察官や行政庁の職員が案内をいたしますので、安心して指示に従ってください。なお、寮に私物がある方は、お持ちになっても結構です。」


  でも、だれも動こうとしない。寮といっても自分の部屋やロッカーがあるわけではなく、ここに来た段階で私物は全て押収されるらしいのだ。工房の中だけで、38人の女工さんがいた。19人ずつ2交代で仕事をしているらしい。1日の勤務時間は、連続13時間だそうだ。勤務終了は反対番と交代した段階だそうだが、ずっと立ちっぱなしで、もうフラフラらしいのだ。寮に戻る前に食事をして、あとは、前の人が寝ていた布団に潜り込んで寝るだけ。就勤の1時間前に起こされ、食事をしたらすぐに工房に向かうのだが、13時間勤務と言う事で、13日間かけて昼番と夜番が後退になるらしいのだ。着る物は粗末な貫頭衣だけで、下着はないそうだ。冬場は、毛布をかぶって作業をさせられるらしいが、手足がしもやけだらけになっても放っておかれるだけらしい。


  給料は、月に12デリスの約束だったが、食事代と宿舎代それと衣料代で天引きされており、残金は、貯金されているらしいのだが、どれくらい貯金されているのか知らされていないので、実質、搾取と同じことだ。あと、倉庫の管理や出荷、原料の入荷などの作業は、別の女工さんたちがやるのだが、彼女らは、早朝から7時間勤務し、2時間の休憩を挟んで7時間の勤務となっている。と言うことは、布団に入れる時間は6時間しかないことになる。


  あまりの過重労働で次々と倒れてしまうものが多いが、ほとんどの者はそのままいなくなってしまうそうだ。あのノムさん達が閉じ込められていた部屋で衰弱死するまで放置されていたのだろう。結局、荷物運搬作業の女工さん達は18人いたので、全部で56人の女工さんがいたわけだ。すべて女性ばかりなのは、女性でもできる仕事だと言うほかに、監視員たちに力で対抗させないために、あえて女性だけにしていたらしいのだ。はっきりは言わないが女性特有の被害にあった女の子もいるものと思われた。まあ、あとで女性警察官から事情聴取されるだろうから、暴行野郎は死刑だわね。


  でも、この製糸工房、どうやって作業をしていたのか全然分からないわ。やはり技術的なことは、実際にやっていた人たちに聞かないと。でも、さすがクラウディア様、機械をいろいろ調べて、機械の動かし方が分かったみたい。


  「マロニー嬢、この製糸機械を少し改良します。あんなに大勢の人たちが24時間働かなくても同じ量の製糸ができるようになるはずです。機械が稼働するまでに、必要な女性工員26名と、荷物搬送用の男性作業員12名を雇用しておいてください。あと、経理などの管理部門については、行政庁の徴税職員の中から何人か派遣しておきます。勿論、その者達の給料もお支払いお願いします。」


  「あ、はあ。」


  もう、何も言えなかった。クラウディア様、凄すぎる。年齢は15歳位にしか見えないけど、『空間収納』が使えて、知識も記憶力も人間離れしている。一体、どんな頭をしているのかしら。まあ、胸が小さいのが唯一の欠点かも知れないけど、それでも顔はとんでもないほどの美少女だし。





  結局、この子達の殆どは、このまま製糸工房で働くことになったの。まあ、能力に応じて事務の仕事だってあるし、これから就職先を探すのも大変だろうからね。あ、ここの社長は、元レブナントの下級貴族だったらしいんだけど、大きなお屋敷に住んでいて、資産も大分ため込んでいたらしいわね。全て没収になったんだけど、その中から、彼女達の今まで働いていた期間に応じて、キチンと給料を再計算して支給したんだけど、一人当たり200万から300万ギルにはなっているみたい。まあ、押収した資産のうち、高級調度品や宝石類それにお屋敷を売却したので、十分に間に合ったみたい。あと、帳簿のごまかしもあったので、脱税の罪もあり、期限なしの犯罪奴隷落ちとなるみたい。


  クラウディア様から、現在の木綿製糸のみならず、絹糸も製糸するように勧められたの。絹糸って『蚕』という芋虫の繭から依り出すんだけど、私は、虫恐怖症だから、ノータッチね。でも、利益率が高いそうだし、近隣で養蚕業をしている農家もいるので、安定的に原材料が入手できるらしいの。


  今の木綿製糸ラインとは違うラインを作るらしいのだけれど、それほどの施設はいらないみたいなことを言われたの。それと、今の人数では生産拡大は難しいので、ゴブリン族の女の子達も採用してもらいたいような事を言っていたわ。採用条件は、魔人族の子もゴブリン族の子も同じで、12歳以上の健康な女の子ね。1日8時間勤務で、早番が午前7時から、遅番が午前10時からで、2時間に一度10分間の休息があるし、お昼休みは、それぞれ1時間あたえるの。午前7時出勤の子は、午後4時には就業となり、午前10時出勤の子は、午後7時に就業ね。週休は4日、毎日曜日ね。あと、土曜日は半日勤務よ。そのほかに年間に10日の有給休暇があるし、翌年持ちこした場合には、最大20日間の有給休暇になるの。これは、自由にとれる休暇なので、現場責任者に届けるだけでいいことにしたの。


  これで、基本給は12歳の新規採用者で月に8万ギル、夏と冬には賞与が2か月分支払われるので、年収は128万ギルね。当然、税金は払ってもらうけど、それ以外は一切天引きしないわ。あの劣悪な寮は大改築して、2階建ての20室の寮にするの。1室4人部屋なので、80人は入寮できる。お風呂もあるし、朝夕の食事も提供して、寮費は月に3万ギルにしたの。勿論、男子禁制よ。寮母さんは、食事の準備や寮の掃除などがあるので、3人住み込みで雇うことにしたの。新工場と寮の完成は2カ月後らしいので、それまでは、孤児院に住んでもらうか親元から通いとしたんだけど、ほとんどの女の子が孤児院居住を希望していたの。聞くと、この街出身者はほとんどいなくって、いても孤児院出身者ばかりだったの。まあ、ノムさんもそうだしね。


  2日後、ノムさんのほかに、2人のメイドを雇ったんだけど、2人とも他の孤児院出身者だった。一人は茶髪のミロちゃん14歳、もう一人は赤毛のキリちゃん15歳の女の子だった。二人とも背が高く170センチ近くあるの。私なんか、見上げなければ顔も見えないくらいなんだけど、力もあるようだから大丈夫ね。ダボラさんがメイド長と言う位置づけなので、3人はダボラさんの部下になるんだけど、当面、することもないので、お屋敷の内外の掃除と洗濯位ね。あ、掃除は、少しドリアのために残しておいてね。ドリアは、私付きのメイド、つまり秘書みたいな役なので、皆よりは、ちょっと格上だけど、まあ、年齢も27歳だから、それでいいかなって。その時、ちょっと気が付いたの。私もメイド服を良く着るんだけど、このお屋敷って、メイドしかいないお屋敷になっちゃった。まあ、そのうち、執事さんと庭師さん、それとシェフさんが来るんだけど、彼らは通いにして貰うの。本当は、敷地内に別棟で使用人棟を作ればよいんだけど、もう少ししたら、今の領主館に移るんで、今作るのは勿体ないもんね。


  夕飯まで、少し時間があったので、グレーテル王国の子爵邸に『空間転移』して、ピアノの練習をしようと思ったの。でも、もう工事の人が資材を運び込んでいたので、ピアノの練習どころじゃなくなってしまい、それと、このままでは大切なピアノに傷がつきかねないので、取り敢えず、空間収納にグランドピアノとイスをしまい込み、また、お屋敷に戻ることにしたの。あ、その前に『タイタンの月』を幾つか買って帰ったわ。ノムさん達へのお土産ね。


  その日の夕食は、全員がキッチンテーブルに座ったんだけど、ぎりぎりだったわ。長方形のテーブルで長辺に4つずつ椅子が置かれ、短辺に1つずつの椅子が置かれていたんだけど、短辺の椅子には私が座り、あとは窓側にドビちゃん一家4人が、大広間側にはドリア以下メイド4人が座ったの。ノムさん、うちのお屋敷で初めての食事になったんだけど、今日のメニューのカレーライスを初めて食べる子もいて、なんかホッコリしてしまうの。あれ、メイドのうちでも茶髪のミロちゃん、何で泣いているの。聞いたら、死んだお母さんに食べさせてあげたかったらしいの。それを聞いていた赤毛のキリちゃんも泣き始めちゃって。あのう、食事は楽しく食べましょうね。

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