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第2部第286話 薬師マロニーその7

(6月22日です。)

  日曜日の今日、朝から『マロニー薬品』に出社して、まず商業ギルドや冒険者ギルドから仕入れた薬草類の仕分けをする。工房の若手の何人かが必死にメモをとりながら見入っている。1級品から3級品までと、等外つまり廃棄するものに仕分けていく。廃棄するものについては、一旦預けて、なぜ廃棄になったかを見極めさせるのだ。良い薬草は、匂いも強いし、噛んでみても薬草それぞれの成分の味がするので、誰でもすぐ分かるけど、等外品の見極めが難しい。薬効成分が20%以下を廃棄基準にしているんだけど、こればっかりは、私の鑑定能力のおかげなので、21%のものと明確な違いなんか教えられないわ。でも、プロなんだから頑張ってね。


  それから、工房の中を見回って、調剤レシピ通りに作っているかどうかを確認して歩く。ベネッサさんは、朝、出勤してから、まず『聖水』作りをして貰う。それから、回復ポーションの原液に『ヒール』を掛けて貰っている。午後からは、お客さんの治療相談に乗って貰うの。体温を測って、脈を見て、それから聴診器で呼吸音や心臓音を聞くの。この聴診器、ケーシーさんから譲って貰ったんだけど超便利。だって、患者さんの胸に耳を当てなくって済むんですもの。


  帝国の工業品なんだけど、ゴム管が二股に分かれていて、耳に当てるところは、柔らかい差し込みになっている。胸に当てるところは、小さいカップになっているんだけど、本当によく聞こえるわ。後、熱のある人は、口を開けて貰って、舌と喉の奥の状態を見るのね。


  喉が腫れている人には、『消毒うがい薬』を処方すれば良いし、熱のある人には、『解熱剤』ね。後、頭痛には『痛み止め』を処方するんだけど、『麻痺草』の希釈液を処方している。とにかく、大勢の人達を診て貰って経験を積むことが大切。帝都には治癒師の専門学校があるって聞いたんだけど、もう少し治癒師さん達が増えたら、ベネッサさんを始め何人かに行って貰おうと思っているの。


  今日は、私がいるので、ベネッサさんでは判断が付かなかった患者さん達が待っていた。一人ずつ診察をしたけど、殆どが内臓疾患の患者さんだった。お酒の飲み過ぎや、塩味の強い物を食べ続けて具合の悪くなった人もいたが、何人かは、明らかに内臓にオデキ

ができている人もいた。軽症の人は、キノコの抽出液で何とかなるけど、重症の人は、『麻痺草』と『芥子の実』から作った痛み止めを飲んでもらうしかない。


  帝国の研究所では、お腹を切って、おできを取り除く技術を研究中だって聞いたわ。それって冥界図書館で読んだ『現代医学と外科手術の発展』と言う本に書いてあった『外科手術』と言う技術なんでしょうね。でも、ここでは施設も技術もないんですもの。諦めて貰うしかないわね。





  そうやって、患者さん達の病状を聞いている時に、急にゴータ様がお店に現れたの。え?何で?


  ゴータ様、私が薬局を開いた事を聞いて、様子を見に来たんですって。もう、私、舞い上がってしまって。ゴータ様は、いつもの冒険者服ではなくって、平民が着る様な朝の半袖シャツに木綿ズボンと言う簡単な服装なの。剣も下げていないし。


  私、ゴータ様を案内して回ったの。工房の中や、薬草保管庫、それに薬局の向かい側の治癒院建設予定地なんかをね。あと、ベネッサさんは一度会った事があるだろうから、ここで働いている事を伝えたんだけど、ベネッサさん、顔を真っ赤にしながら挨拶をしている。あれ、なんか怪しいかも。


  最後にドリアを紹介したの。私の出身国で、後輩メイドとして働いていたって紹介したんだけど、じっと見つめているの。何、ゴータ様。ドリアが気になるんですか。


  「君、今、幾つ?」


  「は、は、はい。」


  そのまま黙ってしまった。何、怖がっているのかしら。あ、もしかして、ゴータ様があまりにも素敵なので、上がってしまったのかしら。


  「君、ダンジョンで見つけられたって聞いたんだけど。」


  「あれ?どうして知っているのかしら?」


  「す、すみません。前のご主人様から、ダンジョンの底に置いていかれまして。」


  「ふーん、君の前のご主人って、どんな人。」


  「え、準男爵様だと聞いております。」


  「そう、まあ、マロニーちゃんと仲良くしてね。」


  「は、はい。」


  「ところで、マロニーちゃん、最近、凄い薬を作ったんだって?」


  「はい、お聞きでしたか。えーと『蛍の光の花』と『長命草』などを調合して作る『最上級ポーション』のことですね。」


  「うん、まだ在庫があるのなら、見せてくれないかな?」


  「喜んで!」


  私は、空間収納から『最上級ポーション』2ジョンを取り出した。この前、ケーシーさんのお孫さんに作ってあげた分の残りの分だ。ゴータ様、色を光で透かしたり、匂いをかいだりした後、返してくれた。


  「このポーション、こちらでは『エリクサー』と言うんだけど、この薬、マロニーちゃん一人で作ったの?」


  「はい、図書館で読んだ『薬学全書』と言う本に製造レシピが載っていましたので。記憶をたどりながら作ってみました。」


  「ふーん、凄いね。ところで、グレーテル王国の子爵になったんだってね。凄いね。」


  「あ、はい。もしかしてゴータ様、お貴族様は嫌いですか?」


  「え、そんなことないよ。ただ、マロニーちゃんは10歳なのに凄いなって思って。」


  「はい、グレーテル市にお屋敷も貰ったので。今度、是非、遊びに来てください。」


  言ってから、顔が真っ赤になってしまった。殿方を自宅に招待するなんてレディとしてはしたないと思われてしまうかも。でも、もっと驚いたことがあるの。これから私のお屋敷に来てくださるんですって。最初は、魔人街のお気に入りの定食屋でお食事でもと思ってお誘いしたんだけど、なんと私のお屋敷でお昼を食べたいんですって。


  早速、お屋敷に案内したんだけど、うっかり、そのまま玄関に入ってしまったの。当然、キラちゃんが元の姿で寝そべっているし、銀ちゃんだって銀狼のまま。でも、さすがゴータ様、顔色一つ変えないの。と言うか、キラちゃん、完全に怯えてしまって。この前、領主館で古龍のバイオレット様にお会いした時と同じ感じ。そんなにゴータ様が怖いの?失礼すぎるわよ。銀ちゃんなんか、子犬になって仰向けになっているし。


  ゴータ様を応接室にご案内して、ドリアにお茶を入れて貰ったの。今日の昼食は、羊肉のスープとフレンチトーストなんだけど、『なんでも食べるよ。』とのお言葉に甘えて、ダボラさんには、特別のことはしなくても良いと伝えたの。


  いつものように、食堂で全員で昼食を摂る事にした、。勿論、ドリアやダボラさん、ドビチャンに弟達も一緒よ。ゴータ様、最初は意外そうだったけど、直ぐに皆と打ち解けてくれたの。ダボラさん、そんなにゴータ様をみつめないで下さいませんか。


  楽しいお食事も終わって、ゴータ様は次のご用事があるからと言って、お帰りになったんだけど、もう嬉しくって。今日は、もうどこにも行かずにお屋敷にいようっと。





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  神聖ゴロタ帝国ティタン大魔王国領の領主館の一室、ゴロタとイチローさん、それとエーデル姫が話し合っていた。


  「しかし、よく分からないな。あんな普通の女の子が、スタンピードを制圧したり、ダンジョンをクリアするなんて。」


  「あの子のメイン武器は弓に間違いないんだけど、全ての属性の攻撃魔法を使えるの。それも異常なほど強力な魔法よ。」


  「それと、彼女の剣技も常人の域をはるかに超えています。明鏡止水流総本部では、僅か数時間で初段を授与されておりました。特に長剣の居合切りは、私でもしかとは見極められないほどの速さです。」


  「あれで、本人は魔法を使えないって思っているんだから、どう言う思考回路なんだろうね。それで、あのドリアって子のことは分かったの。」


  「はい、ダンジョンから連れてきた時は、彼女の事を『ダンジョンボス』と皆に紹介していたそうです。しかし、冒険者ギルドの能力測定では、普通の女性としか認識せず、能力的にも一般女性よりも能力値が低いようです。ただ、測定器では27歳と表示されるのですが、どう見ても10代後半にしか見えないのです。」


  「そんな女性が、なぜダンジョンの最下層でダンジョンボスだったんだろうね。」


  「あと、最近ですが、マロニー嬢は治癒師ギルド長の孫娘を不治の病から救ったそうです。全ての治癒師が匙を投げた病気を、1日、いえ1時間程で完治させた事により、閉鎖的な治癒師ギルドにとって40年ぶりの新規治癒院の開設が認められました。」


  「あの医療と製薬の知識は半端じゃない。どう考えても10歳の女の子ではないな。」


  「その事で、気になる報告があるの。彼女の『ポーター証』に記録されている年齢なんだけど、誕生日が過ぎても年齢が10歳のままなの。こんな事、聞いたことがないわ。」


  「だってポーター証だって、偽造できないように血液の情報を読み取っているんだろう。」


  「彼女が滞在していたブレナガン市での調査結果ですが、彼女がブレナガン市に来た当時の身長が132センチだったとの報告が上がっています。また、現在も、殆ど成長していないことから、彼女は小人族か成長阻害の疾病がある可能性があります。」


  「それでなければ、何かの呪いで成長できないかも知れないね。」


  「兎に角、今日、彼女の屋敷でお昼をご馳走になったが、人種差別どころか身分など関係なく、気持ちが良いくらい相手を尊重していることが分かった。一緒に暮らしているゴブリン族のメイドは、彼女がスラム街で命を救ったらしい。それだけでも、素晴らしいことなのに、家族ごと引き取ったらしいよ。」


  こうして、領主館での話は尽きることは無かったようである。

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