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第2部第283話 薬師マロニーその4

(6月20日です。)

  結局、この前作った『エリクサー』は、商業ギルドに卸したんだけど、本当に大金貨3枚半で売れたわ。ということは、最終的な小売価格は一体いくらなんだろう。でも、目が見え無くなったとか、足が無くなった人たちにとっては、お金には代えられない価値があるんでしょうね。あと、バックオーダーもあったらしいんだけど、早々、大量に作れないので、購入希望者には、面接の上、売却することにして、商業ギルドでは、そのコーディネートをお願いしたの。基本的には、現に、身体に障碍がある人に限定して販売することにしたの。将来の戦争等に備えておきたいと言う方達にはご遠慮して貰うことにした。でも、これでお店の皆さんの給料遅配は解消できたし、窓口での販売要員も新たに何人か雇うことになったの。というのは、もう、物凄いお客さんが店頭に殺到してしまって、ヒルさんと小僧さんでは対応が出来なくなってしまっているの。


  あれから、エリクサーを6本程作成したんだけど、すべて、私が空間収納で保管している。これなら劣化することも無いし、盗難等の恐れもないからね。それから、『毒消しポーション』と『熱冷ましポーション』を大量に作成しておいた。これは、周知のレシピで作っているんだけど、素材に劣化品を使わないことから、市中に出回っている普及品に比べ、効果が5割増しになっているみたい。まあ、ベティさんも、かなり『聖なる力』を流し込めるようになって、純度100%の『聖水』が作れるようになったことも影響しているみたい。


 でも、他の薬品工房や教会から偵察に来ているので、ベティさん、自宅で『聖水』を作ってもらうことにしたの。いわゆる在宅勤務ね。出来上がった商品は、夜に小僧さんが運び入れているので、絶対にばれないわね。あ、それと、『回復ポーション』の最終工程つまり『ヒール』を掛けるのもベティさんのお屋敷でやってもらっているんだけど、そのうち、ベティさんのお屋敷の中に施工所を新設しなければならないわね。


  『マロニー薬品』の運営も、大体目星がついたので、今日の放課後、エーデル陛下にお願いして、グレーテル王国の王都に転移することになったの。転移するための『空間の揺らぎ』は、市内にあるゴロタ皇帝陛下の領主館内にあり、そこからグレーテル市内の『離宮』に転移できるんだけど、かってに『離宮』に入っていくわけにも行かずに、ゴロタ皇帝陛下のお妃であるエーデル陛下にお願いすることにしたの。エーデル陛下には、グレーテル国王から話が通っているみたいで、すぐに領主館に案内してくれたの。領主館の2階の奥の部屋には、いくつかの『空間の揺らぎ』があったんだけど、一番奥の『揺らぎ』がグレーテル王国の『離宮』につながっていて、この『揺らぎ』は、エーデル陛下しか使わないそうだ。また、エーデル陛下が、ここの冒険者ギルドの長を離任するときは、この『揺らぎ』も消去してしまうと言っていた。


  ドリアやキラちゃん、銀ちゃんと共に『離宮』に転移したら、コレットさんが、部屋で待っていてくれて、私達が泊まる部屋に案内をしてくれた。執事長のレブロンさんとコレットさんに、今度、お屋敷を持つようになるので、執事なりメイドなりを紹介していただくようにお願いした。コレットさんは、最近、前任のダルビさんから強く要請されて外国から招聘された方らしいが、レブロンさんは、随分長いことこのお屋敷で執事長をしている方らしいの。お二人とも、快く引き受けて貰ったので、まずは安心ね。使用人のお給料は、4人位までは、王国からのお手当で何とかなると思っているんですけど。


  その日は、夕方まで大広間に置いてあるピアノを弾いていたんだけど、ちょっと弾いていないだけで、全然弾けなくなっていた。ウーン、安いピアノを買って、魔界のお屋敷とこちらのお屋敷に置こうかしら。フェルマー王子とドミノ様が夕方帰っていらしたんですけど、ドミノ様のレッスンが終わるまで教室の外でお待ちになっていらしたんですって。なんか、仲が良いのね。シンシアちゃんは、すぐに銀ちゃんと遊び始めていたんだけど、銀ちゃんのお耳や尻尾を引っ張るの止めていただけないでしょうか。まあ、銀ちゃんにとっては痛くもかゆくも無いんでしょうけど。


  魔界のお土産なんて大した物も無いんだけど、この前、ドリアと一緒に森に行った時に採集した木苺のジャムをみんなにプレゼントしたの。結構喜んで貰ったようだけど、特にカテリーナさんが、味見でスプーン一杯を舐めたら、止まらなくなって、シンシアちゃんに怒られていたわね。


  ドミノ様に、ピアノが買いたいんですけどって相談したら、本格的にやるんならグランドピアノが良いんだけど、弾ける様になりたいだけだったら、アップライトタイプのピアノがお手軽だって教えて貰った。アップライトタイプって知らないんだけど、フェルマー王子の部屋に置いてあるので、見せて貰った。大広間に置いてあるピアノとは随分印象が違うけど、鍵盤なんか同じ作りなので、弾き方は同じなのだろう。弾いてみたけど、グランドピアノとの違いがよく分からなかった。


  明日、子爵邸を見てから、ドミノ様と一緒にピアノを見に行くことを約束して貰った。後、『子供のためのピアノ小作品集』の中から、難易度の低い曲を幾つか弾いて貰ったの。うーん、見ていて弾ける気がしないんですけど。





  次の日、王城の中にある行政府を訪ねていく。ジェンキン宰相から、宰相執務室に来るようにとの話だった。行政府は、王城ないではあるが、宮殿に隣接している別棟になっており、最近増設された建物らしい。衛士さんにジェンキン宰相から呼ばれた旨を伝えたら、すぐに奥の待合室にに案内された。


  暫く待っていると、ジェンキン宰相と20代前半の女性が現れた。挨拶を交わした後、まず子爵位叙爵に伴う爵位証と位記章を交付された。続いて、年金の受領方法についてだが、当然、冒険者ギルドの口座に振り込んで貰う。ジェンキン宰相につれられた女性は、何か仕切りにメモを取っていたが、冒険者ギルドの口座番号については、2回も確認されてしまった。


  この女性は、行政府の職員であると共に、私がいない時の代理人になるそうだ。また、領地の管理等について代官からの報告を受けると共に、財務担当補佐官をする役目があるそうだ。


  話を聞きながら、何か重大なことを聞き漏らしたような気がするんですが。え?『領地』って何ですか?領地があるなんて聞いていないんですが。ジェンキン宰相は、次の政務があるからと逃げるように部屋から出て行ってしまった。呆然としていると、


  「マロニー子爵閣下、マロニー子爵閣下?」


  はい?私を呼びましたか?


  「ご挨拶が遅れまして。私は、マロニー子爵閣下付きの行政官に任じられました『メルローズ・クアム・ゲラン』と申します。以後、ご指導ご鞭撻を。」


  「あ、あい、いえ、こちらこそよろしく。マロニーです。マロニー・ユイット・ドラキュウラ』です。ゲランさんは、貴族家出身なのですか?」


  「はい、父が准男爵です。貴族ではありますが、領地のない下級貴族です。」


  「はあ、そうですか。」


  「では、早速、お屋敷を見に参りましょう。」


  「あのう、その前に、今回の叙爵で、領地が下賜されるなんて聞いてないんですが。」


  「ああ、その事ですね。宰相から説明があると思いますが、今回、王命によりマロニー子爵閣下には、『危機管理室室長』と言う臨時閣僚のポストが与えられました。年金は、その大任に伴う役職手当と言う意味合いがあるため、別に現在、廃絶されて王家直轄となった旧子爵領を下賜されることとなったのです。その内、領地にご案内いたしますが、先ずはお屋敷に参りましょう。」


  ゲランさんの案内で、お屋敷に向かったが、場所は、ゴロタ帝国離宮の1ブロック北側で、魔法学院の直ぐそばだった。東西に走る通りに面して北側に80m程の間口が有り、馬車が悠々通ることができる大きな鉄製の門が設けられている。周囲を煉瓦造りの塀で囲われており、塀の上には鉄製の尖ったフェンスが設けられており、よじ登る事が困難な様になっている。


  門の中に入ると、かなり荒れた感じの前庭の奥に、母家が建っていた。煉瓦造りの3階建てで間口が20m以上ありそうだ。母家に向かって右側には厩と馬車庫になっていて、2階は、使用人の住居なのか窓が並んでいた。左手は、使用人の居住棟なのか木造2階建ての建物になっていた。母家は、車寄せに接して建てられており、大きなマホガニー製の両開き扉を開けて入ると舞踏会が出来そうな大広間になっていた。


  建物は、逆コの字型となっており、左右が奥に伸びていて、中庭が、そのまま裏庭に開放されている。屋敷の中の什器、調度品は全て白いシーツで覆われていたが、大広間の端にあれが置かれてあった。それが何か直ぐに分かったが、興奮して震える手でそっとシーツを剥がした。そこには、濃い木目のグランドピアノが置いてあった。ピアノメーカーは『Steinway&Sons』と言う楽器工房で、奥行きが2m以上の大きなピアノだった。蓋を開けて少しだけ弾いてみる。うっとりする様な音色だ。でも、ちょっと音程がおかしいかも知れない。ドミノ様のお話では、年に1度、専門の調律師により音程を合わせる必要があるそうだ。


  「グランさん、この屋敷で雇っていた方達のうち、もう一度、ここで働きたいと言う方たちはいないでしょうか。」


  「マロニー閣下、私のことは、『メルローズ』とお呼び下さい。当屋敷で働いていた者達は、既に他家に仕えた者もおりますが、心当たりもありますので、何人かに声を掛けてみましょう。」


  「後、これだけの屋敷なら警護の者も何人か必要だと思います。衛士隊退役者か冒険者を辞めた者の内からやる気のある方を募って下さい。人数は、12名程で良いと思います。」


  この世界では、成人男子を雇うと年に金貨4枚が相場らしい。女子の場合は、金貨2枚半だそうだ。執事が3人にメイドが4人、シェフや庭師で4人、これだけで年に大金貨3枚と金貨8枚、衛士に大金貨4枚と金貨8枚、合わせて大金貨8枚と金貨6枚になる。あれ?これってエリクサー3個か4個売れば足りちゃうじゃない。

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