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第2部第282話 薬師マロニーその3

(6月15日です。)

  『マロニー薬品店』は、昨日の午後、看板を掛け直していた。毎日、放課後には工房によって、冒険者ギルドや商業ギルドから品質の良い薬草や鉱石などを買い求めていた。また、『聖水』も親水から作り置きをしていたので、教会から品質の悪い聖水を高いお金を出して買う必要がなくなった。ベネッサさんには、工房の専属契約を結ばせてもらった。ベネッサさんのお母さんは、危険もなく安定した定職に就くことができたことを喜んでいるみたい。レッドリリイの皆には悪いんだけど、ネネさんを専属のポーターにして貰って、遠距離攻撃力の強化が出来たことで勘弁してもらった。あと、レッドリリイには『癒し草』などの採集を指名依頼でお願いしている。指名依頼は、通常の依頼のほかに、成功報酬の2割~5割を指名料として別に支払うので割高だが、ベルさん達には良い薬草の見分け方を教えていたので、かえってその方が安心なのだ。


  ベネッサさんは、『ヒール』は、できるけど、『聖なる力』を流し込んで『聖水』を作ることが出来ない。私は、ベネッサさんの後ろから右手を取って、『新水』の入った瓶に『聖なる力』を流し込む。私の右手からベネッサさんの右手に『聖なる力』が流れ込み、その力がベネッサさんの広げた右手から瓶の中の『新水』に流れ込んで行く。ただの水がピンク色に光り、スーッと消えた。


  『鑑定結果:聖水、純度100%』


  最上級のポーションを作る素材として必須な物であり、この『聖なる力』の流れを覚えて貰いたいのだ。ベネッサさん、一人で再現してみる。あ、単なる『新水』の瓶が光り始めた。あ、でも色が違う。少し青っぽい白色だ。うーん、治癒魔法『ヒール』と同じ色だ。暫く光り続けていて、スーッと消えた。ちょっと時間がかかりすぎる気がするが、取り敢えず鑑定をしてみる。


  『鑑定結果:聖水、純度98%』


  あ、出来てる。少し、純度が低いが十分に許容範囲だ。私の使っている力とは違う方法だが、出来ているから良しとしよう。でも、ベネッサさん、かなり魔力を使ってしまったみたい。後は、魔力アップのために魔力を使い続けましょうね。


  さあ、それでは本当の最高級ポーションを作りましょうね。私が知っている最高級ポーションは、


    『蛍の光の花』


    『鬼八つ手の葉』


    『癒やし草』


    『銀アロエの葉』


    『赤ドクダミの実』


    『長命草』


  この中で、採集難易度が高いのは、『蛍の光の花』と『長命草』だ。特に『蛍の光の花』は、北の寒冷地の山脈の南向きの崖地に稀に生息しており、開花時期は6月の満月の日の前後3日間だけだ。そして昨日が満月だった。今日、これから最終に行く予定だ。ついでにエルフの森で『長命草』も探してみるつもりだ。ベネッサさんと一緒に昼食を食べてから、採集準備をする。


  お屋敷に戻ってから、キラちゃんに鞍を付けて、騎乗服セットを着てから、北の山脈を目指す。高度300m位だろうか。キラちゃん、最高速度に挑戦しているみたい。首を思いっきり前に突き出し、翼はやや後退させている。ほとんど羽ばたかないで、どうして飛行できるのか知らないが、詳しいことは聞かない事にしよう。


  北の山の麓には2時間ほどで到着した。ここから北には標高8000m以上の山々が連なっているし、南側にはエルフの迷いの森、そしてゴブリンの王国と続いている。私達は、小高い丘の頂上に降り立っていたので、北側は谷のようになっていた。その谷の底、ここからは木々が邪魔をして見通せないが、その底の方に向かって丘の北の斜面を降りてみることにした。キラちゃんは、この辺りで遊んで貰うことにした。


  所々に岩が露出していたが、それほど急斜面でもなく、難なく谷底に到着した。谷底は渓流というか、岩がゴロゴロしている川になっており、その岩を避けるようにウネウネと流れが折れ曲がっていた。河原の幅は結構広いが、川そのものはそれほどの幅はなかった。しかし、流れが早く、歩いて向こう側に渡るのは危険な気がする。私は、メイド魔法『浮遊』で浮かび上がり、フワフワと向こう岸に移動を始めた。うん、これってかなり便利ね。


  向こう岸に到着してから、目の前に聳えている崖を見上げる。とてもじゃ無いけど、ロープやクライミング装備がなければ登れそうにない。でも、私には『浮遊』というチート機能がある。崖の斜面を隈なく探す。あ、あれかな?見た感じ『月見草』みたいだけど、月見草は、朝になると花弁がピンク入りになるが、『蛍の光』の花は、枯れるまで白色のままだし、花弁もかなり厚い。しかも月見草が群生しているところに、ちょっとだけ混じっているので、先始めは見つけにくいけど、この時間なら大丈夫。ピンクの中の白を探すだけ。欲しいのは、花だけなので、20個程採集しておく。『蛍の光』は、多年草なので、葉や根には傷を付けない様に気を付けておく。


  これで最終は終わり。大分、崖の上の方まで来てしまったので、ここから向こう岸にメイド魔法『空間転移』を使ってみる。私の近くに『空間の揺らぎ』を出してから、向こう岸の目的の場所にも『空間の揺らぎ』を出して、後は『空間の揺らぎ』どうしを渡るだけ。あっという間に向こう側に立っていた。キラちゃんの待っている丘の上まで『空間浮遊』で戻って行ったんだけど、この斜面には、『蛍の光』は、咲いておらず、月見草の群生地があるだけ。やっぱり、蛍の光を存分に浴びることが出来る南斜面にしか自生できないみたい。


  キラちゃんにもう少し待って貰って、エルフの森の中を探索する。『長命草』は、シダの仲間だが、葉の裏が真っ赤なので裏返すとすぐに分かるけど、表側から見たって絶対に分からない。しかも辺りには、深い霧が立ち込めて来た。エルフの森が『迷いの森』と言われる所以だ。大きな木の根元に生えているシダの歯を、一本一本裏返しながら探し続ける。30分以上探して漸く小さな『長命草』を見つける事が出来た。根にも強い薬効成分が含まれているので、丁寧に根を掘り出す。空間収納にしまう前に思いっきり匂いを嗅いでおく。見た目はシダにそっくりだが、匂いは全然違う。お茶を燻したような匂いだ。あ、ペパーミントのような香りもあるわね。へえ、こんな匂いなんだ。冥界図書館にある図鑑には匂いの特徴まで書いてなかったので、色と形を覚えるしか無いもんね。匂いさえ分かれば、後はその匂いを探すだけだ。ほのかに香る『長命草』の香りを辿って、あっちをフラフラ、こっちでフラフラ。かなりの量を採取した。この薬草は、定期的にエルフの里から出荷されるらしいのだが、鮮度の良いものは、やはり自分で採取するに限るわね。


  この森は、エルフの魔法により常に濃い霧が立ち込め、完全に方角を見失ってしまうが、私には関係ない。メイド魔法『空間浮遊』で、真っ直ぐ上昇し、高度300m位の地点で周囲を見た。キラちゃんのいる丘が見える。


  『キラちゃん、こっちに来て!』


  『OK!』


   キラちゃんは、私の『念話』による呼びかけに応えて、こちらに飛んできた。私のそばでホバリングしながら、私が騎乗するのを待っている。ゆっくりと騎乗し、転落防止用ベルトを帯革に2本結着し、ゴーグルを下ろして準備完了だ。進路を南にとって飛行開始だ。


  飛行中、以前ゴータ様がやっていた『空間転移』をやってみる。ずっと先に見えている空間に『揺らぎ』を作ってから、キラちゃんの目の前に『揺らぎ』を作ると、そのまま『揺らぎ』に飛び込んでいった。と思ったら、もう先に作っていた『揺らぎ』から飛び出ていた。慌てて使い終わった『揺らぎ』を消したけど、この一連の動作を瞬間的にできるようになれば良いのね。良し、帰りの間中、練習しようっと。


  結局、行きは2時間以上かかったのに、帰りは1時間も掛からなかった。でも、ゴータ様がやったように1000キロ近くも一瞬で転移することは、私には出来ないというか、怖いのでやらないことにしている。


  最近は、領都上空をキラちゃんが飛翔しても誰も騒がなくなった。まあ、あれだけ市内を連れ回して、市外に出たら直ぐに飛行を始めるんじゃあ、慣れっこになるわよね。お屋敷の裏庭に着地したら、ドリアが屋敷から出てきた。


  「お帰りなさいませ。」


  「ただいま。ドリア。何か、あった。」


  「はい、人間界のグレーテル王国からの書状がエーデル皇后陛下様から届けられております。」


  「あ、そう。後で読んでおくわ。」


  部屋に戻ったら、ジェンキン宰相からの親書だった。内容は、子爵としての年金額が、『年大金貨2枚』と決定され、税金が3割徴収されるので、手取りが大金貨1枚と金貨6枚になるそうだ。また子爵邸が無償貸与されるので、一度グレーテル市に来都して頂きたいと言う内容だった。うーん、来年から魔法学院に通学するにしても、冒険者として活動するにしても、グレーテル市内にお屋敷がある事は便利だと言える。まあ、断ることもないし取り敢えず受けることにしようかな。


  学校も、来月20日から夏休みになるので、その際に訪問する旨の返信をしたため、ドリアに冒険者ギルドのエーデル様にお届けする様にお願いした。その間に、ゆっくりお風呂に入り、身体中についている土埃などを落とすことにした。





  次の日の放課後、『マロニー薬品』の工房に行って、最上級ポーションの素材を確認する。


    『鑑定結果:鬼八つ手の葉、生命力の回復効果、ランクB』


    『鑑定結果:銀アロエの葉、万能治癒薬、ランクA』




    『鑑定結果:赤ドクダミの実、毒消効果、ランクB』


  概ね優良品だと思われる。さあ、それでは錬成を始めてみよう。乳鉢に素材を入れ、細かくすりつぶす。すべてを、手の平で揉んで細かくし、皿の中に入れる。最初は、『』皿の中の葉の粉末に『錬成』の気を流し込む。皿が紫色に光り始めた。光が強くなる。紫色が白く変化し始めたころ、錬成が終了した。皿の中に、ドロッとした緑色の液体が溜まっている。出来上がりだ。



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