表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
731/753

第2部第281話 薬師マロニーその2

(6月12日です。)

  次の日、小学校に行って、久しぶりに授業を受けたんだけど、授業内容が進んでいるのかどうか全然分からない。いつものように算数も国語も既に勉強したところばかりだし、でも学校に通うってこういう事なのね。もう時間との戦い。お昼は、ゴブリン族の子達と一緒に固まって食べるの。スープとパンは給食なんだけど、おかずがないので、ドリアに作らせて持って来てもらう事にした。ドリアの料理の練習にもなるし、一石二鳥よね。今日は、お魚の唐揚げ。ちょっと甘いソースが掛かっていてかなり美味しい。勿論、ダボラさんに教わって作ったんだろうけど、美味しいわ。結局ドリアも一緒に食べる事になったんだけど、ゴブリン族の子達全員が集まって、ドリアも楽しそう。


  あ、ドリアに早く空間収納を教えなくっちゃね。あれ、そう言えば空間収納って誰に習ったんだっけ。思い出せないわ。でも使い方は難しくないわ。空間に。サーっと切れ目を入れて、後は切れ目の中にバーッて空間を広げて、それで手を入れてみるの。手の先が見えなければ成功。そんな感じね。まあ、私も6歳の時から練習を始めて2年位かかったかしら。もう70年以上前のことだから忘れちゃった。


  それから、ドリアも小学校の聴講生をさせたいんだけど、できるかしら。今度、校長先生に聞いてみよう。


  放課後、ネネさんとドビちゃんの3人でお屋敷に帰ったんだけど、あの薬工房から使いの馬車が来ていた。どうしても来て貰いたいとのことだった。2頭立ての立派な馬車。亡くなった導師様の馬車なんだって。ドリアを連れて、そのまま馬車に乗る事にした。何だろう。昨日、あれ程造り方を実演したし、材料だって少しは置いて来てあげたんだから。


  工房に行ってみると、大番頭のヒルさんが工房長のクライムさんと一緒に玄関先で待っていてくれた。馬車から降りると、そのまま工房の方に案内されてしまったの。工房の中は幾つかのスペースに分かれていた。入ってすぐのスペースは、素材の搬入、仕分けと下処理をしているみたい。まあ、乾燥しやすいように束にしているだけなんだけどね。その次は、薬品ごとの材料を揃える場所で、慎重に重さや量を測っているし、材料ごとに品名と重さを書いた札を付けている。


  次が、製粉スペースね。薬研臼でゴロゴロしている人もいれば、大きな石臼でぐるぐる回しながら粉にしている人もいる。最後が、調合所みたいで、慎重に天秤ばかりで測った素材を乳鉢で混ぜたり、ガラス製の容器に入れて加熱したりしている。


  うーん、うまく行っているように見えるんですが。クライムさんが、ビンに入ったポーションを見せてくれた。薄紫色の液体だ。しかし随分と薄い。少し舐めてみると、苦味が強い。あれ、低級ポーションってこんな味だったけ。


  「昨日からレシピ通りに作ってみました。聖水も教会から金貨4枚で分けて貰いました。でも、出来上がりがこれなんです。マロニー導師が作られたポーションには比べるべくも有りません。傷を作って試してみても、出血が止まる程度で、傷が消えるまでの薬効がないのです。


  うーん、何でだろう。と言うか、今、変なワード言わなかった。『マロニー導師』って何ですか?私、医師になるつもりなんか全然無いんですけど。でも、面倒だからそこはスルーしておく。とにかく素材から見ていこう。


  『癒し草』は、少し萎びているようだけどOKね。『甘露草』私が渡した根付きの物を水に浸して置いた物だから大丈夫と。後、聖水ね。これは、見ただけでは分からないので、メイド魔法『鑑定』を使ってみる。


  【聖水】聖なる水。邪を払う。聖練度7%


  聖水なんか鑑定したことがないから分からないけど、試しに私の作った聖水を比較してみよう。まず井戸から新しい水を汲んで来てもらう。


  「あのう、昨日も聞こうと思ったんですが、なぜ、わざわざ井戸から汲んでくるのですか?水ならここにもあるのですが。」


  「はい、井戸から汲んできたばかりの水は、『新水』と言って、それだけで活力増進の霊験があると言われています。聖水を作るときは、新水でなければならないのです。」


  こんなことも分からないとは。古い水で作った聖水と、井戸から汲んできた単なる水では、後者の方が良い場合もあるくらいなのだ。


  汲んできて貰った井戸水に『聖なる力』を流し込む。水がキラキラ光り始めた。出来上がった聖水を早速、『鑑定』にかけてみる。


  【聖水】神が与えし聖なる水。あらゆる邪を払うとともに闇属性の魔物を浄化する。聖練度100%


  これほどの純度はいらないはずだ。同量の水を加えて希釈する。


  「これからは、なるべくフレッシュな聖水を購入してくださいね。」


  後は、『ニンニクの新芽』と『蛇の肝の粉』だ。ニンニクの新芽は、球根を土に埋めてで的tq芽を摘めば良いだけだよ『蛇の肝』は、アナコンダなどの大蛇を討伐すれば、1年分位は確保できるはずだ。


  最後の行程、『ヒール』を掛けさせてみる。『ヒーラー』は、冒険者ギルドから銀貨3枚で依頼した女性の『ヒーラー』だった。と言うかベネッサさん、あなた、何をやっているんですか?


  聞けば、薬工房から大量の薬草採取依頼が来たので、ベルさんとベラさんは薬草採集、ベネッサさんはこちらの方に回って来たそうだ。でも、どうも『ヒール』の掛け方が下手。魔力の流れを見ると、無駄に四方に発散している。私は、まだヒールをかけていない原液にベネッサさんの手を触れさせ、私がベネッサさんの背中に手を添えて、ベネッサさんの体内の力の流れを制御してあげる。ベネッサさんの胸の中にある力の塊を解きほぐし、血管の中の流れに応じ右腕に集めてあげる。ポーションの原液の中に流れ込んでいく。


  現液が薄緑色から濃い紫色に変わった。うん、上手くできたみたい。今のやり方を自分一人で出来るようになれば、ヒーラーとしても一人前よ。取り敢えず作れるだけの回復ポーションを作ってあげたの。各担当責任者がメモしまくりの質問しまくりだったが、私は丁寧に答えてあげた。しかし一番の問題は、聖水だ。聖練度と言う聞き慣れない測定値があったが、こればっかりは、私ではどうしようもないみたいだ。


  でも、工房に『聖なる力』を使える人や『ヒーラー』がいないのは驚きね。聞いたら、敢えて採用しなかったんだって。会えの同志の方針らしいんだけど、それって絶対に自己保身よね。


  不思議なのは、聖属性の魔法適性があっても『聖なる力』が使えるって訳じゃあ無いところよね。よく分からないけど私は、『聖なる力』と、その派生技の『癒し』を使っているんだけど、『ヒール』だって、きっと魔力さえ十分にあれば使えると思うの。これって適性の有無と違い互換性がある気がするわ。聖属性があっても『聖なる力』を使えなくても、『聖なる力』を持っていれば、聖属性の魔法『ヒール』は使えるはずよ。でも、『ヒール』ってどれ位魔力を使えるのかしら。あ、ベネッサさん、魔力切れだわ。もう今日はお仕舞いね。


  大番頭のヒルさんが、お話ししたいことがあるって言って来た。何かなって思ったら、この度の新ポーションのレシピを特許登録するとともに、工房を『マロニー薬品』と改称し正式に導師就任を打診されてしまった。


  「あのう、断ったらどうなるんでしょうか?」


  「この店は、閉店せざるを得ないと思います。マロニー様、いえ『聖女』様が作られるポーションという事で、物凄く評判が良く、町中の上得意様からのご注文が殺到されておるのです。製法はある程度分かったのですが、私達では、同じ品質の物はいまだ作ることが出来ず、このままでは上得意様達が商業ギルドで売っている王都の薬品工房からの製品を買い求めるようになってしまう可能性があるのです。そうなればこの店は立ちいかなくなるのは間違いないのです。」


  どうやら、根本的に私の作るポーションと彼らの作るポーションが違うらしいのだ。これは、彼らには内緒にしていたんだけど、『癒し草』だって、鮮度のほかに、成長過程での諸条件により薬効成分の含有量がちがうの。でも、それってメイド魔法『鑑定』が使えなければ、分からないらしいのね。


  「ちょっと、工房の職人さんの中で、薬草選別を行っている人を呼んできて。」


  ヒルさん、すぐに裏の工房に走って行った。出てきたのは、魔人族の女性で年齢は50歳近いだろうか。この女性が薬品の選別を行っていると言うのだが、業務内容を聞いてみると、どうも私のイメージとは違うようだ。


  この女性は、ヒルダさんと言うそうだが、ヒルダさんの仕事は、冒険者組合や薬草を取り扱う商業ギルドから必要な薬草を購入するそうだ。見た感じ、鮮度の良さそうなものは、標準買取価額の2割増し、萎びていたり、乾いてカサカサになっていると2割引きで引き取っているそうだ。それを薬草ごとの種に入れておいて、工房から薬草の要求があると、他の中から適当に必要量を取り出して小僧さんに渡している。今まで、それで文句を言われたことも無いそうだ。私は、空間収納から手持ちの『癒し草』2本取り出し、ヒルダさんに比べて貰った。


  「ヒルダさん、この2本の『癒し草』。あなたならどちらを買いますか?」


  ヒルダさん、両方を見比べているが、その様子からこの2本の差が分からないのは明白だ。思った通り、ヒルダさんは、程度の低い『癒し草』を選んでしまった。この2本、メイド魔法『鑑定』を掛けると、


    『鑑定結果:名称「癒し草」ランクA』 


  という最低でも大銅貨8枚以上で売れるものと、


    『鑑定結果:名称「癒し草」ランクC』


  で、大銅貨2枚で売れればいい程度の物を出したんだけど、この差が分からないようでは、駄目よね。私は、ヒルダさんに、それぞれの匂いを嗅いでもらった。薬効の高い『癒し草』は、ほんのりとハッカの匂いが混ざったような匂いがするので、鑑定できなくてもある程度分かりそうなものなんだけど。ヒルダさん、一生懸命嗅ぎ比べをしているけど、首をひねっている。匂いの違いが分からないみたい。


  「ヒルさん、薬草や薬石の鑑定機無いんですか?」


  「いえ、以前も買おうとしたんですが、前の導師が『儂が鑑定するから必要ない。』と言って買ってもらえなかったんです。」


  「じゃあ、そこから改善していきましょう。早速買ってください。」


  「いや、買うのは良いのですが、実は、現在、当工房では、運用資金が枯渇しておりまして、皆の給料も遅配しておる次第でして。」


  私は、完全にため息が出てしまった。この工房には大番頭のヒルさんや工房長のクライムさんなど22人の店員がいるのだが、平均月に金貨2枚を支払っているそうだ。と言うことは、金貨44枚が給料分で必要だし、薬草等の鑑定機が中古品で金貨75枚だそうだ。そのほかに素材購入費も必要だろうし。それじゃあ、当面の運営資金も含めて大金貨3枚を投資することにした。それと、本当は嫌なんだけど、しっかりとしたポーションを作ってもらうためにも私が『社長兼導師』となることも承諾せざるを得なかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ