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第2部第280話 薬師マロニーその1

(6月10日です。)

  夕方5時、エーデル陛下と一緒に魔界のシェルブール市に転移した。ネネちゃんは平気だったけど、ドリアは、怖がっちゃって、足を一歩踏み出すことが出来ない。仕方がない。私と手を繋いで、無理やりくぐらせたんだけど、もう半泣き状態。この子、少し臆病すぎるみたい。歩いて私の屋敷に向かったんだけど、ドリアはキョロキョロしちゃって落ち着きがない。魔人族が珍しい訳じゃあ無いはずなのに。お屋敷に行く前に孤児院に寄って、キエフ院長にご挨拶。お土産を10箱渡してあげたんだけど、子供達の分も足りる筈よ。それからお屋敷に戻ったんだけど、ドビちゃん達を見て固まってしまったの。そうよね。人間界ではゴブリンって魔物だもんね。


  ダボラさんとドビちゃんにドリアを紹介する。私の専属メイドなので、気楽に用を言い付けてくれとお願いしたんだけど、何故かドリアの立場が上なの。理由を聞くと、ドリアは人間族で、わたしの専属となると、ドリアが言う事は私が言うことと同義になるんだって。そんな事ないからって言ったんだけど、どうしてもダメみたい。もうドリア様ドリア様って呼んでいるので、まあ放っておこう。あ、私の事は、『マロニーお嬢様』って呼んでいるんだけど、もう諦めたわ。


  ドリアの部屋は2階の北側の部屋にした。2階には、6部屋あるけど、私が南側の2部屋を使っているから、あと3部屋も余ってるのよ。あ、ダボラさんとドビちゃん達には1階の2部屋を使って貰っている。

あと、応接間なんだろうか、無駄に豪華に見せかけている部屋が有るけど、全く使う気はないわね。


  その日の夕食はダボラさんが鹿肉とジャガイモの煮付けを作ってくれたんだけど、ホッコリする味ね。


  「この屋敷のしきたりで、食事は全員が一緒にするのよ。」


  そう言って、漸く席についたんだけど、一口食べたら、ドリアも気に入ったみたいで、お代わりをしていたの。まあ、ドリアも徐々に料理を覚えましょうね。


  今日は、久しぶりに大広間で竜に戻っているキラちゃんと狼の銀ちゃんの3人で寝たんだけど、相変わらず銀ちゃんの寝相が酷くて、気がついたらキラちゃんと銀ちゃんの間で小さくなって寝ていたの。もう、銀ちゃんをキラちゃんの向こう側に飛ばしてやったんだけど、朝起きたら、銀ちゃんのし尻尾を掴んで寝ていたわ。


  朝5時、モソモソ起き出して、裏庭に行くと、ドリアが既に起きて裏庭にいた。


  「おはよう。」


  「おはようございます。マロニーお嬢様。」


  うん、ドリアが見ているが気にせずに弓の練習から剣の形までのコースをこなして行く。1時間以上もただ見ているだけでは勿体無い。ドリアにも何かさせる事にした。うーん、ま、取り敢えず木刀の素振りかな。私は、長剣の形用の木刀を空間収納から出して、木刀の持ち方から、教えてあげた。それから全身と後退の足運びを教える。これが上手く出来る様になってから、次のステップに入るので、最初はそれだけを練習するように指示しておいた。


  朝食は7時からだったので、6時30分には練習コースは終了しておいた。ドリアも足運びがだいぶまともになって来たが、まだまだね。


  朝食後、冒険者ギルドに向かう。レッドリリイのみんなに会うためだ。あ、いた。みんな元気そうだ。みんなにお土産を3箱渡してドリアを紹介する。ドリアはカーテシーで挨拶をしようとするが、まだ辿々しい。まあ、それもしょうがないか。さっき私が教えたばっかりだもんね。


  「マロニーお嬢様にお仕えするドリアと申します。」


  ベルさんが、


  「メイドのマロニーのメイド?しかも年上?」


  仕方がないでしょう。私よりも年下のメイドなんて、いる訳無いし。それに、メイドの私だって、メイドを雇うくらい出来ますから。レッドリリイの皆さんは、私のいない間は、薬草採集をメインに野獣や弱い魔物を飼っていたらしいんだけど、薬草の見分け方を覚えたので、結構稼いでいるみたい。でも、最近、薬草の注文が減って来たって言っていた。治癒薬を作成する工房で唯一の高位ポーションを作るお婆さんが高齢のため死んだんだって。それで、そのお婆さん、最後まで秘伝を伝えなかったらしいの。あ、墓場まで持って行くって奴だ。それで困ってしまった工房では、色々試作しているんだけど、上手く作れないとの事だった。


  薬草の需要がないと言うのは、冒険者達にとっては死活問題だ。何とかしないと。ポーションのレシピなら幾つか知っているので、教えてあげようかしら。勿論、有料でよ。タダで教えてあげるほど優しくなんかないもの。


  「ねえ、マロニーちゃん、いま、何か企んでいるでしょう。」


  あ、バレた。




  治癒薬を作る工房は、町外れにあった。薬草の加工の際に、物凄く臭う事があるので、立地条件が限定されているのだ。近づくと、市中なのに森が広がっている。いや森ではない。花や実、それに葉や樹液がポーションの原料になる樹木が繁っているのだ。その間に薬草畑が点在している。工房は、薬園の先にあった。一軒だけかと思ったら、十数軒が軒を並べている。その中でもひときわ大きい建物が目的の工房なのだろう。


  「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」


  工房の玄関には誰もいなかったので、大声で声をかける。商品が幾つか並んでいるが、大したものは無かった。何度か声をかけたら、成人したてのような少年が出てきた。手が真っ青だ。きっと薬草を煮込んで絞っていたんだろう。


  その小僧さん、少女と成人のメイドが二人並んでいるので、何かの使いだと思ったらしく、


  「いらっしゃい。いまあるポーションはそこに並んでいるだけだよ。」


  うん、この子には接客から教えてあげなくっちゃ。


  「いえ、違うんです。責任者の方に御用があるんですが。」


  『責任者』と言うワードとメイドの使いと言う点から、上客と判断した小僧さんは、黙って工房の奥に入って行った。まあ、誰も接客を教えていないんだろうけど、人間族のこと言う事は、元20歳位だったんだろうから、あの横柄な態度は、この店の方針かも知れない。そんなことを考えていたら、中年の店員さんが出て来た。


  「いらっしゃい。責任者に用があるって、何の用かな?」


  あ、この人もダメな人かもしれない。もしかするとポーション作りって、かなり上級職なのかな。と言う事は、この工房の責任者って、元レブナントなのかな?まあ、そんな事はどうでも良いけど。


  「はい、こちらで治癒薬を作るのに困ってらっしゃるとお聞きして、困っているならお助けしても良いかなと。」


  「え?どこでそれを。お得意様には、今まで通りに治癒薬をお分けしていたはずですが。」


  ハハーン!店頭のポーションが極端に少ない訳が分かったわ。良さげな薬は、店頭に出さないで得意客限定で販売していたのね。でも、それって在庫が無くなればダメよね。


  「実は、私、幾つかのポーションのレシピを知っていまして。でも、お客様を、何時迄も店頭に立たせているような失礼な店とはお付き合い出来ませんので、これで失礼いたしますわ。」


  うん、ここでダメだったら隣の工房に行くまでよね。


  「ま、待って下さい。いや、あなた様の格好を見て単なる使いの者かと誤解しまして。それで、そちらの女性の方が、いえ、どうぞこちらへ。」


  漸く、私達を奥の応接コーナーに案内してくれた。さっきの小僧さんにお茶を持ってくるように指示していたが、ソファに私が座り、ドリアが私の後ろに立っているのを見て、漸く私たちの立場を理解したようだ。この男の人は、この店の大番頭だった人で、工房長が亡くなってからこの店をやりくりしているが、薬師としての腕はからっきしだと言う事だった。名前はヒルさんと言うそうだ。私は、運ばれて来たお茶を一口飲んでから、


  「それで、あなた達の店で困っている治癒薬って何ですの。」


  「は、はあ。実は、最上級回復ポーションのレシピが分からなくって。今まで、工房長が独占的に作っていたんですが、弟子にレシピを伝えないまま人間化してしまいまして。いえ、私達は止めたんですけど、言うことを聞かなくって。人間になった時は、一瞬元気になったのですが、1か月もしないうちに具合が悪くなってしまって。」


  ああ、だから言ってたじゃない。高齢者が人間になると体力と抵抗力も人間並みになり、高齢者は長生きできない場合があるって。おそらく基礎疾患があって、人間化で、その基礎疾患が発現してしまったんだろう。


  「私は、幾つかの回復ポーションのレシピを知っています。亡くなった工房長の作った回復ポーションを見せてください。」


  さっきの小僧さんが薬瓶に入ったポーションを持って来た。薄い緑色をしている。蓋を開けて匂いを嗅ぐと、ニンニクの匂いがする。あとハッカの香りもするけど、一番大切な『回復草』の香りが僅かしかしない。


  「これはなあに?回復ポーションモドキ?」


  「い、いえ。これは、師が生前作った最後の回復ポーションです。」


  あ、これではスタミナドリンクの方がマシかも。


  最上級回復薬は、『蛍の光』と言う草の花それも生花が必要なんだけど、なければ乾燥したドライフラワーでも良いわ。


  「じゃあ、私の知っているレシピ通りに作るわよ。『蛍の光』の花を持って来て。それた『鬼八つ手の葉』、『癒やし草』『銀アロエの葉』、『赤ドクダミの実』、そして『長命草』よ。」


  「すみません。『癒し草』しか準備できません。」


  「えー、それじゃあエリクサー作れないじゃない。じゃあ、『癒し草』だけでも持って来て。」


  小僧さんの持って来たのは、乾燥した癒しそうだが、全く匂いがしない3級品だ。これでは、いくら私でも回復ポーションなど作れる訳がない。


  しょうがない。空間収納から、この前採集した『癒し草』を取り出す。あと『甘露草』も取り出す。それと『ニンニクの新芽』と『蛇の肝』の乾燥した粉。これ、ブレナガン市の素材屋さんで買っておいたものなんだ。


  まず、井戸の水を汲んで来て貰い、『聖なる力』を流し込む。もう、その時点でヒルさん、目が点。


  「おい、ジョイ、裏から皆を連れて来い。急げ。」


  ジョイ君、ダッシュで裏に走っていったけど、気にせずに作業を進める。薬皿に『癒し草』を入れて、聖水を加えて温めていく。別皿に『甘露草』を入れて根ごと擦り潰して行く。それに『ニンニクの新芽』と『蛇の肝の乾燥した粉』を混ぜるんだけど、分量が微妙に難しいのね。私は、匂いで判断していくんだけど、それにさっきの『癒し草』を煮出した液を徐々に加えていくの。全部混ぜたら、『癒しの力』を加えて、色が紫色になれば出来上がり。


  いつの間にか集まっていた職人さんの一人が出来上がったポーションを舐めてみた。それからナイフで自分の指先をちょっと切り、ポーションを少しだけ塗り込む。まあ、予想通り傷は無くなった。


  「ポーションです。最上級と思われます。」


  いや、違います。誰でも作れる初級ですから。ヒルさんが、最初に水に加えた力の事を聞いて来た。


  「あれは『聖なる力』です。教会で売っている『聖水』を臨時で作っただけです。それと最後に使ったのは『癒しの力』です。聖魔法の『ヒール』と同じ力です。あと、『癒し草』は鮮度が大切です。本当は、聖水で一晩漬けておいた方がいいのですが、時間がなくて暖めて煮出してしまいました。薬功が2割は落ちたでしょう。ニンニクの新芽と蛇の肝は一般品ですから入手しやすいでしょう。」


  驚いた事に、ここの師という人が作っていたポーションは、全く違う物だそうだ。えーと、それってポーション?

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