第2部第278話 初めての人間界その16
(まだ6月7日です。)
ここは、王城の国王陛下執務室。グレーテル国王とジェンキン宰相、スターバ騎士団長、マリンピア魔導士教会魔導士長それにフレデリック殿下が集まっている。
「これでマロニー嬢は、我が王国の国民になってくれるかのう?」
「まあ、難しいな。あの子は、ゴータ、つまりゴロタ皇帝陛下にぞっこんだからな。」
「しかし、あの剣の腕前だけ見ても、我が国において筆頭騎士並みの実力ですぞ。」
「いやいや、魔力じゃよ。すべての魔法が極大級若しくは伝説級なのじゃ。本人は意識していないが、あれで魔法をしっかり学ばれればノエル殿に匹敵する魔導士になるのも間違いない。」
「陛下。今回、子爵に叙爵したのですから、子爵邸と年金、これを早急に決めて、お住まいになって貰うのが一番と思われます。いかがでしょうか。」
「うむ、とにかく、なるべくなら魔界には帰らないで貰いたいし、魔界への未練があるなら、なんとかそれを解明して我が国に来る気になって貰おうぞ。おお、それはゴロタ皇帝陛下にも相談しよう。誰か、エーデル、いや駄目じゃ。あ奴では、そんな複雑な話は分からん。えーと、誰か、シェル殿に手紙を出しておくように。シェル殿なら、我が国の意向も分かってくれるじゃろう。
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お屋敷に帰った私は、疲れ切ってしまっていた。なんで、こうなったんだろう。いつの間にか子爵になってしまって。貴族って、国王や皇帝に忠誠を誓わなければならないのよ。それも滅私の奉公と忠誠を。この国で貴族になるんだったら、とっくに冥界でなってるのちゅうの。お屋敷では、フェルマー王子とドミノ様が心配そうに待っていてくれたので、今までの経緯をお話したの。フェルマー王子が説明してくれたわ。
この王国って、グレーテル大陸で一番の大国だったんだけど、長く続いた封建制度で国が疲弊し、地方領主達が悪政を領民に強いていたんだって。もう、国家財政も何もかも破綻しかかった時、ゴロタ皇帝陛下が現れて、統治が難しい西の領地をゴロタ帝国に割譲したみたい。でも、ゴロタ皇帝陛下も本国から離れた飛び地を統治したくないので、早くグレーテル王国に返したいと思っているらしいの。でも、そのためには、グレーテル王国が政治、経済、それに軍事面において実力を養い、何があっても自国で解決できるようになるのが条件なんだけど、政治、経済は何とか軌道に乗ってきて、大丈夫なようになったんだけど、軍事力だけは、圧倒的に脆弱なままだそうだ。と言うか、ゴロタ帝国が強靭すぎるんだけど。特に、お妃さま達の戦力たるや半端なくって。筆頭はシェル様、弓を持たせたら敵なし。しかも無尽蔵に連射するらしいの。次はエーデル姫。レイピアの百刺しに敵う騎士など存在しないみたい。あと、シズ様は、言う間でもないわね。剣と弓の名手。使う武器は『竜のアギト』というドラゴンスレイヤーと『ヨイチの弓』、もうチート過ぎて笑えるわ。それと魔導士長も逃げ出すほどの大魔導士ノエル様。ノエル様に匹敵するほどの召喚術師のビラ様。あ、そうそう。今、このお屋敷にいるミキ様、あの伝説の『星魔法』を使えるんですって。それに、聖女フラン様。どんな傷も治してしまうそう。フェルマー王子だって、年齢に比べればそこそこつかえるわよね。とにかく、ゴロタ帝国の戦力に比べると、グレーテル王国は、とても弱くって。それに今は、ゴロタ皇帝陛下のお陰で仲良くなっているけど隣国のヘンデル帝国とは長年境界線で揉めているし。
あ、疲れちゃった。みんなに、ドリアの事を紹介したんだけど、私の普段着がメイド服なだけに、『メイドのメイド?』って顔されちゃった。ドリアって、冥界に連れてこられたとき、18歳だったんだって。それまで人間界の何とかと言う村にいたんだけど、バンパイアにされて、そのまま冥界に連れてこられたって言っていた。なんて村だったかな。あ、確か『ノース村』だったかしら。その村から冥界に来たのが10年位前だって言っていたから、今、28歳かな。まあ、私が気にすることも無いか。ドリアは、茶髪のソバカス顔、身長は165センチ位ね。まあ、綺麗と言うよりもお茶目な顔ね。普通、冥界に来るのは美少女か美女で穢れを知らない乙女って決まっているんだけど、ドリアはまあ、好みの問題ね。あ、どうしてドリアは、すぐに私って分かったんだろう。見た目で5歳も若返っているのに。そうしたら、冥界のメイドは30m先の上位バンパイアが近づくだけで、誰が近付いたか分かるんだって。最初に教わるメイド魔法の一つらしいわ。私達始祖直轄メイドは、始祖様以外上位バンパイアはいないから必要ない能力なのね。
それでドリア、本当に何もできないの。だって、掃除と荷物運び以外したことが無いんですって。人間界にいた時は料理もしていたらしいんだけど、田舎の村だから、スープを作るのがせいぜい、パンを焼くのも黒パンと言う小麦を練って焼くだけの固いパンしか焼いたことがないんですって。とりあえず、明日、冒険者ギルドに連れて行って、能力測定よ。期待していないけど。
次の日、冒険者ギルドに行ったら、他の冒険者たちの私を見る目が違っているのに気が付いたの。おととい、緊急指名委託がかかった段階で、皆、死を覚悟したんだって。断ることもできるんだけど、そうすると冒険者資格をはく奪され、一生、冒険者となることが出来なくなるの。それは、どこかで野垂れ死にをすると言う事を意味しているんで、どっちみち死ぬんならと、指名委託を受けたんだけど、多勢に無勢、敵は大型魔物もいるとの情報もある。完全に死を前提にしてギルドに集まっていたら、すでに北の方角で戦闘が始まっているって言われて、全員といってもわずかだけど北門に向かったらしいの。それで、北門に到着した時には、ほぼ戦闘は終わっていたって聞いて、みんな涙を流して喜んだらしいわ。
あ、そんなことはどうでもいいの。とりあえず、ドリアを2階の冒険者登録窓口まで連れて行ったわ。受付の女の人は、いつもの
「いらっしゃいませ。グレーテル王国王立冒険者ギルド総本部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか。マロニー子爵閣下。」
あれ、いつもの口上のほかに、最後に聞きなれない言葉が加わっている。というか、なによ。『子爵閣下?』誰よ、それ。でも、私が子爵に叙爵されたことは、当然にギルドでも知っているはずだし、間違ってはいないわよね。でも、ポーターに子爵閣下っておかしくない。いや、子爵がポーターなのがおかしいのかな。
「あのう、この子を冒険者登録したいんですけど。」
分かりました。それでは、冒険者登録のための能力認定及び筆記試験があります。どれから受けられますか?」
「じゃあ、能力測定をして、実技認定、それから筆記試験でお願いします。」
言われて気が付いた。ドリアが筆記試験受かるわけない。大体、字が読めるの?でも、こうなったら能力測定だけでも受けさせよう。ドリアに測定機の中央の穴に手を差し伸ばさせる。いつものことだが、チクンとした際に顔をしかめるのは、当然としても、泣くなよ。いい年して。
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【ユニーク情報】2032.06.06現在
名前:ドリア
種族:人間
生年月日:王国歴2004年10月31日(27歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:メイド 冒険者ランク:『F』
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【能力情報】
レベル 3
体力 22
魔力 21
スキル 12
攻撃力 15
防御力 24
俊敏性 18
魔法適性 水
固有スキル なし
習得魔術 クリーン
習得武技 なし
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まあ、こんなものかな。年齢27歳ってのは、測定上ってことかな。実年齢は17歳か。まあ、どっちでもいいけど。あと、申込書を掛けなくって、私が書いてあげたんだけど、村では文字を習わなかったの?これからが、とても心配。
実技認定で、取り敢えず、『エルフの弓』を持たせたけど、案の定、半分も引けず、当然、放った矢も、的の手前で落ちてしまったし。ショートソードで、人形に切り掛かったんだけど、全く切れずに跳ね返されてしまった。これは駄目かなと思ったけど、『水属性』があったので、コソコソ呪文を教えてあげた。
『雨と雲を司る水神の御業を我に与えたまえ。ウーオーターカッター。』
完全に覚えなくても良いから、3回繰り返して、3回目に『ウオーターカッター』と大声で言ってから、右手を測定人形に突き出すようにと教えたの。なんとか、シューッと水が右手から噴き出して、測定人形に充てることが出来た。測定人形が、ほんのりピンク色に染まったので、検査官が対比カードで色を見比べている。
「測定レベル3。合格。」
最低レベルで合格だった。まあ、だからどうと言うことはないのだけれど。筆記試験は、試験官が問題を呼んであげていたけど、当然、答えが分かるわけない。私が、『念話』で、そっと正解を教えてあげた。彼女はできなくても、一方的に私から思念を送ることは造作もないことなの。筆記試験は満点だったわ。でも、試験官が問題を読み上げてくれなかったら絶対に合格は無理ね。あ、勿論、解答も、ドリアが口頭で試験官に伝えていたの。正解を書くなんてできるわけないもの。
ドリアは、10歳まで、村の協会で文字を習っていたんだけど、18になるまで、牛の世話しかしていなくて、文字なんか読みも書きもしなかったし、冥界にさらわれてからは、一日中広い王城の掃除をしていたので、当然、読み書きなんかする訳ないわよね。
ドリアは、晴れて冒険者になることが出来たの。さあ、これで自由に冒険に行けるわね。あ、その前にダッシュさんの店で、ドリアにあった武器を探さなくっちゃ。まあ、ショートソードだろうけど。結局、ドリアには、ミスリル銀製のダガー2本ね。あと、冒険者服や靴は、店頭の見切り品から適当に選ばせたのにしたわ。




