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第2部第277話 初めての人間界その15

(6月7日だと思います。)

  草原エリアには、もう魔物はいないようだ。まあ、あれだけ広範囲の魔物だ。他の魔物が生存できるとは思えないけど。エリアの奥に向かって飛行を続けていくと、ギリシャ神殿みたいな廃墟が見えてきた。ダンジョンボスのエリアかな。まあ、それは討伐して、階段が出て来るか、転移門が出て来るかで分かるんだけど。


  神殿の手前に着地する。キラちゃん、女の子の姿に戻って、私が渡したパンツをはいている。それから、靴下、靴、ブラウス、ズボン、ジャケットを着て冒険者ルックだ。最後にショートソードを左腰に下げたが、長すぎるのか、鞘の先が地面をこすっている。でも、戦闘態勢はこれで万全?だ。


  神殿の奥に進んで行く。静かだ。誰もいないようだ。もう少し進んで行く。まだ、誰もいない。


  「すみませーん。誰かいませんか?」


  私の声が響き渡るが、誰も出てこない。どうしたんだろう。あれ、神殿の奥の祭壇から魔物の気配がする。何だろう。懐かしい感じだ。


  とりあえず、祭壇を『虹の魔弓』で燃え上がらせようかと思ったら、女性が一人で出てきた。メイド服を着ている。あれ、この女性、見たことがある。確か冥界の王城にいた人だ。えーと、掃除や片づけをしていた女性だ。名前は知らないけど、私達が通りがかると、膝まづいていた使用人の中の一人だった気がする。


  「あなたは、だあれ?」


  「ひっ!許してください。マロニー様、私です。ドリアです。」


  『ドリア?』、名前に記憶はないが、向こうもこっちを知っているみたいだ。私を『様』付けで呼ぶって、きっとヴァンパイア一族なのだろう。それも下級の。始祖様の血をどの程度分け与えられているかも分からない程遠縁の端女なのかもしれない。


  「私は、あなたを知らないけど、確かに私は『マロニー』よ。あなたは冥界の者ね。」


  「はい、最近、ご主人様にこちらに行くようにと命じられて、先週から来ているのです。」


  「あなたの『ご主人様』って、誰?」


  「はい、血統順位128位のビルゲ様です。」


  あ、だめ。血統順位8より下って、あの謁見の間にも入れないし、まして64位以下なんて、冥王様は勿論、始祖様にも直答できない立場よ。貴族でも下級貴族、準男爵か士爵レベルね。私達1位は公爵か侯爵、2位が侯爵か伯爵、4位が伯爵、8位が伯爵か子爵、16位が子爵、32位が子爵か男爵、64位が男爵、128位が準男爵で256位が準男爵か騎士爵、512位が騎士爵か平民ね。血統順位ってどれ位の割合で始祖様の血を受け継いでいるかなの。私は、始祖様の血以外を受け継いでいないので、1位なんだけど、メイドとして作られたから、無爵なのよ。そんな下級貴族が作った女バンパイアなんて、私が知るわけないわね。


  「それで、あなたは、ここで何をしているの。」


  「はい、ここのダンジョンボスであるヒュドラが生意気になったので、追い出すからと、代理を頼まれているのです。」


  はあ、あのヒュドラがダンジョンボスだったの。呆れた。なぜ、ダンジョンボスが地上に出てくるのよ。おかげで、動ける魔物たちがダンジョンから大勢出てきてしまったじゃない。まあ、よかった。あの3階層の奴らが出てこなくって。いや、待てよ。あのレベルはゴブリンと一緒に焼き尽くしたのかも知れない。良かった。夜で見えなくって。あ、そうか。あのスケルトン、5階層から出てきたのかもしれないわね。まあ、どうでもいいけど。


  「まあ、いいわ。ヒュドラから何か渡されなかった。」


  「あのう、これでしょうか?」


  かなり大きな魔石を出してきた。と一緒に、きれいな短剣も出してきた。魔石は、ダンジョンボスだけが持てる魔石で、これがダンジョンに魔力を供給するという大切なもの。あと、短剣は、きっとドロップ品として準備している物だろう。まあ、魔石は、暫くすると大気中の魔素から生成されてくるので、暫くなくても大丈夫だし、ドロップ品もそのはずだ。短剣を抜いてみると、きれいなメタリック・シルバーだ。あ、この色、さっきのカメの甲羅の色だ。ということはアダマンタイト鋼製だわ。まあ、貰っておきましょう。


  魔石も貰って、祭壇の裏に行ったら、転移門が現れた。さあ、帰ろうか。


  「あのう、私はどうなるんでしょうか?」


  あ、いけない。ドリアの事を忘れていた。


  「え、冥界に帰ればいいじゃない。」


  「ど、どうやって帰るんですか?」


  「知らないわよ。ご主人様になんて言われたの。」


  「ご主人様は、『このダンジョンがお前の死に場所だ。運が良ければ100年位は大丈夫だろう。』と言われました。」


  頭痛がしてきた。そのビルゲという阿保をここに連れてこい。気合を入れてやるから。今度あったら、絶対にタダじゃあ置かないんだけど。まあ、どんな顔かも知らないから、会っても分からないかも知れないけど。


  「あなたねえ。この世界で、ここ以外に生きていく場所なんか無いわよ。地上は恐ろしい太陽光線が満ち溢れているんだから。」


  「はあ、でも、マロニー様は大丈夫なのではないですか?」


  「私くらい高位なバンパイアは、太陽光線なんかじゃ何ともならないのよ。でも、あなたは、駄目でしょ。処置なしよ。」


  あ、泣き始めちゃった。見た目、大人の女性なのに、きっと私よりずっと年下ね。それもこの姿の人間から無理やりバンパイアにさせられたのね。そんな匂いがするわ。


  「しょうがない。今回だけよ。」


  私は、ドリアの頭に右手を当てて、『聖なる力』を流し込んだ。普通の魔物なら、これで土くれに還ってしまうのだが、私は、血統順位一位の超高位バンパイアよ。今は、人間だけど。力の制御だって自由自在よ。ドリアの身体がピンクに光り、その後、青白くなってから白く光った。光が消えた時、ドリアは人間に戻っていた。まあ、一部、バンパイアの特性が残っているけど。え、何かって。勿論、アンデッド能力よ。これだけは、私でも消去することはできないもの。


  さあ、行きましょう。皆で転移門をくぐって、ダンジョン地下第1層の入り口付近に転移した。






  ダンジョンを出てから驚いた。なに、これ?騎士団の方々が500名以上、ダンジョン出口の前に整列と言うか、取り囲んでいるの。真ん中で馬に乗っているのって、確か国王陛下?


  「「マロニーちゃん!」」


  あ、エーデル様とシズ様だ。何故、ここにいるんだろう。ぽかんとしていると、フレデリック様が近づいてきた。


  「な、マロニー嬢なら大丈夫って言ったろう。だから、待ってろって言ったんだ。」


  「あのう、今日っていつでしょうか。」


  エーデル姫が、フレデリックの後ろから近づき、私の肩を抱きながら、


  「無事でよかった。私とシズさんだけで入ろうとしたんだけど、父上が駄目だって。ようやく準備が出来て、入ろうとしたら、ダンジョンから凄い音がしたの。でも、よかった。マロニーちゃんが無事で。」


  「あのう、それで今日って。」


  「あ、そうか。今日は6月7日、日曜日よ。」


  あ、私の勘は正しかったみたい。


  「それでダンジョンは?」


  「あ、クリアしたと思います。これがダンジョンクリアの魔石。それと、彼女が元ダンジョンボスです。」


  それからが、大変だった。とりあえず、ダンジョンクリアと言う事で、王都に凱旋パレードじゃないけど、騎士団、冒険者の皆で整列して帰って行ったの。私、お風呂に入りたかったんだけど、そのまま王城に行くことになって。ドリアと一緒に王城のお風呂に入ったんだけど。あ、勿論キラちゃんも一緒よ。ついでに嫌がる銀ちゃんも子犬の姿で洗ってやったわ。ドリアは、私のお付きと言うことになったようで、私の頭や背中を洗ってくれて、それはそれで、気持ちが良いんだけど、メイド付きのメイドって絶対におかしいでしょ。


  お風呂から上がると、お城のメイドさん達が待ち構えていて、私の世話を始めたの。これから、表彰式なんだって。え、なんの。兎に角、表彰式だと死か教えてくれなかった。私は、きれいな水色のドレスを着せられて、ドリアとキラちゃんはメイド服よ。よくキラちゃんのサイズのメイド服が合ったわねと思ったら、お城にはあらゆるサイズのメイド服があるんですって。それって、絶対に無駄よね。


  エーデル様から、頭に付けるティアラを借りたんだけど、結構大きめで、メイドさん達が必死に落ちないようにしていたみたい。表彰式は、謁見の間で行われるんだけど、市内の貴族さん達が勢ぞろいしているの。勿論、スターバ騎士団団長や、マリンピア魔導士教会魔導士長も揃っている。エーデル様とフレデリック様、それと見たことのない王子様も国王陛下の脇に整列している。あ、シズ様もドレスを着て整列しているわ。ゴロタ皇帝陛下の夫人という賓客扱いなんですって。エーデル様から聞いたんだけど、今回の表彰はスタンピードから王都を守ったことと、ダンジョンをクリアして将来の危険を無くした功労なんだって。


  真っ赤な絨毯が敷き詰められた通路を静かに進んで行く。国王陛下は、玉座の前にお立ちになっている。私は、12歩手前で、きれいなカーテシーを決める。まあ、これ位の立ち居振る舞いはメイドの基本中の基本よ。ジェンキン宰相が功労を読み上げる。私が貰えるのは、『』だ。これは、国の危難を救った救国の英雄に対し授与されるものだそうで、私の前には、今から12年位前に、やはり王都をスタンピードから守ったゴロタ皇帝陛下とシェル皇后陛下に授与されて以来らしい。


  「四精第1位白金大褒章を授与される者。」


  「マロニー・ユイット・ドラキュウラ嬢」


  私は、国王陛下の前に進み、膝まずいて頭を下げた。国王陛下は、王酌を私の方に向けて


  「国難に際し、身命を賭してこれに立ち向かい、鬼神のごとき活躍で敵を打ち負かし、見事国難を排除せし救国の戦士よ、その活躍を称え、後世まで栄誉を与えるべく四精第1位白金大褒章を授与する。謹んで拝領せよ。」


  「謹んでお受けいたします。」


  まあ、勲章をもらっても邪魔にならないし。断って、角がたってもね。レディのすることじゃないわ。でも、その次の言葉には吃驚してしまった。ジェンキン宰相が、


  「子爵位に叙せられる者、マロニー・ユイット・ドラキュウラ嬢」


  と呼ぶので、思わず、周囲を見渡してしまう。ジェンキン宰相が、目で国王陛下の前に行くように指示してくる。私も、場を読めるレディですけど、これってなんで。なんで叙爵されるの。再度、ジェンキン宰相が目で合図をする。エーデル様を見ると、「うんうん!」と頷いている。仕方がない。勲章の時と同じように膝まずくと


  「子爵に叙する。」


  と、やはり国王陛下が王酌を私の肩にあてて述べられる。私は、


  「ありがたき幸せに存じます。」


  と言って低頭するだけなの。これって、絶対に政治的配慮があるわよ。私をこの国の貴族にして、どうしろっていうの。しかも、わずか10歳の小学5年生のポーターのメイドを。もう、魔界に帰りたい。

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