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第2部第274話 初めての人間界その12

スタンピードが発生します。

(6月5日です。)

  明日は、魔界に帰る予定で、お土産を買ったり、ダッシュさんやシズさんに挨拶するつもりだ。ノエル様は、白龍城の方に行っていて、明日は、帝国冒険者ギルド総本部長で、シェルナブール市冒険者ギルド長のエーデル様と一緒に帰るつもりだ。ネネさんと一緒にベッドに入ろうかという時間、お屋敷に誰かが訪ねてきた。暫くすると、部屋のドアがノックされた。私が出ていくと、メイドさんが冒険者ギルドからの来客だと言う。誰かなと思って出てみると、なんとギルド長のフレデリック様だった。用件は、今すぐ、冒険者ギルドに来てくれとのことだった。あれ、何の用だろうと思ったら、小さな声で


  「実はな、北のダンジョンから魔物があふれ出してきているんだ。このままではスタンピードになりかねない。それで、早急に対応を取らなくちゃならねえんだがよ。今、この街にいる『S』級の冒険者は、ダッシュさん所のシズさんとエーデルそれとお前さん位なんだ。力を貸して貰えねえかな。」


  え、それって私で良いんですか。私、まだポーターなんですけど。『S』級の冒険者なんてとんでもないです。でも、フレデリック様の真剣なお顔を見ていたら、無碍にもできないし。


  「分かりました。皆様はどちらにいらっしゃるのですか?」


  「ああ、今、騎士団本部に集まって貰っている。おめえさんも来てくれ。」


  すぐに準備をしてから、キラちゃんを連れていくことにした。お庭で精霊竜になってもらって、鞍などを装着する。そのまま騎乗して、騎士団本部に向かった。あ、勿論、銀ちゃんも一緒よ。すぐに騎士団本部に到着した。というか上昇して下降しただけなんだけど。キラちゃんを連れていく理由は一つだけ。上空から魔物たちを殲滅するためよ。騎士団では、急に飛来した銀色の飛竜に騒然となっていたけど、私が騎乗していたので、安心したみたい。まあ、皆さんとは、今日、道場で一緒になっていますものね。シズ様はまだ到着していなかった。エーデル様は、アダマンタイトの鎧で完全装備していらっしゃるけど、武器がレイピアだけだと大量の魔物では不安かな。


  スターバ団長とエーデル姫に私の作戦を伝える。騎士団とエーデル様、あと魔導士教会の方々は、北門を固めていただきたい。私と、シズ様は、キラちゃんに騎乗して上空から攻撃をするので、暫く様子を見てもらう。銀ちゃんは、地上戦になった場合の支援要員とするつもり。エーデル様は、少し不満なようだったが、キラちゃんは2人しか騎乗できないので我慢してもらう。


  その時、市内中の街角から鐘の音が聞こえてきた。


    ガラーン!ガラーン!ガラーン!ガラーン!ガラーン!ガラーン!


  あ、まずい。魔物が思ったよりも早く、北門に迫って来たみたい。シズさん、まだ到着していないけど、もう待てないわ。スターバさんに早く北門を守っていただくようにお願いして、エーデル様にキラちゃんの後ろに騎乗してもらう。あのう、エーデル様、鎧は良いんですけど、下がミニスカートってまずくないですか。もう、ストールを出してエーデル様の開いた足の間に掛けてあげる。


  私も騎乗して、手綱をもってキラちゃんにお願いする。


  「キラちゃん、行くわよ。」


  キラちゃん、大きく翼を広げて浮遊する。今日は満月だ。雲も少ないので、地上部は結構明るく見えている。さあ、上昇しながら北の方向に向かっていく。魔界では、東の荒野から魔物が襲ってきて、その数は数万ともいわれていたんだけど、ここでは、それほど多くはない筈。ダンジョンの魔物生産力などたかが知れているもの。北の門から北に2キロほどの地点に魔物の群れがいた。上空500mの位置からは、モジャモジャと蠢く虫くらいにしか見えないが、特に近づく気もない。私は『虹の魔弓』を取り出し、5本をセットして、すべての矢に『火』属性を付加する。かなり力を込めてから、真っ赤に燃え上がる鏃を確認して矢を放つ。半径200m位の範囲に広がって矢が着弾する。


    ドゴゴゴゴゴーーーーーンンンンン!!!!!


  それぞれの矢が爆発していく。上空から見るととても綺麗。私の後ろでエーデル姫が呪文詠唱を始めた。


    「煉獄の炎よ。イフリートに招かれし地獄の使者よ。その力は全てを焼き尽くす者なり。われの名はエーデル。我は命ずる。すべての命あるものを焼き尽くせ。ファイアボール。」


  火球が急降下していく。地上に衝突して大爆発を起こしている。私は、次々と5本の矢を放っていく。勿論、『火』属性を纏わせるのを忘れない。エーデル様が3発ほどファイアボールを放ち、私が20本ほどの矢を打ち込んだ。もう眼下は火の海だ。あ、眼下の敵が白っぽくなってきた。少し降下してみると、敵の群れはいつの間にかスケルトンの群れになっていた。先頭のゴブリン、オークは完全に殲滅されたようだ。


  スケルトンは、『火』属性よりも、『聖』属性の方が効果的だ。火属性は、直撃こそ効果があるが、近接に落ちたファイアボールなどは骨の隙間から炎が通り抜けてしまい、効果が半減してしまう。私は、矢に『聖』属性の力を込めて打ち込んで行く。青白いドーム状に光が拡散していく。何本矢を射ち込んだだろう。突然、キラちゃんが急降下を始めた。無数のスケルトンに向けて、大きく口を開けてブレスを放った。青白い光が地面を凪いで行く。『聖』なるブレスだ。ほとんどのスケルトンが殲滅された。


  「キラちゃん、地上に降りて。」


  スケルトン達が殲滅された地上には膨大な魔石が転がっていたが、そんな物に構っていられない。敵の本体が迫って来ていた。多くの魔獣達を引き連れたヒュドラだ。ケルベロスやキマイラ達に囲まれたヒュドラが8本の長い首の頭を振り翳している。エーデル様がレイピアを構えた。私は、『虹の魔弓』に5本の矢をつがえる。今度の属性は『風』。しかも特大の力だ。狙いはヒュドラの首。8本の内、5本の首を狙う。エーデル様は、目にも止まらぬ速度で、レイピアの突きを繰り返し、真っ赤な斬撃が、ケルベロスやキマイラの急所を串刺しにしていく。


  私は、矢を放つ。その時のイメージは、5本の首が切り落とされるイメージだ。続けて、同じイメージで3本の首を狙う。ヒュドラは再生力の強い魔物だ。同時に8本の首を落とす必要がある。でも、私の矢は一度に5本が限界だ。だから、最初の5本の矢と後の3本の矢に、大きな時間差があってはならない。そのため、かなり急いで矢を放ったのだが、間に合わなかったらしい。3本の首を落とした時には、5本の首が再生してしまった。徐々に敵の群れが迫ってくる。エーデル様の斬撃も1撃だけでは敵を倒すことができず、何度か『百刺し』を撃ち込まなければならない様だ。私は、今度は8本の矢をつがえてみた。今まで射ったことの無い本数だ。全ての矢が違う的に当たらなければならない。私は、ジッとヒュドラの首を見つめる。ウインドカッターで首がポトリと落ちるイメージを描いてゆく。


  『風よ。エアリエルの力よ。顕現せよ。』


   私の周りを風が渦巻いていく。銀ちゃんが、銀狼の姿になって遠吠えを始めた。8本の鏃が、見つめていられないほどに青白く光った。静かに矢を放つ。それぞれの矢が青白い光跡を曳きながらヒュドラの8本の首に吸い込まれていく。爆発するかと思ったが、そのまま光は、首の向こう側に抜けていった。と同時に全ての首がポトリと落ちてしまった。ヒュドラの胴体が倒れる時の音がここまで響いて来た。


  エーデル様が、青白い顔をしている。あ、魔力切れだ。直ぐに二人でキラちゃんに騎乗して、そのまま上空に逃れる。勿論、銀ちゃんも忘れない。もう面倒臭いから、『投げビシ』を一掴みして、残ったケルベロスやキマイラに向けて投げつけてやる。勿論『火』属性の力を思いっきり込めておくことも忘れない。


   ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!



    ズドドドドドドドド--------ン!!!!!!!!


  うん、絨毯爆撃だわ。50発位投げ込んだかしら。下界では動いているものがいる気配は無いわね。もう少し先、ダンジョンの入り口付近まで行ってみたけど、何もいない。と言うかダンジョン前の受付とかレストランなんか酷い状況。ほぼ死の街ね。生存者の探索をしたいけど、エーデル様は、早く休ませないといけないし、諦めて一旦王都に帰る事にしたの。でもその前に、キラちゃんに、『聖なるブレス』を辺り一帯に掛けて貰う。これで、生存者がいたら明日までは大丈夫でしょう。残念だけどダンジョンの中は諦めるしかないわね。生存の可能性は皆無だし。


  王都に戻ったら、騎士団が夜間行軍の準備中だった。殲滅した魔物達の素材や魔石を回収に行くためだ。また、死んだ魔物達を放置するとゾンビになって復活する可能性もあるため、焼却か埋葬しなければならないので。北門にはシズ様がいて、置いて行かれた事に腹を立てていたが、エーデル様の具合が悪いことを知った途端、直ぐに馬車を準備させて、王城に連れて行ってくれた。


  キラちゃんを、この場で人間に戻すわけにはいかないので、精霊竜の姿のままでお屋敷に戻る事にした。お屋敷の裏庭で人間に変身してから、邸内に入って行ったが、ネネさんや、フェルマー王子達全員が起きていた。魔物襲来の警戒の鐘が鳴ってから、大分経ってから、遠くで連続して爆発音がしていたのだ。眠れる訳が無かった。フェルマー王子は、鎧を装備し、魔物が屋敷を襲って来たら、皆を転移部屋から逃して、自分だけで転移部屋を死守するつもりだったらしい。私は、全ての魔物は殲滅されたことを説明して、皆を安心させた。それから、もう一度お風呂に入ってから遅い就寝についたの。

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