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第2部第271話 初めての人間界その9

(6月3日です。)

  今日は、アプルさん達と武器屋さんに行くことになっている。昨日の訓練のとき、アプルさんの剣を見たんだけど、普及品の剣で、しかも刃こぼれも酷い。これじゃあ、切れるものも切れやしない。早速、新しい武器を見に行くことになった。王都で、一番の武器屋さんは『カメの甲羅武器店』という店で、王城の北側にあるそうだ。この店は、娘さんがゴロタ皇帝陛下の妻だと言う事だが、あのう、ゴロタ皇帝陛下って何人奥様がいるのですか?


  お店は、それほど大きい店ではなかったが、店内は明るく、陳列している武器も種類が多く、また程度も良さげのものばかりだった。いわゆる『なんちゃって宝剣』の類は一切なく、いかにも質実剛健を絵にかいたような武器ばかりだった。店の奥には、若いドワーフがいて、店番をしてる。奥からは、トンカントンカンと鍛冶の音がしていた。全体的にいい雰囲気のお店ね。でも、値段もそれなりに高いのばかりなのは、きっと商品に自信があるのね。


  私達は、まずアプルさんの大剣を探すことにした。お店に置いてある大剣は、それほど種類が多くなく、鋼鉄製のものから、ミスリル銀を挟み込んだもの、それにフルミスリルのものまでと千差万別だ。アプルさんの予算的に、金貨2枚程度のものまでしか買えないので、ミスリル銀とのハイブリッド製の物と、鋼鉄製の物を選んで、試し振りをさせて貰うことにした。私的には、鋼鉄製の大剣の方が、バランスも良く、それに刃の部分の鍛え方が他の大剣と明らかに違うので、おすすめしたいのだが、少し重いので、非力なアプルさんには振り回されてしまうような気がした。


  店員さんに素振りをする場所を聞いたら、鍛冶場の方に大きな声で、


  「親父さん、小娘っ子が大剣振りたいんだってよ。」


  と怒鳴っていた。なんて失礼なドワーフかしらと思ったけど、まだ小僧さんなのだろう。接客の仕方も分からないようだし、我慢しておくことにした。鍜治場から年配のドワーフさんが出てきた。


  「ガンテ、お客様に対して『小娘っ子』なんていうんじゃねえ。馬鹿垂れが。申し訳ございやせん。後できつく叱っておきますんで。それで、お嬢さんたちは何をお探しで?」


  アプルさんは、緊張しまくっている。どうも、この店主さん。かなり有名人らしいの。まあ、ゴロタ皇帝陛下の義理の父親になるんですものね。私が前に出るしかないわね。


  「はい、このアプルさんの使う大剣を探しているんです。これとこれが良さそうなので、試し振りさせていただきませんか。」


  店主さん、チラッと私が持っている大剣を見て、


  「お客さん、どうしてこの剣を選んだんだい。」


  あれ、口の利き方が変わったというか、素に戻った感じ。


 「ええ、予算的には金貨2枚以下に抑えたいんですけど、このミスリルハイブリッド剣は軽くて振りやすいんですけど、大剣としての威力がどうかなって。この鋼鉄製の大剣は、鍛造も素晴らしいように思うのですが、アプルさんには重すぎるかなと。それで両方、試し振りをさせていただきたいんです。」


  「ほう、この鋼鉄剣は俺のお薦めなんだが、たしかに女の子が振るには重いかもしれないな。分かった。裏に回ってもらおうか。」


  言われるままに裏に回ってみると、それほど広くはないが、素振りや試し切をするには十分な広さの練習場になっていた。私は、最初にミスリルハイブリッドの大剣を素振りしてみる。上段からの打ち下ろし、下段からの切り上げ、面打ちをしてから、振り向きざまの胴払い。ウーン、確かに振りやすいんだけど、剣に重みがないと言うか、オーガなどの大型個体を叩き切るイメージが湧きにくい。今度は、鋼鉄剣を試してみる。ずっしりと両手に重さが感じられる。上下に振ると、バランスが絶妙で、重さに比較して振られることはない。いくつかの『大剣の形』をやってみるが、一度も剣に振られるようなことはなかった。


  アプルさんに、鋼鉄剣を振ってもらう。あ、やっぱり駄目かな。体幹が弱すぎる。完全に剣に振られている。次に、ミスリルハイブリッドを振って貰う。うん、大丈夫そう。でも、刃体の重さで切り裂くと言うことは難しいかも知れない。まあ、アプルさん、女性にしては身長が高いので、前衛として大剣を使っているのだろうが、長剣つまりロングソードの方が良いのではないだろうか。


  「すみません。このアプルさんに合いそうなロングソードも見せて貰いたいんですが。」


  「うん、分かった。ところでお嬢さん、あんた『大剣の形』をどこで習ったのかな。」


  「いえ、習ったことはないのですが、長剣の形の応用かなと思って。」


  「ほう、しかし、あんたの『形』は、片刃の長剣の『形』のようだが。」


  あ、分かってしまったみたい。そうなの。『コテツ』を振るために『長剣の形』を習ったので、剣先を返したり、打つ瞬間に剣を少し弾いたりと、片刃剣独特の所作が至る所に出てしまうみたいなの。私は、『コテツ』を空間収納から取り出して、店主さんに見せてあげた。


  「いつもは、これを使っているので、どうしても『剣の形』に固癖が出てしまうみたいなんです。」


  店主さん、私の出したコテツを見て、一瞬固まっていたみたい。


  「お、お嬢さん、この剣、どこで手に入れたのかな。」


  「あ、この世界じゃあないんです。でも、この世界でも有名な刀匠の作品だと聞きました。」


  「この世界じゃあない?そうすると最近、ゴロタ帝国に併合されたという『魔界』のことかい?」


  「はい。私は、先週、そこから参りました。」


  「先程の振り、見ない『形』だが、どこの流派だい?」


  「はい、『魔剣一刀流』と言う流派を少々。」


  「うーん、悪くはねえが、ちょっとなあ。あ、この姉さん達の剣を選び終わったら、ちょいと残っててくれりゃあ、俺の流派のコツを教えてやるぜ。」


  結局、アプルさんはミスリルハイブリッドの大剣を買う事にした。グレーテル王国金貨1枚半だった。メリッサさんは、店主が打った鋼鉄製のショートソードを購入したが、これも金貨1枚もした。でも切れ味はミスリル製にも負けないものだそうだ。


  アプルさん達とネネさんは、これからスイーツを食べにいくそうだが、私はそのまま残る事にした。店主の名前はダッシュさんと言って、元王国騎士団の騎士だったそうだ。ダッシュさんの剣の流派は『明鏡止水流』と言うそうだ。『明鏡止水』とは、雑念がなく、澄み切って落ち着いた心の有り様であり、剣を構えた場合に、雑念や迷いがなく、打つべき時は躊躇わず打ち込む剣の極意を指しているらしい。


  元々、長剣の『形』として編み出され、発展して来た流派であり、『魔剣一刀流』の様に、属性付加のある魔剣を使いこなすものとは、本質的に違うものの様だ。ただ、魔界でも全ての剣士が『魔剣』を使うわけでもないので、基本的な所は剣の方として共通の面もあるそうだ。


  ダッシュさんが、私の剣とよく似た剣を持ってきた。この世界の『和の国』のヒゼンと言う所で作られている『刀』と言う剣だそうだ。ダッシュさん、その刀を腰ベルトの左腰に差し、鞘をに左手を添えて直立した。一礼してから大きく3歩進み、その場で剣を抜きながら蹲踞の形を取る。立ち上がってから、最初は『一の形』だ。ダッシュさんの動きには、無駄がなく、かつ隙がない。動きが全て剣の理合いに合致している。全ての形に『打太刀』と『仕太刀』があり、本来は、二人で相対して行うものだそうだ。ダッシュさんは、最初、打太刀を通しでやってくれた。あ、この形、ゴータさんから教わった形だ。見ていると、ゴータさんの事が思い出され、涙がポロポロこぼれてきた。


  「おいおい。何で泣くんだよ。俺は、単に剣の『形』をやっているだけなんだけどよ。」


  「すみません。ダッシュさんの『形』を見ていたら、その『形』を教えてくれた恩人の事が思い出されて。」


  「フーン、そうかい。しかし、魔界にまで『明鏡止水流』が伝わっているなんて聞いちゃいねえがな。」


  結局、お昼まで『形』の練習を続けていた。今までは、ゴータさんに教わったことを思い出し、思い出しやっていたけど、再度、習うと自分の個癖が良くわかるの。ダッシュさんは、教え終わってから鍛冶場に戻っていたが、時々様子を見に来てくれた。お昼になると、エルフの女性が出てきて、もうお昼だから一緒に食べようと誘ってくれた。とても綺麗な女性だったが、ダッシュさんの娘さんだそうだ。この方、今、ダッシュさんの元で刀剣作りの見習いをしているそうだ。この方の名前は『シズさん』と言っていた。お昼ご飯は、ダッシュさん親子と見習いの若い子の4人で食べたが、料理はダッシュさんが作ったそうだ。


  お昼としてはこんなものだろうが、あまり美味しくなかった。シズさん、料理の腕は壊滅的らしいのだ。


  「あのう、今日のお礼に、夕飯、私が作りましょうか?いえ、作らせて下さい。」


  ダッシュさん達は、笑いながら了承してくれた。あ、話のついでに、ダッシュさんのもう一人の娘さんのことについて聞いた。ダッシュさん、キョトンとしている。


  「いえ、ダッシュさんの娘さんがゴロタ皇帝陛下の奥様になられているとお聞きしましたので。」


  シズさんが、笑いながら、


  「マロニーちゃん、それ、私。私のことよ。」


  「えーーー!そ、それじゃあシズさん、いえシズ様は『皇后陛下』なんですか?」


  「違うわよ。私は、第7夫人。皇后陛下はシェル様とエーデル様、お二人とも王族の出身だし。私は、ただゴロタさんが好きなだけ。」


  うーん、よく分からないけど、これからは『シズ様』とお呼びしましょ。


  「ねえ、明日、私と一緒に『明鏡止水流』の総本部道場に行かない?稽古してあげるわ。」


  「え、是非お願いします。私、ずっと一人で稽古してきたので。」


  ドンキさんと稽古していた頃のことを思い出してしまう。そう言えば、ドンキさん、途中から稽古してくれなくなっていたわよね。


  午後もずっと形の練習を続けていた。夕方4時になってから、夕飯の買い物に出掛けることにした。勿論、メイド服に着替えてからだけど。今日のメニューは、ロールキャベツのクリームシチュー仕立てとミートパイ、後エビフライね。サラダはキャベツとニンジンのコールスローにしたんだけど、簡単すぎたかしら。パンは食パンを買ってきてニンニクバターをたっぷり付けたトーストにしたの。


  このお店、店舗の2階が居住用スペースになっていて、今はシズ様お一人でお住まいになっているんだけど、ゴロタ皇帝陛下も冒険者時代にはここに住まわれていたんですって。鍜治場があって、剣の師匠がいて、冒険者ギルドが近いなんて、好条件すぎるわよね。

マロニーちゃん、次々とゴロタの関係者と会っていきます。

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