第2部第270話 初めての人間界その8
(6月2日です。)
私達は、地下第3階層に潜っていった。ここは通りたくないんだけど、避けては通れない。先頭は、アプルさん達にお願いした。もう至る所からカサカサとかブーンと言う音がしている。前回は気配感知だけで殲滅していたけど、今回は、ちゃんと見てから殲滅しようと思っている。そのため、メイド魔法の『空間浮遊』を使って上空30mまで上昇して待機する。勿論、敵の姿を確認するためよ。自分だけ安全な所にいるなんて絶対に思わなかったんだから。
あ、いた。あの黒っぽい羽は、絶対カブトムシとかクワガタじゃあないわ。もうこうなったら『投げビシ』の連射よ。連射!
ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!ビュッ!
兎に角、目につき次第、いえ、目に付かなくたって連射の嵐よ。50発位投げたかしら。撃ち漏らしたやつは、アプルさん達が『キャアキャア』叫びながら殲滅していたけど、ホワイトさんとネネさんは、逃げ回るだけだったわね。でも、あいつらって逃げれば逃げるほど追いかけてくるのよ。ホント、恐怖のGね。周囲に匂いが立ち込めている気がして、風を起こしながら降りていったんだけど、みんな、どうしてジト目で私を見るの?
結局、歩いて森の奥に進むのは怖すぎるからって拒否されたので、またロープ作戦ね。別にロープにぶら下がるわけじゃあなく、『空間浮遊』の効果を確実にするためにロープを使っているので、10センチ浮かそうが100m浮かそうが同じことなの。でも、30m浮かんで、森の上を『空間移動』で、のんびり進んでいったら、みんなのジト目がさらに厳しくなったのは何故なのかしら。
階層ボスは、黄緑色の『ツインヘッド・マンティス』だった。まあ大型のカマキリね。でも、こいつのヤバさは強酸性の唾液を吐いてくること。それも左右の頭から挟撃して来るんだもの。私は、自動シールドで平気なんだけど、みんなはそうは行かないみたい。私は、300mくらい離れた所でホバリングしながら『虹の魔弓』を構えた。あ、『空間浮遊』って、別にロープを持っていなくても平気なんだけど、引っ張りやすいから持ってて貰うだけだから。
2本の矢をつがえ、目一杯引き絞る。『風』と呟いてから矢を放つと、ウインドカッターを纏いながらカマキリの二つの頭に向かっていく。
スパッ!!
そんな音などしないが、カマキリの二つの頭がポトリと落ちた。強酸性の唾液を吐く暇もなかったようだ。私達はフワフワと近づいて行き、カマキリの薄羽根と大きな鎌を『コテツ』で切り取って収納する。本体は、気持ち悪いから、放置ね。
地下第4階層は、前回同様、渓谷エリアだ。爆弾岩やローリングストーン、それにストーンゴーレムなどが至る所に潜んでいる。攻撃の主体はネネさんだ。かなり大きめのファイアボールを撃ってもらう。真っ赤になった石や岩に、私がシャワーをかけてやると、ピシッと言う音と共に身体にヒビが入ってしまう。そこでアプルさんの大剣でバゴッて叩きつけると、脆くなった岩が砂岩のようにバラバラになってしまう。
なんの苦労もなくストーンゴーレムを殲滅しまくり、いよいよ階層ボスだ。前回はバジリスクだったが。今回は『ツインテール・スコーピオン』だった。こいつも嫌な相手だ。
ネネさんに攻略方法を教えてあげる。今回は、土魔法だ。まず、スコーピオンの手前に深さ3m位の穴をあけておく。うん、それ位でいいわ。そこでスコーピオンにファイアボールを撃ち込む。あ、怒った。馬鹿なスコーピオンは、真っ直ぐこちらへ突っ込んで来るので、穴に頭から落ちてしまう。そこへ土を被せ、生き埋め状態にしてしまう。後はゆっくり処理するだけだ。尻尾の毒腺はいい金額になるので、傷つけないように慎重に切り取って採集完了です。
本当は、クエスト依頼品は十分採集していたんだけど、このまま帰るのも勿体無いので、渓谷の途中にある洞窟、あのシーサイドエリアに行けるショートカットを目指すことにした。洞窟は、直ぐに見つかった。まあ、目印の三角岩の下なんだけどね。
アプルさん達は、初めて来るエリアなので大喜び。でも海に入るのはやめた方がいいと思うわ。沖合にいたはずのクラーケンがこちらに向かって来ている。
「危ない。アプルさん。クラーケンよ!」
大声で注意したので、慌てて砂浜を戻って来ていた。クラーケン本体は波打ち際まで来れないが、長い職種を2本伸ばして来た。私は、『コテツ』を取り出すと同時に大きくジャンプした。高さ30m、距離50mの大ジャンプだ。勿論、『空間浮遊』も使っているが、大きな放物線の先には伸び切ったクラーケンの触手があった。着地間際、剣を抜きざまに触手を切り落とし、帰す刀で、もう1本の触手を切り上げて切断した。流石に2本の触手を失ったクラーケンは、スゴスゴと沖合の方へ逃げていったが、とても新鮮な食材がゲットできた。太さ1m以上、長さ10m位の触手だ。1本は、丸めてから空間収納に仕舞い込んだが、もう1本は今から焼いて食べるつもりだ。『コテツ』で薄くスライスして、大きな串にクルクルと巻いて差し、焚き火で炙り始めた。途中、醤油と味醂の混ぜた調味料をかけてから再度焼き始める。これって絶対美味しいはず。
食事が終わったら帰る準備をしなくっちゃ。帰りにストーンゴーレムを5人で討伐させたんだけど、ちょっと火力不足かも知れない。ネネさんのファイアボールで本体は赤くなるんだけど、アプルさんの大剣ではある程度ダメージがあるんだけど暫くすると回復されちゃうし。メリッサさんのショートソードとシルベリアさんの弓では表面に傷をつけるだけ。
「右足だけ攻撃して。」
私、思わず指示しちゃった。それからは、攻撃が集中した効果が出てきて、ついに右足の足首が切断された。立っていることが出来なくなったストーンゴーレムは、『ズズーン!』と転倒してしまった。後は、振り回される腕に注意しながら、首と頭に攻撃が集中していく。ネネさんのファイアボールが爆発した直ぐ後が狙い目。赤くなっている間に大剣、ショートソードそして矢が集中する。赤みがなくなると、またファイアボールの攻撃。30分後、首がゴロンと転がった。同時にストーンゴーレムは瓦礫になってしまった。魔石を回収して、さあ帰りましょう。第3階層は、メイド魔法の『空間浮遊』で、微風に乗ってフワフワと横断し、ゴブリン達は構わずに突破して行って第1階層に到着した。
ダンジョンを出たのは午後3時位だったんだけど、調度ギルド行きの乗合馬車があったので、みんなで乗り込んだの。一人、銀貨1枚と高めだったけど、まあ、みんな疲れていたみたいだし、のんびり馬車の旅も良いかも。一緒に乗って来た若い冒険者さん達が、アプルさん達にいろいろ話しかけてきていたけど、アプルさん、疲れてそれどころじゃないって顔で応対していたんで、男の子達、黙ってしまったみたい。うん、アプルさんも当分、男っ気なしね。ギルドに到着してから達成報告をして、素材を並べ始めたの。ゴーレムの魔石は、前回の時は、一山いくらで売ったので、単価を知らなかったが1個銀貨3枚もするんだ。全部で14個あったので、それだけで大銀貨4枚と銀貨2枚、あと、カマキリの鎌と羽が大銀貨1枚と銀貨8枚になったので、合計で金貨6枚になった。一人当たり大銀貨1枚となるわけでまあまあの売り上げね。
あ、今回のクエスト成功が評価されて、アプルさん達、晴れて『C』ランク昇格となったみたい。でも、アプルさん達、遠隔攻撃ができる魔導士を入れるか、もうちょっと剣の腕を磨かないと、これから、きつくなるかも知れないわね。私、アプルさん達を連れて、ギルドの演習場に向かった。そこで、アプルさんには丸太木刀を渡して素振りをさせてみた。勿論、ヘロヘロ素振りしかできなかったけど、とりあえず降らせ続けたの。あと、メリッサさんには、剣の形の初歩と足運びを教えてあげたの。どうも手と足がバラバラ。それとシルさんには、もう少し強力な弓が必要ね。狙いは良いんだけど、威力がなさすぎる。私の『エルフの弓』を持たせてあげたけど、それさえ引けないの。筋力なさすぎね。でもシルさん、私が渡した弓をじっと見て、『伝説の弓よね。』と呟いていた。あれ、ここでは、そんな扱いですか?上げないわよ。
最後にホワイトさん、『聖魔法』のほかに攻撃魔法は何が使えるのか聞いたら、何もないって。え、ないの。しょうがないわ。それじゃあ『ヒールのほかには?』って聞いたら、それも無いんですって。どうしよう。身体能力なんかすぐには上がらないし。あ、それかな。私は、ホワイトさんの右手をもって、アプルさんに向けさせた。私は、『身体強化』と呟いてから、アプルさんに力を放出した。勿論、ホワイトさんの右手を経由してよ。アプルさんの身体が薄ピンク色にひかったと同時に、それまでヘロヘロとしか触れなかった丸太木刀をビュッと振り始めた。ホワイトさんもアプルさんも驚いていた。
今のイメージ、忘れないようにね。それから、何回かホワイトさんの右腕を使って『身体強化』の発動を体験させたの。途中から、私の力を減らしていって、ホワイトさんの魔力で発動できるようにしてあげたの。ホワイトさん、自分の魔力の流れが分かったみたい。振り向いて、後ろにいる私を見つめている。
「ありがとう。」
ホワイトさん、『ヒール』しか使えない役立たずだと、ずっと思っていたみたい。薬草採集なんか、能力なんか関係ないし。戦闘になっても逃げ回るだけで。私は、『そんなことはないですよ。』と言ってあげた。これから上位の魔物と戦闘になる機会も増えるだろうから、仲間がけがをする機会だって増えるに決まっているわ。それに、回復役がいるってだけで、戦闘に専念できるんだから。
その日は、午後6時近くまで、練習をしてしまった。あ、ネネさんも魔力切れ寸前までファイアボールを回す訓練をし続けていたので、私が背負ってお屋敷まで帰ることになったの。