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第2部第266話 初めての人間界その4

(5月31日です。)

  グレーテル王国王城の国王陛下執務室において、グレーテル国王陛下、ジェンキン宰相、スターバ騎士団長そしてマリンピア魔道士長の4人が集まっていた。


  「それで今日の大爆発で、被害はなかったのじゃな。」


  「はい、爆発直後、敵襲と思い騎士達を支柱に配置したのですが、家屋も含め被害は皆無でした。」


  「それでマリンピア魔道士長、今回の被害を未然に防いだのは、11歳の女児と聞いたが。」


  「はい、ゴロタ帝国離宮に滞在しているマロニーなる女児ですが、魔法に関する知識といい、あの大爆発を防いだ手腕といい特級魔道士以上の実力かと。ただし本人は、魔法など使えないと申しておりましたが。」


  「うむ、確かに今回の超特大級の魔法は、ノエル殿が使ってはいるがのう。」


「ところで、その女児が改良したという魔法陣は如何した。」


  「はい。全て回収しましたが、我が魔道士協会のメンバーでは、魔力量が足りずに使いこなせないとの事でした。」


  「うーむ、ノエル殿でさえ制御できなかったとなると、ゴロタ殿以外には誰も使えんというわけか。」


  「御意。」


  「しかし、なぜいつもいつも超人級の人材がゴロタ帝国に現れるのじゃ!?」



  





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  今日の午後は、王都見学の予定だったんだけど、ネネさんが疲れ切った様だったので、どこにも出かけないでまったりとすることにしたの。ドミノ様は、相変わらずピアノの練習をしているけど、本当にお上手。何でも天才ピアニストとして有名な方らしいの。暫く見ていたら、ドミノ様が、


  「マロニーちゃんも弾いてみる?」


  と言われた。私、冥界で舞踏会などの時に、会場で聞いたことはあっても、弾いたことなど一度もないし。それに手も小さいし。でもピアノが弾けたらいいなって思うくらい、ドミノ様のピアノが素敵だったので、思わず『はい!』って言ってしまったの。


  ピアノの椅子に浅く座って、鍵盤と腕の肘の高さが同じ位になるように椅子の高さを調節すると、楽な姿勢で鍵盤に指先が触れる。それから右手の親指で、指定された白鍵を弾いた。この音が『C』だって教わった。その白鍵の一つ置いた右隣が『E』、そのまた一つ置いた右隣が『G』、この3つの音が基本なんだって教わった。順番に弾いてみる。綺麗な音。一緒に弾いてみる。これも綺麗。左側にも同じ様な並びの鍵盤が並んでいる。左手で『C』と思える鍵盤を弾いてみる。うん、間違いなく『C』だ。右手は順番に、左手は一緒に弾いてみた。あ、全然違う。音が広がっていく。じゃあ左手を順番にして、右手は一緒に。これも綺麗。え、じゃあ、じゃあ、じゃあ右手を順番に弾いて、左手は1音遅らせて弾いたら?あ、これもいい。暫く弾いていたら、ハッと気がついた。ドミノ様の練習の邪魔ね。慌てて中断して椅子から飛び降りた。


  「すみません。練習の邪魔をしてしまって。」


  「いいのよ。でもマロニーちゃん、ピアノ好きみたいね。キチンと練習してみない?」


  「いえ、毎日忙しくて。学校もあるし。孤児院にも行かなくちゃいけないし。」


  「ふーん、そうなんだ。でもね、ピアノって弾けば弾くほど楽しくなるのよ。あ、そうだ。この本、あげるから気が向いたら練習してみて。」


  頂いた教本は2冊、『子供のためのハノン』と『子供のための演奏会小作品集』という題名だった。


  「あ、ありがとうございます。この様な高価なものを。」


  「いいのよ。私には必要ないもの。」


  「えーと、お伺いしたいのですが、ドミノ様が今弾いていた曲は?」


  「ああ、あれ。ショパンよ。ショパンのエチュードで『木枯らし』って曲。今度の演奏会で弾く予定の曲よ。」


  「そうですか、いい曲ですね。何となく物悲しくって。それでいて風に舞う木の葉のイメージが想起されて。」


  「マロニーちゃんも、貴女、絶対ピアノやるべきよ。音楽への想いが伝わってきたもの。手だって結構大きめだし。大人になればもっと大きくなるから。」


  ドミノ様、すみません。私の手、きっとこれ以上大きくならないと思います。


  その日の夕方、今日の魔法学院の大爆発の件について、ノエル様から感謝の言葉があった。それから、今回の魔法陣についての検証が始まったが、元々この魔法陣は、『現代魔法大全』という本の魔法陣の章に記載されていたが、中級精霊の『イフリート』の力を借りる者だった。それをノエル様が、低級精霊の『サラマンドラ』からの力を顕現させる魔法陣に書き換えていたのだ。しかし、その前後の制御記号が『イフリート』用のものだったので、制御が強すぎて炎もしょぼいものの筈だったのだ。


  それを原始のヒエログラフの象形文字に直し、しかも上級精霊に書き換えてしまったので、イフリート用の制御記号では魔力制御が効かなくなってしまったのだ。いわゆる上位互換ができない状態だったというわけだ。


  上級精霊の要求魔力量は凄まじく、上級魔道士が何人も魔法陣に張り付いて、さらに魔石を10個以上供給しなければならないのに、それをノエル様は一人で補おうとしたのだ。魔力切れになっても仕方はない。この魔法陣の本来の目的は、単にコンロやストーブがわりに使うのではなく、国家間の戦争の際に、戦略級魔法陣として使用する極限魔法だったらしいのだ。


  これは、後ほどノエル様が研究論文にする予定だが、おそらく国家機密扱いになるだろうとのことだった。次に、私が使った魔法についてだが、魔法ではなく、『聖なる力』で全て処理をしたと言ったら頭を抱えていた。


  根本的なことを言うと、魔力とスキルでの力の差とは何であるかを理解する必要がある。あらゆる生物が持っている力は、根源的には同じであるとは、古代の大魔法学者『リルケ』が書いた『魔法と時間の旅』に書かれていた言葉だ。体力や持久力、俊敏力は、全ての生物が持っていて、本質的には何も変わらない。では、その差とは何だろうか。


  この世界は、命と自然の力に満たされており、その自然の力が魔力や精霊力などに分けられている。分けたのは人間が便宜上分けただけであり、全てが同じ物であるならば、その効果の過程は違っても結果は同じであると言える。


  私が作り出した『聖なるシールド』は、魔力も呪文詠唱も伴わないが、結果は聖魔法の『シールド』と同等のものである。


  そう説明していると、一生懸命筆記していたノエル様が、


  「ねえ、精霊力ってなあに?」


  と聞いてきた。私は、自然界の森羅万象に聖霊達が携わっており、その力で四季は巡り、生まれ、育み、死んでいく。4大元素とも4大精霊とも言われるのはそう言う理なのだと説明した。


  ノエル様が、では魔力量に個人差があるのはどうしてかと聞かれたので、それはこの世界の全ての生き物が同じではないと言うことと同様に、精霊との親和性に差があるにすぎない。そしてこの能力は、平素からの接し方、つまり魔力の使った量により増加するの。


  この辺で、キルケ導師は話題を他に変えていたけど、スキルと魔法の違いって、今でもよく分かってないみたい。


  ノエル様、今日はだいぶ勉強になったみたいで、『今度、一緒に王立図書館の禁書庫に行きましょ。』と誘われてしまった。あのう、私、まだ小学校5年生なんですけど。








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  次の日、フェルマー王子とドミノ様それとネネさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。グレーテル王国の冒険者ギルド総本部は伝統と格式のある4階建ての建物だった。フェルマー王子は、冒険者ランクは『E』だそうだ。能力的には『C+』と言う訳の分からないものだったが、依頼達成数の関係で、低いランクのままだ。


  受付は2階にあり、依頼ボードの中から、ダンジョン攻略関係を探す。あ、あった。鉱石採取だ。ミスリル銀1キロ採集だ。現在、地下第5階層で採集できるそうだ。依頼達成報酬は銀貨1枚だが、ミスリル銀1キロは、金1キロとほぼ同じ価格で取引されているらしいので金貨4枚以上になるはずだ。但し推奨ランク『D』パーティー以上だし、ミスリル銀は銀鉱石とまぎわらしいので、達成困難度はかなり高いはずだ。


  フェルマー王子は、地下第5階層まで単独で行ったことがない様だが、無理だったら諦めて帰って来れば良いのだ。躊躇っているフェルマー王子に、


  「フェルマー王子様、ご安心ください。こちらのネネさんは、『スリーヘッドアナコンダ』も討伐した事もあり、実力的には『C』ランク以上です。ダメなら帰還すればいいじゃないですか。」


  ネネさん、わたしの顔をジト目で見ているけど、気にしない、気にしない。


  フェルマー王子、依頼書を持って受付に行ったけど、矢張り色々注意されていた。でも『D』ランクパーティー以上とあるんだから、絶対にダメってことはないみたい。この依頼は、最初『C』ランク以上だったらしいのだが、効率が悪いので受け手がなく、昨日『D』ランクパーティー以上に格下げになったばかりだった。それでも、フェルマー君がリーダーでは心配なのだろう。それでも、なんとか依頼を受けることができたみたい。


  ダンジョンは、この街の北門から徒歩で1時間位の所にあるのだが、北門までは市街動力車が走っている。あっという間に北門に到着してから、冒険者証を示して街を出る。勿論、私とネネさんはポーター証だ。私は、街を出てからいつものロープを出して3人に掴まって貰う。フェルマー王子とドミノ様、なんだろうと言う顔をしている。


  メイド魔法『空間浮遊』で浮かばせてから、小走りに走っていく。フェルマー王子が15分弱でダンジョン前に到着だ。受付に依頼書を見せて、無料でダンジョンに潜っていく。依頼書がなければ、一人大銅貨3枚が必要になる。これは、野次馬で入ろうとする者達を排除するためだそうだ。


  このダンジョンは、10年位前にスタンピードが発生し、それ以降難易度が格段に上がったとのことだった。と言うか、数年に一度、ダンジョン構造が変わり、現在のダンジョンでは地下第5階層までしか攻略されていないそうなの。早速入ってみると、第1階層は大きな空間の洞窟だった。至る所に魔法ランタンが灯され、洞窟の中とは思えない。まだ朝9時だと言うのに、どこかの学校の生徒さん達の団体がいたり、供を大勢引き連れた騎士さんがいたりと賑やかだった。


  第1階層にはゴブリンやオークの魔物が出ると聞いていたが、全く現れない。良かった。ドビちゃん達の事を思い出すと、いかに魔物だと言っても討伐するのは嫌だもんね。


  階層ボスがいるはずだけど、ポップした瞬間、寄ってたかって討伐されるらしく、私達は、なんと言う事なく地下第2階層に潜っていった。

  

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