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第69話 英雄に握手 ポッ!!

帝国も残念だったようですけど、王国も負けてません。

  ゴロタ達の出身国、グレーテル王国の王宮内では、ジェンキン宰相がグレーテル国王に報告中だった。


  「何、ヘンデル帝国のクイール市が壊滅したと?」


  「御意。」


  「して、あのゴロタが、一人でだと?」


  「御意。」


  「原因は、何じゃ。」


  「同行していた、あのエルフ姫が辱しめを受け、瀕死の重傷を負わせられたと。」


  「うーむ。如何に、かの帝国が亜人を蔑もうと、絶対に手を出してはならぬ相手に、手を出してしまったか。可哀想に。そうじゃ。至急、婿どのにお見舞いを送れ。何でも良い。儂が送ったと判れば良いのじゃ。帝国大使を呼べ。特使じゃ。特使を送るのじゃ。兵は、200名で良い。特使は、ダンベル辺境伯が適任じゃ。早く、するのじゃ。かのエルフ国が、娘の仇討ちに挙兵する前に、手を打つのじゃ。」

(いや、それは無いから。それに『婿どの』になっているし。)






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(7月5日です。)

  ゴロタ達は、スカンダル市外の街道を進んでいる。間もなく、城塞が見えてくるはずだ。しかし、街道の両脇には、土産物屋や飲食店が並んでいる。城塞の外に、市民が住むのは、余程、治安が良く、魔物が出没しないからだ。スカンダル市の市政が分かるようだ。


  その時、1騎の早馬が僕達の前に駆け付けた。騎乗していたのは、帝国軍の制服を着ているが、武装はしていない。


  その男は、馬から降りると、馬車の左横に膝間付き、


  「失礼ながら、ゲール総督閣下とお見受けします。私は、メレンゲ上級4等認証官郡長官特使のイオン帝国軍中尉であります。


  ゲール総督が降車して、特使の方と話している。暫くしたら、特使の方は帰って行った。


  「ゴロタ君、郡長官が、出迎えの準備があるから、イチナナマルマルに、城門前に来て欲しいそうだ。」


  出迎えって、『軍隊が僕を捕まえるための準備の事かな。』と思ったが黙っていた。


  まだ、時間が有るので、近くの茶店に入った。珍しく、獣人が店員をしている。亜人は、市内の居住許可が貰えないことが多いので、このように市外で働く事が多いのだ。僕達は、泡が出てくるカラメルジュースを頼んだ。香辛料に秘密が有るのか、癖になる味だ。銅貨13枚だった。


  ノエルは、ジャガイモをスティック状にして油で素揚げしたものに塩をふった物を注文した。普通に旨く、手が止まらなくなる。


  でも、さっきから店員の目線が気になる。店員は、兎人で目がとても大きく可愛らしいのだが、何故か僕をジッっと見ている。


  それに気づくと、なにか恥ずかしくなって、下を向いてしまった。ちょっと面白くないシェルさんが、キツい口調で兎人の店員に文句を言った。


  「ちょっと、あなた。私のゴロタ君に何か用かしら?」


  エーデル姫達が『私の』に反応して、ジト目でシェルさんを見た。


  「すみません。亜人をたったお一人で救った英雄様に、一目お会いしたかったものですから。失礼を、お許し下さい。」


  え、英雄? 詳しく聞くと、僕は亜人の解放を求め、西部方面軍を壊滅した英雄となっているらしい。どうなっているんですか?ゲール総督は、横を向いて、物悲しい口笛を吹き始めた。


  出発前に、僕達は、店の奥で正装をさせられた。処刑されるのに、正装は勿体ないと思ったが、いつものグレーテル王国貴族服を着た。


  シェルさん達は、シルクのミニスカ、リボン付きで、帽子は季節に合わないので被らず、その代わりパステルカラーの日傘を各々に持った。シェルさん、そんな日傘、いつ買ったのですか?


  時間となったので、城門に向かうことにした。店を出る時、あの店員さんが握手を求めて来たが、シェルさんが阻止していた。


  城門前まで来て驚いた。街道前には、帝国軍が左右に整列して、馬車に乗っている僕達に栄誉礼をしてくるのだ。例えば、左側の部隊は、指揮官の『かしら、右』の号令で、頭を45度右を向き、馬車の進行に合わせて顔の向きと目線が追い掛けて行き、頭が左45度になったら、そのままにしている。指揮官の『直れ』の号令で、元に戻すのだ。


  左右に3列ずつ、200mに渡って整列しているので、ざっと2000人の部隊が、動員されている。


  部隊の後方には、市民の人達が大勢いて、各々手を振っている。


  エーデル姫とシェルさんは、慣れているようで、左右に満遍なく笑顔を振り撒いて手を振っている。当然、僕は、下を向いて、馬車の床の木の年輪を数えている。


  城門前で、馬車は止まった。城門は、大きく開かれ、偉そうな方達が、横に整列していた。降車した僕達は、ゲール総督に、並び順を指示され、ゲール総督を先頭に、列の最右翼の方に歩いて行った。


  最右翼の方は、郡長官閣下で、以下、次々に紹介していった。


  僕は、ゲール総督が紹介してくれるので、一言も喋らなくて良く、右手を出して、ニコニコ握手をしているだけで良かったが、シェルさん達は、向こうの自己紹介が終わると、長い口上を言うので大変だ。


  例えば、エーデル姫の場合は、


  「ご機嫌よう。私はグレーテル王国第三王女エーデルワイス・フォンドボー・グレーテルですの。今後も宜しくですの。」


  と言って右手を差し出す。相手方は、流石に臣下の礼は取らないが、少し腰を下げて、その右手を持ち軽く口付けをして、手を戻す。エーデル姫が、ニコッと笑うと、右手を胸に、左手を後ろに回して会釈をする。この一連の動作をするのだ。時間がかかってしょうがない。


  僕は、握手が終わっても、隣が終わらない限り、次に進めないのだ。


  7月と言っても、既に暑い日が続いており、後ろで整列している兵士さんの中には、倒れる人もいて、大変な事になっていた。


  漸く式典が終わったので、戻ろうとしたら、場内に馬車が準備されているので、それに乗るようにと言われた。馬車は4人乗りのオープン馬車で、僕は郡長官と一緒に乗り、向かい側には、ゲール総督と軍の偉そうな制服を着ているお爺さんが一緒だった。


  郡政務庁までの、約2キロの道のりも辛かった。左右の沿道は多くの市民で埋め尽くされており、5mおきに衛士の方が立って警護に就いている。メレンゲ郡長官は、ニコニコ笑いながら、心の奥底で思っていた。


  『やれやれ、この歓迎パレードに幾らの経費が掛かっているんだ。あのアホ市長のバカ息子のせいだ。あ、そうだ。遺族に、この経費を請求してやろう。市長の退職金を全部、巻き上げてやる。』


  うん、普通に怖いから。


  郡政庁前で、パレードが終わった。僕は、余りにも長い時間、ニコニコしていたので、顔がそのまま固まっていた。郡長官は、政務庁の中を案内してくれた。全く興味がなかったが、立ち上がってこちらを見てくれる職員の方々に同じくニコニコしながら会釈をするので、固まった顔をそのままにしていた。


  郡庁舎の2階の応接間に案内されて、お茶になった。郡長官らも一緒に座り、楽しいお茶会になる筈だったが、恐ろしい事をいい始めた。


  「お疲れのところ、誠に申し訳有りませんが、本日2000より、迎賓館にて歓迎晩餐会を行います。御臨席賜れば幸甚です。」


  皆は、げんなりしていたが、断る訳にも行かない。場に流れる沈黙。シェルさんが、口を開いた。


  「了解しました。喜んで参列させて頂きます。その前に、1点確認させて下さい。あの事件での、ゴロタ君の処分はどうなりましたの?」


  一瞬、キョトンとした郡長官だったが、質問の意図を理解した郡長官は、笑顔を浮かべて、


  「あれは不幸な事件でしたが、衛士庁と帝国軍を私物化していた市長と、その権勢を頼みに暴虐を尽くした息子の所業に起因していた事が、原因と判明しています。ゴロタ子爵閣下に責は無いものと愚考致しております。」


  そう言いながら、郡長官は、冷や汗を流していた。ここで、対処を間違えたら、クイール市の二の舞になってしまうと考えていたのだ。その時、慌てた様子で執事の方が部屋に入ってきた。その執事さんは、郡長官にメモを見せながら耳打ちをしていた。


  驚いた郡長官が、僕達の方を向いて、


  「失礼致しました。今、連絡が入りまして、明日、我が皇帝陛下がゴロタ子爵閣下を歓迎するために、当地へ御臨行なされます。従いまして、歓迎晩餐会は明晩に延期させて頂きたく、宜しいでしょうか。」


  メレンゲ群長官は、心配指数がMAXとなってしまった。『ああ、明日の晩餐会の成果次第で、帝都に戻れるかどうかが決まる。駄目だ。緊張してきた。どうしよう。どうしよう。』 (この郡長官も基本的に残念な人でした。)


  この時、次の執事さんが部屋に入ってきた。執事さんが渡してくれたメモを見て、もう何も言えなくなった郡長官は、メモを執事さんに返して、読み上げるように指示した。


  「明日、グレーテル王国から、国王陛下名代カインズ・ベルレール・ダンベル辺境伯爵が、シェルナブール様のお見舞いに参上されるとの事です。」


  え? お見舞い? 何の?


  キョトンとする僕達に対し、メレンゲ郡長官が説明した。


  今回の件に関して我が皇帝陛下が謝意を込めてお迎えに上がられるので、グレーテル国王も、バランスを取るために、お見舞いと言う形で、僕との関係を強化しようとしているのです。


  いわゆるミリタリーバランスと同様に、外交バランスも重要なのです。これは、儀礼にしか過ぎませんが、国の存続において、決して軽んじてはならない事なのです。


  僕は、全く興味がなかった。自分は、森の採集人だし、辺境の村人だし。しかし、シェルさん達は、一生懸命メモをしていた。





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(7月5日です。)

  「あら、これは、美味しいですわ。何のお肉ですの?」


  エーデル姫が、そばのメイドに質問した。


  「山兎の腿肉の辛子添えでございます。殿下。」


  「王国には無い味ですわ。」


  「はい、この付近の山だけに棲む魔物だそうです。」


  「魔物なの?」


  「はい、我が国では魔物でも、美味しければ神の恵みとして頂いております。」


  魔物を、最初に食べようとした人に感謝だ。


  僕達は、今日は迎賓館の貴賓室に宿泊することになった。そして今は、遅い夕食中だ。ゲール総督とイレーヌさんも一緒だ。食事は、満足できるものだった。この食事、ワイちゃんにも食べさせたいなと思った。


  『呼んだ?』


  急に、ワイちゃんの念話が届いた。


  『呼んでないけど、すごいご馳走を食べているんだ。ワイちゃんにも、食べさたいなと思ったんだ。』


  『あ、いいな。これから行っていい?』


  「あの、ゲール総督、これから『ワイちゃん』に来て貰って良いかな?」


  「『ワイちゃん』と言いますと。」


  「僕の友達。小さな女の子。」


  「別に構いませんが、もう夜分なのに来られますが。」


  「うん、ちょっと隣の部屋を貸してください。」


  以上の会話は、僕がシェルさんに耳打ちをして、通訳? をしてもらった会話だったが。


え、英雄になっちゃった。でも、ゴロタ達は、酷い二つ名が付いたみたいです。

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