第2部第259話 竜に乗ってその12
(5月19日です。)
昨日、ネネさんのポーター認定証を能力測定器に掛けてみた。
*************************************
【ユニーク情報】2032.05.14現在
名前:ネネジェリカ・フォルテ・ビカフォード
種族:魔人
生年月日:王国歴2020年4月18日(12歳)
性別:女
職業:小学6年生 ポーター
******************************************
【能力情報】
レベル 6(1UP)
体力 22
魔力 46(3UP)
******************************************
魔力の上昇が激しい。たった3日で、こんなに上がるなんて。私なんか、全然上がらないのに。でもネネさんのファイアボールは、初めて使ったレベルではなかった。その証拠に、ベティさんが撃ったファイアボールと比較しても、雲泥の差があった。いくらベティさんが攻撃魔法を不得意としても、天賦の才の差は歴然としている。まあ、あれだけの実力が有れば、レッドリリイでもお役に立つだろう。
今日の朝、ネネさんと一緒に登校途中、昨日の夜、院長先生と話し合った事を話してくれた。小学校を卒業したら、ポーターとして働く事や、将来は冒険者となることなどだ。院長先生は、冒険者と言う者がどんな者か知らないようだ。基本的には荷物運びと冒険者の世話で、魔物と戦ったりの危険な事はしないと説明しておいたそうだ。昨日、『スリーヘッドアナコンダ』を討伐したことは黙っていたみたい。
「ネネさん、本当は中学に行きたいんじゃないの?」
「うん、でも、小学校を卒業すると孤児院を出なくちゃいけないし、どこかの部屋を借りるにしたってお金が必要だし。」
ネネさん、将来は何になりたいんだろう?はっきりした目標を12歳の女の子に『持て』と言う方が無理があるだろうけど、本当に冒険者になりたいのだろうか。ネネさんの魔力や火魔法の威力を見ても、かなりの才能を感じるけれど、この世界で通用するのかどうかは、私には分からない。でも帝国にあると言う魔法学院でキチンと勉強すれば、魔法で生きていけるかも知れない。でも、そのためには中学卒の資格が必要なはず。でも、このままでは、中学になんか行けない。あれ、なんか解決方法があるかも知れない。この国には無いけど、優秀な魔道士を育成するために、奨学金制度とか寄宿舎が完備していて特待生なら全て無料になる学校があるって聞いたことがあるわ。
以前のこの国では、魔人族などは奴隷に近い扱いで、魔法も使えないのが当たり前だったの。グール族だって魔法を使えるのは僅かで、レブナント族やリッチ族の特権みたいなものだったらしい。そう言えば、ドンキさん達騎士団の皆さんで魔法を使える人は殆ど居なかった気がする。
何故、ネネさんが魔法を使えるのだろうか。ネネさんの先祖が貴族だったらしい事と関係があるのだろうか。
「ねえ、ネネさん。ネネさんってどこで生まれたの?」
ネネさん、一瞬黙ってしまっていた。暫く黙っていたが、やがてボソボソと話し始めた。ネネさんの父親は、ネネさんが2歳の時に亡くなっていた。と言うか、殺されてしまったらしい。遠い国からやって来たのだが、この国の兵士達に捕まり、何も悪い事をしていないのに反抗したことから、妻の前でなぶり殺しにされたらしいのだ。ネネさんは、まったく覚えていないけど、お母さんは、奴隷として、エーデル市の大商人の家に売られたんだけど、そこでも女性として酷い扱いをして、ネネさんが4歳の時に死んでしまったらしい。ネネさんは、もう用がないからと、その辺に捨てられそうになったの。でも、その事がバレると世間体が悪いからと、馬車で半日もかけて東の街道沿いの泉のところでまで運ばれて捨てられたらしいの。一欠片の黒パンを持たされて、この道をずっと東に行けば大きな街があるから、そこならちゃんと食べる物をくれるからと言われて。それからはいろんな村や町で乞食の様な事をしながら、この街まで来たらしい。3日位何も食べてなくって、ゴブリンさん達のバラックの前で意識が無くなったみたい。通報を受けた親切な門番さんが、ネネさんを孤児院まで連れて来たんだって。ネネさんが覚えているのは、これだけ。『ネネ』って呼ばれていた事と、綺麗なお母さんのいい匂いだけ。
私、涙が止まらなくなっちゃった。でもネネさん、
「私なんか運がいい方よ。キエフ院長は優しいし、きちんと学校にも通わせて貰えたから。酷い孤児院も一杯あるらしいわよ。」
うん、知ってる。でも、あれって孤児院とは名ばかりの奴隷倉庫よね。私は、ハンス市にあった教会併設の孤児院を思い浮かべた。だけど、ネネさんを追い出した大商人って酷い奴ね。許せないわ。でもネネさんも小さかったから、その大商人のことをよく覚えていないんですって。それに、そいつをどうにかしてもお母さんが帰ってくる訳でもないので、もう忘れることにしたみたい。学校に到着したので、お話はそこで終わったんだけど、ネネさんの気持ちは良く分かったので、後はどう言うことが出来るのか検討する必要があるみたい。私は、今度ギルド長のエーデル女王陛下に聞いてみようと思う。特に寄宿制度のある中学校と奨学金制度について聞いてみることにした。
その日の放課後、ネネさんと一緒に冒険者ギルドに行って、ギルド長に面会を申し出たら、すぐに会ってくれることになった。もしかしてギルド長って暇なの?応接室で待っていたら、エーデル女王陛下が入ってきた。今日もピンクのミニワンピを着ている。よほどピンクが好きみたいだ。立ってカーテシーの挨拶をしようとしたら、堅苦しいのは良いからと言われたので、そのまま一礼をして座ったの。
早速、用件を話そうとしたんだけど、昨日の最終依頼の件について聞かれた。『消毒草』の採集量が異常なんだって。え?だって、あれ普通に道端に生えてるし。まあ、確かに群生しているのって珍しいわね。でも、あの独特の香りがあるから、かなり離れていても、ちゃんとわかると思うんだけど。でもエーデル陛下に、もう『消毒草』の採集はしないようにお願いされた。あんなに大量に採集されると値崩れしてしまって、初心冒険者が困ってしまうみたいなの。後、『魔こも花』についても、どうやって採集したのか聞かれたの。いや、最初の1個は苦労したけど、1個採集したら、後は匂いを辿れば見つけるのは簡単だったと言ったら、頭を抱えていたわ。
「じゃあ、マロニーちゃんは、その『魔こも花』が咲いているかどうかを鼻だけで嗅ぎ分けて、木の上の方に咲いている花を『浮遊』して採集したのね。ついでにランクBの『スリーヘッドアナコンダ』も討伐したと言うわけね。」
本当は、違うけど『うん』と頷いた。アナコンダをやっつけたのはネネさんとレッドリリイのメンバーだから。でも、話をシンプルにするために、そう言うことにしていたわ。
それから、本日の用件について話し始める。ネネさんが、孤児院を出てからの進路について。特にネネさんの魔力や能力について説明したんだけど、余り関心を持たれなかったみたい。聞けば、ずっと魔法を使わなかった子が、魔法を使い始めると、最初は能力の向上が凄いらしいんだって。でも、直ぐに頭打ちになって、それからは普通の上昇になってしまうらしいの。でも、ネネさん、絶対普通じゃあないと思うんだ。
「でも、ネネさん、あの『スリーヘッドアナコンダ』の頭を炭にしたんです。魔法を使い始めて3日目の事なんです。」
「ふーん、じゃあ、今度、魔法の専門家を呼んでおくから、その子の前でやってみて!私、難しい事分かんないから。」
あ、エーデル陛下、絶対投げるつもりね。もしかして、この人って残念姫?ネネちゃんと一緒に私のお屋敷に行って、明日の練習をすることになった。流石に火力を上げての『ファイアボール』は危ないので、取り敢えず5個の小さな火球を浮かばせたの。これは、もう出来るはずなんだけどうまく行かない。作っている間に、最初の方が消えちゃうの。火球を保持し続けるイメージが足りない。私が、お手本を見せてあげる。右手を右に伸ばして、それをぐるっと回すの。
ボボボボボボボボ!
8個位の火球が円状に浮かんだままでいる。それをクイっと頭の上で水平にして、今度はそれをクルクル回すの。だんだん早く、早く。その内、光のリングが出来ちゃった。さあ、やってみて。
「無理ー!」
ネネさん、涙目になっている。でも鬼教官の私は許してあげない。まずは、3個から始めようか。30分後、何とか3個の火球が浮かぶ様になった。うん、それでは次のステップね。その3個の火球を頭の上でクルクル回すの。それは1回で出来たんだけど、右手で3個の火球の中心に手を突っ込んで、無理やり水平にして、今度は、それを頭の上でクルクル。火球もつられてクルクル。うん、その調子。でも遅い。手は一生懸命回しているんだけど、火球達が付いてきていない。イメージが追いつかないのだ。全部を回すんじゃなくて、1個だけを回させる。後は、それについて行かせるだけ。ほら、上手に出来たじゃない。さあ、次は5個よ。
夕方、完全にグロッキーなネネさんを連れて孤児院に行った。院長のキエフさんにネネさんの事を報告するためだ。この世界ではなく、人間界の学校に行くことが出来れば、ネネさんは自分の能力を生かすことができ、さらにもっと上の学校にも行けるかも知れない。今、ネネさんが思っていることを正直に話させてあげた。でもキエフさんは、心配そうだった。この国で魔人族が受けていた扱い、いくら才能があっても『魔人族の癖に』、『魔人族に任せられるか?』といった誹謗中傷の中に会って多くの仲間たちが失意の元、職場を追われていったらしいのだ。
「その点は、ご心配には及ばないと思います。かの世界には魔人族の国もありますが、獣人族の国やエルフの国もあり、亜人に対する偏見や差別は無い者と聞いております。ネネさんが、あの世界で勉強することに何ら問題はなく、就職についても心配しておりません。」
キエフ院長、それを聞いて安心したのか私の手を両手で握って
「マロニーちゃん、ネネのこと、よろしくお願いしますね。」
よし、これでネネさんが上の学校にいくための保護者の許可はOKだわ。
ネネさん、大魔導士になるのでしょうか。