第2部第254話 竜に乗ってその7
(5月6日です。)
レッドリリイのみんなと洞窟に行ってから10日たった。あの時、一人金貨5枚以上も稼ぐことができたので、次の休日には、皆でハイキングにいくことにしたの。まあ、ハイキングと言っても、野の花つまり薬草採取だったんだけど、メインは、みんなでお弁当を持ち寄って食べること。いつもいつも魔物退治じゃいやだもんね。特にカエルとナメクジはノーサンクス。それで、夕方まで薬草採取をしたら結構な量になったので、一人銀貨3枚はゲットできた。ホテルでの1泊が食事込みで銀貨1枚程度なので、3泊分にはなったことになる。
あれから、毎晩、寝る前にキラちゃんの頭に手を当てて『聖なる力』を流してあげているの。キラちゃん、なんかとっても気持ちよさそうだし、力を流している間に眠ってしまうみたい。でも、キラちゃんって、だんだん鱗の色が灰色というか白色に近い色になってきた。目の色は、虹彩が金色で縦に細長い瞳が横に広がるとまん丸の瞳になってとっても可愛らしいの。キラちゃん、私の言う事は分かるみたいだけど、喋ることはできないので、『キュン。キュイーン』としか言えない。でも、大体、何を考えているか分かるので、『トイレ』とか『寂しい』とか雰囲気で分かっちゃうのよね。
あと、いつも一緒に寝ているんだけど、キラちゃん、結構寒がりみたい。私が寝ているマットレスの方に、ピタッと身体を押し付けて寝ているんですもの。でも、もう5月だし、絶対に寒くないはずなんだけど。キラちゃんのお食事は、狩り貯めしていたイノシシやシカのお肉なんだけど、お肉ばっかりでいいのかしら。この前、キャベツ1個を上げたんだけど、食べるには食べるけどあまり喜ばなかった。やはり、お肉が一番好きみたい。あと、お魚も好きみたいだけど、そんなに大きなお魚なんか売っていないし、この付近で大きなお魚が釣れる川や沼なんかないし。
でも、昨日寝ていたら、夢だと思うんだけど、またキラちゃんが現れて話しかけてきたの。その時のキラちゃん、白と言うよりも銀色に近い綺麗な鱗だった。
「マロニーちゃん、今度、北の森にいこうよ。僕がマロニーちゃんを連れて行ってあげるから。」
え、マロニーちゃん、ちゃんと喋れる。それに北の森って、マロニーちゃんがいた北の山の手前よね。あそこまで1800キロ位あるんじゃなかったっけ。連れて行くと言ったって、物凄く時間がかかっちゃうわよ。ゴータ様は『空間転移』を使ったみたいだけど、私は、そんな長距離なんか使えないし。それに、キラちゃんに乗っていくの?それって、今、注文している騎乗用の鞍なんかが出来てからよね。えーと、あとどれくらい掛かるんだっけ。今度、馬具屋さんに行って聞いてみよ。
目が覚めたら、いつものようにキラちゃん、爆睡していたの。あ、そう言えばキラちゃん、放っておくとずっと寝ているわね。地竜を使役しているおじさんに聞いたら、トカゲ系の竜って、用がない限りずっと寝ているんだって。あれだけの大きな体だから、少ない食料で身体を維持するためにも寝ているのが一番らしいわ。
今日は、私の誕生日、やっと11歳になったわ。この世界に来たのが、去年の10月17日だったから、あれから半年ちょっとが経ったわけね。ご主人様の計画では、
『お前はあの世界で冒険者になれ。それで魔物に襲われる。もちろん、あの男に助けてもらう様にするんだぞ。あの男の妻になるのも良いが、とにかく、あの男のそばから離れるな。分かったな。』
と言われたんだけど、10歳や11歳では冒険者になれないし、そもそも魔物に襲われるシーンに皇帝陛下が来るなんて都合の良い設定、どうやって実現するのか全く分からないじゃない。それに『妻』、それこそ帝国法に違反します。この国では15歳未満の婚姻は認められていないんだから。それに、どうして見ず知らずの人にプロポーズしなければならないのよ。なにか、計画が杜撰というか酷いというか。まあ、とりあえず、すべては15歳になってからよ。それまで冒険者見習いのポーターをしながら、学校に通えばいいんでしょ。あ、そう言えば、今年の10月に高等学校受験資格認定試験に合格したらどうするんだろう。やっぱり、王都に行って高校進学かな。お金もあるし、住まいは何とかなるだろうし。でも、保護者がいなくても高等学校には行けるのかしら。
あ、今日は放課後に冒険者ギルドに行ってみよう。11歳になった記念にステータスを調べてみるの。『冒険者補助ポーター従事者証』を貰ってから1カ月、あれから大分魔物も討伐したし、少しはステータスが上がっているんじゃないかしら。ポーターだって、ある程度のステータス値は分かるって言っていたから、ポーター従事者証でも分かるはずよ。
冒険者ギルドは、そんなに混んではいなかった。平日の午後3時なんて、こんなものだろう。簡易型冒険者能力測定器は、カードをかざすだけで、ガラスの画面に能力が浮かび上がるんだけど、角度の関係か、本人にしか見えないようになっているの。私は、さっそくカードを機械の読み取り装置入り口に入れてみたわ。暫くして、私の能力が判明したの。
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【ユニーク情報】2032.05.06現在
名前:マロニー・ユイット・ドラキュウラ
種族:人間
生年月日:王国歴2022年5月6日(10歳)
性別:女
職業:ポーター
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【能力情報】
レベル 1
体力 10
魔力 10
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あれ、全然レベルが上がっていないわ。まあ、この1カ月、たいした魔物を討伐していないけど、でも、ベルさんやベラさん達はレベルが上がったって喜んでいたけど。それよりも、私の年齢、おかしくない?まだ、10歳だなんて。確か、誕生日になると1歳増えるって聞いたんだけど。まあ、何かの間違いかなって。え、ちょっと待って。ねえ、私の誕生日は良いんだけど、生まれた年、一つ増えていない? 確か、1カ月前は2021年生まれの筈だったんだけど。このカードって、聞いた話では、私の経験とかステータス情報とリンクしている古代魔法アーティファクトだって聞いたんだけど。あれ、これって確か以前、ご主人様が『年齢は心配しなくても良い。』とか言っていたのと関係あるのかしら。あ、もしかして、これって私の種族特性なの。今から80年前に生まれてから、ずっと15歳の姿のままだったのは、単に見た目だけでなく、実質的に15歳のままだったと言う事なの?ということは、私って、これからずっと10歳のまま?それって、人間としてどうなの。
今度、ご主人様に会ったら、普通の人間みたいに年を取る身体にしてもらおう。まあ、今回は、誰にも内緒にしておこうっと。永遠の10歳ということは、永遠の小学4年生だもんね。はっきり言って、それだけは嫌。冒険者だって、このまま4年間頑張れば15歳認定をしてくれるかも知れないし。さすがに85歳認定は難しいでしょうけど。
今日の夕方、ベルさん達が私の11歳の誕生日をお祝いしてくれるって言っていた。私の屋敷でも良いんだけど、たまにはお外で食べましょうと言うことになって、市内でも予約の取りにくい店ナンバー1の海鮮レストランで行うんだって。お屋敷のすぐ近くなんだけど、いつもカニやエビの良い匂いがしているので、いつか行ってみようと思っていたお店なの。待ち合わせ時間は午後6時からだったから、それまでの間、ギルドの演習場で弓の練習をすることにしたの。最近、メイド魔法『空間収納』と『虹の魔弓』とのコラボを考えていたの。具体的には、左手で弓を持って、右手を弦にあてて、そこで空間収納から矢を取り出すの。というか、弦につがえる状態で取り出すの。あとは、両手で左右に引くだけ。これなら、放ったと同時に弦の所に矢が現れてくれる。これって空間収納に在庫がある限り、連射が続くと言う事だし、勿論、一度に5本の弓をつがえるのも一瞬で済むわ。
シュパ!パ!パ!パ!パ!パ!パ!パ!パ!パ!
10連射してみる。全射、黒点に命中。後は、矢の回収だけど、ここではゆっくり歩いて矢を回収に行く。大体、10セット練習してから、次は、矢をほぼ真上に向けて思いっきり放ってみる。『ギュイーン!』とお空に向けて放たれた矢は、高さ500m位上昇してから、自由落下で、地面に向けて急降下してくるんだけど、途中でメイド魔法『空間移動』により、軌道を無理無理曲げて、黒点に命中させる。うん、この練習って、弓矢の練習じゃあないみたい。それでも、100本位射ってから、弓矢の練習は終了。あ、時間もちょうど良いみたい。
いったん、お屋敷に戻って、キラちゃんのおトイレタイムの間にシャワーを浴びて、メイド服に着替えたの。今日は、高級レストランでのお食事なので、この前作った高級メイド服にしたの。深い緑色のシルク製ベルベットで、袖や裾の部分に金糸での刺繍がはいっているの。それと、真っ赤なバックベルトシューズにしたんだけど、ヘッドセットは付けずに、大きなピンクのリボンを頭に巻いてアクセントにしたの。
お店に言ったら、もう皆さん集まっていらして、さっそくパーティが始まった。今日の料理は、コースになっていて、ロブスターとタラバ蟹が食べ放題だったんだけど、あんな大きなロブスター、半分に切ってチーズを乗せて焼いたものを食べたら、もうお腹いっぱい。ベラさんは、お代わりしていたけど、私は、みんなの食べるのを見ながら、オレンジジュースを飲んでいたの。ベルさんが私を見ながら、
「ねえ、マロニーちゃん、11歳にしては小さくない?」
え、そうかな。この前、ブレナガン市のリッカーさんの店で身長を図った時は132センチだったんだけど、それって小さいの?ベルさんも詳しくは知らないみたいだけど、普通は140センチはあるみたい。魔人族の子の中には、女の子でも150センチ以上ある子もいるし。まあ、元グール人のベルさんは、168センチ、ベラさんは182センチ、ベティちゃんは162センチなんだって。まあ、身長がすべてではないけど、私の幼児体型ってわざとらしいわよね。まあ、冥界でも、先輩メイドさん達に比べると、全然小さかったから文句は言えないけど。