第2部第252話 竜に乗ってその5
(4月23日です。)
今日から小学5年生だ。朝のHRで、みんなにご挨拶をしたんだけど、みんな私の事は知っているみたい。一番後ろに座っている魔人族の子が手を上げて質問してきたの。
「マロニーは、平気で人を殺す魔女だって父ちゃんが言っていたけど、本当かよ?」
「えー、そんなこと言ってるの、だーれ?マロニーわかんなーい。」
両手でハートのマークを作って、頭を傾ける。後は無視して、いつもの通りゴブリン族の列の後ろに坐った。ゴブリン族以外では私は小さい方みたい。人間族の子は、皆、実年齢よりも小さくなっているんだけど、それでも私と同じ位の身長だし、魔人族の子は私より10センチ以上大きい子ばかりだ。
皆、授業は、真剣に受けてるみたい。地元の中学校に入学しようとしている子は、5年生から準備をしないと間に合わないんだって。入学試験の範囲が、5年生からの授業範囲になっていて、ここで出遅れると、もう間に合わないらしいの。
中学校も私立と公立があるんだけど、授業料が安い公立中学は入学希望者も多く、1年浪人してでも入る子がいるんだって。中学卒業の資格が有れば、行政庁職員の採用試験も受けられるし、司法庁や学校の教師にもなれるそうで、魔人族の子も真剣に勉強をしているみたい。
授業の合間に、クラスの女の子達が私に分からないところを聞いてくるので、説明していると男の子達までノートにメモしているんだもん。なんか第二教師みたいね。と言うか、昨日の試験で私が全教科満点だったのをクラス全員が知っているなんておかしいわよね。
放課後、ネネさんには先に帰って貰って、私は、あの鍛冶屋さんのところへ寄ることにしたの。例の黄金のショートソード売れたかなと思って。店主さんがいて、帝国で買い手がついたそうで、帝国通貨で3800万ギルで売れた見たい。金の重さから言っても相場かなと思ったんだけど、この世界の通貨では金貨400枚だと言っていた。店主さんに手数料を1割支払って、金塊360枚をゲットした。これでお屋敷の購入資金の補充ができちゃった。ラッキー!
それから冒険者ギルドに寄ったら、エーデル様が、『キラちゃんは元気か?』と聞かれたので、『とても元気です。』と答えておいたの。ギルドに特に用事はないけど、ベルさん達がどうしているのかなと思って。え?ゴータ様?違いますよ。ゴータ様がいるんじゃないかと思ってなんかいませんから。ついでに、ギルドのレストランでイチゴのスイーツを食べてから孤児院に寄って、今日の報告を終えてからお屋敷に戻ったの。
キラちゃん、いつものように私がお屋敷の門のゲートを開けたと同期に『キュイーン!』って甘えた声で鳴き始めるの。そんな声を聞いたら、明日からお留守番させられなくなっちゃ言うじゃない。直ぐに大広間と裏庭を繋いで、キラちゃんを裏庭に出してあげたの。
そう言えば、竜騎士って、飛竜の背中に乗って空を自由に駆け回るのよね。
「キラちゃん、私を背中に乗せたい?」
キラちゃん、首を傾けて、『どうかな』って言う顔をしている。私は、メイド魔法『浮遊』で、ある程度浮かべるし『空間移動』も出来るが、自由に飛ぶまでは出来ない。ゴータ様は、なんでも出来るようだけど、流石に飛竜の様には飛べないと思うんだ。もし、私にもキラちゃんのように翼が有れば、絶対に一緒に空を飛ぶのに。
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(4月25日です。)
今日は、授業は午前中だけなので、キラちゃんと一緒に西の森に食料調達に行くことにした。お屋敷に戻ってから、冒険者服に着替えてからキラちゃんを連れて西門に向かったの。キラちゃんは、門を出るまでは首輪に鎖を付けて引っ張って行く事にしたの。エーデル様との約束で、市内の上空では飛行させない事になっていたので、しょうがないわね。
市内では、街の人たちが吃驚しながらキラちゃんを見ていた。西門を出てからキラちゃんの首輪を外して自由に飛ばしてあげる。キラちゃん、翼を左右に広げて軽く羽ばたき始めた。フワリと浮かび上がり、直ぐに上昇を始めた。どれ位の高さだろう。300mか、500m上空だろうか?大きく旋回している。
「さあ、行くわよ。付いて来て。」
聴こえる訳ないのに、メイド魔法『浮遊』で高度100m位まで浮かび上がり、『空間移動』で水平飛行に移ったの。キラちゃん、私の隣まで降下してきたけど、下の街道を通っている人が吃驚するから、ちょっとだけ我慢してね。そう言うと、キラちゃん、また高度を上げていった。私の水平移動の速度は大した事ないけど、30分位で森の上空に到着した。ゆっくり降下して、ちょっとした空き地に着地した。キラちゃんも降りたかったようだが、それほど広くないので、木の上に止まっている。時々羽ばたきをしているのは、木の梢がキラちゃんの重さに耐えられずにしなりすぎるから、転落しないために羽ばたいているのだろう。さあ、周りを検索する。いろいろ匂いがするが、ネズミやウサギはいても、イノシシはいないようだ。歩きながら、森の奥の方に入っていく。
20分位歩いたかしら、獣の匂いがする。イノシシではないようだ。あれ、何の匂いだろう。少しだけ『浮遊』して、草を踏まないように移動してみる。匂いがだんだん強くなる。あ、いた。鹿だ。それもオスの鹿。角が立派だけど、森の中では邪魔そう。一生懸命、新芽を食べている。あんなに食べていたら、木が枯れてしまいそう。そっと弓に矢をつがえ首の付け根付近を狙う。目いっぱい引き絞ってから、放つ。『ギュイーン!』と飛んでいく。あ、気配に気が付いたみたいで、首を起こそうとした瞬間、命中した。
うん、後はゆっくり近づいていく。致命傷ではなかったようで、バタンバタン起き上がろうとしているが、そのうち動かなくなった。そのまま、メイド魔法『空間浮遊』で浮かび上がらせ、頭を下にして地上から30センチ位の所に静止させる。おしりのあたりは届かないので、自分自身も『空間浮遊』して高さを合わせた。まず、首筋に大きく切れ目を入れて血抜きをする。角は、ナイフで切り離し、お腹を切り開いて内臓も捨てておく。背骨の部分も切れ目を入れておいて、いくつかに分断しておく。
そのまま、木の梢の高さまで浮かび上がらせる。キラちゃん、大きな口で喰らい付くが、大きすぎて一遍じゃ食べれないみたい。3回くらいに分けて食べていたけど、大きな骨以外は、そのままバリバリとかみ砕いてたべている。うん、さすがに牡鹿1当分は食べ応えがあったみたい。最後にゲップをしていた。それから、食後の飛行と言う訳か、上空のかなり高いところを飛び回っていた。その間に、私はイノシシを3頭、メスの鹿を1頭狩って、お肉の塊だけにして空間収納にしまっておいた。これで、自分が食べる分も含めて、当分大丈夫かな。さっきの牡鹿の角と皮、雌鹿の皮なども収納しておいた。あまり、お金にならないかも知れないけど、このまま捨てるのは何か勿体ない気がしていた。鹿の皮って、手袋になったり手ぬぐい代わりに使うので、売れないことはないと思うんだ。
森には2時間もいないで帰ることにした。帰りは、キラちゃんの尻尾をつかんで移動したんだけど、かなり早いみたいで10分もしないうちに、街の門の前に到着してしまった。それからは、キラちゃんが歩いて帰るんだけど、私が普通に歩くのに比べて半分位の速度でしか歩けないみたい。
あ、そうだ。お屋敷に帰る前に馬具屋さんがあったのを思い出した。竜騎士さん達が使っているような騎乗用の鞍を見たんだけど、飛竜用の鞍なんか置いていないんだって。
「すみませーん。飛竜用の鞍って置いてないんですか?」
店主が、奥の方で一生懸命馬具を修理していたが、私の声で作業をやめて表に出て来た。店主のおじさん、外のキラちゃんを見てギョッとしていたが、直ぐに従魔と分かったようでホッとしているようだった。騎乗用の飛竜は絶対数が少ないので、作り置きはしていないそうなの。キラちゃん用の鞍を見積もりして貰ったら、金貨12枚で鞍と鐙それと手綱のセットを作ってくれるって。あと、キラちゃん用のマスクもお願いしたわ。キラちゃんの頭、左右の耳の間に15センチ位の角が生えてるの。何のための角か分からないけど、耳と角が出るようなマスクを被せて、その上から轡をかけてあげようと思って、それも注文する。マスクも鞍もいろんな色とっデザインがあって悩んだけど、薄い水色でコーディネートしたわ。戦闘用じゃあないので、棘のついたものはパスね。出来上がりは1カ月後だって言うんだけど、まあ、すぐに騎乗する予定もないし。そう言えば、体高とか胸周りを測定するとき、キラちゃんくすぐったがっていたけど、固い鱗に覆われていてもくすぐったいみたいね。
馬具屋のおじさんに、キラちゃん、普通の飛竜よりも白っぽいって言われたんだけど、普通の飛竜を良く知らないんで、『そうですか。』とか言えなかったんだけど、キラちゃん、精霊竜種なので、ちょっと違うのかな。
後、店主さんに上空を飛んでも寒くない服装はないか聞いたんだけど、やはり竜騎士さん達が着ているフライングジャケットが一番だそうだ。羊の皮を裏返してジャケットを作るんだけど、前の合わせがダブルボタンになっていて風を通さないし、内側のウールボアが寒さを防いでくれるんだって。パンツだってセームの縫い合わせで太腿はゆったりしていて、膝から下は風が入らないようにピッタリしているの。乗馬ズボンのセーム革版なんだ。後膝下までの編み上げブーツと、風除けのついた手袋。それと耳ホッカが付いている革製帽子とゴーグルが、竜騎士の定番とか言われて全て注文しておいた。
でも、全て10歳の女の子用はないので、帽子やゴーグルも特注なんだけど、流石にカタログは無かったわね。結局、服装に金貨1枚と銀貨2枚の支出だって。
あ、いけない。キラちゃんに騎乗していいかどうか確認するの忘れていたわ。
いよいよ竜に乗れるようになるかもしれません。