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第2部第246話 冒険者ギルドその16

(4月15日です。)

  「あなた、荷物は?」


  「あ、着替えなら少しはあります。」


  「そうじゃなくって、荷物は何処にあるの?」


  「あ、ここにあります。」


  私は、空間収納に手を入れた。当然、空間の切れ目から先の手は、見えなくなっている。手を引っ込めると、キチンと手が見えてくる。ネネちゃん、空間収納を始めてみるらしく吃驚している。


  「何、今の。魔法なの?」


  「はい、メイドならだれでも使える魔法です。」


  「そんな事聞いたことないわ。まあ、いいわ。じゃあ、自分の荷物は、ベッドの下のこの引き出しに入れてね。あなたは、ここでは私の次だから、上のベッドね。」


  「あと、ここでの飲食は禁止よ。食べたり飲んだりするのは、廊下の端にある娯楽室でお願いね。食事は、朝は7時から、学校に行かない子のお昼は12時、夕食は6時からね。それと9時には就寝で、魔灯石が消えるから夜中のトイレは気を付けてね。部屋が真っ暗だから。廊下やトイレは一晩中明るいから大丈夫よ。」


  「あと、10歳以上の子は、毎日食事の準備を手伝うことになっているから、あなた、私と一緒に食堂に行きましょ。」


  ものすごくテキパキしている。慣れているみたい。ネネちゃんは幾つなのだろうか。私より上ってことは12歳位かな。


  「あのう、ネネちゃんはお幾つなんですか?」


  「ネネさん、ここでは年上にはさん付けで呼ぶことになっているの。私は11歳、あなたより1個上よ。」


  「はい、ネネさんはここ長いんですか。」


  「両親がいなくなったのが6歳の時だから、もう5年になるわね。」


  魔人族の中には、重労働に耐えられずに逃げ出す者がおり、その時、足手まといの子供を置いていくこともあるそうだ。逃げ出したところで、楽に暮らせるところなど何処にもなかったはずだし。でも、それ以上追及できる雰囲気ではないため、黙っておくことにした。


  食堂は、1階の東側にあり、自習室と反対側だった。テーブルが10個あり、一つのテーブルには8人が一遍に座れるようになっている。小さい子達には、高学年の子達が一緒についてあげて、世話をするようになっており、2~3歳位の子にスプーンで食事をさせている8歳位の子を見ていると、つい微笑んでしまう。小さい子達が食事を終え、食器を片付けたあと、10歳以上の子の食事になる。そこで、皆に挨拶をした。


  「はじめまして。今日からお世話になるマロニーと言います。今、10歳です。この国のずっと東にある人間の国から来ました。よろしくお願いします。」


  「マロニー。お前、なんでメイドなんだよ。」


  「ずっとメイドをしていたんで、これが正装なんです。」


  それを聞いた男の子が黙ってしまった。きっと、私が幼いころからメイドとしてこき使われて来たと同情したのだろう。別に、あえて否定もしないけど。


  「マロニーちゃんは、彼氏さんいるの?」


  え、何。そんな質問、想定していないんですけど。どう答えていいか考えていると、ゴータ様のことが思い浮かび、顔が真っ赤になってしまった。


  「あー、いるんだ。わー。おませ。」


  やめて下さい。その質問は、私を殺してしまいます。まあ、それ以上の追及は無かったので、そのまま食事になった。食事は普通と言えば普通かな。カボチャのスープにお魚の煮たの、あとお野菜がたっぷりの煮つけとチーズ、飲み物は冷たいミルクだけだった。パンは、焼き立てではないが、それなりに柔らかくて美味しいの。これなら、ずっと暮らしていてもいいわね。聞いたら、孤児院の運営費は、市だけではなく国からも出ていて、シスターたちのお給料も、普通の公務員よりも良いんですって。食事も子供たちの人数と年齢・性別で必要な栄養量を計算し、経費が支出されるので、子供たちが飢えるなんてあり得ないらしいわ。それに、今、分院を作っているんだって。ゴブリン族の子供達も、孤児が多いので、その子達を収容するための分院を建築中だって。あ、その分院、私、行ってみたいな。


  食事が終わって部屋に戻ると、9歳のミミちゃんと8歳のチキちゃんが戻っていて、二人でご本を読んでいた。結構文字が多い本だったので、なかなか読めなさそうだった。


  「オホン、ミミ、チキ、新しいお姉さんが来たよ。ご挨拶は?」


  「えーっ!ミミよりチビじゃん。お姉ちゃんじゃあ無いよ。」


  ちょっと悔しいけど、ミミちゃん、9歳のくせして明らかに私より背が高そう。チキちゃんは、反対に小ちゃくて可愛らしいの。そう言えば、魔人族って小人種と長人種がいるって聞いたことがあるけど、そのせいかな。


  「ミミちゃん、チキちゃん、よろしくね。」


  「あのね、あのね。チキね。ご本を読んでるの。でもね、ミミちゃん、読んでくれないからつまんない。」


  「何言ってるのよ。私が読んであげてるでしょ。」


  「ハイハイ、二人とも、これからお風呂でしょう。さあ、準備して。」


  入り口にピンクの洗面器が4つ置いてあった。その中に石鹸やタオルを入れてお風呂に行くそうだ。毎日お風呂があるわけではなく、男子と女子が1日おきで交代に入るのだ。今日は女子の番だそうだ。皆んなでお風呂に行く。替えの下着とパジャマを持って、後、バスタオルも出しておく。


  「マロニーお姉ちゃん、荷物いっぱいね。」


  チキちゃんが、手を繋ぎながらわたしのお風呂セットを見ている。そう言えば、ベネッサちゃんもキャンプでは、お風呂から上がって、同じ下着をつけていたわね。皆んな、下着を買えないのかしら?


  「ねえ、ネネさん、ここでのお洗濯って、どうなってるの?」


  「学校が休みの時、自分の分とペアの子供の分を洗うんだ。だから2〜3日に1回しか下着を替えないんだよ。」


  それでか。でも、私は我慢できないから、毎日替えよっと。


  「そのペアの子ってなあに。」


  「6歳以下の学校に行っていない子は、年長者が面倒を見ることになってるの。マロニーは、そうね。3歳のヒルダちゃんかな?」


  ヒルダちゃんか。どんな子かな?そう思ったら、直ぐに分かった。お風呂の前で、先生が一緒に待っていてくれたのだ。


  「貴女がマロニーちゃんね。この子はヒルダちゃん。よろしくね。」


  魔人族の子が、先生のスカートをぎゅっと抱きしめている。可愛いすぎる。


  「ヒルダちゃん、宜しくね。マロニーお姉ちゃんよ。」


  まあ、最初から懐くわけないけど、泣き出さないで頂戴。お姉ちゃんも泣きたくなっちゃうから。それから一緒に入ったんだけど、子供と入るのって大変。服を脱がせるところから始まって、逃げ回る子を追いかけて洗って、お風呂に入れて。特に頭を洗う時なんか大泣きして。しょうがないから、目と鼻と耳に小さなシールドを貼ってお湯が入らないようにして、ようやく洗えたの。


  お風呂から上がる前に、ヒルダちゃんのパンツとシャツと靴下をチャチャっと洗って、直ぐに『ドライヤー』で乾かしてから着せるんだけど、その間、こっちはずっと裸のままなんで、身体が冷え切ってしまったの。素早く、自分の体も拭いて、髪を『ドライヤー』で乾かしてから、ヒルダちゃんを待っている先生に渡すんだけど、どっと疲れてしまった。ネネさんも、小さい子に悪戦苦闘しているんだけど、髪の毛からポタポタ、水が垂れてるの。頭を洗っても拭いてる余裕がなかったんでしょう。


  担当の子を先生に渡してから、戻って髪を拭いていたけど、中々水気が取れないの。私が、両手を翳してメイド魔法『ドライヤー』を左右から当てたら、吃驚していたけど、何をしようとしていたのか直ぐ分かって、じっと乾かすのを待っていてくれた。ついでにミミちゃんとチキちゃんの髪も乾かしてあげたんだけど、他の部屋の女の子達が羨ましそうに見ているの。うーん、どうしよう。えい、やっちゃお。


  「みんな、こっちに集まって。」


  20人位の女の子が集まってきたの。シールドを張って、暖かい風を中にふ吹き込ませたの。まあ、風と火のコラボで温風を作っただけなんだけどね。3分位でほぼ乾いたみたい。後は、ブラシを出して1人1人の髪を梳かしながらセットしてあげたの。全員が終わったら、完全に湯冷めをしてしまったけど、皆んなが、目をキラキラさせているんだもん。なんか嬉しい。


  部屋に戻ったら、ネネさんが、


  「あなた、すごいわね。メイドって、皆んなあなたみたいなの?」


  「ええ、メイドの基本技です。」


  とだけ答えておいた。夜寝る時、明日の朝は午前6時に起きて朝食の準備をするように言われた。うーん、朝の稽古、どうしようかな。ここからギルドまで走って15分、千本素振りをやって25分、また走って帰って15分、ギリギリね。うーん、往復時間が勿体ない。


  メイド魔法の『空間転移』ができたら良いのに。『空間』系で出来るのは『収納』と『浮遊』で、『移動』は『浮遊』の応用だし。そう言えば『空間収納』って、どこに収納されるんだろう。冥界図書館で読んだ本に多次元空間という概念があるということを読んだけど、その時は大して興味もなかったが、あれってどういう事だったんだろう。次元と次元の間には何があるのだろうか?『空間収納』って、結局、この世界ではないどこかに収納しているんだろうけど、その先には何があるのだろうか。そもそも空間って何?あー、分かんない。でも、なんかヒントがある気がする。


  あ、もしかして!


  『空間収納』って、任意の場所に空間の歪みを開けて、物の出し入れをしているよね。でも、その歪みの扉を2箇所に開けて、通り抜けたら、どうなるの。こちら側から、手を入れると、向こう側から手が出てくるのかな。明日、実験してみようっと。

マロニーちゃんは、空関係の魔法を最初から使いこなしているんです。

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