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第2部第244話 冒険者ギルドその14

(4月13日です。)

  ベネッサさんのお母さんの実家は、『ボラード建設組合』という商店を営んでいる大商店だそう。組合と言う名を付けているけど、別に組合活動をしているわけではなく、下請けの職人から工事費のピンハネや割高の建材や工具を売って利ザヤを稼ぐ、まあどこでもやっている仕事をしているだけなんだけど。今の社長になってからは、出すものは舌も出さず、貰うものは1ピコでも多く貰うという吝嗇が酷くなったと言う事で、職人達が離れていき、家業が傾き始めていたそうだ。息子が一人いるが、これがぼんくらで仕事はしないで色街に通い詰めるなどの放蕩息子だったそうだ。この社長が、ベネッサさんのお母さんのお兄さんになるそうなんだけど、最初は出戻ってくるのに反対していたんだって。でも、お母さんの『何でもしますから。』という言葉を聞いて、ようやく出戻りを許可したんだけど、その時2人の下女を辞めさせたと、随分評判になったみたい。ベネッサさんは小さかったんだけど、それからはお母さんは本当に2人分の下女代わりに働かされたそう。ベネッサさんは小学校に通っていたんだけど、学校は止めさせられ、お母さんの手伝いと、店の使い走りや職人の汚れ物の洗濯などをさせられていたそうだ。


  ベネッサさんが15歳になった時、実家を出ようとしたんだけど、母親とベネッサさんの養育費を返すまでは家を出さないと言われ、ずっと下働きをさせられていたの。当然、縁談などもなく、いつの間にか訳の分からない借金が増えていたみたい。それと、その放蕩息子が成人したころから、ベネッサさんの身体を狙ってきたみたい。いつも逃げ回って、1晩中街をさまよい歩いたこともあったそうよ。教会に行ってシスターになろうとしたこともあったんだけど、社長と息子が教会まで押しかけて、借金を返せとか教会に火を付けてやると脅かされて、泣く泣く実家に戻ったこともあったそうだ。とにかく、母親のことも心配だし、街を出ることもできずにじっと我慢をしてきたそうだ。去年、街に冒険者ギルドが新設されたの。冒険者は、学歴も家柄も関係ないということで、毎月銀貨5枚を実家に納めると言う約束で、ようやく冒険者になることを許してくれたんだって。その時、お母さんも一緒に実家を出ようと話したら、今までの借金を返してからだと言われて。借金は、利息もたまって金貨30枚なんだって。そんな途方もないお金稼げるわけないのに、お母さんをタダ働きさせるための嘘だと分かっていても、何も言えなかったみたい。ベルさん達とあってから、そのことを話したけど、そんなに余裕のあるわけじゃないベルさん達じゃあどうすることもできなかったんだって。


  でも、昨日金貨10枚近くのお金が手に入ったし、この前の分も合わせると、取り敢えず金貨10枚は返せる。あとは、ファングタイガーなんかが売れたらお金が入るから何とかなると思って、今日、実家に行って、お母さんを連れ出すんだって。それを聞いて、何となく嫌な感じがした私は、一緒に行くことにしたの。


  お昼前、その『ボラード建設組合』に行ったんだけど、建物の外観は立派なんだけど、中に入ると、建具や什器は普及品みたいな安物だし、床も傷だらけでワックスなんかかけたことが無いみたい。社長は、2階の社長室にいると教えられ、2人で階段を上がっていったら、10歳位の坊やが階段を下りてきたの。


  「こんにちわ。」


  ベネッサさんが挨拶をしても、ギロッと睨むだけで無言で降りていってしまった。


  「彼が、ここの息子で、今、24歳よ。」


  なるほど、あいつがベネッサさんに迫った色ガキか。まあ、小さくなった今では何もできないでしょうが。


  社長室のドアをノックする。


  「誰だ。」


  「ベネッサです。入ります。」


  許可もないまま、ドアを開けて中に入る。中には、かなり草臥れているソファセットと社長用の机が置かれている。社長は、机の向こうの椅子に座っているが、その椅子も布張りの安物だ。


  「なんだ、借金でも返しに来たか。」


  「はい、まとまったお金が入ったので、一部ですがお返しします。」


  ベネッサさんは、金貨10枚を机の上に並べた。それを見て目を光らせた社長が、


  「これ、どうしたのだ。まさか冒険者で稼いだのか。それとも色街に落ちたか?」


  こいつ、絶対にゲス野郎だな。でも、黙っていると、


  「いいえ、昨日、猫狩りをしまして。その報酬です。猫が高く売れれば、残金も返せると思えますが。」


  「まさか昨日、ファングタイガーを生け捕りにしたと言うのはお前か。そんな馬鹿な。」


  「そのまさかです。まあ、こちらのマロニーさんに手伝ってもらったからなんですけど。それで、残金は、必ず返しますから、今日、お母さんを連れて帰りたいんですが。」


  叔父さんは、少し考えていた。大体考えていることは分かるけどね。


  「それは無理だな。お前、いま借金がいくらあるのか知っているのか。」


  「え?全部で30枚でしょ。」


  「馬鹿野郎。借金には利子が付くんだ。お前たちの借金は、今は金貨100枚だ。今、即金で返すのなら、お前の母親を返してやる。」


  「そ、そんな。」


  あ、これはもう詰んだな。私の前で、ベネッサさんを『馬鹿野郎』なんて、絶対に許されるわけないわよね。


  私は、黙って机の前に進み、金貨を10枚ずつ、9個並べてやった。


  「さあ、これで100枚、間違いないわね。」


  叔父さんは、吃驚していたが、下卑た笑いを浮かべて金貨に手を伸ばした。でも、そのまま渡すわけないでしょ。勿論、私の目に見えない速度での平手打ちを食ってしまった。慌てて手を引っ込める叔父さん。


  「何考えているの。このお金が欲しかったら、借金の証文を出しなさいよ。あなた、商人なのでしょう。証文と引き換えなんて子供だって知っているわよ。」


  顔が引き攣っている。まあ、証文なんか絶対にないだろうし、大体、金貨30枚の借金が100枚にもなる暴利、帝国法でも王国法でも禁止されているはずよ。証文があったら、それが証拠で彼は奴隷落ちね。


  「しょ、証文はない。母親との口約束だ。」


  「はあ、あなた帝国の法律知っているの。証文のない口約束なんて、お互いが、認めない限り無効よ。それとも口約束をしたという明白な証拠でもあるの。勿論、いつ、どこで、誰が証言できるかも調べられるわよ。」


  叔父さんは、黙ってしまった。私は、机の上の金貨をすべて回収する。勿論、ベネッサさんの分もだ。


  「ところで、この国では、下女を雇うと、魔人族でさえ、賄い付きの住み込みでも、月に銀貨8枚は支払うのが最低賃金と聞いたけど、間違いない?」


  「ああ、そうだ。そうなっている。」


  「じゃあ、ベネッサさんのお母さんは、20年間働いたから、その間の給料、金貨192枚、それに法定利息が掛けられるから、年利3%として、利息が金貨70枚にはなるわね。さあ、金貨262枚、きっちり払ってくれない。」


  こんな簡単な計算、暗算よね。それで、このお金を貰えないとしてもしょうがないわよね。目的は、お母さんの奪取なんだから。


  「ふ、ふざけるな。今まで食わせてやっただろうが。」


  「はあ、あなたの会社では、働かせる者に食事も与えないんですか?働いて貰っているんですもの。食事を与えるのは当たり前でしょ。とにかく、労働の対価をどうするのか、だれか知っている人に聞いてみたら。これから司法庁に一緒に行きましょうか。たしか帝国では、奴隷及び奴隷的待遇を禁止されていたでしょう。」


  「え?司法庁。ま、待ってくれ。儂も、準備があるから。兎に角、今すぐは、そんな大金はないし。」


  「わかりました。返済時期については、別途話し合いましょう。という事で、今、金貨262枚の借用書を作成してください。それが出来なければ、すぐに司法庁に訴えをいたしますが、どうしますか。」


  「わ、分かった。」


  もう、ベネッサさんは、何も言えずに、涙を流している。暫く待っていたら、秘書の方が借用書を持ってきた。中身を確認したところ、延滞利息金の項目が無かったので、追加してもらった。通常の金利は年3%、支払い期日は、今年の12月31日、延滞利率は年14%という項目を記載して、おじさんのサイン及び代表印を押してもらった。お母さんのサインは、別途署名して正副揃えることとした。エディさんにお母さんを呼んできて貰う。会社の真裏が社長の住居になっているので、すぐに来てくれた。もう50歳位の筈だが、見た感じは20代前半だ。粗末な服とほつれた髪、いかにも下女と言う感じだが、気品だけは元男爵夫人であっただけある。


  その場で、2枚をサインさせて、1枚を社長に渡す。さあ、これでおしまいだ。社長が、


  「お、覚えていろよ。」


  と言っていたので、


  「はい、絶対に忘れません。社長がこれ以上、ベネッサさんとお母さまに酷いことをしたら、この世に生まれてきたことを後悔することになりますよ。社長がファングタイガーよりも強ければ別ですけど。」


  社長は、口をつぐんで、冷や汗をかき始めていた。あ、馬鹿息子さんにも、何か脅かしたかったけど、今回はいいか。会社を出て、お母さまの荷物をまとめて貰ったが、大したものは何も無かった。スーツケース1個にすべて入る程度だったが、それを空間収納に入れて、私達が泊っているホテルに向かった。今日から当分の間は、ベネッサさんとお母さまは一緒の部屋に寝てもらう。私は、もう一部屋、別に止まることにした。ベネッサさんが感心していた。


  「マロニーちゃんは凄いわね。どこで帝国の法律を勉強したの?」


  「ああ、あれ。出まかせよ。私なんか単なるメイドだったのよ。帝国の法律なんか知るわけないじゃない。でも、キチンとした国にはキチンとした法律があること位、本を読んで知っているもの。ゴロタ帝国に民事に関する法律がないわけないじゃない。」


  「マロニーちゃんって、怖いわよね。あと、叔父さんを脅かしていたけど、どうするつもりだったの。」


  「簡単よ。ファングタイガーのように麻痺させてから、空間収納にしまっておいて、東の荒野にでも行ったときに開放してあげようかなと思っていたの。証拠も残らないしね。今すぐしなかったのは、少しでもお金を巻き上げたかったからよ。」


  ベネッサさんが、顔を青くしてドン引きしていたのは、私が前を歩いていたので、分からない事だった。

マロニーちゃん、誰にも負けないようです。

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