第2部第243話 冒険者ギルドその13
(4月12日です。)
今日は、朝8時に出る北行きの乗合馬車に乗る。この馬車は、途中で東の方に曲がるのだが、曲がる手前で下ろして貰うのだ。森で採集する人達がよく利用しているらしいが、ファングタイガーが出没し始めてから、利用者が減ったと御者さんが嘆いていた。
あの魔道車に乗りたかったけど、まだ国境と領都との往復しか使われていないと言う事だった。勿論、ベルさん達は乗った事が無いので色々聞かれてしまった。馬車に乗っていた他のお客さん達もニコニコしながら聞いていたけど、私たちがファングタイガー討伐に行くなんて思わなかったでしょうね。
乗合馬車から降りたら、お昼近かったので、ここでお昼にした、定番の黒パンに干し肉でもいいけど、昨日の夜、厨房をお借りして作って置いたスモークチキンサンドとフレッシュフルーツサラダを出したら、ベルさん達が呆れていた。でも食事って大切よね。昨日買って置いた4人用のテーブルセットを出して、ランチのセッティングをしたわ。勿論、ティーセットも必須よ。小鳥の囀りを聞きながら食べるお昼って最高。一杯咲いているお花も綺麗だし。
食事が終わったら、森へ向かって出発。今日の夕方までに森に到着すれば良いもの。余裕ね。勿論、レアな薬草は採集して置いたわ。『鎮静草』とか『紅月花』とか、1本で大銅貨3枚もする薬草ね。特に鎮静草なんか、ドクダミの群生している中にポツンポツンと紛れているんだもの。普通の人なんか、絶対に採集不可能よ。流石に袋一杯とは行かなかったけど、そこそこ採集できたみたい。
森に到着したのは夕方5時を回った頃ね。薬草採集に時間がかかり過ぎちゃった。でも200本以上採集できたから、金貨6枚以上にはなるんじゃあ無いかな。森の手前の広くなったところでテントを貼ったと言うか、取り出して4隅を固定して設営終了。土を盛り上げて竈門を作って、木の枝をに火を付けて料理準備完了。ベルさん達は、飯盒でご飯を炊く準備。私は、お鍋に昨日仕込んでおいた具材を入れて即席カレーを作るの。カレー粉と言うものが売っていて、よく煮えた具沢山スープに入れると完成するの。超簡単。豚肉にしようか鶏肉にしようか悩んだんだけど、鶏肉にして置いたの。ヘルシーだし。空中に『灯火』を出して、皆でお食事ね。ベルさん、私の作業を見ていて、
「ねえ、マロニーちゃん。今見ていたけど、『火魔法』と『水魔法』と『土魔法』と『光魔法』を使っていたわよね。一体、幾つ魔法適性持ってるの?」
「えーっ!ギルドで能力測定の時見たじゃあ無いですか。私、魔法はメイド魔法しか使えませんよ。魔力も少ないし。」
「いや、あれおかしいでしょう。そもそも攻撃力『1』って何よ。蟻さえ殺せないような子が、狼の群れを殲滅できるの。」
「よく分からないけど、狼を殲滅できたのは弓矢のおかげだし。私、道具が無ければ逃げることしか出来ませんよ。」
みんな、シラーっとして居るのは、どうしてですか?でも楽しい食事とお茶会が終わって、テントの中でガールズトーク時間ね。今まで好きだった人の話を順番にして、私の番になったの。冥界のご主人様は違うし、冥王様はチャラくてキモいし、やっぱり、あの方しかいらっしゃらないわよね。でも、どこに住んでいる方かも知らないし、年齢も、結婚なさって居るかも知らない。私が知って居るのは、身長はとても高くて可愛らしい顔で、髪はえーと、銀色の中に黒色が部分的に生えている、いわゆるパートカラーってやつかな。話していて少しシャイなところがあって可愛いの。後、とっても強くて魔法なんかズバー、シュバーーーーンって使っちゃうし、剣だって、ズバーッて目に見えないうちに敵を切っちゃうし、空も飛べるし。
そう話していたら、『ねえ、それってマロニーちゃんのこと?』って言われて、何を言ってるんですか?私なんかゴータ様の足元にも及ばないわ。全然違うから。全然。みんなだって、ゴータ様に会えば・・・。
どうしてゴータ様は会いに来てくれないのだろう。もう私の事なんか忘れたのかな。そう考えると涙が溢れて来ちゃって。エグエグ泣き出したら、ベルさんが慌てて『あ、マロニーちゃん、ゴータ様の特別でしょ。だから特別にポーターになれたんじゃ無い。』って慰めてくれた。そうよ。私は特別。私だけが特別なの。あ、眠くなっちゃった。寝る前にテントにシールド貼っておかなくっちゃ・・・。
次の日の朝、テントをそっと抜け出して、少し離れた場所に移動し、剣の稽古をする。今日は、これから朝食の準備があるから、簡単に素振りだけかな。それでも千本降ってから、テントに戻ろうとしたら、何かいい匂いがする。何かなと思って見てみると、木の根元の落ち葉の中から、匂いが立ち上って居るの。
そう言えば昨日は満月だったわ。もしかすると。慌てて落ち葉を取り除くと真っ赤な傘の天狗茸があった。でもメイド魔法なんか『鑑定』を掛けると
【月光茸】
食用キノコ。高級ポーションの材料、超レア素材
あ、あった。満月の夜、青く光って成長し、翌朝には、ふつうの天狗茸の様になってしまって、昼には小さくなってしまう。もう夢中で探したわ。匂いと『鑑定』だけが頼りね。結局、23本しか見つからなかったわ。
テントに戻ったら、みんな起きていて心配してくれていた。ごめんなさい。でも月光茸が採集できたことを教えたら、物凄く喜んでいた。みんなに見せたかったけど、劣化するかも知れないので、このまましまっておくことにしたの。
朝食は、昨日のカレーにして、早速討伐開始ね。相手は、肉食の魔物。魔物独特の匂いがあるので、近くにいれば必ず分かるわ。30分位歩いたかしら。いる。見えないけど、匂いと音で何かいるのが分かった。この音は?何かを食べている音ね。今、お食事中かな。皆を待機させて、メイド魔法『気配消去』で風下から接近する。いた。トラ模様だけど、牙が上下の顎からはみ出す程大きい。ファングタイガーだ。夢中で猪を貪っている。距離は、70m位かな。綺麗な状態で討伐したいので、矢を1本だけ出して、
『瞬間麻痺』
と呟く。鏃が青く光っている。矢を放つ。前脚の付け根あたりに命中した。瞬間的に飛び上がってドサリと地面に落ちたらピクピクして動けなくなっている。あ、このまま収納したらどうかな。死んでも構わないし、生きていたら生捕りということで、もうちょっと高く売れるかも知れないわね。毒もないし。
矢を抜いて、そのまま空間収納に放り込んだ。でも野生の魔物って、結構臭いわね。お風呂に入らないからかなあ。
皆のところに戻ったら、一生懸命木に登ろうとしていた。もし、こっちに来たらと用心のためらしいんだけど、まだ3mも登ってないので、絶対に役に立たないから。
あのトラをどうしたか聞かれたので、生捕りしたと言ったら、とてもとても呆れられてしまった。明日のお昼に森の外の乗合馬車乗り場に行きたいので、それまでには森を出た所まで行きたい。そうなると、午前中一杯が勝負ね。私の勘を頼りに西に東にと森をウロウロして、ファングタイガーをあと2頭、それとデビルパンサー4頭を生捕りにしたの。結構多かった。これだけいたら、誰も森には入れないわよね。
夕方、森を出たところでの夜のキャンプでは、土を固めてお風呂を作ったの。シャワー石でお水を一杯にして、メイド魔法で温めただけなんだけど、感動されちゃった。洗濯石だけでは、どうもサッパリ感が無いんだって。とても良く分かるわ。皆で一緒にお風呂に入って分かったんだけど、私だけね。ペッタン・ツルリは。ベネッサちゃんだってちゃんとなってたわ。何故か悲しくなって来ちゃった。
翌朝、いつものように起きて稽古してから、昨日のスープを温め直して朝食にしたの。それから薬草を採取しながら馬車乗り場に行き、お昼を食べ終わったタイミングで領都行きの馬車が来たの。なんてナイスなのかしら。領都に着いたのは午後4時30分位だったわね。
取り敢えず、真っ直ぐギルドへ向かった。空間収納の中の猫達が心配だったの。生きていればいいんだけど。ギルドの中は、依頼を終えて帰ってきた冒険者達で一杯だった。
依頼達成カウンターは長蛇の列で、3人の係の方達が対応していた。昨日の依頼受付の女の人もいて、私たちの姿を見て安心していたようだった。ご心配をおかけして申し訳ありませんです。
私達の番が来た。受付の人は男性だった。ベルさんが依頼書を出しながら、
「あのう、依頼達成したのですが。」
「依頼達成ですか?ファングタイガーの討伐ですね。それではエビデンスになる様な物、牙とか魔石をお出し下さい。」
「それが、生捕にしたんですが。」
ギルド内がシーンとしてしまった。
「え、ちょっと聞こえなかったかも知れませんでした。もう一度お願いします。」
「ええ、生捕にしたんですが。」
「えーっ!生捕り?ファングタイガーを、ま、まさか。そ、それでどこにいるんですか?」
他の冒険者達もガヤガヤし始めた。
「えーと、収納魔法で格納しているんですが、今、出してもいいですか。暴れるかもしれないんですが。」
「ちょっとお待ちを。」
その男の人は、慌てて2階に走りこんでいった。しばらくすると、ギルド長のエーデル様が降りてきた。
「それで、どなたが収納されているんですか。」
「えーと、この子です。」
ベルさん、もう対応ができないとあきらめたのか、矛先を私に振って来た。まあ、仕方が無いわね。
「はい、マロニーと申します。エーデル王女陛下にはご機嫌麗しゅう。」
見えないスカートでカーテシーをする。彼女がゴロタ皇帝陛下の第二正妃だということは、ホテルの誰かから聞いた記憶があるからだ。
「あらあら、かわいいご挨拶ありがとう。それで、あなたが、生け捕りにしたの。」
「いえ、パーティ全員で討伐したんです。ファングタイガー3頭、デビルパンサー4頭ですね。」
「わかったわ。ここでは何だから、隣の練習場で出して貰うわ。」
皆、一緒に練習場に行く。
「この子と私以外は、窓から覗くだけにしておいて。ドアも閉めておいてね。」
そう支持すると、腰に下げていたレイピアを抜いて構えた。物凄くきれいなレイピアだし、構えを見るだけで普通の女王様ではないと分かるわ。
私は、空間収納から、次々と得物を取り出したの。皆、麻痺状態のまま生きていた。良かった。
「この猫ちゃん達、どうしたの。」
「はい、麻痺させております。麻痺が解ける時間については、今回初めて使ったので分かりません。」
「え、あなた『麻痺魔法』を使えるの?」
「いいえ、この弓矢のお陰です。麻痺の属性が付与できるのです。」
「あ、そうなの。えーと、えーと。シルフ!」
大きな声で誰かを呼んだ。あ、何もないところが光ったと思ったら、女の子が出てきた。とってもかわいい子。誰?
「エーデル様、何か御用ですか?」
「この猫ちゃん達をギルド総本部の魔物用の檻に収容してもらいたいの。それと、全部、オークションにかけて。いや、ファングタイガー1頭は、ビラにテイムして貰いましょう。一番かわいいのが良いわね。」
「畏まりました。それでは。」
あっという間に猫ちゃんと、女の子は光に包まれて消えてしまった。何だったんだろう。それからギルドの依頼達成カウンターで成功報酬を頂く。ファングタイガー1頭につき、金貨2枚だから、計6枚をゲットしたわけだ。でも、これで森の中も少しは安全になるのよね。
あと、猫ちゃん達のオークションは、ゴロタ帝国内や他の国とこの世界で周知するので、かなりの高額が期待できるそうなの。あ、エーデル様が貰う猫ちゃんは入札の最高額と同額で買って下さるとのことだった。
「あのう、それから、『月光茸』も採取してきたんですが。」
「え、『月光茸』ですか?あんなレア素材、よく。ああ、そう言えば昨日は満月でしたね。それで、何本ですか?3本以上なら、受託していなくてもクエスト達成となって、金貨1枚の成功報酬をお渡しします。勿論、受託手数料はいただきますが。」
「はい、23本あります。」
私が、空間収納から取り出して並べる。痛んでもいない新鮮な茸だ。鑑定人が匂いを嗅いだり、茸の傘の裏を調べている。へえ、鑑定スキルが無ければ、ああやって調べるんだ。ということは、すべての匂いや特徴を知っているのかしら。それはそれで、凄いわ。結局、茸は金貨23枚プラス成功報酬金貨1枚の24枚、それと、薬草は、金貨9枚になったので、全部で39枚になったの。4人で割ると、一人金貨9枚、銀貨7枚、大銅貨5枚になった。ベネッサさん、何故か泣き出しちゃった。
とても、とてもチートです。




