第2部第241話 冒険者ギルドその11
今回は、狼討伐です。魔物は出ません。
(4月11日です。)
今夜は、私の『レッド・リリイ』入団歓迎会だ。会場はホテルのレストランでも良いが、やはり歓迎会なら肉だということになり、魔人街に近いところにある『焼肉とお酒』という店に向かった。酷いネーミングと思ったけど、まあ、名前よりも料理よね。焼肉って、ただ肉を焼いて食べるだけかなと思ったら、トンでもなかった。まず、最初は『牛タン塩焼き』だったが、牛の舌なんてゲテモノ、絶対にいやと思っていたの。でも、しつこくなくサッパリした旨味、それにレモン汁とのコラボ、超美味しい。それから、定番の『牛ロース』と『牛カルビ』なんだけど、上等なお肉はお塩で、そうでもないお肉は醤油ベースのたれで食べるの。この領地では醤油って、人間界から交易で大量に出回っているんだけど、食の大革命が起きているみたい。あと、『牛レバー』、これって生でも食べられるんだけど、少し火を通した方が安心なんだって。何が安心かというと寄生虫がいるかも知れないと言われ、絶対、こんがりと焼くことにしたわ。それと、ずっとタレに付けている『壺付けカルビ』、これも美味しいらしいんだけど、私は、もうギブ、ずっと炭酸レモン水とサンチェという葉っぱを食べている。みんな、よく食べるね。ベネッサさんなんか、そんな小さな身体でどこに入るんだろうか。
ベルさん、かなり呑み過ぎのようね。解散したら、歩けなくなっているの。あの透明なお酒、レモン水と混ぜて飲むんだけど、最後の方は、レモン水、ほとんど入っていなかったじゃない。あれじゃあ酔っ払ちゃうわよね。仕方がないので、私がベルさんを抱えてホテルまで戻ることにしたの。体の小さな私が、大人のベルさんを抱えるのもおかしいけど、まあ、ほんの少しだけメイド魔法『空中浮遊』を使っているので、ちっとも重くないものね。ホテルで、ベルさんの部屋に運んでから、自分の部屋に戻ったんだけど、ベネッサさんも荷物を持ち込んでいた。私の部屋が角部屋で窓が2方向にあるから、こっちが良いんだって。ベネッサさんの荷物って結構あるの。『これでも、大分少なくしたのよ。』って言っていたけど、女性の冒険者って、移動の際は、荷物が多くて大変なんだって。その苦労、私には分からないわよね。
次の日、朝5時に、向かいの冒険者ギルドに行って、弓と剣の練習をしたの。今日は、朝7時に森に向かうって言っていたから、稽古は簡単にしておいたけど、長剣の抜き打ちだけは、いつものとおり練習したわ。これが今の私の課題だから、できるまでは練習を重ねないと。
食事も軽めにして、メンバー全員で森に向かった。森までは、歩いて約1時間、5キロ位の距離ね。そこまでは、何もない草原だったのだけど、結構、薬草が一杯。今度、一人の時採集に来ようっと。森の入り口まで来たとき、森の中から狼の遠吠えが聞こえてきた。あれ、5頭、いや10頭はいるかな。でも魔物ではなさそう。通常種の狼なら、ちっとも怖くは無いわよね。ね。でも、ベルさんはじめ、みんなは緊張しているみたい。狼も、数がそろえば脅威だもんね。
「ベルさん、狼が10頭以上はいますね。見つけたら、ベラさんの盾の陰で様子を見てください。ベネッサさんは、私の後ろから離れないでくださいね。」
「え、え、マロニーちゃん、どうして狼の数が分かったの。まだ、全然見えないでしょ。」
「遠吠えの声で大体分かります。森に入りましょ。」
ベラさんが警戒しながら、森の奥に入っていく。その後をベルさん、私、そしてベネッサさんと続く。倒木やツタが絡まった木が邪魔をして、歩き難いがベラさん、ウンショ、ウンショと歩いている。いいペースだ。
森に入って、20分、来た。私達の存在に気が付いた狼が接近してきている。
「止まってください。2時の方向から狼が4頭、11時の方向から9頭の狼が接近しています。このまま、じっとしていてください。」
私は、ベネッサさんを連れて、太い木の上の枝にジャンプする。ベネッサさん、『キャッ!』と悲鳴を小さく上げるが、下に置いておくのは不安なので、仕方がない。ベネッサさんは、木の枝にしがみついているが、私は、立ち上がって弓に矢を番える。いつもの通り5本だが、5連射するつもりで、4本の矢は矢羽根の部分を持っている。葉に紛れて狼が接近しているのが見える。11時の方向に4頭が潜んでいる。残りは、後方で様子を見ているのだろう。2時の方向は、近づいているが、大きな木の陰に隠れていた。
『風』
小さく呟いて、ウインドカッターの魔力を帯びた4本の矢を11時の方向に次々と放つ。目標を確認した後なので、全射必中だ。
キャイーン!!!!
狼の絶命の悲鳴が聞こえてきた。攻撃されてきた事をしった狼たちは、全頭で突進してくる。狼の戦術では、スピード勝負だ。次々と数を利しての攻撃で相手の攻撃力を奪うのだ。でも、こちらに突進してきたら、位置がまるわかりね。すぐに4本の矢を補充して、5連射だ。当然『ウインドカッター』の属性を付与している。小さな枝や倒木などは、何の障害にもならないかの如く切り裂きながら、狼たちも切り裂いていく。5本の矢を放った段階で、2時の方向には3頭、11時の方向には1頭の狼が残っている。ボス狼は、おそらく11時の奴だ。少し遠い木の陰に隠れている。でも、私の矢からは逃げられない。矢の弾道をイメージする。属性を付与せずに思いっきり引き絞って、矢を放つ。数本の木の間を右に左にと縫いながら、ボス狼の頭蓋骨を粉砕してしまった。残りの2頭の狼は、脱兎のごとく13時の方向に逃げ出した。まあ、一応狩っておくか。私は、矢を上空に向けて2本同時に射ちあげた。山なりに飛んで行った矢は、逃げ続けている狼2頭の頭を貫通して、地面に縫い付けてしまった。
これで、『狼の討伐』クエストは、終わりだろう。ベネッサさんを抱えて、木から飛び降りる。5mの高さくらい、ベネッサさんでも、簡単に降りられるだろうが、飛び降りた方が早いので、一緒に飛び降りた。勿論、ベネッサさんにはメイド魔法の『空間浮遊』を軽くかけておいたけど。ベルさんが、こちらに近づいてきた。ベラさんも向こうからこっちへ来ている。
「マロニーちゃん、何をしたの。」
「え、狼を弓で射ったんですけど。」
「いや、それは分かるけど、あなた、いっぺんに何本の矢を射ってるの?」
「え、1本ずつですけど。」
「だって、一杯持っているじゃない。」
「ああ、今回は、1本ずつ、連続で討っていたんです。一度に5本、左手に持っていましたけど、射つのは1本だけですよ。」
「それじゃあ、5本を連続で射っていたわけね。」
「はい、そうです。左手が小さいので5本しか持てませんから。」
「あと、何で矢が木の枝を切り裂いたり狼の首を落すのよ。」
「あれは、『風』の属性を矢に付与しているからです。」
「はあ、あなた、そんな魔法使えないでしょ。」
「魔法ではありません。弓の属性に力を付与して使っています。」
「頭が痛くなってきたわ。とにかく、ありがとう。マロニーちゃんのお陰で、安全に討伐できたんだけど、これ、私達必要だった?」
それは、ともかく、狼の素材集めを始めましょう。狼は、食用には適さないので、お肉は森の生き物たちにプレゼントして、皮だけ頂きましょう。剥ぎ取り用ナイフを出して、次々と剥いで行く。結局、私が8頭、ベラさんが3頭、ベルさんが2頭を剥いで作業完了となった。ベネッサさんは、力もないし、剥ぎ取りナイフでウサギしかはいだことが無いそうなので、今回は見学してもらった。剥いだ皮や牙は、そのまま空間収納に納めて、帰ることにした。ちょっと、帰りの時間が早すぎたので、途中で見かけた薬草を採取することにした。昨日、一杯袋を買っておいたので、5袋を一杯にしてから、お昼前には、冒険者ギルドにカウンターの前に立つことができた。
ベルさん達は、何故か疲れ切ったようで、ソファに座ってしまっている。ベルさんから依頼書を受け取り、依頼達成受付の人に声をかける。いつも思うんだけど、どうして受付のカウンターって、こんなに高いのかしら。私の胸まであるので、どうも話しづらいわ。
「すみませーん。依頼達成をしたんですけど。」
討伐依頼は、依頼者の確認サインはいらない。討伐対象の素材なり魔石を持ってくれば鑑定してくれるからだ。今回の依頼は、森の狼5頭以上の討伐だ。
「おや、今度新しく入ったポーターの子だね。元気が良いね。じゃあ、依頼書を見せてごらん。」
ベルさんから受け取っておいた依頼書を見せる。
「ふむふむ。狼の討伐か。それで討伐のエビデンスを見せて頂戴。」
私は、空間収納から狼の皮と牙を取り出して、カウンターの上に並べる。皮が13枚、上顎の牙が26本だ。下顎の牙は大したお金にならないから採取しなかったのだ。
「あらあら、頑張ったね。大変だったろう。じゃあ、確かに、『レッド・リリイ』さんの達成ということで確認しました。これが依頼達成報酬の銀貨6枚ね。皮と牙の素材はどうしますか?うちでも買い取れますが。」
ベルさんの方を見ると、ソファに座って居眠りをしているみたい。でも私一人で決める訳には行かないので、ベルさんを起こして確認することにした。
「ベルさん、ベルさん。どうしますか。素材、ここで売っていいですか?」
「むにゃ、いいよ。マロニーちゃんがやっつけたんだから。それより、もう少し眠らせて・・・。」
「えーと、ここで買い取ってください。」
「はい、わかりました。皮も牙も状態が良いので、最高値が付きますね。ところで、この狼たち、どうやって討伐したんですか?」
「え、あのう、弓矢で。」
「全部ですか?それにしては、首の切断面が綺麗すぎますが。」
「あ、それも弓矢です。」
受付の女の人の目がキラリンと光った。
「つかぬことをお聞きしますが、この狼、すべてマロニー様の弓矢で討伐されたのでしょうか。」
あれ、余計なこと言ってしまったかな。でも、傷口を見たら、すべてわかってしまうし。しょうがない。ここは正直に。
「はい、狼たち、馬鹿で、じっとしているから弓矢の良い的になったんですよ。アハハ・・。」
狼の皮は1枚銀貨2枚、牙は大銅貨2枚で売れた。結局28デリス6000ピコで売れたので、金貨2枚、銀貨8枚と大銅貨8枚だ。あ、忘れていた。
「あのう、薬草もあるんですが。」
「はい、薬草も買取りしていますよ。お見せください。」
ちょっと大きめの麻袋5袋を出した。薬草でパンパンだ。
「中は種類ごとに分けています。麻痺草と甘露草、それに癒し草です。」
受付の人は、応援を貰って、中を検品し始めた。お昼時で、他の冒険者が少なかったから良かったが、忙しい思いをさせてごめんなさい。結局、薬草は金貨5枚と銀貨2枚で買い取ってもらった。今日の報酬は依頼報酬と合わせて86デリス8000ピコ、金貨8枚と銀貨6枚、大銅貨8枚になった。ベルさん達との約束で、報酬は等分でわけることになったので、一人当たり金貨2枚、銀貨1枚、大銅貨7枚になった。
ベルさん達、お金を受け取るとき、顔を真っ赤にしていたけど、なんでだろう。さあ、今日も初討伐のお祝いをしましょうよ。
相変わらず、チートなマロニーちゃんでした。




