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第67話 クイール市を出ていきます

ゲール総督、何か後手後手ですか?イレーヌさん、泣いてますよ。


(6月25日です。)

  ゲール総督は、ゴロタという少年とエーデル姫達が城砦町ビッツを立ち去った後、あらゆる伝手を使って、情報を収集したら驚くべき事実が判明した。


  あの少年は、たった1人で、500匹以上の魔物のスタンピードを剣の一閃で殲滅したというではないか。王都に発生したキマイラを、たった1人で討伐したこともあるそうだ。極大魔法を使って、平野をマグマの海に変えることさえできるらしい。黒龍とイフリートを使徒としているとも聞く。


  つい最近の話だが、1個師団レベルでも全滅しかねない、あの闇からの恐怖『バンパイア・ロード』を、たった5人で討伐したことは、王国では評判になっている。


  あの少年が、本気で暴れたら、我が帝国は壊滅してしまうだろう。現実的に考えて、対抗する手段を思いつかない。早速、帝国中に注意情報を発出しなければ。その前に皇帝陛下にご報告して、裁可をいただかなければ。


  しかし、遅かった。一昨日、クイール市の防衛・治安部隊が壊滅したと聞いたとき、直ぐに少年のことを思い浮かべた。誰かが、やっちまったな。あんなに、イレーヌ少尉に言っといたのに。





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(6月26日です。)

  今日、ゲール総督がクイール市にやって来た。事件から3日半しか経っていない。知らせを受けて、こちらに来るのが早すぎると思ったら、連絡は竜騎士が専門でやってくれたとの事だった。


  ゲール総督は、僕達に会うと、早速、用件を申し伝えた。


  スカンダル西部郡郡都スカンダル市に行き、メレンゲ上級4等認証官と会っていただきたい。そのため、明朝、ナナマルマルマルに出発するので、出発の準備をお願いする。なお、本官も同行するとの事だった。


  僕達に異論は無かった。この町には居辛いし、自分の処遇も早く決めたいし。その晩、ゲール総督が夕食会を開いてくれた。ギルドマスターと市長代行の2人も来てくれたが、2人には、最初の頃のような恐怖で引きつった様子は消えていた。僕は、2人には本当に申し訳ないと思っている。しなくて良い苦労を掛けているのだ。


  食事は、豪華なフルコースだったが、味は良く分からなかった。


  部屋に戻ったが、シェルさんと二人きりにして貰った。『今日だけね。』とクレスタさんに言われた。ベッドに腰かけ、シェルさんに、今の僕の気持ちを伝えた。


  「シェルさん、もしかすると僕、死刑になるかも知れないと思っているんだ。」


  「私も、そのことは考えたわ。あんなに大勢の人を殺したんですもの。お金じゃ謝っても謝り切れないわよね。」


  「うん、でも僕、死刑になっても構わないと思っているんだ。だって、それが、世の中の『決まり』というものなんでしょ。でもね、僕が死刑になったら、誰がシェルさんを守るの。今度のような事があった時に、シェルさんを守るのは、僕しかいない気がするんだ。」


  「あの時、シェルさんが殴られる光景が見えたんだ。そうしたら、頭の中がカーッとなって、気が付いたら、ああなっていたんだ。僕、絶対、神様に怒られるよね。」


  僕は泣いていた。昔の、意気地無しの、コミュ障の、ヒッキーの、女性恐怖症のヲタクの時に流した涙とは、違う涙で泣いていた。(ヲタクが増えている。)


  「大丈夫よ。大丈夫。私の事は心配しないで。」


  シェルさんは、僕の頭を、両手で抱え、自分も泣いていた。自分ではどうしていいか分からなかった。2人は、一緒にお風呂に入った。お風呂から上がってから、二人だけの秘密のセレモニーをした。ズーッとし続けていた。





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(6月27日です。)

  次の日、クイール市を出発する。ホテルに頼んで、朝食を早く準備して貰った。簡単な朝食だったが、十分だった。シェルさん達は、いつものミニスカスタイル。僕もチロリアンスタイルの冒険者服で、鎧の武装はしていない。ただ、帯剣だけはしている。


  僕は、法の裁きを受けるつもりだ。だから、身を守る防具を装備するのは間違えている気がする。ただ、『ベルの剣』だけはイフちゃんがいるので、外すわけには行かない。


  ゲール総督は、皆のあまりの軽装に吃驚していた。まるで、その辺に散歩に行くような格好だ。荷物も、僕の背中のザックと、女性達が持っている高級バッグだけだし。しかし、あの情報どおりなら、こんなこと位驚くに値しない。


  郡都スカンダル市までは遠い。馬車で、7泊8日の旅だ。しかも、野営が4回もある。治安も良くないし、大型の魔物も出る。本来なら1個中隊60名の警護部隊が必要だが、もうクイール市には誰もいないので、警護無しで出発となった。しかしゲール総督は、その点は心配していない。大型魔物でやられたら、それで問題解決となる。当然、自分の命もないが。それでも、帝国の安寧は確保できる訳だ。


  スカンダル市に無事到着したら、自分の任務は完遂となるわけだから、どっちに転んでも良いような気がしてきた。ゲール総督は、この時は知らなかった。ゴロタ達が帝国を出国するまで、自分に随行を命じられることを。


  馬車は8頭立てで、輜重用に4頭立ての馬車が1台付いて来る。御者4人も帝国軍人だ。


  キャビンは、8人用で、前向きに、ゲール総督、クレスタさん、ノエルさん、イフちゃん。


  後ろ向きにシェルさん、僕、エーデル姫、イレーヌさんだ。シェルさんは、スカートの裾の上にハンカチを広げている。女性の嗜みらしい。


  ゲール総督は、これほど女性に囲まれて馬車に乗ったことが無いので、少し緊張している。歳の割に可愛いとクレスタさんにからかわれている。そこで、衝撃の事実が判明した。なんと、ゲール総督は、まだ28歳だという。え、おかしいでしょ。今、大佐ですよね。帝国軍の昇進ルールってどうなっているんですか。


  イレーヌさんが説明してくれた。士官学校初等科を優秀な成績で卒業すれば、中等部を飛び級できるので、15歳で士官の少尉となることが出来る。今のイレーヌさんがそうだ。それからの五年間で、軍務及び戦闘任務で優秀であれば、20歳で大尉まで昇任できる。その後、軍大学入学試験に合格すれば、在学中に少佐となることができる。22歳で軍大学を卒業し、成績優秀者は、翌年、中佐への昇任資格を得ることが出来る。そして、十字功労賞等の叙勲と平素の勤務優秀、軍政中枢部での勤務等により27歳で大佐に仮昇任、1年の試用期間を経て、28歳で大佐として前線に赴任する。


  イレーヌさんの説明は、分かりやすいが、そんなスーパーマンがいる訳ないとクレスタさんが言ったら、ゲール総督がそうだとイレーヌさんが、大きな声で主張し始めた。ゲール総督も困った顔をしている。


  まあ、車内での話題など、とりとめの無いもので、直ぐに昼食キャンプ地に到着した。僕は、イフちゃんにキャンプセットを出して貰った。今回、テーブルセットを、もう1セット追加したので、最大12名が食卓に着くことが出来る。今回のキャラバンは、


    僕チームで6名 (イレーヌさんを含んでいます。)


    ゲール総督チームで5名 (ゲール総督、前車の馭者2名、後車の馭者2名)


  となっているので、全員がテーブルに着くことが出来る。


  当然、料理はクレスタさんとノエルが担当し、僕は枯れ枝集めと、簡単な素材採集だ。僕は、セッティングが終わると、周辺を走り回り、枯れ枝一抱えと兎を3羽捕まえてきた。


  ウサギは、直ぐに下処理をして、皮をむいた状況にし、スパイシーソルトを掛けて、良く揉んでから焼き始めた。その間に、大きな鍋でチリ・スープを作る。チリ・ペッパーは、ノエルがいるので少なめにした。


  料理は、30分位で完成した。食材を下拵えしていたから、当然である。焼きたてパンをバスケットに持って、出来上がり。


  皆で、おいしく食べていたが、ゲール総督が、


  「ゴロタ殿は、いつも野営で、こんな料理を食べているのですか。」


  と聞いてきた。シェルさんが代わりに答える。


  「総督、ゴロタ君は、ずっと年下なのですから、『ゴロタ君』とお呼びください。ゴロタ君が真っ赤になっています。また、敬語はお止めください。ゴロタ君は、そういう言われ方をすると、恥ずかしくて何も言えなくなりますから。」


  総督は、了解したが、誰と話しているのか分からなくなり、このシェルさんという女性の立ち位置が分からなかった。後で、イレーヌに聞くことにしよう。


  食事が終わった。食器を水魔法で洗い流し、洗濯石で綺麗にして風魔法で乾かして収納した。すべての片づけが終わったのは、キャンプ開始から1時間半後だった。当然、片づけたのはゴロタとノエルだった。


  初日の夜は野営だった。あの、小さな少女がすべて出してくるので、収納の魔法使いのようだが、不思議な子だと思った。


  ゲール総督は、御者が専用のテントを張ってくれたので、そこで寝るのだが、イレーヌ少尉が一緒に寝たそうにしている。しかし、それは軍紀違反となるので、無視していたら、夜中、自分のテントから移ってきた。


  ここで騒ぐと、ゴロタ君に迷惑となると思い、放っておいたら、横で静かに眠っている。一体、何しに来たんだ。


  3日目、野盗どもが出た。20名位の規模だ。ゲール総督は、ゴロタ君の実力を見ようと思ったら、女性陣が、今回の当番が誰か揉めていた。


  え、と思っているうちにエーデルワイス姫が、前の方に進んでいった。武器は細いレイピア1本だけ。あれでは、危ないと思っていると、走って野盗に接近し、大型のファイアボールを無詠唱で放って5~6人が火だるまになっている所を次々とレイピアで刺殺して行く。10分で、すべてが終了していた。エーデル姫は息も上がっておらず、死体を炭にしながら帰って来た。


  ゲール総督以ゴロタチーム以外の人間は、驚きで息が止まってしまった。イレーヌに確認したら、ゴロタ君のパーティ内ヒエラルキ-が判明した。


  ゴロタ君 > イフちゃん > シェルさん > クレスタさん > ノエル > エーデル姫


  ゲール総督は、頭が痛くなってきた。

いつまでも、クイール市にいても話が進みません。次の展開を楽しみにして下さい。

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