第2部第240話 冒険者ギルドその10
(4月11日です。)
ここは、『冒険者ギルド本部ティタン大魔王国領支部』の支部長室。臨時支部長のエーデルとゴロタがソファに座って話し合っている。
「あの子が、あなたが話していた変わった子なのね。」
「ああ、変わっているとは思ったが、まさか本当に10歳とは!」
「それよりも見た?あの子の能力、あれだけ低いなんて。3歳児だってもう少しましよ。」
「だが、血液から鑑定したんだろう。カードみたいに誤魔化すことなんかできないよね。」
「もちろんよ。血のDNA情報って、誤魔化せられないらしいわよ。何のことか分からないけど。それに記憶領域の情報も、そのDNAと言うものに書き込まれるらしいから、絶対にごまかしが出来ないってシルフちゃんが言っていたじゃない。」
「じゃあ、彼女は一体、何なんだろう。ただの人間で、山をえぐるなんて考えられないし。」
「今日の試験だって、板10枚をぶち抜いて、的を貫通して、後ろの壁に7センチもめり込んだのよ。それもレンガの壁よ。もう少しで大被害だったわ。」
「それで攻撃力1って、なんの冗談なんだろう。」
「こんなことができるのって、神様以外にいないんじゃない。」
「いや。心当たりがないな。」
二人は、今までマロニーがやらかしてきた事を話し合っていたが、これからマロニーが起こす出来事については知る由もなかった。
-------------------------------------------------------------------
(マロニー視点です。)
結局、私は冒険者になれずに『ポーター』になることになったのだが、ゴータ様のお計らいで『特例』だと言われたことに舞い上がっていた。ゴータ様の『特例』、ゴータ様の特別なお計らい。私は、『ゴータ様の特別』。何も不満はなかった。今まで冒険者でなくても不自由していなかったし、『ポーター』って何をするのか分からないけど、そんなことはどうでもよかった。でも、ベルさん達は微妙な顔をしていた。受付の女の人にいろいろ聞いている。
「結局、ポーターって、冒険に行けるの。」
「冒険者の受けた冒険なら、一緒に同行が可能です。」
「ポーターって、戦えるの?」
「自分または同行する冒険者若しくは第三者を守るためなら当然に戦えます。」
「じゃあ、ポーターが倒した魔物でも、うちらもランクが上がるの。」
「逆に、皆さまはランクが上がりますが、ポーターはランクが無いので上がりません。」
「それって、強いポーター連れてった方がいいってことになるじゃん。」
「そもそも強いポーターなどおりませんし、冒険者になれないのがポーターですから。」
「えーと、ポーターの報酬ってどうなの。」
「それは、冒険者との取り決めによりますが、1日当たりの最低賃金である大銅貨4枚は支払わなければなりません。」
「特定のポーターを専従にすることもできるの?」
「それは両者の取り決めによります。」
「ポーターって武器を持てるの。」
「それは自由です。」
「じゃあ、・・・」
「すみません。他の冒険者もいらっしゃいますので、詳しいことは冒険者の心得923ページから1051ページに記載しております。これ以上の情報は、有料とさせていただきます。」
あ、怒ってる。そりゃ、そうだよね。私は、新しく貰ったポーター証を見てニマニマ笑っている。なんか、額に入れて飾っておきたいな。
「あのう、今度、ゴータ様に連絡してください。向かいのホテルに泊まっているって。いえ、決してホテルに来てッて訳じゃないの。誤解しないでください。」
「はい、10歳児に対して、変なことをすれば立派な犯罪ですから、ご安心下さい。」
いえ、少しは不安でも良いんだけど。まあ、それは置いておいて。
「ベルさん、皆さん、ごめんなさい。あまりお役に立てなくって。でもポーターとしてなら皆さんとご一緒できるので嬉しいです。」
「あ、ええ、そうよね。よろしくね。じゃあ、疲れたから、これからお昼にしようか。」
お昼は、冒険者ギルドに併設されているレストランで食べることにした。このレストランは、誰でも入れるが、冒険者とポーターは2割引きとなるので、冒険者達で一杯だった。改めて自己紹介をする。
ベルさんは、戦士としてショートソードと盾で戦闘をするが、前衛もできるオールマイティだ。元グール人で、年齢は21歳だったが、人間化で15歳位になってしまった。
ベラさんは、重戦士で、前衛専門の盾役だ。大きなバックラーを持っているし、思いフルアーマーを付けている。やはり元グール人で24歳、見た目は17歳位だ。
ベネッサさんは、魔導士で、支援とヒーラーをしているが、攻撃魔法はファイアボール程度だ。明灰色のローブと身長と同じくらいの長さの魔杖をもっている。彼女だけは、元レブナントで親の反対を押し切って冒険者になったらしいのだ。レブナント時代は28歳だったが、今の見た目は13歳程度だった。それでも私よりは20センチは大きいけど。
ベルさんが、私の腰に下げているショートソードを見て、『アーチャーなのに剣を使えるの?』と聞いてきたので、『今、練習中』とだけ答えておいた。ゴータ様に比べると、口が裂けても使えるなんて言えなかった。
「ところで、さっき、受付で言ってた『ゴータ様』って誰?もしかしてマロニーちゃんの彼氏さん?」
私、顔に血が上ってくるのを感じていたけど、思いっきり手を振って
「ち、違いますよ。私に冒険者の心得を教えてくれたひとで、凄い人なんです。冒険者ランクだって『C』ランクですし。」
そう言ったら、皆さん、微妙な顔をしていた。因みに、ベルさんが冒険者ランク『D』ランクで、他の二人が『E』ランク何ですって。ベルさん、もう直ぐ『C』ランクじゃないですか。凄いんですね。
食事が終わってから、もう一度、ギルドに行って明日受ける依頼を物色する。こんなに一杯あって、選ぶのに苦労すると思ったんだけど、受注ランク別に分けられているので、選ぶのに苦労はしないみたい。
「ああ、今日の依頼は大したものがないな。『C』ランクなら森での討伐があるんだけど、『D』じゃあ、またウサギ狩りかモグラ叩きだよ。」
へえ、『C』ランクは、やはり高難易度なんだろうな。近寄って見てみたんだけど、あれ、何、これ。『森で猪狩り』や『狼討伐』って、これ魔物じゃあないんですけど。
「あのう、森での狼討伐は、以前、やったことがあるんですけど。」
「誰と?あ、ゴータ様とだ。」
「違いますよー。一人の時もあるし、友達と行ったこともあります。」
「へえ、それで弓を使ったの。」
「はい、確か弓と剣でやっつけたかな。よく覚えてないけど。」
「あのさあ、基本的な事を聞くけど、剣って使った事あるの?」
「はい、少しは。」
「それじゃあ、弓はいつからやってるの。」
「去年の秋からですかね。」
「ねえ、それって初心者じゃん。それで今日の朝の実技で、一発命中なの。才能ありすぎよね。」
「そうですかあ?うふふふふ。」
才能があるなんて言われたの初めてかもしれない。なんか嬉しい。ドンキさんなんか、いつだって、『どこでやってた?』とか、『初めてじゃないだろう?』とかしか言わないし。
ベルさん達は、私の気持ちの悪い笑いを見て、思いっきり引いていたんだけど、それには気が付かずに、
「この狼討伐、受けましょうよ。報酬も銀貨6枚だし。」
「そうだな。うちら『D』ランクパーティでも一つ上なら受けられるからな。よし、みんなどうだ。」
「うん、遠距離攻撃ができるようになったら、そんなに危なくないかも知れないし。」
「おお、狼の攻撃ぐらい、あたいの盾で防いで見せるぞ。」
これで、決定。明日の準備のため、いろいろな店を寄って行ったけど、私が大量に矢を買っているのを見て、どうやって持ち歩くのか聞いてきた。私の唯一の魔法であるメイド魔法を使って、空間に収納できると教えてあげると、皆、吃驚していた。この魔法って、冥界じゃあ初歩魔法なんだけど、この世界では、伝説に残っているだけだって言われた。あれ、でもゴータ様も使っていたような気がするけど。
あと、武器屋さんには『投げビシ』が置いてなかったので、実物を見せて、同じものを取り寄せるか鍛冶職人に作ってもらえないか頼んだら、興味深そうに見ていて、1週間後までは作っておくと言われた。うん、これで当分の武器は大丈夫だね。
「ところで、これで予定メンバーがそろったんで、もうそろそろパーティ名を決めたいんだけどどうかな。」
「「「異議なし。」」」
「じゃあ。えーと、『殲滅の乙女』ってどう?」
「え、殲滅!いや、それだけは嫌。」
「えーそうかな。それじゃあ『殲滅の聖女』ってどう?」
あのう、どうしても『殲滅』から離れないのですか?それに聖女って、どこに聖女がいるんですか?いるけど。それに、その名前、隣の国では普通に言われていますから。
「えーと、殲滅から離れましょう。もう少し、可愛らしいのにしません。『桃色の薔薇』とか、『赤の百合達』とか?」
「あ、それ良いかも。百合はリリイだから、『レッド・リリイ』でどう。」
ふう、ようやく無難な名前になったわね。ベルさんが、ギルドにパ^ティー名を登録しに行っている間に、ギルドの前でダべっていると、いかにもというチャラ男冒険者が声をかけてきた。
「ねえ、君達。冒険者?かわいいね。特に、そこの君、ヒーラーかな。うちのパーティ、ヒーラーを探しているんだ。うちのパーティに来ない?」
うん、狙いはベネッサさんか。こういう経験も冒険者ギルドでなければできないんだろうな。黙ってみていることにしようっと。ベラが、ズイッと前に出て、
「うちのパーティのヒーラーにちょっかい出すんじゃあねえ。潰すぞ。」
あ、この人怖い人だったんだ。顔つきも鬼みたいになっているし。牙は生えていないけど。
「うるせえ、ブスは引っ込んでろ。」
あ、女性に対して絶対に言ってはいけない言葉、頂きました。そっと『投げビシ』を右手に持って、見えないように後ろ手をしている。
「なんだと、この腐れ●●●!」
あ、ベラさんも禁止ワードを言って、相手をグーで殴ってしまった。それからは、なんかひどいことになって。相手のパーティとベルさんも加わっての大喧嘩、ベネッサさんなんか怖がって震えているのに、私の前に立ってかばってくれて。あ、誰か、剣を抜こうとしている。私、目立たないように、その男の右手の甲に『投げビシ』をそっと投げておいた。そっとよ。
あと、一番最初の男の首筋にも『投げビシ』を柔らかくぶつけてやった。あれ、みんな、喧嘩をやめてしまった。二人の男を抱えながら、相手のパーティが帰って行っちゃったの。良かったね。ベネッサさん、かばってくれてありがとう。今日から一緒に寝ようね。
パーティー名が決まりました。『紅い百合』って、意味深です。




