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第2部第239話 冒険者ギルドその9

(4月10日です。)

  今日は、初の冒険者ギルド出勤?の日だ。いつもの癖で、朝5時には起きてしまった。フロントに行って、剣の稽古ができる場所がないか聞くと、向かいの冒険者ギルドの脇に訓練場があるとのことだった。24時間営業しているので、冒険者資格があるのなら利用可能だと教えてくれた。早速行ってみる。ギルド内は、絵にかいたような構造だった。入って左側には受付があり、その先には依頼達成受付。正面には依頼ボードがあって、一杯依頼書が貼っているの。右側奥には依頼受付と依頼受託カウンターがあって、入ってすぐ右側には大きなレストランが併設されている。カウンターの奥には、二階に上がる階段があって、一般の冒険者は入れないようになっていた。でも、こんなに早い時間なので、受付に若い男性がいるだけで、がらんとしている。


  「すみません。冒険者なんですが、練習場を使わせてもらえませんか。」


  朝5時にこんな申し出をする女の子なんか絶対にいないんだろうけど、私の姿が、冒険者ルック・フルバージョンで、ショートソードはぶら下げているし、左手には弓をもっていることから、冒険者であることはすぐに分かってくれると思ったんだけど、決まりらしく、冒険者カードを見せるように言われた。勿論、仮だけどきちんと提示したら、仮カードの場合は400ピコを払わなくっちゃいけないんだって。何か理不尽な気がしたけど、決まりならしょうがない。100ピコ銅貨4枚を払って、右手のレストランの脇の通路を通って練習場に行ったの。


  練習場はかなり広くて、芝生が貼っているんだけど、ところどころ剥げているのは、激しい練習のためかもしれない。嬉しいことに弓の的もおいてあるの。それも50m位先なので、キチンとした練習が出来そう。


  早速、背中の矢筒から矢を5本出して、『同時射』の練習をする。的は3的しかなかったけど、残りの2本は、的の上に命中するように練習するの。最初に、命中する場所をイメージして、それから『射』と同時にどの矢がどこに命中するかをイメージすると、矢はグインと曲がって命中してくれる。50m先まで矢を回収しに行くのも面倒だから、メイド魔法『空中移動』で引き寄せて、その矢をもう一度使うことにした。10回ほど繰り返してから、次は矢を1本だけつがえて、残りの4本は矢羽根の所を持って構えた。『5連射』の練習だ。これは素早い連続技の稽古と、矢に別々の属性を持たせるための練習なんだけど、属性付与は辞めておいた。練習場が大変なことになるもんね。本当は、10連射位やりたいんだけど、手が小さくて、一度に持つ矢は5本くらいが限度ね。これも、10回練習してから、弓の練習はおしまい。これから、ずっと練習ができると思うと嬉しくなっちゃう。


  次は、丸太木刀での千本素振りをする。今までの静の練習から急に動の練習に変わって、身体が悲鳴を上げそうだけど、筋肉を苛めることで成長するって聞いたことがあるので、構わずに振り続ける。でも、これだけ毎日振っているのに、腕が全然太くならないんですけど。どうなっているの。私の身体って。まだ、苛めが足りないのかな。


  それから、コテツを取り出して『長剣の形』7本を5セット、エスプリでの『短剣の形』3本を5セットやってから、長剣での抜き技を練習する。これは、特に意識しないで周囲の敵を切りはらうイメージでやる訓練だ。『形』はあるけど、こだわらないで、左腰に差したコテツを抜きざまに目の前の仮想敵を切りはらい、そのまま下段からの逆袈裟切り、そのまま納刀の姿勢になるまでが一連の動きだ。あとは、下段が上段になったり、袈裟切りが突きになったりの練習だ。抜いてから納刀するまで1秒以内が目標で、練習を続けていた。無心に練習をしていたら、何か人の気配がしたので、後ろを振り向くと、10人位の人達がじっと見ていた。あ、恥ずかしい。すぐに、納刀、練習場に礼をして、ギルド事務所に戻ることにしたわ。受付の人にお礼を言ってギルドを出たのだけど、受付の人の視線が痛かったわ。


  時刻はもう7時になっていた。急いで部屋に戻ってシャワーを浴びてから、下着とブラウス、靴下だけ変えてから食事に行ったの。昨日のパーティの人達は、もう食事中で午前8時にギルドの受付で待ち合わせることになった。ホテルのモーニングセットは、好きな料理をお皿に盛る海賊方式だったけど、スクランブルエッグと小さいパン、それとコーンスープを食べたらお腹一杯になってしまった。甘いミルクティーを飲んでから、出発の準備をする。


  グレーのブラウスを着てからチェインメイルを付けて、サイドバックルをきっちり締めて、それから紺色ズボンを履いて、細いベルトでズボンを締めるの。チュニックは薄青色のものにして、リッカーさんがくれたピンク色の剣帯を締める。エスプリをソード吊に装着して、この前新調した茶色の安全ブーツを履く。迷彩模様のフィッシングベストを付けて、お財布とハンカチ、チリ紙をポケットにしまう。一杯ポケットがあるけど、入れる物がないので、無視することにした。あれ、もしかすると、このベスト要らなくね。


  赤色の矢筒を背中に背負って矢を10本入れて、最後に飾りはね付中折れ帽子を被るの。飾り羽は左側に来るようにしているんだけど、弓を狙うとき、飾り羽が邪魔にならないようにね。






  時間になったので、ホテルのロビーに出てみると、ベルさん達が待っていてくれた。みんなで一緒に冒険者ギルドに行ったの。早速受付に行ったんだけど、受付には女性の人が立っていた。声をかけると、


 「いらっしゃいませ。『神聖ゴロタ帝国冒険者ギルド本部ティタン大魔王国領支部』へようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


  「あのう、仮冒険者証を正式なものにしたいんですが。」


  ベルさん達が、うんうん頷いていた。


  「分かりました。仮登録を正式登録するためには、試験がありますが受けられますか。剣技、その他の武技それと魔法、そのいずれかが一定のレベルに達していないと冒険者になることをお断りしております。実技が合格すると学科試験がありますが、文字が書けない場合は代読、代筆も承っております。試験は、銀貨2枚がかかりますが、それでも受けられますか。また、犯罪歴等があれば試験に合格しても登録できない場合もあります。」


  もちろん、受けるに決まっている。試験は、あの練習場で行われ、当然、弓で受けることになった。良かった、朝、練習しておいて。まず、遠射だ。50m先の的に3本射ち、1本が黒点に命中すれば合格らしい。今日、1日で何回も挑戦できるらしいのだ。と言うことは、何回でも射って、1度でも当たれば合格と言う気がするんですけど。勿論、1回で黒点のど真ん中に命中よ。次は、10m先に厚さ1センチの板が10枚、30センチ間隔で並べられた。この板を3枚以上貫通させれば実技は最終合格なんだって。これって、子供用弓の試験?板で見えないけど50m先の黒点を狙って、射ち抜く。10枚全部の板を貫通して、的のど真ん中黒点に命中した。矢の威力が全く減じていないのは、この弓のお陰ね。セロさん、ありがとう。


  これで実技は、おしまい。あれ、後ろで見ていた冒険者さん達、不思議な顔をしている。ベルさん達だけが大喜びしている。誰かが、


  「剣を使ってみろよ。」


  とヤジを飛ばしている。あ、あの人、きっと朝の稽古を見ていた人ね。当然、無視ね。続いて学科試験だったけど、簡単な足し算、引き算と薬草やポーションの種類、それから冒険者がしてはいけないことに関する質問だった。


  ・冒険者は、自分の身が危ない時は、依頼主を囮にして逃げても良い。


  バッカじゃないの。だめに決まっているじゃない。そんなことをしたら死刑よ。死刑。勿論、学科試験は満点だった。学科試験は、5分位で終わってしまった。さあ、これで合格間違いなし、待望の正式冒険者カードが貰える。


  そう思っていたら、最終関門があった。機械による能力測定だ。受付の人の後ろに布で覆われた機械があって、その機械で私の能力や犯罪歴等を測定するんだって。楽しみだわ。私、自分の能力ってしらないから、どんな風に出るのかしら。受付の人が、機械の方に案内してくれた。機械の下の方に穴が開いていて、そこに手を差し出すの。そうすると、針で人差し指を差し、出てくる血で測定するんだって。どんな仕組みか分からないけど、面白そう。そっと、手を差し出す。チクりとしてけど、大したことはないわ。上のガラス版に文字が表示される。これが私の能力らしい。


*************************************

【ユニーク情報】2032.04.10現在

名前:マロニー・ユイット・ドラキュウラ

種族:人間

生年月日:王国歴2021年5月6日(10歳)

性別:女

父の種族:?

母の種族:?

職業:元メイド 冒険者:ランクF

******************************************

【能力情報】

レベル      1

体力      10

魔力      10

スキル      0

攻撃力      1

防御力      1

俊敏性      1

魔法適性    なし

固有スキル   なし

習得魔術 メイド魔法

習得武技    なし

******************************************


  私は、頭が真っ白になった。体力や魔力なんかこんなもんだろうが、問題は年齢だ。10歳じゃあ冒険者になれないって言われて、仮登録の時は15歳って書いたのに、この機械でバレちゃった。


  「マロニー様、大変申し訳ありませんが、10歳では冒険者登録は出来かねますが。」


  どうしよう。冒険者になれなかったらどうしよう。そう考えていたら、悲しくなって涙が出て来てしまった。ベルさんが、


  「何かの間違いじゃあないの。ほら、人間に戻った時に若返ったとか。さっきの実技試験見たでしょ。その辺の冒険者よりも凄かったじゃない。」


  「はあ、そう言われましても。」


  あ、そういえばゴータ様が、ギルドに来たら名前を言ってくれって言っていたっけ。


  「あ、あのう、ギョ、ギョータシャマ、ギョータシャマに連絡を。ウ、ウグ!」


  泣きながらだから上手く言えない。


  「ギョータシャマ、ギョータシャマですか。」


  「違うんでしゅ、ギョータシャマでしゅ。」


  私は、そばにあったメモ用紙に『ゴータ様』ときちんと書いた。


  「ゴータ様?ゴータ様?!え、あのゴロタ様ですか。」


  「違うの。ギョータシャマ。」


  だめだ。鼻水が垂れて上手く話せない。でも受付の人は、分かったみたい。ベルさんが、私の肩を抱いて、ソファに座らせてくれた。ハンカチを出して、涙を拭いて、ちり紙で鼻をかんだ。でも、涙は止まらない。もうゴータ様と冒険に行けないんだ。それだけが悲しかった。私の夢が消えた。希望が消えた。私は、何のためにここまで来たの?こんな事なら、ブレナガン市で小学校に通っていた方が良かったのに。


  15分位経った。涙が止まらない。


  「お待たせしました。マロニー様、ゴータ様と連絡が取れました。こちらにどうぞ。」


  私だけ、ギルド奥の2階事務室に案内された。そこは支部長室だったが、中には物凄く綺麗な金髪の女性が正面のソファーに座っていた。対面するソファーに座らされて、少し間があった。係の人がお茶を持って来てくれた。


  「気を楽にしてね。私は、ギルド総本部の本部長とここの臨時支部長をしているエーデルと言うの。よろしくね。」


  「はあ・・・」


  「ゴロ、いえゴータ様とお知り合いという事ですが、どちらで知り合ったのですか?」


  「ブ、ブレナガン市ですが。」


  「そうですか。あなたの事は聞いております。最大の配慮をお願いしていただきたいとも言われております。」


  え、それって、もしかして?


  「それじゃあ、冒険者登録ができるのですか?「


  「いえ、それは『帝国冒険者ギルド設立及び冒険者の安全を確保する法律』第4条に冒険者になるための資格が明記されていますのでできません。ただ、『冒険者見習い』つまりポーターとしてなら、本来は12歳以上ですが、間もなく11歳になるでしょうし、それに運用規則内の話なので、特例として『冒険者補助ポーター従事者証』を交付できます。これにより、冒険者とともになら、依頼を受託することができますが、いかがでしょうか?」

あれ、年齢詐称、ばれてしまいました。

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