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第2部第238話 冒険者ギルドその8

(4月8日です。)

  今日の夕方、ティターン大魔王国の西端の城塞都市クサッツ町に到着した。昨日のベルナール市よりもかなり小さく、王国防衛軍も1000名程度しかいないそうだ。帝国と戦争になれば、早々に放棄する予定の城砦なのだろう。街の規模は小さいが、ホテルはベルナール市と遜色がなかった。いや、ベルナール市のものより格段に良かった。それは、温泉があったからだ。地下300mからポンプで吸い上げているらしいが、硫黄の香りがする本格温泉だった。少し熱めだったが、超気持ち良い。


  浴槽の脇には、何本かの板が置いてあり、湯温が熱い時は、この板で浴槽内のお湯をかき混ぜるのだ。その時、歌を歌うのだがクサッツ節と言う。歌詞の中にある『お湯の花』とは何か分からないが、真っ白な温泉は、肌がすべすべになり女性に大人気の温泉らしい。


  番頭さん達4人と入ったが、私だけ完全幼女体型だった。まあ、その方が、何も隠さず歩けるし楽なんだけど、来月で11歳になる私としては、少し寂しい気持ちになってしまう。


  夕食で食べた温泉卵は、殻が硫黄で真っ黒だったが、半熟の具合がちょうど良く、幾らでも食べることができた。また、パスタとも違う黒っぽい麺は、煮た大豆を発酵させて作ったソースと出汁のコラボが美味しいスープに浸けてたべたが、喉越しと香りが素晴らしい逸品だった。メニューには、クサッツ名物ヘギソバと書かれていたが、意味は分からなかった。






  翌朝、馬車が出発する時、護衛の騎士さん達は付いて来なかった。ここから30キロは、『非武装地帯』となっており、騎士さん達は、武装しては入れないエリアらしいのだ。まあ、野盗の類も厳しい検問で入れないだろうけど、魔物は防げないだろうと思っていたら、街道沿いに、魔法陣が刻まれた石板に魔石が嵌め込まれたものが、100mおきに置かれている。あれは魔物避けの魔道具だと誰かが教えてくれた。街道の左右に置かれているので、全部で600個以上置かれていることになる。全てゴロタ帝国側で置いたらしいが、あれ1個でも金貨何枚もするだろうからその財力たるや凄まじいとしか言いようが無い。道は、石が敷かれている訳でもないのに平坦で、馬車が全く揺れない。車輪が回転する僅かな振動が響いてくるだけだった。馬車2台がすれ違えるだけの広さがあり、立派な街道だなと思っていたら、左側10m先に、同じような道があり、馬車が逆方向に走っていた。あれ、街道が2本ある?あ、もしかして西行きと東行きが別々に整備されているみたい。私達の馬車は、道の右側を走っていて、道の中央部分には、幅15センチ位の白い線が5mおきに5mの長さで塗られていた。遅い牛車などを追い抜く時には左側車線を走るみたい。うん、合理的ね。王国では、広いスペースの所まで牛車に続いてゆっくり進まなければいけなかったもんね。


  あっという間に非武装地帯を抜けたんだけど、道はそのまま西へ真っ直ぐ続いている。いつの間にか西行きと東行きが接して、全部で4本の車線になっているの。馬車が暫く走ると道がグルグル回って、大きな停車場に到着した。ここで、一旦休憩ですって。1階平屋建ての幅の広い建物があって、中にはトイレやレストラン、お土産物屋さんがあるの。屋根に看板が飾ってあって、『安全地帯西SA』って書いてあった。ここで13時まで休憩なんですって。レストランに行って見ると、ガラスのショーケースに料理の見本が並べられていて、値段も書かれていたわ。大体600ピコから1500ピコね。この国では、通貨単位での表示が普通みたい。まだ、ちょっと早い気がしたけど、先に食事を取ることにしたの。『トン汁定食』と『チョコパフェ』にしたんだけど、全部で1400ピコ、つまり大銅貨1枚と銅貨40枚ね。店内に入るとカウンターがあって、最初にお金を払うの。そうすると、メニューと番号の書かれた札が渡されるので、それを持って店内のテーブルに座るんだけど、どこに座ってもいいみたい。私は、窓際の席に座って、暫く待っているとピンク色のメイド服を着た女の人が、お水と小さなタオルを巻いたものを持って来てくれた。お絞りと言って、熱いお湯で蒸しているから清潔なんだって。男の人は、それを広げて顔や首筋も吹いているけど、レディーはそんな下品なことはしないわ。手を拭くだけにした。


  最初に食事のトレイが運ばれて来た。大きな器に入った具沢山スープね。それとお米を炊いたもの。あと野菜の塩漬けに、小さな器に入った煮物。あれ、この卵はなあに?店員さんに聞いたら、スープに入れてもいいし、ご飯にかけてソイソースを掛けてもいいんだって。迷ったけどご飯にかける事にした。食べてみて吃驚。何、これ?美味しい!これだけで十分。他の料理なんか要らないわ。でも『トン汁』を食べてまた吃驚。お野菜もお肉も柔らかくて味が染みていて絶品ね。特に豚肉。薄く切って煮込んでいるんだけど、歯応えもしっかりしているし、しっかり豚肉の味を主張していながらお野菜の旨味とコラボして超美味しい。なんか癖になりそう。でも量もあるので、とても全部は食べきれないわ。


  段々お店も混んできて、人間族と魔人族が半々というところかしら。ゴロタ帝国領の人かどうかは女性を見るとすぐに分かるわ。スカートが極端に短いんですもの。あれじゃあ、絶対パンツが見えちゃうわね。でもスカートからスラーッと伸びる脚が綺麗。男の人の視線を奪うのには効果的なのね。あ、そう言えばこの店の店員さんのメイド服も膝上20センチ位だったわね。


  スイーツを食べ終わってから、今度はお土産屋さんを見たんだけど、いろんなスイーツが山積みにされていたの。クッキーや飴類が多かったけど、『まんじゅう』って言うスイーツもあった。私は買わなかったけど、王国では見ないお菓子ね。


  駐車場に戻って見ると、見たことがない馬車が止まっているの。四角くて、馬車より、ずっと低くて、小さいんだけど、一番変わっているのが馬がない!これが噂の馬無し馬車『ハンビー改』と言うらしいの。前に四角いボックスがあって、その中に馬の代わりの魔道具が入っているらしいの。ドアがたくさん付いていて、後ろに荷物を積んだ二輪の車を引いているけど、これどうやって走るんだろう。冥界図書館には、太古の世界で『自動車』と言うものが走っていた世界のことが書かれていたけど、これって形も違うし。


  とにかく、1枚のドアで3人が乗り込めるんだけど、それが4列、一番前の左が運転席なので、残りの11名がそれぞれ乗り込んでいく。もう荷物は詰め替えていたみたい。隊商の人達は、そのまま領都に向かったり、後ろが大きな荷台になっている魔道車に荷物を積み替えるみたい。これから領都まで400キロ、でも今夜7時には到着ですって。何、それ?6時間で400キロ?何の冗談ですか。でも、それって冗談でも何でもないって判ったの。兎に角早い。馬車の3倍、いいえ4倍早いわ。揺れもほとんど無いし。それに、途中の村や町には側道で別れて行くんだけど、この車の乗客は、皆、領都が目的地みたいで、途中の『SA』に1回立ち寄っただけで、午後6時45分、領都の外れの停車場に到着してしまったの。


  広大な停車場の中には、そこからいろいろな都市へ行く魔道車が有るみたいなんだけど、取り敢えず今日の宿泊先を探さなくちゃ。そう思っていたら、ホテル案内所と言う店があって、そこで市内のホテルが予約できるの。早速、店内で予約をしたんだけど、予算やサービスを聞いて、要望に合ったホテルを紹介してくれるシステムみたい。私は、冒険者ギルドに近くてお風呂があって、長期予約ができる部屋をお願いしたの。幾つか候補があったんだけど、朝食サービス付きの1泊12000ピコの部屋を予約できたの。予約する際には冒険者証の提示を求められたんだけど、問題は無いわね。ホテルの名前は、『銀髪亭』と言うんだけど、私の髪の色と一緒というのも気に入った理由の一つね。


  街の中心街までは路面列車が走っていると言うので、乗り場に行ってみると、大きな四角い箱にたくさん窓の付いた車が止まっていたの。入り口は運転席のそばにあって、乗るときに300ピコを払うんだけど、みんなを見ていると、銅貨とは少し違う硬貨を3枚だけ払っているの。聞いたら100ピコ銅貨なんだって。この国だけに通用する硬貨らしいけど、便利ね。あと、50ビコ銅貨や500ピコ銅貨もあって、銅貨を何十枚も払わなくてもいいようになっているらしいわ。早速両替しないと。


  それから、列車に乗って市街地まで、30分位かしら。それほど早くないけど、鉄の角材2本の上を鉄の車輪で走るらしく、揺れも少なく快適だったわ。途中5か所位の停車場で止まったんだけど、降りる人は後ろの扉から降りるようになっているみたい。


  終点の市街地駅に到着して、ホテルを探したんだけど、すぐに見つかったの。なんと、冒険者ギルドの真向かいにある立派なホテル。中に入ると、カウンターがあって、どういう訳か、私が予約していたことが分かっていたみたい。脇の表示版に『歓迎:マロニー様』と書いてあったもの。すぐに受付をすまして、とりあえず10泊分、金貨1枚と銀貨2枚を支払ったんだけど、長期逗留割引で銀貨2枚は返してくれたの。ラッキー。


  部屋は、3階の角の部屋で、たった一人なんだけどツインの大きな部屋だった。ボーイさんに聞いたら、これより小さい部屋は無いんですって。へえ、やはり高級ホテルよね。でも、なんか無駄で勿体ないと思うのは私だけかしら。夕食は、ホテル1階のレストランで摂ったんだけど、いかにも冒険者という人たちで一杯だった。皆、身なりが良いのはそれだけ稼いでいるからかしら。女性だけのグループもあったけど、あの人たちもランクが高いのかしら。私一人で食事をしていたら、その女性だけのグループの一人が近寄ってきて、


  「あなた。冒険者?見ない顔ね。」


  と言われたの。


  「はい、今日、この街に来ました。」


  「あなたの着ている服、冒険者服のようだけど、冒険者なの?」


  「はい、王国のギルドで仮登録をしています。」


  「ふーん、そうなんだ。あなた、身体小さいけど、魔導士なの。それともアーチャー?」


  「えーと、得意な武器は弓です。魔法は使えません。」


  「そうなんだ。ねえ、うちのパーティに入らない。遠距離攻撃が弱くて困っていたのよ。あ、私はベル、剣士で中盤専門、あっちの身体の大きいのが戦士のベラ、盾役と防御専門、そして、あの細い子がベネッサ、白魔導士でヒーラーなの。ねえ、是非、入ってよ。」


  まあ、パーティに入ってもいいかなと思っていたし、女性だけのパーティならいろいろ面倒がないと思い、


  「了解しました。それならよろしくお願いします。」


  「良かった。あと、あなた、このホテル一人で泊っているの?ツインなのに勿体ないでしょう。うちのパーティもベネッサが一人で泊っているの。二人で泊まると一人当たり1日8000ピコになるんだけど、相部屋できないかしら。」


  うーん、悩んじゃう。一人でのんびりもしたいけど、安いのは魅力だし。まあ、同じパーティだからいいか。


  「わかりました。それでは明日からよろしくお願いします。」


  「良かった。それじゃあ、これでね。歓迎会は、明日冒険者登録が終わってから正式にやりましょうね。」


  なんか、一気に決められた感じ。それでも、性格の良さそうな人だったし、皆、美人さんだったし。私なんかの新人を拾ってくれるんだもん。いい人達ね。今日は、ゆっくりお風呂に入って早く寝ようっと。

いよいよ、ゴロタ帝国シェルブール市に到着です。

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