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第2部第237話 冒険者ギルドその7

(4月1日です。)

  午後2時、約束通り東門に行くと、3人が待っていてくれた。皆、まちまちの格好をしているが、ジェイド君は、肩に革の肩当を付けている。ランク君は、腰回りに前垂れを垂らしていた。ヘルド君は、何も装備していないが、長い槍を持っていた。でも、なんか槍にしてはおかしい。あ、単に長い棒にナイフを結わえ付けているだけだわ。残りの二人は、ショートソードだと思うんだけど、なんかとても古く、ジャンク品みたい。まあ、私は何も武器等装備せずに冒険者ファッションで固めているだけなんだけど。


  「こんにちわ。待ちました?」


  「い、いや。俺たちも今来たばかりだ。じゃあ、さっそく行こうか。」


  今の時期、日没は午後6時位だ。それまでに帰ってくるとして、現場での採集は午後5時位までかな。


  今日の午前中採集した場所でも良いけど、もう少し変わった物にしようかな。そう思って、森からちょっと入ったところにした。ここもやはり薬草の宝庫だった。鑑定をしてみる。


  『麻痺草:食べられない。麻酔薬の原料。根に成分が多い。』


  『眠花:食べられない。乾燥すると睡眠効果。葉に成分が多い。』


  『カカオ草:食べられる。チョコの原料になる。眠気防止。』


  3人は、私が指示をした草を夢中になって採集している。直ぐに袋が一杯になっていた。一杯になった袋は、私の空間収納に入れ、新しい袋を出してあげる。


  もう8袋目、最後の袋も一杯になった。さあ、帰りましょう。今なら明るいうちに帰れるわ。そう思ったんだけど、あ、何か来た。森の木が揺れている。大型個体だ。現れたのはフォーハンドベアだ。6本足だが立ち上がると、前足4本が手のように動く。ちょっと強いかも。


  ジェイドくん達、慌てて武器を構えたけど、小さい時から剣の稽古をしていたようには見えないわね。それにジェイドくん達の武器じゃあ、相手に傷を負わせる事なんて無理だわ。


  私は、『虹の魔弓』と5本の矢を出して、1本だけつがえたの。標的は一体だけなので、5連射の方が良いかなと思ったの。ジェイド君達、足がすくんでいる。


      ブオーーーッ!


  威嚇で牙を剥き出し吠えたんだけど、全く威嚇になっていないわ。そう思ったけど、ジェイド君、気を失ったみたい。後の二人も尻餅をついて逃げようとしてジタバタしていた。熊のくせに、威嚇するなんて生意気な。


  「風」


  そう呟いて、3連射のする。残りの2本は予備ね。最初の一本は第一右腕を根本から切り落とした。ウインドカッターの属性を帯びているから良く切れるわ。次の矢は、右足ね。これで熊っこは立っていられないし逃げられない。あ、こいつ綺麗なままで売れば高いかな。弓と矢はしまって、エスプリを取り出す。熊っこは、なんとか逃げようとしているが、逃すわけないでしょ。


  傍によると、私の存在に気がついたのか、牙を剥き出している。でも目は、恐怖で瞳孔が開きっぱなしになっているの。そっと熊っこの口にエスプリの刃を突き刺す。口の奥から延髄を突き通したエスプリは、熊っこの生命を刈り取った。


  エスプリの刃を紙で良く拭き取ってから、そのまま空間収納に仕舞い込む。切り落とした右腕と右足も空間収納にしまって、振り返ると、意識のあったランク君とヘルド君も白目を剥いて気絶していた。


  3人を『空間浮遊』で浮かせながら森の外に向かう。3人とも、お漏らしをしているので、近づかないまま運ぶことにしたの。森の外に出たところで、シャワー石で彼らのズボンに大量のシャワーを浴びせてあげた。これで漏らした事は分からないでしょ。あ、流石に気がついたみたい。


  「え、ここはどこ。何で濡れてるの?」


  「良かったね。死ななくて。危なかったわよ。」


  「君、大丈夫だったの?」


  「そうみたいね。はやく帰ろうか。」


  4人で帰ったんだけど、ズボンが濡れていて寒くなったのかガタガタ震えているの。しょうがないから、その辺の小枝を集めて焚き火を起こし、同時にメイド魔法『ドライヤー』で、強制乾燥してあげたんだけど。


  ベンド市の冒険者ギルドに着いたのは午後5時を回ってしまったわ。何人かの大人の冒険者もいたけど、皆、薬草を引き取って貰ってたわね。


  私達の番になったので、薬草の入った袋を8つ並べたの。勿論仕訳済み。一番高く売れたのはカカオ草だった。ケーキ屋さんが本物のカカオの代用品で欲しがっているらしいの。後は、それなりの値段だったけど金貨4枚と銀貨8枚になったの。それから、フォーハンドベアの死骸を取り出した。流石にカウンターの上という訳にはいかないので、専用解体場で出したんだけど、解体職人さんが、あまりにも綺麗な切り口に吃驚していたわね。切り口を見ながら『魔法で切ったのか。』と聞かれたので『弓です。』と答えたんだけど、顔が引き攣っていたわね。


  大人の冒険者さん達も大騒ぎだったわ。フォーハンドベアを初めて見た人ばっかりで、解体職人さんに色々聞いていたわね。エレアさん、一生懸命赤い表紙の魔物図鑑を調べていて、このフォーハンドベアが、ランク『A』相当の魔物であると言うことが判明したみたい。依頼はなかったけど討伐報酬は金貨20枚、素材は綺麗な遺体で魔石もあるだろうから金貨25枚になると言われたの。と言う事は、薬草も含めて金貨49枚と銀貨8枚ね。4人で割ると1人当たり金貨12枚と銀貨4枚、あと大銅貨5枚となるんだけど、細かいのはジェイド君達にあげてねとお願いして、金貨12枚だけ貰っておいたの。ジェイド君達は、貰う権利なんかないから受け取れないって言っていたけど、


  「長生きしたかったら、このお金で武器と防具を揃えなさい。」と言い残して、ホテルに帰ったの。まあ疲れはしなかったけど、ゆっくりお風呂に入ろう。明日は、いよいよゴロタ帝国行きの馬車に乗れるんだ。ゴータ様、どうしているかな?






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  次の日、午前9時に西門の近くの停車場に行ったんだけど、何これ?乗合馬車が4台、商人の輸送馬車が8台、それに護衛の騎士団が馬車4台と騎馬8騎、あと飼い葉や水を満載した馬車が1台の大編成が出発を待っているの。今、ゴロタ帝国領内との交易に手を出さない商人はいないし、空荷で向こうに行っても、特産品はいい値段で売れるらしいのだ。ワインや米酒、チョコレートにカレー粉など王国内では入手できないものもあるし、魔道具や石油製品など超高値で取引されているそうだ。王国内からは、麻や木綿製品、乾燥トウモロコシなどの農産品が輸出されている。


  街道は、丘や河川を避けて西に伸びているが、ここから国境までは4泊5日の行程だと言う事だった。途中、城塞都市が2つと村が一つ、後は野営になるそうだ。城塞都市というものに興味があった。どんな都市なんだろうか?


  私の乗る馬車は、8人乗りで、4人ずつ3列のシートだった。全員女性なのは、女性専用車両だからだそうだ。私の列は、私も含めて人間族が2人と魔人族が2人だった。魔人族の女性だけで旅行というのも珍しかったが、商店の番頭さんで、王国へ商談に行っていたらしいのだ。王国では考えられない事だ。来ているものもロングドレスで、王国では貴族か大商人の奥様しか着ないような絹のドレスだった。なんか私の冒険者服が恥ずかしい気がして来た。今度は、絹のチュニックを買おうっと。最後の一人は王国から帝国の高校に留学する娘さんで、実家は大きな穀物問屋だとのことだった。15歳なのだが10歳程度にしか見えないので、高校を卒業してから結婚する予定だと言っていた。王国にも高校は結構あると思うんだけど、どうして態々帝国の高校に留学するんだろう。聞いたら、これからは帝国との交易が活発になるので、帝国側での友人を作っておいた方が良いとの判断らしい。さすが、問屋さんの娘だけあるわね。


  魔人族の番頭さんが、


  「マロニーちゃんは、元グール族だったのですか?」


  と聞いて来たので、


  「いいえ。元から人間です。東の人間の国から旅をして来たのです。」


 

  「帝国の本国は人間の国だそうですが、この世界では、生粋の人間族って非常に珍しいですよね。私は、今までそのような方に会ったことがありませんけど。」


  「はい、東の荒野の先、大魔王国との交流もないはるか東の国ですから。」


  「そんな遠い国からお一人で来たんですか?」


  「はい、どうしても冒険者になりたくって。」


  「まあ、そうですの。そう言えば、シェルナブール市とエーデル市に冒険者ギルドが出来て、大勢の方が冒険者になっていると聞いてますわ。でも、マロニーちゃんのような小さな方が冒険者になっているのは見たことありませんわね。」


  「はい、年齢制限もあるし、ある程度の実力が無ければ冒険者になれないからでしょうね。」


  こうして、楽しく馬車の旅が続き、3日目の夕方、初めての城塞都市ベルナールに到着した。この都市は、王国騎士団直営の都市で、石造のお城の中に街があると言う感じだ。街と言っても、兵士と旅人を相手にする商売だけで、一般市民がいない事から、都市全体が今までとは大きく様相を変えている。この年には王国騎士団と直轄兵士3000人が常駐しており、至る所で練兵の声が聞こえて来る。


  旅行客たちの宿泊は、ホテル3軒に分散して泊まるのだが、私たちは一番良いホテルに泊まることになった。夕食は、大きな皿を貰って、歩きながら好きな食材を取っていくと言う軍隊風の方式だったが、好きな物だけを好きなだけ取れると言う方式は、私のような少食者には嬉しい方式だ。『海賊方式』と言うのだそうだが、海賊って会ったことないんですが。私は、小さなパンとクッキー、サラダにフルーツを選んで席に戻ったのだが、番頭さんが、『そんなに少食では大きくなれないわよ。』と呆れていた。


  留学するお嬢様は、クッキーをお皿一杯にオムレツ、ヨーグルトにブルーベリージャムを選んでいた。あ、私もヨーグルト持ってこようっと。

マロニーちゃん、ようやく帝国側にきました。

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