第2部第232話 冒険者ギルドその2
(3月21日です。)
チンピラに絡まれたんだけど、なんてことなく脱出できた私達。マイキ君、随分汗をかいているみたい。今日は、温かいけど、汗をかくほどではないと思うんですけど。
「マイキさん、大丈夫でした。どこか怪我しませんでした?」
「マロニーちゃん、さっきは一体何をしたの。」
「ああ、一人は、水月への当身、もう一人は肋骨の水平払い。最後は、逆関節打ちね。まあ、あいつらには見えなかっただろうけど。」
「いや、僕にも見えなかったよ。マロニーちゃん、凄いね。」
あれ、マイキ君。昨日と比べて態度が控えめになってしまった。私の方が、見た目年下なのに。まあ、いいか。
「いえ、訓練の賜物です。マイキーさんも丸太木刀振りますか?」
「いえ、結構です。」
あ、即答ですか。まあ、そうでしょうね。ドンキ団長のせいですからね。正しい訓練方法を教えてくれなかったのは。あ、そう言えば私の素振りを見ていて、ドンキ団長呆れていたような気がするんですけど。あれって、そういう事かな。防具屋さんは、すぐに見つかった。中に入ると、落ち着いた感じのお店で、店長は女の人だった。やはり、女性の方がセンスがいいのかな。
「いっらしゃいませ。お嬢様、何かお探しですか?」
私の冒険者服を見て、すぐに私の方が上客と分かってしまったみたい。
「これと同じレベルの冒険者服が欲しいんですけど。」
「チュニックがよろしいのですか。これからの季節、もう少し薄手のものや、ジャケットもありますが。」
「はい、中にチェインメイルを付けているので、ゆったりしたものが良いのですが。」
いろいろ、質問されて、素材的には燃えにくい布で作られたチュニックと、春らしい薄いブルーのズボン、それと茶色のブーツを買うことにした。あと、ピンクとブルーのブラウスも2着ずつ買っておいた。まあ、防具というよりも、単に季節に合わせた服を買っただけのようだけど。店内を見て歩いていると、総ミスリル製のチェインメイルがあった。値段を見て、吃驚。金貨80枚だって。80枚。もう少しで大金貨に手が届いちゃう。展示していたのは、大人用だったけど、勿論、子供用なんて無いわよね。
「チェインメイルにご興味がおありですか?」
「いえ、今、装備しているんですが、随分お高いんだなと思って。」
「当店のは、最高級品でして。お客様の装備なさっているものを見せて貰っても宜しいでしょうか。」
「ええ、これなんですけど。」
ゆったりした袖をまくって、袖口のチェインメイルを見せてあげた。店長さん、じっと見ていて、
「お客様、このチェインメイルは、どちらでご購入されたんですか?」
「えーと、ブレナガン市のリッカーさんのところで買いましたけど。」
「ああ、あのリッカーさん、なるほど。お客様、このチェインメイルと、当店のチェインメイル、お客様の方が倍以上の価値があります。お客様のは網目が4重になっておりまして、極細のミスリルをこのように編むのは、超高度な技術が必要となります。当店で、同じものをご用意するとしますと、大金貨2枚以上かと思われます。」
ああ、そうですか。分かりました。リッカーさんの好みのピンクのサイドバックルも我慢することにします。
昼食は、魔人街にある食堂で食べることにした。マイキ君お勧めの店は、鶏唐揚げ専門店だった。私も鶏唐揚げは大好きだけど、自分で作ると使用済みの油の処理に困ってしまうのよね。だから、もっぱら外食の時にしか食べないんだけど、この鶏唐揚げは絶品ね。鶏もも肉のから揚げなんだけど、外はカリカリで中のお肉はジューシーのフワトロ。もう幾らでも食べられちゃう。マイキ君も夢中で食べていたわ。食事が終わってから、なにかスイーツが食べたいって言ったら、今の季節、南の方から運ばれてくるイチゴを使ったスイーツが美味しいらしいの。一般居住区に行って、専門店に行ったら、イチゴだけでなく季節ではない果物も一杯並べてあった。でも、やっぱり今の季節はイチゴよね。生クリームをたっぷりかけたイチゴ、とっても美味しいのよ。大満足でお店を出たところで、怪しい奴らとぶつかってしまったの。さっきのチンピラたちが仲間を呼んできたらしいのだけれど、どう見ても、組織の人間臭いの。本当、こういうところってマメよね。自分じゃあ仕返しできないから、バックの組織を頼る。うん、おバカさん達の定番よね。
そのおバカさんの一番、筆頭みたいな人が、声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、ちょっと来てもらいたいんだけど。」
もちろん、声をかけて来たんだもの。無視なんてできないわよね。
「行き先は遠いんですか?」
「いや、直ぐそこだよ。歩いて5分位かな。」
私は、おもむろに『虹の魔弓』を出して、矢を3本つがえておいたの。それを見て、ギョッとしたみたいで、そのおじさん、
「お、お嬢さん、その弓矢でどうするのかな。」
「えー、どうもしませんよー。事務所を爆破するだけだし。」
超可愛い目線で、教えてあげた。
「え、爆破?弓で爆破?あれ、確か、そんな話が。あれって、10歳の少女。チビで銀髪?」
ねえ、今、失礼なこと言いませんでしたか?
「お、お嬢ちゃん、俺ら他の用事が出来たみたいなんだ。呼び止めて悪かったな。これで旨い物でも食ってくれ。」
渡されたのは、金貨1枚、安いような気がしたんだけど、ま、いっか。走って逃げていく彼らに向かって、矢を放つと面白いだろうなと思ったけど、金貨も貰ったから、あきらめるとしようっと。
道場に戻ってから、若手の方達の稽古を見ることにしたの。若手と言っても14~15歳位なんだけど、基本的に身体能力が低すぎ。相手が隙を見せても打ていけないんだもの。指導しているのが、『筆頭』と呼ばれている人なんだけど、次々と稽古をするんじゃなくて、身体能力の向上を目的とした稽古をしなければ。例えば、道場の端から端までの切り返しを10往復とか、誰かを背負っての打ち込みとか。それと、木刀がちょっと当たっただけで『参った。』をしないで頂戴。そのたびに、稽古が中断して時間が、勿体ないでしょ。相変わらず、マイキ君や他の少年少女たちは見ているだけなんて、超無駄ね。
「ねえ、マイキさん、みんな見ているだけじゃあ飽きるでしょう。木刀を持って裏庭に行こうよ。」
マイキ君、『筆頭』の方に許可を貰いにいってから、ゾロゾロと裏庭に向かったの。全部で12人かな。これからの稽古のやり方を教えてあげた。2人1組で、向かい合い、仕太刀と打太刀に分かれるの。相青眼から仕太刀が、木刀で相手の面を打とうとわずかに剣先を上げるの。すかさず打太刀は面なり、小手を打ちに行くの。ただし、当ててはだめ。それで、遅いようだと、仕太刀の人は、打ち立ちの小手や銅を狙っても良いの。どちらが早いかの勝負。ただし実際の打ち込みは禁止。さあ、やってみて。
この稽古は、体力的な負担もなく、また、結構面白いらしく、裏庭には子供たちの気合の入った声が響いている。あ、『筆頭』の人が見に来ていた。私の所へ来て、『面白い稽古をしているね。』と言ってくれた。
「はい、ただ他人の稽古を見ているよりも、素振りをするか、或いは、稽古の真似事をした方が楽しいし。それに、この稽古は、打つべき時と打つべき所をきちんと理解して、初めて稽古になりますので、初心者でも楽しく稽古できると思います。」
あのう、『筆頭』さん、急にメモをしないでください。
夕方、マックさんが帰ってきて、何故か深刻そうな顔をしていた。どうしたんだろう。これから『魔剣一刀流』の形を教えてくれるはずだったのだけど。何か、そんな雰囲気では無いの。
「マロニー嬢。少し聞きたいことがあるのだが。」
「はい、何でしょうか?」
「マロニー嬢が王都へ来た理由は何でしょうか?」
あっ、今日お城に出仕して、私の事情を聞いてきたみたい。嘘は言いたく無いし。と言うか、誤魔化す必要もないわよね。ここは、正直に話そう!
「はい、実は3賢者様に召喚されまして。何でも『人間化計画』の寄与と叛乱軍鎮圧の功で勲章を授与されるとのことでした。それと貴族への叙爵もされるそうです。」
「ならば何故、直ぐに王城へ出仕しないのですか?」
「用件がそれだけなら良いのですが、聞くところによると、私を王国の貴族にして、ゴロタ皇帝陛下の婚約者にしようと企図している者がいると聞きまして。」
「え、マロニー嬢が皇帝陛下と婚約?」
「はい、それを聞いて、物すごーく嫌な気分になりまして。」
「誰ですか?そんなことを言っているのは?」
「聞いた話ですが、キロロ宰相だと。」
マックさんは、相手がキロロ宰相と聞いて、深いため息をついている。
「それで、マロニー嬢は、これからどうするつもりですか?」
「本当は、何日か、こちらの道場にお邪魔して、マック様に剣の形を幾つか教わりたかったんですが、マック様にご迷惑をおかけしてもいやなので、今からゴロタ帝国領に向かいたいと思います。」
「え、これからですか?」
「はい、おかげさまで通常の人の数倍の速さで旅が出来ますので。本当にお世話になりました。あ、マイキ君には、今、修理に出している剣は差し上げるからと伝えて下さい。本当にお世話になりました。」
私は、そのまま道場を後にした。たった1日、いえ半日の付き合いだったのに、この寂しさって嫌だな。何か、本当にゴロタ皇帝陛下のことが嫌いになってきちゃった。さあ、早くシェルナブール市の冒険者ギルドに行ってゴータ様と一緒に冒険に行こうっと。
ティタン大魔王国の王都とは、これでおさらばでした。




